●リプレイ本文
〜任務の前の顔合わせ〜
「‥‥俺は迷惑な話に付き合うほどお人好しじゃないんでな‥‥迷惑だなんて思っていないさ‥‥それと自分がいなければなんて言うもんじゃねぇだろ‥‥んなこと言ったら、その彼女が可哀想だ‥‥」
違うか? と言葉を付け足しながらオロチに話しかけたのは桜崎・正人(
ga0100)だった。彼の言葉にオロチは俯きながら「‥‥すみません‥‥」と申し訳なさそうに謝る。
そんなオロチの様子を見て「気を落とすな、たァ言えませんな‥‥」と稲葉 徹二(
ga0163)が小さく呟く。戦場で仕事をする以上は明日は我が身――と稲葉は考えているからだ。
「ただ、いつまでも下向いてる訳にも行かねェのも事実。とりあえずはケジメを付けに参りましょう」
後のことは後で考えればいい、稲葉は言葉を付け足して元気を出すようにとオロチの背中を軽く叩いた。
「貴方を守った彼女が、貴方に何を見せたかったのか――貴方は見届ける義務があるわ」
緋室 神音(
ga3576)がオロチに言葉を投げかけると「‥‥もちろん、そのつもりで今日はみんなに手伝ってもらうつもりだから‥‥」とオロチは言葉を返した。
「オロチ殿は『自分がいなければ』とずっと思い続けてきたのですか?」
レヴィア ストレイカー(
ga5340)がオロチに問いかける。問われた内容にオロチは「もちろん、彼女は生きるべき人間だった、僕なんかよりも――」と自分を卑下する言葉を返した。
その表情は辛さを耐えて呟いているようにも見え、レヴィアも複雑そうな表情を見せた。
「自分も幼い時に両親を失った時は自分がいなければ、両親は助かったと思い自分を責めました。でも今は――‥‥」
レヴィアは言葉を止めて、オロチを見る。
「今は――何?」
オロチが問いかけると「苦しむ誰かを救う為に助かったんだと思っているわ、今のオロチ殿のように」とレヴィアは言葉を返し、オロチは俯いた。
「‥‥強いんですね‥‥僕なんかじゃ到底言えない言葉だ‥‥」
今のオロチは自分に対する自信がゼロと言っていいほど、自分を下げた言い方をする。これは他の人間がどんなフォローをしても治るものではない。自分で克服しなければならないことなのだから。
「目指すは山頂でしたね。風景を楽しむ余裕があるといいんですが‥‥」
フェイス(
gb2501)が苦笑混じりに呟く。
「風景の前に、彼女の最後の願い‥‥必ず叶えましょう!」
神無月 るな(
ga9580)が呟くと「そうですね、必ず叶えてあげなくちゃ‥‥」と神薙ルナ(
gb2173)が言葉を返す。
「それでは、任務地へ向かいましょうか‥‥早くキメラを倒してオロチさんの望み、彼女の望みを叶えてあげなくちゃ」
リリィ・スノー(
gb2996)が呟き、オロチと能力者達は目的の山へと出発し始めたのだった‥‥。
〜トラウマの場所、待ち潜むキメラ〜
「‥‥‥‥」
山に到着してから、元々口数の少なかったオロチは更に口数を少なくしていた。最愛の女性を失った場所なのだから無理もないのだけれど、能力者達は自分達を渦巻く空気に少し嫌気が刺していた。
今回の構成としては、班を分けるのではなくサイエンティストであるオロチを護衛するような形で能力者達は円を描くような陣形で行動を行っている。
オロチを囲む内円のメンバーは桜崎、緋室、レヴィア、フェイスの四人で彼らはオロチの護衛も兼ねていた。
そして内円を囲む外円のメンバーは稲葉、リリィ、神無月、神薙の四人で彼らは対キメラの迎撃班として行動する事になっている。
「こうして固まって行動しておけば、奇襲とかも対応しやすいだろうな」
小銃『S−01』を手に持ち、警戒をしながら桜崎が呟く。能力者達はお互いに警戒する方向を決めており、死角となる場所を作らないようにしていた。
「この辺で‥‥最初にキメラを見かけたんだ‥‥無理をしないで彼女の言うとおり逃げておけばよかったのに‥‥」
オロチが足を止めて拳を強く握り締めながら搾り出すような小さな声で呟いた。
「‥‥思い出すのは分かるけれど悔やんでばかりでは、貴方の為に命を落とした彼女も浮かばれないわ」
緋室が少し厳しくオロチに言葉を投げかけると、オロチはバツが悪そうに俯く。
「オロチ殿! 危ない!」
突然レヴィアが叫び、オロチを突き飛ばすようにしてその場から離れさせる。突き飛ばされたオロチは派手に転び、起き上がった後に自分が立っていた場所を見て顔を青ざめさせた。
何故なら無数の矢がオロチの立っていた場所に突き刺さっていたからだ。
「高い所から見下ろされて‥‥いい気分はしませんね‥‥」
静かな怒りを含ませた口調でリリィが呟く。少し先を見ればオロチの目的地である頂上までもう少し。恐らくキメラは頂上から能力者たちを見かけてやってきたのだろう。
「飛行能力があって、頂上に陣取る‥‥そんなに高い所が好きですか」
くす、と少し嘲るような笑みを浮かべてフェイスが『アサルトライフル』で射撃を行う。フェイスの攻撃を避けながら男性型キメラも攻撃を行ってくるが、能力者達はそれを器用に避ける。
「あら、遠距離戦で私たちに勝てる気なのかしら?」
神無月が男性型キメラに視線を向けながら神薙に話しかける。
「貴方の攻撃は絶対に後ろには通さない!」
神薙は覚醒を行いながら叫ぶ。
「‥‥悪魔の羽の男‥‥さしずめインキュバスってところか? 俺にゃその気はねぇよ」
桜崎は小銃『S−01』を男性型キメラに向けて発砲する。
「‥‥てめぇの弓と俺の銃、どっちが強いか見せてやるよ!」
桜崎は少し荒い口調で叫ぶと同時に射撃を行う。そして桜崎と攻撃を合わせるように稲葉も『真デヴァステイター』で翼部分を狙って攻撃を行う。地面にさえ落ちてくれば接近戦を得意とする能力者達も動けるようになるため、戦闘はかなり有利になる。
「オロチ殿‥‥自分達が全力で守るから、オロチ殿も自分の心に負けないでくださいね」
レヴィアはそれだけ言葉を残すと、オロチの前に立って、小銃『シエルクライン』で男性型キメラに攻撃を行う。
そしてレヴィアの言葉を聞いてオロチはハッとした表情を見せた。彼の為に戦った彼女も『私が全力で守るから‥‥』と言葉を残していたのだ。
いつまで経っても不甲斐ない自分に腹が立って木に自分の頭を強く打ちつけた。
「オロチさん?」
神無月が驚いたように声をかけると「守ってもらうだけじゃ‥‥ダメなんだ」と唇をかみ締めながら呟いた。
「みんなの武器に『練成強化』を使います。キメラには『練成弱体』を使用します。僕自身は前線で戦えないけど――支援くらいなら僕だって‥‥」
そう叫んでオロチはスキルを使用して能力者達の武器を強化し、キメラの防御力を低下させたのだった。
「さて、それではそろそろ下へと落ちてきていただきましょうか」
フェイスが呟き『強弾撃』を使用して『アサルトライフル』で男性型キメラに攻撃を行う。
「その腕――邪魔です」
リリィは冷たく呟き『アンチシペイターライフル』で男性型キメラを攻撃する。だけど他の能力者たちと違って、リリィは『翼』ではなく『弓を持っている腕』を狙って攻撃していた。
「地に堕ち、這い蹲りなさい!」
神薙の後ろに立っている神無月が強く叫ぶ。それと同時に神薙は男性型キメラの気を引く為に銃で弾幕を作り、その間に神無月は『隠密潜行』を使用して男性型キメラの死角から『影撃ち』を連続で使用して攻撃を行う。
「これで終わりよ‥‥」
神無月が呟き、攻撃を行う。そして翼を失った男性型キメラは地面へとみっともない格好で墜ちてきた。
「こっちだ! オロチ!」
オロチの近くに男性型キメラは落ちて、桜崎がオロチを庇うように後ろへと下がらせる。そして『狙撃眼』と『影撃ち』を使用して攻撃を行い、攻撃を受けた事によって男性型キメラに出来た隙を見逃さないようにと『蛍火』を構えた稲葉が攻撃を行う。
「羽つけて弓担いで空からってキマリ過ぎでありますな、畜生め! 地べたがお似合いですよ!」
稲葉は叫びながら『ソニックブーム』を使用して『蛍火』で攻撃を行った。稲葉と同時に緋室も『ソニックブーム』を使用していた。
その攻撃が男性型キメラに緋室の存在を知らしめる事になったのだろう、男性型キメラは弓矢を持って緋室に攻撃を行おうと走り出す。
しかし緋室はカウンター攻撃として『紅蓮衝撃』と『二段撃』で攻撃を行い、深追いはしないように後衛のスナイパー達に攻撃を任せる。
「夢幻の如く、血桜と散れ! ――剣技・桜花幻影(ミラージュブレイド)」
「狙いづらいな‥‥だけど当ててみせる」
レヴィアは呟き、小銃『シエルクライン』で男性型キメラに攻撃を行う。
「これで‥‥チェックメイトです‥‥」
リリィが呟き『強弾撃』と『鋭覚狙撃』を使用して男性型キメラの頭を狙って攻撃を行う。他の能力者達もその攻撃に合わせて総攻撃を仕掛け、無事に男性型キメラを退治する事が出来たのだった。
〜約束を果たす時、彼が解放される瞬間〜
男性型キメラを倒した後、能力者達は頂上まで上り、そこから景色を眺めた。
「いい景色ですね‥‥おや、風が‥‥」
仕事の後の一服をしながらフェイスが頬を掠める風に気づいたように空を見上げる。
「これが貴方に彼女が見せたかったものみたいね‥‥」
緋室が空を見上げながらオロチに話しかける。頂上から見れる景色、それは空がすぐ近くにあるような感覚、それに澄み切った青が心の中の闇を晴らしていくようにも思えた。
「僕は‥‥許されてはいけないんだと思っていた‥‥悔いて悔いて、自分の無力さを呪いながら生きていかねばならないのかと‥‥」
オロチが地面に座り込んで、泣きそうな表情で呟く。
「悩み考えるのは前に進めるけれど、自分を責め過ぎると前に進めないわ――そろそろ前に進んでもいいんじゃないかな」
レヴィアの言葉にオロチは頷くばかりだった。
「彼女がもう一度来て欲しいと願ったのは‥‥貴方が自信を失ってしまわないようにではなかったのでしょうか?」
神無月の言葉に「‥‥もしそうだったら‥‥僕は最後まで心配かけてばかりだったな」とオロチも涙の混じる笑みを浮かべて言葉を返してくる。
「貴方が本当に彼女のことを大切に思うならば‥‥その人の分まで他の方を守りきる事が一番だと思いますよ」
神薙の言葉に「そうだね‥‥自分のことよりも人を先に考える彼女だったから」と俯きながら、だけど何処か誇らしげに呟いた。
「でも‥‥そんなにすぐには変われない――だけど、彼女が望むような生き方をしてみようと思う、それが僕から彼女へ向ける最後の餞だから」
オロチの言葉に「それでいいと思います」とリリィが呟く。
「‥‥自分がどう生きるか、それはゆっくり考えればいいと思います。あなたには彼女との思い出があるのでしょう? きっと道は開けます」
リリィの言葉に「ありがとう」と言葉を返し、オロチはもう一度空を見上げる。
そして最初の時のような表情ではなく、自分への自信に満ちた表情を見せた後、本部に報告するために能力者達は帰還していったのだった‥‥。
その中、一人だけ哀愁を漂わせる人物が一人‥‥稲葉である。
「明日は我が身とは言ったものの、そんなロマンな相手はいねェであります。気が楽と言えば気が楽ですが、寂しいと言えば寂しい‥‥」
背中に哀愁を漂わせ、稲葉も本部へと向かったのだった‥‥。
きっと、これから自責の念に駆られることはないだろう。
彼女が僕を救ってくれたこと――そのことを後悔してはいけない。
むしろ誇るべきだと教えてくれた人がいたから。
前に進むために悩まなければならないと教えてくれた人がいたから。
生き残ったからには、何か意味があるのだと教えてくれた人がいたのだから‥‥。
END