タイトル:赤――戒めの色マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/03 04:27

●オープニング本文


赤い色は嫌いだ、だって――‥‥頭が痛くなるから‥‥。

※※※

夢を見る。

記憶にない夢、だけど‥‥懐かしい夢。

「幸一、冷えるから中に入りなさい」

幸一の母親、サキが外でボーっとしている幸一に家の中に入るようにと話しかける。

「お母さん、僕‥‥何か大事なことを忘れているような気がするんだ‥‥とても大事なこと‥‥」

幸一の呟きに、サキは少し表情を曇らせる。

「‥‥いい? 忘れたって事は思い出さなくてもいいから忘れるものなのよ、宿題だってそうでしょう? やりたくないから忘れたりするでしょ?」

サキの言葉に、幸一は目を瞬かせながら笑い始めた。

※※

「寝たのか?」

父親が電気の消えた幸一の部屋を見ながら呟く。

「えぇ‥‥でも‥カナコの事を思い出しかけているみたい、どうしよう、あなた‥‥あの子がまた‥‥あんなふうになってしまったら‥‥」

(「うわああああっ! カナコが、カナコが‥‥っ!」)

一時期、幸一は半狂乱になった時期があった。

妹のカナコがキメラに殺されたときだ。

安全だと思っていた場所にキメラが現れ、幸一の目の前でカナコは殺されてしまった。

(「幸ちゃん! 落ち着いて! 幸ちゃんのせいじゃないわ! お願い、落ち着いて!」)

不安定な精神、行き場のない怒りと悲しみ、それが幸一を毎日のように暴れさせていた。

しかし、それはある日、突然おさまったのだ。

(「幸ちゃん‥‥?」)

(「おはよう、お母さん。今日の朝ごはんは何?」)

(「幸ちゃん‥‥? カナコの事――」)

そして、サキが驚いたのは幸一の次の言葉。

(「お母さん‥‥カナコって誰?」)

(「‥‥幸一‥‥?」)

そう、幸一は悲しみのあまり‥‥カナコに関する記憶を消してしまったのだ。

まだ小学生の幸一が出来る自分を守るための防衛手段だったのかもしれない。

「どうしよう‥‥カナコが死んでしまったのは悲しいけれど‥‥幸一がまたあんなふうになったら‥‥あの子こわれちゃうわ‥‥」

その時だった、隣の家に住む友人が慌てて報せにやってきた。

「サキ! 大変よ! カナちゃんを殺したキメラが―――‥‥」

其処まで言いかけて友人は言葉をとめる、そしてサキの向こうを見つめたまま動かない。

「カナコを死なせたキメラが‥‥どうしたの?」

そう呟く幸一の声はとても低く、冷たいものだった。

そして――両親が止めるのも聞かずに、幸一は外へと飛び出していった。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
リン(ga1215
22歳・♀・SN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
真壁健二(ga1786
32歳・♂・GP
醐醍 与一(ga2916
45歳・♂・SN

●リプレイ本文

「ふぅ、今回の任務は困難なものになりますね」
 リン(ga1215)が仕事の内容を確認しながらため息混じりに呟く。
 今回は最初から班を三つに分けて行動する事になった。

 A班はファファル(ga0729)、須佐 武流(ga1461)、水理 和奏(ga1500)、醐醍 与一(ga2916)、真壁健二(ga1786)の五人でキメラとの戦闘をメインとした班である。
 B班は伊佐美 希明(ga0214)、鷹司 小雛(ga1008)の二人で幸一を探しだして護衛する役割の班である。
 C班はリンのみで、A・Bの両班の情報を集めて指示を出す――実質的なリーダーである。
「急ぎましょ」
 伊佐美が呟く。彼女も大事な人を失った過去があり、己の無力に絶望したのだとか‥‥。
「そうですわね‥‥キメラは飛んでいますから目立ちますし‥‥おそらく幸一様も其処に向かわれているかと‥‥」
 鷹司が上空を飛ぶキメラを見ながら伊佐美に言葉を返す。キメラとの距離はそう遠くはないもので、つまりは幸一との距離も遠くはないという事になる。
「では、此方はキメラの方へ向かう――保護対象を宜しく頼む」
 ファファルの言葉に、A班とB班は途中で別れ、それぞれの目的の為に動き出した。


●B班:幸一を保護せよ!

「住宅地での戦闘だから‥‥A班は結構苦労するかもしれないわね」
 伊佐美が空を飛ぶキメラを見ながら呟く。これがもし森や人気のない場所での戦闘なら此方が有利な状況になったのかもしれない。
 しかし、住宅地という事は‥‥其処に住んでいる人間がいるという事。
 そして‥‥無理をすれば一般人に死傷者が出るかもしれないという事。
「確かに苦戦するかもしれないですわね――でも‥‥わたくし達はわたくし達の仕事をしましょう。幸一様を見つけなければ‥‥」
 鷹司の言葉に、伊佐美も首を縦に振りキメラを追いかけているであろう幸一を探す。
「―――――いましたわ!」
 鷹司が指を指した方向、裸足でよろよろと歩く子供の姿が見受けられた。間違いなく幸一だろう。
「お待ち下さい!」
 鷹司が少し大きめの声で幸一に話しかける。
「私達は幸一の両親に頼まれて来た能力者よ、此処は危険だから帰りましょう」
 伊佐美が手を差し出すと、幸一はパシンとそれを振り払った。
「触るな! 僕はカナコの仇を討つんだ! 僕の大事な妹を――あんな奴が!」
 怒りが沸々と湧いて来たのか幸一は怒鳴るような大きな声で叫んだ。
「幸一‥‥君の気持ちは分かるわ」
「お前になにが分かる! 僕にとってカナコは大事だったんだ! 宝物だったんだ! 僕が守らなきゃいけなかったのに―――」
 はぁはぁ、と息を切らせながら幸一は叫ぶ。
「分かるわよ―――――‥‥私もそうだったから」
 伊佐美の言葉に幸一は『え?』とでも言いたいのか、きょとんとした表情で伊佐美を見る。
「例え君のように記憶の一部を封じても‥‥その感情を抑えることはできないのだと、痛いほどにわかっている」
 でも、と伊佐美は言葉を続け幸一と目線を合わせて、言葉を続ける。
「そんなことを‥‥カナちゃんは望まない。お父さん、お母さんも哀しむ――もし立場が逆だったら? カナちゃんが生きていて君と同じ行動を取ったら、君はどう思う?」
 伊佐美の言葉に幸一は涙を溜めながら、下を俯く。
「‥‥‥‥そんなの、いやです」
「よし、だったらカナちゃんが君の行動を望んでいないというのも分かるね?」
 幸一は伊佐美の言葉を理解している。
 けれど、妹を殺したキメラへの復讐の炎は今だ幸一の心の中で燻っている。
「幸一様、カナコ様の仇を討ちたいというのなら、わたくし達能力者を、幸一様の武器として考えてくださいませ。わたくし達を利用してキメラを討つ、と。我々能力者は人類の剣‥‥今は幸一様の剣となりますわ」
 鷹司の言葉に、幸一は泣き出し、何度も『ありがとう』という言葉を繰り返し呟いた。
「こちらB班、幸一を保護したよ」
 伊佐美は通信機でリンに向けて話すと、A班への連絡を頼むといって通信機を切った。


●C班:トラップを仕掛けよ!

「この辺で良さそうですね」
 リンは住宅地から離れた場所にある空き家にトラップを仕掛けていた。
 その時にB班から連絡が入り、幸一を保護したとの連絡を受けた。
「了解しました。A班の皆様に連絡をしておきますね。それで‥‥幸一君は?」
 リンが問いかけ、B班から返ってきた言葉に驚きで少し目を見開く。
「幸一君を戦闘現場に連れてくる?」
 きっと、彼女たちに何か考えがあるのだろう。それに対してリンは通信機の向こうにいるB班の二人に言葉を返した。
「分かりました、幸一君を連れてくることも含めてA班の皆さんに伝えておきます」
 リンは通信機を一度切り、A班のみんなにB班からの連絡を伝えたのだった。


●A班:キメラを打ち倒せ!

「う〜ん‥‥敵は見えてるのに手が届かないってもどかしいよね」
 水理が上空を飛ぶキメラを見ながら呟く。A班はキメラのところまでやってきたのだが、たとえ能力者であっても空を飛ぶことはできない。
「確かにな――何か良い策でもないものか‥‥」
「幸一はガキのくせにでかい重荷を背負いやがった‥‥だから何が何でもアイツを倒してやらんとな!」
 そう言って醐醍が強行に出ようとしたとき、真壁がそれを止める。
「幸一さんの心と誇りを守りたいのは皆同じです。俺達は能力者とはいえ、超人でも英雄物語の主人公でもないんです――」
 そう言って撤退を促す真壁に全員が少し表情を暗くした。
「とりあえず‥‥諦めるにしてもやれることをやってからにしようぜ」
 須佐が言いながら、ハンドガンをキメラに向けて発砲する。
「ねぇ、ボクをキメラに向けて投げ飛ばしてくれないかな?」
 水理の言葉に、言われた醐醍が目を瞬かせる。
「ボクがキメラの翼を封じれれば倒すことはできるよね」
 そう言って水理は、早く投げるようにと急かす。
「どうなっても――知らんぞ!」
 そう言って醐醍は水理をキメラに向けて思い切り投げ飛ばす。住宅地だからキメラを攻撃した後、下に撃墜したとき、建物に被害が出ないように水理は計算する。
「上から人を見下すのは―――止めたほうがいいよっ!」
 水理はキメラにファングで、下に落ちるように殴りつける。
 下にさえ、落ちてくれば後はいつもと同じように戦う事ができる――幸一の無念も、カナコの無念も晴らすことができるのだ。
「‥‥貴様は逃がさん、此処で散れ」
 ファファルは前衛が戦いやすいように後衛に回り、キメラの翼の付け根を狙って小銃・スコーピオンで攻撃する。
「貴様には幸一の妹が受けた痛みの100倍を味合わせてやるよ!」
 醐醍がアサルトライフルで攻撃しながら叫ぶ。
「幸一の妹の仇――幸一に代わり、この与一が討たせてもらう」
 それと同時に再び上空へと飛ぼうとするキメラを見て、須佐が一番早くに行動を起こす。
 キメラの背中を取り、オーバーヘッドキックで攻撃した後、キメラの翼を折り、地面に叩きつける。
「皆さん! 退いて下さい」
 リンの声が突然聞こえ、メンバーはその通りに避ける。すると、リンのアサルトライフルによる攻撃でキメラは空き家に叩きつけられる。
 それと同時にキメラの動きを封じるかのように覆いかぶさるネット。リンが仕掛けたトラップだ。
 そして真壁はキメラがその場から動かないように注意を引き付けるように至近距離にいる。もちろん傷を負うことを覚悟していたのだが、仲間たちがうまくカバーしてくれており、傷は軽症で済んだ。
「‥‥そろそろ貴様は消えろ、目障りだ――」
 ファファルの言葉を合図に全員が総攻撃を仕掛け、キメラを倒すことが出来たのだった。


●そして、その後―――。

 キメラを倒した後、伊佐美達が幸一を連れてやってきた。どうやら奥の方で戦いを見ていたらしい。
「‥‥これでカナちゃんの仇はいなくなった――キミは幸せに生きなさい。死んだ人が望むのは、いつだって生きている人の幸せなんだから。すぐに笑えなんて言わない。忘れてもいけない。キミの中の怒りや悲しみは愛の深さなんだから」
 伊佐美の言葉に幸一は笑って、首を縦に振った。
「貴様がどう生きるかは分からんが‥‥妹を失望させるてやるなよ」
 ファファルは幸一に向けて呟く。そしてファファルは仕事を終えた後の酒を煽りにいった。
「少年のこれからを祈って‥‥」
「その傷の痛みを覚えている限り、カナコ様が生きていた事実は‥‥決して失われませんわ」
 鷹司は幸一の頭を撫でながら優しく話す。
「お前が死んだら‥‥俺たちはお前の妹に何て言えばいい? 頼むから無茶はもうするな」
 須佐が言うと、幸一は涙が出るのを堪えながら須佐の目をじっと見る。
「ご両親に心配かけちゃ駄目だよ――ご両親にはキミしかいないんだからね」
 水理が呟く、そして幸一の様子を見て須佐が一つの違和感を覚えていた。
「妹の分まで生きろよ」
 醐醍が幸一の頭をわしゃわしゃと撫でながらおおらかに笑う。
「あいつ――‥‥もしかしたら記憶喪失ってのは嘘っぱちだったんじゃないのか?」
 須佐の呟きに伊佐美が首を傾げながら『何で?』という表情を見せている。
「妹の記憶がすっぽり抜けた割には敵のキメラにはしっかり反応してやがるし。両親に心配をかけないように演技だったんじゃねぇのかなと――」
 須佐が言いかけ、言葉を止めた。
「いや――いいか。幸一が初めて見せた笑顔だからな――‥‥」


END