タイトル:Mind Careマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/05 00:44

●オープニング本文


傷ついた心、僕はそれを少しでも癒してあげたくて――‥‥。

※※※

バグアに大切な人が殺された人は沢山いる――‥‥。

僕もそうだ、大事な彼女を助けてあげることが出来なかった。

彼女の仇を取りたくて、能力者になろうとしたけれどエミタと適合する事が出来ず、僕は戦う事すら出来ない。

だから‥‥僕が出来る事を考えたんだ。

僕は元々音楽が好きで、彼女もヴァイオリンを弾いている僕が一番好きだと言ってくれた。

だから――僕はヴァイオリンで傷ついた人を癒せる‥‥そんな人になりたいと思った。

※※※

「彼が噂の『癒しの青年』か」

一人の能力者がヴァイオリンを弾いている青年・アキラを見ながら呟く。

「足が不自由なせいで、プロみたいに‥‥とまではいかないけど――結構心地いいよな」

「あ、俺コレ知ってる。アヴェ・マリア‥‥だっけ」

「そうそう、クラシックは詳しくないけど、この曲は結構聴くからな」

話している能力者にアキラが演奏を止め、近づいていく。

「あの、すみません‥‥お願い――というかお仕事を依頼したいのですが‥‥」

●参加者一覧

烈 火龍(ga0390
25歳・♂・GP
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
大山田 敬(ga1759
27歳・♂・SN
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
ジェット 桐生(ga2463
30歳・♂・FT
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
シャロン・シフェンティ(ga3064
29歳・♂・ST

●リプレイ本文

「こんなご時世だからこそ、心休まる瞬間よね‥‥これも一つの戦い方かしら」
 アキラを見ながら一人呟くのは皇 千糸(ga0843)だった。
「貴方の音楽、楽譜を無事に回収できたら是非とも聞かせてほしいわ」
 皇の言葉に、アキラはにっこりと笑って「喜んで」と答えた。
「‥‥そこ、危ない」
 アキラの車椅子が石に引っ掛かりそうになったのを止めたのはベル(ga0924)だった。彼はキメラ殲滅、護衛経験もあり、今回が初任務の能力者のサポートも行う事になった。
「なあ‥‥行った先で他にもやっときたいことがあったら言っといてくれよ」
 大山田 敬(ga1759)がアキラに話しかける。彼は楽譜の他にも何かしたい事があるのではないだろうか? そう考えていた。
 わざわざ能力者を雇って楽譜だけを取りにいく――大山田は何か違和感のようなものを覚えていた。
「え‥‥あの――僕は‥‥」
 大山田の言葉にアキラが戸惑っている。どうやら彼の思っていた通りで楽譜のほかにも何かあるようだ。
「遠慮する事はないんだぜ、似た者同士――大事な人を助けられなかった奴が多いんだからよ」
「そうアル」
 大山田とアキラの話を聞いていたのか、烈 火龍(ga0390)が話しかけてくる。
「実は――自宅の近くに丘があるんです。彼女との思い出の場所で‥‥出来ればそこも見ておきたいんです」
 アキラは遠慮がちに呟く。俯いているのはきっと泣きそうな顔を見られたくないからだろう。
「行けばいいじゃないか、どうせ行くついでなんだし」
 ジェット 桐生(ga2463)がアキラに言うと、彼は嬉しそうに頭を下げた。
「そろそろ行こう、我は漸 王零(ga2930)今回は宜しく頼む」
 そう言って漸が挨拶を交わし、目的を果たす為に現地へと降り立った。
 目的の場所からラスト・ホープまでは高速移動艇で問題ないのだが、問題は降りた場所からアキラの自宅までだ。
 調べてみたところ、歩いていけない距離ではないのだがアキラは足が不自由なためオフロード車を三台用意した。
 一台目は漸、皇、大山田の前衛組が乗り、キメラがいないかを注意しながら走る。
 二台目はアキラ、西島 百白(ga2123)、シャロン・シフェンティ(ga3064)、烈の護衛組がアキラと一緒に乗る。
 三台目はベルとジェットの二人が乗り、前の二台の後ろを守る役目を持つ。


●一台目・現れたキメラ――‥‥

「アキラさんの車椅子を押すときは気をつけなくちゃね」
 揺れる車の中、皇がため息混じりに呟く。
「何故だ?」
 漸が不思議そうな顔で問いかけると、皇は苦笑しながら答えた。
「昔、ヘマをして脚をポッキリやっちゃった経験があるのよ。下り坂を降りるときは後ろ向きに下りた方がいいわ、例え緩やかな下りでも車椅子に乗っていると落ちそうで怖いから」
「そ、そうか――気をつけよう」
 大山田は皇の言葉に言葉を返すと、何かの唸り声のようなものが聞こえる。
「キメラを発見した――‥俺達は車を止めて、少し様子を見よう」
 三台目に乗っているベルがすぐさま通信機で二台目以降は止まるようにと指示を出した。
「周りに気配はない――あの一匹だけね」
 キメラは此方の様子を伺うように唸るだけで攻撃は、まだ仕掛けてこない。
「この付近にいたキメラは倒されたと報告があったんだけどな――残党か?」
 大山田が小銃・スコーピオンを構えながら呟く。
「‥‥汝らに邪魔は我らの邪魔はさせん、悪いが我の過去の贄となってもらう。我は聖闇倒神流継承者、零――参る!」
 皇と大山田は小銃・スコーピオンで攻撃し、漸はディアを装備してキメラに攻撃を仕掛けた。
「拍子抜けね、もっと強いかと思っていたわ」
 皇がポツリと呟く。キメラは二人の射撃、そして漸の攻撃をくらっただけで大きな声をあげて倒れていった。
 もう少し長引くかと思っていた三人が拍子抜けするのも無理はない。
「清浄なる闇の中で永劫に眠るがいい」
 漸がキメラを倒した後に呟き、車は再び揺れながらアキラの自宅へと向かい始めた。


●二台目・彼が求める楽譜

「心の癒しは、より良い研究に必要です。クク‥‥あなたの音楽は守るに値しますよ」
 シャロンがアキラに向けて呟く。先ほど一台目に乗る前衛組が倒したキメラの肉片などを持ち帰る為に一時車を降りた。
「でもアキラさんの音楽は素晴らしいアル」
 烈はアキラの演奏を聞いたことがあるのか、チャイナ口調で話しかける。その言葉に西島は無言のまま首を縦に振る。西島がこの仕事に参加した理由――それはアキラの隠れファンだからだ。
「‥‥‥‥‥‥」
「それにしても喋らないアルな」
 烈が西島に向けて呟く――しかし西島はチラリと烈を見て、再び無言でアキラを見ている。
「まあ、目的地は近いですからね――この後にキメラが出ると良いのですが、研究の為に」
 シャロンの物騒な言葉にため息を吐きつつ、車は一時止まった。


●三台目・此処から徒歩で

「車が止まった‥‥?」
 ベルが不思議そうに呟き、車から降りて、状況を見る。
「これは――車が通れそうにないな‥‥」
 ジェットも目の前の瓦礫道を見て小さくため息をもらした。
「とりあえず‥‥車を目立たない場所に停め、カモフラージュシートで隠しておきましょうか」
 ジェットの提案にベルは首を縦に振り、前を行っていた車の分もシートを持って合流していく。

「此処からは少し――車椅子はきついかもしれないな」
 大山田がアキラを見ながらため息混じりに呟く。
「あ、俺‥‥ハーネス、背負い具を持って来てますから背負うよ」
 ジェットの言葉にアキラが申し訳なさそうに頭を下げる。
「此処から少し行ったところが僕の自宅です、そして――その先が僕と彼女との思い出の丘で‥‥」
 アキラの言葉から距離的に遠くないことが分かり、ジェットがアキラを背負い、目的の場所を目指した。
 先ほど一体のキメラが現れた事により、まだ残りがいるかもしれないと判断し、それぞれは武器を手に持つ。
 ベルは頭の中で戦闘イメージを膨らませ、どんな状況にも対応できるようにしておく。
「気配はないけどキメラがいるかもしれないから、俺の後ろに――‥‥ジェットさんはアキラさんを背負っているから、一番気をつけないと」
 ベルがジェットに向けて呟くと、ジェットは『分かった』とでも言うような表情でベルを見る。
「あなた、下がっていた方がいいわよ」
 皇が小銃・スコーピオンを構えながらジェットを後ろへ下がらせる。それと同時に感じるキメラの気配。
「クク‥‥まだいたとは‥‥研究のし甲斐があるというものです」
 現れたキメラに嬉しそうにシャロンが不敵な笑みを浮かべて呟く。
「皆を癒す演奏――それでどれだけの人々の心が癒された事か。それを汝ごときに決して絶やさせはせぬ」
 漸がヴィアを構え、スナイパーたちの援護射撃のもとキメラに攻撃を仕掛ける。先ほど現れたキメラといい、目の前のキメラといい、恐らく残党ではなく、新しく現れたキメラなのだろう。
 しかし、能力的には低い方なのか、先ほどのキメラと同じようにお世辞にも苦労するキメラとは言えなかった。

 そしてキメラを倒した後、アキラは「すぐそこが家です」とジェットに背負われながら指差した。


●思い出――大切な者を亡くした時、僕は始まった。

「随分荒れているわね」
 皇が呟く。自宅に着いた後は能力者の一人が持っていた車椅子に乗り、自宅の中を歩き回る。
 その中、アキラは一番奥の自分の部屋で倒れた棚の中から楽譜を取り出した。
「あった‥‥」
 その中の数枚を愛しむように抱きしめる。
「その楽譜は特別なものアル?」
 烈が問いかけると、一枚の写真を取り出して薄い笑みを見せる。
「この曲‥‥G線上のアリアは彼女が大好きだった曲なんです」
 アキラは呟く。そして埃のかぶったアルバムの中から写真を取り出す。
「皆さん、ありがとうございます――皆さんのおかげで楽譜を取りに来ることが出来ました」
 アキラが丁寧に頭を下げながら言うと、大山田がアキラの肩に手を置く。
「まだ丘に行くんだろう? そこで演奏を聴かせてくれよ」
「‥‥はいっ!」
 アキラは涙の滲む瞳で笑い、みんなでアキラの思い出の丘へと向かう。
(「アキちゃんの演奏、何か暖かくなるだよね」)
 楽譜を見ると、彼女がよく言っていた言葉を思い出す。
 そして、アキラはヴァイオリンを準備し、G線上のアリアを演奏する。
 その演奏を聴きながらベルは拳を握り締め、それを見つめながら呟く。
「俺に足りないものはひょっとしたら―――‥‥」
 最後まで守り通す覚悟―――? 最後の部分は声に出さずに心の中で呟いたが、彼は何か変わっていく自分に気づきつつあったのだった。
「死ななくても良かった奴が沢山死んだ‥‥そいつらが生きていたら、きっと色んなことしたんだぜ、今頃よ‥‥」
 大山田はアキラの演奏を聞きながら、死んでいった人たちの事を思い出す―‥‥いや、思い出さずにはいられなかった。
「‥‥‥‥‥‥おつかれ」
 西島はアキラの演奏を聞いて呟く。キメラが現れたりと色々あったが、西島は満足だった。今まで聞いた中で最高の演奏をするアキラを見ることが出来たのだから。
「アキラさん、貴方の音楽は実に宜しい‥‥クク、賞賛に値しますよ。もう一曲宜しいですかな?」
 シャロンは演奏し終わったアキラに話しかける。
「もちろん―――何度でも」
 アキラはにっこりと笑って次の曲を演奏し始める。


 その後、アキラの演奏はより人々の心を癒す温かいものへと変わっていったという噂が流れ始めたのだった。


END