タイトル:emptyマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/28 14:30

●オープニング本文


empty――中に何もない。

※※※

その日の僕は凄くツイ手いなかったんだと思う。

寝坊して彼女と待ち合わせていた場所に一時間の遅刻をして頬を叩かれ、左頬にはくっきりと手の形。

「次に遅刻したら別れるって言ってたでしょ! サイテー!」

そう叫んで彼女は踵を返して、向こうの大通りへと怒りながら歩いていく。

「‥‥はぁ」

悪いという気持ちはもちろんあった。

だけどそれ以上に『少しのことで怒る面倒な奴』とも心の片隅で思っている自分もいた。

その次の瞬間、彼女が入っていった映画館から甲高い悲鳴が聞こえた。

「キメラが現れたぞ! 早く能力者を――っ!」

キメラが現れた場所、それは二人で見に行こうと言っていた映画館――その中に一人で入っていった彼女。

キメラに襲われなくて、俺はツイてた?

彼女一人だけがキメラが現れた場所に行って、俺はツイてない?

どっちなんだろうと言う思いを抱えて、彼女が入っていった映画館へと走り出したのだった‥‥。

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
淡雪(ga9694
17歳・♀・ST
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST

●リプレイ本文

〜緊急任務発生〜

「最近、キメラと戦ってないな‥‥国士無双の試し斬りはいつになる事やら‥‥」
 任務地へ向かう途中、絶斗(ga9337)が名刀『国士無双』を握り締めてため息混じりに呟く。
「それならこれから試し斬りは出来ると思いますよ、映画館にキメラが現れたという事ですから‥‥尤も緊迫した状況なので、どのようなキメラなのかは分かりませんけれど‥‥」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)が絶斗に言葉を返す。今回の能力者たちは相手がどのようなキメラなのかも知らされる事なく任務地へ向かわされる事になった。
 つまり、それほど状況が悪いという事なのだろう。
「映画館か‥‥見たい作品が絶賛上映中なのに‥‥」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が少し大きなため息を吐きながら呟く。彼は映画を愛する能力者の一人であり、映画館という場所を選んで行動を起こしたキメラに対して強い不快感を抱いていた。
「ふむ‥‥映画館という暗闇の中を好むという事は‥‥猛獣型か幽‥‥アレ系でしょうか?」
 神無月 るな(ga9580)は『幽霊』という言葉を『アレ』に言い換えて呟く。確かにこれから相手をするキメラの形態が知らされていない以上、どのような場合にでも対処できるように考える必要があった。
「でもキメラの事もですけど、残された一般人の方も心配ですね‥‥」
 淡雪(ga9694)が俯きながら呟く。まだ現地へ到着するまでには少し時間が掛かる。その間にも一般人に危険な目に合っているかと思うと淡雪は心が痛んだ。
「慌しいのは好きではないんですが‥‥緊急時とあってはそんな事も言っていられませんね」
 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)は苦笑しながら呟く。
「映画館かぁ、見たい映画あったんだけどな。まさかこういう形で映画館に行く事になるとは‥‥」
 ディッツァー・ライ(gb2224)も他の能力者同様にため息を吐きながら呟く。
「そろそろ到着ですね、頑張ってキメラを倒し、一般人の人を救助しましょう」
 美環 響(gb2863)が呟き、能力者達は問題の映画館へと走り出したのだった‥‥。


〜混乱する映画館の中で〜

 問題の映画館の近くにはショッピングセンターがあり、キメラが現れたという事でパニック状態になっていた。
「多少の混乱は予想していたが‥‥予想以上だな‥‥」
 ホアキンが通りの状態を見て、小さく呟く。通りは人が混雑しており、映画館の周辺には警察などが立っていて、一般人が中に入らないようにしていた。
「‥‥あ、この映画見ようと思ってた奴じゃねぇか」
 現在上映中と電光掲示板に出されている映画のタイトルを見てディッツァーが呟く。
「あんた達、能力者だろ? 俺も‥‥俺も一緒に連れて行ってくれよ!」
 今から突入、という所で一人の男性に止められる。
「‥‥なんだ、あんたは‥‥」
 絶斗が訝しげに男性を見ると「この中に僕の彼女がいるんだ、だから――」と半ば泣き縋るように言葉を返してきた。
「彼女の為にここまで来た勇気は評価するが‥‥あんたが死んだら、俺達は彼女に会わす顔がない‥‥だからここで待っていてくれ」
 すぐに戻る、と絶斗は男性に言葉を返す。
 すると男性は「‥‥僕、謝っていないんだ‥‥だから絶対にアイツを‥‥助けてやって」と拳を強く握り締めながら、男性は自分から離れていく能力者達を見据えた。
「それでは、参りましょうか。私は突入後に映写室を目指して館内に明かりをつけます。タイミングは『トランシーバー』にて連絡を取ることにしましょう」
 霞澄が呟き、能力者達は人の波をかき分けてキメラが潜む映画館の中へと突入していったのだった。

 今回、能力者達は一般人の救助、そしてキメラ退治を速やかに行う為に班を三つに分けていた。
 A班は美環、ディッツァー、神無月、絶斗の四人でキメラ対処班として彼らは動く役割を受けている。
 B班は淡雪、シン、ホアキンの三人で一般人の避難救助、そしてキメラとの戦闘時には後方支援として動く役割を受けている。
 そしてC班――班とは言っても霞澄が一人だけの班になる。彼女は映写室に赴き明かりをつける役割と、映写室周辺にいる一般人の避難救助を行う役割を受けていた。
「それでは――ご武運をお祈りします」
 霞澄は言い残すと、暗い映画館の中を一人映写室へと向かって走り出したのだった。

 ※A班※
 映画館の中に入り、それぞれの班で行動を開始すると同時に美環が『探査の眼』と『Good Luck』を使用して素早く状況を知る事が出来るようにする。彼は突入する前に片目を閉じており、映画館の中に突入すると同時に閉じていた瞳を開き、暗闇に慣れやすいように行動を行っていた。
「流石に暗いな‥‥」
 絶斗が周りを見ながら小さく呟く。映画はパニックになっている今現在も上映されており、少しは明るいが全てを見渡せるような明るさではない。
 むしろちかちかとしていて動きにくいと言った方がいいかもしれない。
「まずはキメラを見つける事が優先ですね、そうでないとB班が救助に専念できないでしょうし‥‥」
 神無月が呟くと同時に「きゃああっ!」と女性の甲高い悲鳴が能力者達の耳に入ってきた。
「どっちだ!?」
 ディッツァーが『蛍火』を構えながら周りを見渡すが、視界が悪いために見つけることが出来ない。
「右側の奥です! 女性がキメラらしきものに襲われています」
 美環が叫び、ディッツァー、神無月、絶斗は言われた方向へと向かって走る。
 そこで見たキメラは――人型ではあるが、デパートなどに置いてあるマネキンのようなキメラだった。ぎぎぎ、と軋むような緩慢に首を動かし、能力者達を見る。
「Jr剣道恐怖の禁じ手、飛び込み突き撃ちィっ!」
 ディッツァーは襲われている女性を助ける為に『先手必勝』と『急所突き』を使用してマネキン型キメラに攻撃を行う。彼の攻撃によってマネキン型キメラは壁へと叩きつけられ、その隙に近くにいたB班が女性を出口まで誘導するために連れて行く。
「あらあら、ここは危険よ? 避難してくれるかしら‥‥この世界から永遠にね♪」
 神無月は楽しげに呟き『サーベル』を構え持つ。
 その間に美環が『トランシーバー』で「現在キメラと交戦中です。一般人の誘導をお願いします」とB班、そして霞澄へと伝えたのだった。

 ※B班※
「A班の皆さんがキメラと交戦中のようですね、今のうちに一般人を救助しましょう」
 淡雪が呟くと「まずは‥‥キメラに近い人から救助を」とシンが呟く。B班は明かりをつける前に全ての一般人を救助してしまわねばならない。明かりがついてしまえば、キメラが一般人を狙いに行く可能性があるからだ。
 キメラに近い位置にいるのは、どうやら男性のようで椅子の下に隠れてキメラに見つからないようにしていた。
「しかし――映画内容と全く合っていないな、この状況は‥‥モンスターパニックよりヒューマンドラマが好みだ、俺は」
 ホアキンが呟き、隠れている男性の救助に向かう。
「ひっ、な、何だ、お前達はっ」
 椅子の下に隠れている男性に話しかけると、男性は恐怖でがたがたと震えながら能力達に話しかけてくる。
「私たちが来ましたから、もう大丈夫ー。さぁ、此方から逃げてくださいな」
 淡雪が男性を安心させるように微笑みながら話しかけると「あ、あぁ‥‥」と淡雪が差し出した手を取って出口まで一緒に行く事にする。
「で、でもあんた達は‥‥?」
 問いかけるように男性が話しかけると「僕達は緊急で派遣された傭兵だ」とシンが短く言葉を返した――時、映画館から出ようとしているB班に気がついたのか、マネキン型キメラが椅子をもぎ取ってB班めがけて投げつけてくる。
「椅子は座るモンで、投げるもんじゃない」
 ホアキンは呟くと『ソニックブーム』を使用して、此方に落ちる前に撃墜した。
「あ、あそこにも女性が‥‥」
 淡雪が映画館の隅で震えている女性に気がついてパタパタと駆け寄る。
「これから皆さんを外までお連れするので、一緒に行きましょう」
 淡雪が話しかけるが「嫌よ」と女性は頑なに拒んで、その場を動こうとはしない。
「あの馬鹿がこの中にいるかもしれないんだから‥‥一人でなんて逃げていられない」
 女性の言葉に三人は外で『彼女を助けて』と言っていた男性の事を思い出し、そのことを伝えようとするが、女性自身も多少パニック状態になっており、話をするどころではなかった。
「人命優先だ。悪いがこのまま運ばせてもらう」
 シンは女性を抱え、外へ向かって走り出す。結局最初に助けた女性を合わせて三人の一般人を連れて外へと連れ出し、B班は再び映画館の中へと戻っていく。
 その途中でホアキンは見落としが無いようにとトイレなどもきちんとチェックを行い、霞澄に明かりをつけるようにと指示を出したのだった。

 ※C班※
「此方には一般人はいないみたいです。それでは今から明かりをつけますので」
 霞澄は『トランシーバー』でA・Bの両班に連絡を入れて映画館内の明かりをつけるレバーを一つずつ上げていく。
 がしゃん、がしゃん、とレバーをあげる度に音がして明かりが館内を少しずつ照らしていく。
「これがあって助かりました」
 霞澄は映画館内に入る前に映画館のスタッフから渡された紙を見ながら呟く。その紙には明かりをつけるまでの手順などが書かれており、おかげで苦労する事なく明かりをつける事が出来たのだ。
「‥‥これから反撃開始ですね」
 霞澄は呟くと、能力者達とキメラがいる場所へ向かい、走り出したのだった。


〜マネキン型キメラを倒せ! 〜

「‥‥何処へ行くんだ? 悪いがこっちは通行止めだ、通行料は高いぜ!」
 ディッツァーが叫びながら『蛍火』でマネキン型キメラに攻撃を行う。マネキン型キメラは確かに怪力などを用いて攻撃を行ってくるが、軋むような動きの為に避ける事に苦労はしなかった。
「姉さんから教えてもらった剣技‥‥試してみるか‥‥」
 絶斗が呟き、名刀『国士無双』を構える。その後ろで神無月がマネキン型キメラの攻撃を『サーベル』で受け流し、武器を『ショットガン20』に持ち変えて『強弾撃』を使用して攻撃を行う。
「ここ――映画館はみんなが楽しむところですよー? つまらない用事ならお暇願いたいのです」
 淡雪もマネキン型キメラに『練成弱体』を使用しながら面白くなさそうに呟く。
 しかし、マネキン型キメラは怯む事なくディッツァーに向けて攻撃を行おうと行動を開始するが、シンの『影撃ち』によってそれは遮られた。
「ワイルドな顔が更にワイルドに変形するところだったな‥‥邪魔しない方が良かったか?」
 シンは不敵な笑みを浮かべながらディッツァーに向けて話しかける。一方助けられたディッツァーは「‥‥へっ」と笑いながら立ち上がり、武器を再び手に持つ。
「言ってくれるな、まぁ、タイミングは申し分ない――貸し一つだな」
 それだけ言い残してディッツァーは再び攻撃へと向かう。
 流石に分が悪いとマネキン型キメラも考えたのか、外へ出ようと能力者達に背中を向ける。
「君の相手は僕たちです! これ以上、人々を傷つけることは許しません!!」
 美環が『イアリス』でマネキン型キメラの背中を斬りつけながら叫ぶ。
「行くぞ‥‥! 龍神剣奥義、龍之尻尾‥‥改め‥‥ドラゴンテイルだ‥‥!」
 絶斗が名刀『国士無双』で突き攻撃を行いながら叫ぶ。
 だが、絶斗の攻撃はマネキン型キメラの肩を掠めた程度に終わり、マネキン型キメラは飛び上がりながら攻撃を仕掛けてくる。
「‥‥目障りだ、これで暫く痺れてろ!」
 シンは『スパークマシン』でマネキン型キメラを電圧で攻撃し、動きを封じる。
 その隙を見逃す能力者でもなく、能力者達は総攻撃を仕掛けて、今回の騒ぎの元となったキメラを退治したのだった‥‥。
 そして退治した後、ディッツァーがスクリーンに眼を向ける。すると一番良いシーンが流れており「‥‥むっ」と小さく呟く。
「なるほど、こんな展開が‥‥ってネタバレしちまったじゃなねぇか!」
 怒り狂ったディッツァーは、今はもう動かないマネキン型キメラの頭を蹴りつけたのだった。


〜キメラ退治して、その後〜

「無事にキメラを倒せてよかったです、今度はゆっくり映画を見に来たいですね」
 霞澄が騒ぎの沈静化しつつあるショッピングモールを見ながら呟く。
「出来れば映画の一本でも見てから帰りたかったのだが‥‥」
 ホアキンが映画館を見ながらため息混じりに呟く。
「此方としても見ていって欲しいのですが、片付けなどがありまして‥‥後日お越し下さい」
 映画館のスタッフが申し訳なさそうに能力者達に頭を下げる。
 その時に『ばちーん』と痛そうな音が能力者達の耳に入ってくる。
「アンタが遅刻しなければ、私はあんな怖い目に合わなくて済んだのよ! サイテー!」
 先ほど映画館の中で動こうとしなかった女性が、男性に向かって叫んでいる。
「そ、それは悪かったって‥‥今度から気をつけるから‥‥でも無事でよかった」
 男性と女性が泣き喚きながら『無事でよかった』と言い合う姿を見て絶斗は薄く笑みを浮かべる。
「俺も、昔はあんな風だったな‥‥次の恋はいつ実るやら‥‥」
 絶斗が呟くと、神無月が男性の方へ近寄って「ツイてるとか、ツイてないとか‥‥世の中そんなに割り切れるものじゃありませんよ?」と声をかけた。
「はい、今回のことでよく分かりました。コイツを助けてくれて本当にありがとう」
 男性は頭を下げて、心からの礼を述べた。
「今度は側にいて守ってやれよ? ‥‥まぁ、こんな事はないに越した事はないんだがな」
 ディッツァーの言葉に「もうこんな事は勘弁願いたいですね、でも次は僕が守ります」と男性は言葉を返した。
「‥‥汝の魂に幸いあれ‥‥」
 運ばれていくマネキン型キメラを見ながら美環が瞳を伏せながら呟く。
「怪我した人はいませんかーっ?」
 淡雪は映画館内にいた人やショッピングモールにいた人に声をかけて、怪我人がいたら治療を行うために呼びかけていた。
 だが、幸いにもかすり傷程度で済んでおり、わざわざ治療するまでもなく「良かった」と淡雪は安堵のため息を漏らした。
 その後の後始末は警察などに任せ、能力者達は報告を行うために本部へと帰還していったのだった‥‥。


END