タイトル:variant―殺意マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/18 01:49

●オープニング本文


その視線は鋭く、戦意すら失うほど恐ろしかった。

※※※

「また人型のキメラか‥‥いくら人型とは言え、キメラだから気にする事ないんだけど――人殺ししているような気分でいい気分じゃないんだよな‥‥」
 
男性能力者が今回のキメラの資料を見てため息混じりに呟く。

「あら、そんな事を気にしてたら殺されるのがオチよ?」

女性能力者が苦笑交じりに男性能力者に話しかけ「分かってるけどさぁ」と男性能力者は言葉を返す。

「それに今回のキメラ、女性型みたいなんだけど結構大変な相手みたいね。数日前に3人くらいで討伐に行った能力者がいて、2人が殺されて、もう1人も重傷で帰って来たわ」

女性能力者の言葉に「マジかよ‥‥」と男性能力者は驚いたように言葉を返す。

「『その視線は射抜かれるほど鋭く、俺は何も出来なかった』――重傷の能力者が呟いた言葉よ。体が動かなくなったらしいわ」

「体が動かない? 何でまた‥‥」

男性能力者の言葉に、女性能力者も「私も分からないわ」と短く答えた。

「重傷の能力者、それを呟いた後に何も話そうとしないらしいのよ、病室に閉じこもって‥‥」

女性能力者はため息混じりに呟くと、男性能力者は再びキメラの資料に目を落としたのだった。

●参加者一覧

エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
風見斗真(gb0908
20歳・♂・AA
相良風子(gb1425
25歳・♀・FT
早坂冬馬(gb2313
23歳・♂・GP

●リプレイ本文

〜女性型キメラを倒す能力者達〜

「伸びる髪に、不思議な瞳‥‥ですか‥‥なんだか御伽噺に出てくるようなキメラ、ですね‥‥」
 任務の資料を見ながら朧 幸乃(ga3078)が小さな声で呟いた。
「まぁ、バグアが人間のお話を元にキメラを作るなんて、今に始まったことではない、ですか‥‥」
 朧は言葉を付け足して犠牲者となった能力者の名前を見た。一般人ではなく退治に向かった能力者が殺されたという事はそれなりに手ごわい相手なのだろう――朧は心の中で呟く。
「光さんとは一緒になって初めての依頼‥‥必ず成功させましょう!」
 赤宮 リア(ga9958)が恋人である麻宮 光(ga9696)をちらりと見ながら話す。赤宮の言葉に麻宮は「あぁ、必ず成功させような。何かあれば俺が守るから」と言って言葉を返した。
「きっと、このキメラはメデューサを模したものですよね」
 早坂冬馬(gb2313)は女性型キメラの資料を見ながら呟く。今回のキメラは石にこそしては来ないけれど、何らかの方法で体を動けなくする能力を持つキメラらしい。
 唯一、生き残って帰ってきた能力者に話を聞ければ、どんな方法で行ってくるかはわかるかもしれない。だけど能力者は本部に帰還後、簡単な報告をしただけで今は病室に篭って話を聞ける状況ではないらしい。
「共に戦う仲間を失ったのだから無理はないかもしれないけれど‥‥どんな方法でしてくるか分からないから気をつける事ばかりね‥‥」
 相良風子(gb1425)はため息混じりに呟く。
「でも『視線は〜』とか言ってるから眼を見たらとかかもな」
 風見トウマ(gb0908)が呟く。確かに重傷を負った能力者が残した言葉を聞く限り『視線』つまりは『眼』に関する能力なのだろうと言う事が窺える。
 だけど一言に『眼』とは言っても『相手から見られた場合』や『相手と眼を合わせた場合』などが存在する。方法によって戦法も変わってくるわけだから警戒を緩めるわけには行かないのだ。
「死んでいった同胞の為にも‥‥負けられない」
 アセット・アナスタシア(gb0694)は愛用の武器である『コンユンクシオ』を握り締めながら小さく呟く。
「我が一刀は意に先じて鞘走り‥‥コンユンクシオ、今回は落ち着いていこう」
 アセットは瞳を伏せて『コンユンクシオ』に、そして自分に言い聞かせるように呟いた。
「‥‥‥‥」
 今回の任務について、それぞれが思うことを話している間、真田 音夢(ga8265)は無表情のままそれらを見ていた。彼女自身『キメラに対しての憎悪』をほとんど持っていなく、今回のキメラに対しても『遺体は綺麗に葬りたい』と思っているほどである。
(「‥‥髪の毛は‥‥女性の命‥‥とも言うべきもの‥‥それを武器にするのですから‥‥きっと、強い憎悪‥‥激情に駆られているのかもしれません‥‥」)
 真田は口にこそしないけれど心の中で呟き、能力者達は『女性型キメラ』が潜んでいる廃墟へと向かい始めたのだった。


〜荒廃した場所にて笑う、艶やかな女性型キメラ〜

 今回の能力者達は任務を速やかに遂行すべく、班を三つに分けて行動する事にしていた。
 近接班・風見、アセット、真田の三人。
 後衛班・赤宮と相良の二人。
 遊撃班・麻宮、朧、早坂の三人。
 もちろんキメラが闊歩している廃墟内を固まって動く事は危険と考えて、お互いの班が見える程度に離れて行動することにしていた。
「‥‥予想していた通りですね‥‥大振りな武器は不利のようです‥‥」
 朧が廃墟内を見渡しながら呟く。キメラ襲撃にでもあったのか廃墟となった町の中は瓦礫が散乱していた。建物は壊され、信号機などもあり得ない形になって倒れている。
「視界がいい分、キメラを見つけるには困らなさそうだけど――瓦礫に紛れていれば逆に分かりづらいかな‥‥」
 麻宮も廃墟内を見ながらため息混じりに呟く。
「さぁ、鬼が出るか、蛇が出るか――行きましょうか」
 微笑を浮かべながら早坂は二人に話しかけ、遊撃班の三人は一足先に廃墟の中を歩き出して行った。
「さて俺達も行くか、早々に倒してさっさと帰りたいぜ」
 風見がアセットと真田に向けて言葉を投げかける。廃墟という場所のせいなのか気分が落ちていくのだろう。
「そうですね、同胞の仇を取って、帰りましょう――‥‥」
 アセットが呟き、真田も無言のまま首を縦に振って近接班の三人も動き出した。
「残るは私たちだけですね――それにしても廃墟って不気味ですよね‥‥キメラじゃなくても色々出てきそうで‥‥」
 赤宮が体を少し震わせながら呟くと「そうね、でも害がなければ私は何がいても構わないわ」と苦笑しながら相良は言葉を返した。
「それじゃ行きましょうか」
 相良は呟き、赤宮と共に前方を行く二つの班の後ろから歩き始めたのだった‥‥。

 この廃墟も元々は大きな町ではなかったようで、廃墟全体を回るのに予想していた程の時間はかからなかった。
「あの人が‥‥キメラ‥‥でしょうか?」
 キメラを見つけたのは遊撃班の三人、そして遊撃班が足を止めた事で他の二つの班もキメラを発見したことが伝わったのか、それぞれが攻撃準備を行い始める。
「たぶん、そうだろうね。こんな場所であんな格好で観光とかでもないだろうし」
 麻宮が苦笑しながら少し前に立つ女性型キメラを見て呟く。女性型キメラの格好は白い布を纏い、足元まで流れる黒髪が太陽の光に映えて普通の人間だったら『美人』とか『綺麗』とか思うのだろう。
 だけどどんなに綺麗でも目の前の女性はキメラであり、美の対象にはならないのだ。
「あんな美人だったら、殺されてもいい――普通の人間だったら、ですけど」
 綺麗な女性に殺されたいと言う願望を持つ早坂は呟いた後に微笑して、武器を構えたのだった。
 最初に行動を開始したのは『疾風脚』を使用した麻宮だった。スピードを上昇させた彼は『ガンドルフ』で女性型キメラに攻撃を仕掛ける。
 だが、女性型キメラは髪を盾にして麻宮の攻撃を受け付けなかった。そして次の瞬間に女性型キメラの髪が麻宮に攻撃を仕掛け、大きなダメージではないものの麻宮は怪我をしてしまう。
 そして朧は『ルベウス』を構え、女性型キメラと『目を合わせない』ようにして攻撃を仕掛ける。彼女の攻撃も避けられそうになったが赤宮の放った洋弓『アルファル』が女性型キメラの手を射抜き、それに気を取られた女性型キメラは朧の攻撃を避ける動作が一瞬だけ遅れて直撃で受けてしまう。
「うわぁ、何か髪の毛がうねうねしてて気持ち悪いキメラだな‥‥」
 まるでメデューサの髪のように宙に浮き、うごめく姿を見て風見が呟く。
「気味が悪いわね‥‥」
 相良は呟きながら前衛が攻撃しやすいように『スコーピオン』で援護射撃を行う。
「今から『照明銃』を使います! 巻き込まれないように気をつけてください」
 アセットが能力者全員に聞こえるように大きめの声で叫び、少し間を置いてから『照明銃』を女性型キメラに向けて使用した。流石に光の球を間近で見たことにより、女性型キメラは目が眩み、目を覆って苦しがる様子を見せた。
 そしてアセットは間髪いれずに『ソニックブーム』を使用した。
「女性の姿をしていても、あれはキメラ‥‥! 容赦はしませんよ!」
 赤宮が呟き、洋弓『アルファル』で女性型キメラの顔を狙って攻撃する。女性の顔を狙って攻撃するという事に赤宮は少し気が引けたが『あれはキメラなのだから』と心に言い聞かせて攻撃を続ける。
 何度かの攻撃には女性型キメラは赤宮の攻撃を避けたのだが、真田の『ワイズマンクロック』が避けた女性型キメラに向かって攻撃を行った。
 もし仮に女性型キメラが真田の攻撃を避けたとしても『ワイズマンクロック』には追尾機能があるため、女性型キメラは真田の攻撃を受けてしまう。
「‥‥このチャンスを逃す手はありません‥‥」
 朧は呟き『ルベウス』を構えて女性型キメラの腹を狙って攻撃を行う。目が眩みながらも女性型キメラは髪の毛を使って能力者達を攻撃する。
 だけど視界が奪われている状態なので、能力者達は避ける事は苦ではなかった。見えない目で女性型キメラは真田を睨みつける。実際は睨みつけているのではなく、苦しげな目でそちらを見ただけなのかもしれない。
 だが、真田には自分を睨んでいるように見えたのだ。
「戦う事しか許されず、その感情が何の為にあるのかも知らない‥‥ならばせめて、その辛さを知らないままに、安らかな死を‥‥」
 真田は目を伏せて慈悲の言葉を女性型キメラに投げかける。そして『ワイズマンクロック』で再び攻撃を行った。
 そして麻宮は『瞬天速』を使用して女性型キメラに近づいて『急所突き』で攻撃を仕掛ける。
 そして女性型キメラの視界も戻りつつある頃に風間が「もう一回だ!」と言って『照明銃』を女性型キメラに向けて使用した。
「刀圏に捉えれば須らく斬って捨てるのみ‥‥一撃で決める‥‥っ!」
 アセットは呟いて『コンユンクシオ』を構えて、隙が出来る瞬間をじっと待つ。
 そして相良は『豪破斬撃』を使用して『スコーピオン』で射撃、それを四回ほど繰り返した頃、早坂が『瞬天速』を使用して女性型キメラの背後に回って『試作型超機械刀』で背中を斬りつける。
「キメラはいまいち表情に乏しいですねえ。もう少し、表情があれば戦闘も趣深いものになるのですが」
 斬りつけられても人間のように大きく苦しがる素振を見せない女性型キメラを見て、早坂が苦笑しながら呟いた。
 そして背中を斬られたことによって隙を見せた女性型キメラをアセットの持つ『コンユンクシオ』が貫く。
「死んでいった同胞達に‥‥謝りに行ってください」
 アセットが呟き、女性型キメラは「ぅ、ぁ」と呻きながら地面に突っ伏し、能力者たちは無事に女性型キメラを倒したのだった。


〜人の形をした、人ならざるもの〜

「やっぱり‥‥人型のキメラを倒すのは気分の良いものではありませんね‥‥」
 女性型キメラとの戦闘が終了した後、赤宮が小さく呟いた。今は真田の手伝いをして女性型キメラを葬っているところ。目を閉じているその姿を見ていれば人間にしか見えないのに、と赤宮は言葉を付け足した。
「優しいね、だけど戦場でその優しさは‥‥」
 麻宮が赤宮に話しかけると「分かっています」と赤宮は目を伏せて呟く。彼女も頭では理解していることなのだ。
「‥‥でも‥‥重傷者がいなくて‥‥本当に良かったです‥‥」
 朧が能力者たちを見ながら呟く。中には怪我をしてしまった能力者もいたけれど大きな傷を受けたものはいなかった。
「‥‥そう、ですね‥‥」
 朧の言葉に真田が答える。
「それにしてもさ、勝つには勝ったが‥‥しんどかった‥‥二度とやりたくないぜ」
 風見は瓦礫に背中を預けながら空を見上げて呟く。
「そうね、何とか片付いたけれど‥‥あまり相手にしたくないキメラだわね」
 相良も武器をしまいながら呟く。
「さて‥‥それでは報告をする為に本部へ帰還しましょうか」
 早坂が呟き、能力者達は疲れた体を起こしながら本部へと帰還して行ったのだった。


END