●リプレイ本文
〜生まれてきたくなかった少年〜
「お願いです、どうか‥‥どうかあの子を助けてください‥‥あの子まで失ったら私‥‥」
飛び出した少年の母親が涙をぼろぼろと零しながら、能力者達に縋り付くように頭を下げた。
「子供さんが、そんな事を‥‥」
テミス(
ga9179)が苦しそうに表情を歪めながら小さく呟く。彼女が驚いているのは、まだ小学生の少年が『生まれてきたくなかった』という事を母親に向けて叫んだという事を聞いたからだ。
「子供が、そんな風に考えちまうのかよ‥‥生まれたくなかっただなんて‥‥思っちまうのかよ!」
魔宗・琢磨(
ga8475)が壁を強く殴りながら叫ぶ。彼が怒っている理由――それは生まれたくなかったと言った子供に対してではなく、子供にそんな事を言わせる『今の時代』を嘆いたからだ。
「あの子を‥‥宜しくお願いします」
母親は何度も頭を下げて懇願してくる。そんな様子を見たアセット・アナスタシア(
gb0694)は「小さな命は絶対に守る、消させやしないよ‥‥」と小さく呟いた。
「それにしても夜の山中とは‥‥少年の安否も気になりますね」
ヨネモトタケシ(
gb0843)が考え込むように呟くと「暗い山の中かぁ、頑張って探さないと!」とファイナ(
gb1342)が言葉を返した。
「そうですね‥‥早く少年を探して、どんなに辛くたって‥‥どんなに苦しくたって‥‥生きている方がずっと良いって事を、教えてあげなくちゃ‥‥」
霞倉 那美(
ga5121)が瞳を伏せて小さな声で呟くと「そうだね、その為にも急ごう」とパディ(
ga9639)が言葉を返す。
「それでは急ぎましょうか」
ロジー・ビィ(
ga1031)が呟き、能力者達は『生まれたくなかった』と叫んで家を飛び出した少年を探しに動き始めたのだった‥‥。
〜山、少年が生きる光を見つける為に〜
「あ、この子なら山の方へ走っていったな。何かふらふらしてたから声をかけたんだけど、逃げるように山の方へ走っていったんだよ」
ジョギングをしている途中で少年を見かけたという男性に出会い、能力者達は少年が向かったという山に足を進めていた。
「此処からは分けた班で行動した方が子供を見つけるのに率が良さそうだな」
魔宗が呟き、能力者たちは予め決めていた『殲滅班』『保護、誘導班』『遊撃班』の三つで行動を行う事にした。
班と所属する能力者は以下の通りになった。
殲滅班・ヨネモト、アセット、ファイナの三人。
保護、誘導班・魔宗、霞倉の二人。
遊撃班・テミス、ロジー、パディの三人。
「それでは、何かありましたら『トランシーバー』で連絡を取り合う事にしましょう」
ヨネモトが呟き、他の能力者達も首を縦に振る。幸いな事にそれぞれの班に最低一人は『トランシーバー』を持っている能力者がいる為、連絡が取れないという事にはならずに済みそうだ。
「那美‥‥気をつけてね」
アセットが保護、誘導班の霞倉に話しかける。彼女はファイナにも言おうとしたが、今回は同じ班のため、言う事はしなかった。
「アセット、ヨネモトさん、宜しくお願いします!」
ファイナがアセットとヨネモトに向けて話しかけると「此方こそ」とヨネモトが笑みを浮かべて言葉を返した。
「ファイナ‥‥私達も気をつけて頑張ろうね」
アセットはファイナに向けて呟くと「うん、頑張ろうね」とファイナも言葉を返した。
「私達はランタンの灯りも使いましょうか」
ロジーがテミスとパディに問いかける。遊撃班はロジーのランタンとテミスの『懐中電灯』、殲滅班はアセットとファイナの、そして保護、誘導班は魔宗が持つ『エマージェンシーキット』に中に入っている『懐中電灯』を使用して山道を歩く事となった。
「それでは、早く少年を見つけましょう」
テミスが呟き、それぞれの班は少年を探すために動き始めたのだった‥‥。
「‥‥生まれたくなかった、か‥‥母親は複雑だろうなぁ」
魔宗が懐中電灯で周りを照らしながら独り言のように呟くと、霞倉が顔を上げて「‥‥今の時代がいけないんでしょうね‥‥」と悲しそうな表情で呟いた。
「子供が子供らしく生きていけないなんてな‥‥そんな世の中はあっちゃいけねぇ」
魔宗が呟いた時、子供の叫ぶ大きな声が二人の耳に入ってきた。
「今の声は‥‥?」
「魔宗だ! 保護対象の子供らしき声を確認した、今から言う方角に来てくれ!」
魔宗は『トランシーバー』で殲滅班、遊撃班の二つに連絡を入れて、声が聞こえた方向へと霞倉と一緒に走る。
そして暫く走った後、犬型のキメラに襲われている子供の姿が視界に入った。
「危ないっ!」
犬型キメラの爪が少年を切り裂こうとした時、霞倉が『コンユンクシオ』を抜き、少年と犬型キメラとの間に割って入った。
そして犬型キメラの爪を『コンユンクシオ』で受け止め「‥‥大丈夫‥‥? 怪我はない‥‥?」と少年に問いかけた。
「無事だな? 良かった‥‥とにかく此処から離れるぞ」
魔宗は『デヴァステイター』で犬型キメラを攻撃して、少年を抱えてその場から離れるために走り出す。背後から追いかけてきて、攻撃を仕掛けてくる犬型キメラを霞倉が『コンユンクシオ』で弾いたり、反撃をしたりなどして少年に被害が行かないようにしていた。
しかし、引き離そうにも犬という形を取っているだけあって素早さは多少なりとも高いようで、簡単に引き離されてはくれなかった。
「さて、これからどうするかな‥‥」
魔宗が小さく呟く。少し先は崖になっていて子供を連れたまま落ちていくわけにもいかない。彼は『デヴァステイター』で犬型キメラを攻撃するが子供を抱えている事もあって狙いが上手く定まらない。本気でどうしようかと考えていた時、パディの『拳銃』が犬型キメラの足を掠めた。
「間に合ったみたいですね」
パディが魔宗に話しかけ「無事で何よりだよ」と少年にも話しかけた。
「こんな子供に攻撃を仕掛けるなんて‥‥許せません。あの子の感じた絶望、あなたの命で贖ってもらいます」
テミスが呟きながらロジーにちらりと視線を送る。予めテミスとロジーは連携攻撃の合図を決めており、ロジーもテミスからの視線を感じ、首を縦に振ると『月詠』を構える。
そしてテミスが右から『蝉時雨』で攻撃を、ロジーが左から『流し斬り』を犬型キメラに攻撃を仕掛けるために行動を開始する。
「決める‥‥っ!」
テミスが呟き、犬型キメラは危険を察知したのか逃げようとするがパディが『拳銃』で足を狙い撃ち、逃げられないようにする。その後、二人の連携攻撃を受けて犬型キメラはダメージを負う。
「‥‥今のうちに私達は別の所に避難していましょう、この子が震えていますし‥‥」
霞倉は少年を心配そうに見ながら呟く。彼女の言葉を聞いて魔宗も少年を見ると、確かに恐怖の為か小刻みに震えていた。
「そうだな、悪いが任せた」
魔宗がテミス、ロジー、パディに向けて話しかけると「もちろんよ、その子が最優先だもの」とロジーが言葉を返して、追いかけようとする犬型キメラを攻撃する。
そして魔宗、霞倉が戦闘を離れるとほぼ同時に、殲滅班のアセット、ヨネモト、ファイナが到着して戦闘に参戦した。
「‥‥僕がしっかりして、アセットを守らないと‥‥」
他の能力者達には聞こえぬような小さな声でファイナは呟き『エネルギーガン』を手に持ち、構えて覚醒を行う。
「‥‥キメラ発見しました、これより戦闘行動、開始します‥‥」
呟くと同時にファイナは『エネルギーガン』で犬型キメラに攻撃を仕掛けた。
「一撃必殺‥‥やることはいつもと同じ、絶対殲滅‥‥いくよ――『コンユンクシオ』」
アセットは目を閉じて『コンユンクシオ』を手に持って、自らを奮い立たせるように呟き、目を開くと同時に攻撃に入る。
「闇を切り裂き、侵略者の命を断つ‥‥残念だけど、ここで終点だよ」
アセットは呟きながら『コンユンクシオ』を振り上げて犬型キメラに攻撃を仕掛ける。
「ほらほら‥‥刈り取ってしまいますよぉ!」
ヨネモトが牽制するように『ソニックブーム』で攻撃をして、テミスがなぎ払うように攻撃を行うが、それは避けられてしまう。
「残念ですが‥‥渾身の双撃‥‥受けて頂きますよぉ!」
ヨネモトが叫び『両断剣』を付加した『二段撃』で犬型キメラに攻撃を仕掛けた。ヨネモトの攻撃を受けて、ほとんど瀕死状態に陥った犬型キメラは唸りながら威嚇のようなものを行ってくる。
「静かにしてくれないかなぁ? 小さな子供が怯えてしまうだろう?」
パディは犬型キメラに微笑みながら静かに、だけど何処か冷たさを感じるような口調で呟き『蛍火』で攻撃を行う。
「‥‥連携行動重視、牽制射撃開始‥‥」
ファイナが呟き『エネルギーガン』で攻撃を行い、射撃が終わると同時にロジーが犬型キメラの前に立ち『紅蓮衝撃』を使用して、犬型キメラに攻撃を行って、無事にキメラ退治を終えたのだった‥‥。
〜生への恐怖、死への恐怖、これから少年が生きる道は〜
「‥‥これで、大丈夫かな‥‥」
霞倉が『救急セット』で少年の傷を治療して、安心したように呟く。彼女が治療を終えると同時にキメラ退治を終えた能力者達がやってきた。
「大丈夫? これでも飲んで落ち着きなさいな」
ロジーが『リンゴジュース』を少年に差し出し、少年は躊躇いながらも『リンゴジュース』を受け取り、一口飲んだ。
「何で戦うの‥‥死ぬのが怖くないの‥‥?」
少年が涙を混じらせた瞳で問いかけてきて「‥‥怖いよ‥‥」と霞倉が小さく言葉を返した。
「私もね、お父さん達が死んだ後しばらくの間は『お父さんもお母さんもいない世界なら、死んだ方がいい』って思ってた時期があったよ。でもね‥‥それでも生きていれば、大事なものが必ず見つかるんだよ」
霞倉の言葉を聞いて「何か‥‥見つけたの?」と少年は言葉を返してきた。
「私は‥‥大事な友達、見つけたから‥‥キミも、きっと何か見つかるよ」
霞倉の言葉を聞いて、少年は『リンゴジュース』をぎゅっと強く握り「それでも‥‥ボクは怖い、生きるのが‥‥怖い」と消え入りそうな声で呟く。
「大丈夫ですわ‥‥貴方は強き星の許にお生まれになっているのです」
ロジーが少年と視線を合わせるようにしゃがみながら話しかける。
「またお前が怖い目にあったら‥‥絶対に、護り抜いてみせる。絶対に、変えてみせる! ‥‥だから信じろ、俺達を、お前が行く未来を!」
魔宗が少年に言い聞かせるように呟く。だけど少年の心には『生きている限り、こんな怖い目にあう』という気持ちがあった。
「さっき、キメラに襲われた時、死ぬのが怖かっただろ? ‥‥それが『生きたい』って事なんだよ!」
魔宗の言葉に少年はハッとしたように顔をあげて魔宗の顔を見た。
「あなたもいなくなったら‥‥おかあさん、きっと泣いちゃうよ? だから、生まれたくなかった、なんて言っちゃダメ」
テミスは少年を抱きしめながら諭すように呟くと「‥‥お母さんが泣くの、嫌だ」と泣きながら少年は言葉を返してきた。
「‥‥生まれたくないという気持ちはよく分かるけど、それでも、頑張って生きていれば、幸せになれるよ」
ファイナが少年の頭を撫でながら穏やかな笑顔で話しかける。
「命が在るからこその恐怖、しかし果たして在るのは恐怖だけですかなぁ?」
ヨネモトの言葉に少年が言葉を止めて、首を横に振る。今までの楽しかった思い出を思い出したのだろう。
「だったら、生まれたくなかったなんて言ってはダメですなぁ?」
ヨネモトが笑みを浮かべながら話しかけると「‥‥うん」と少年は小さく首を縦に振りながら言葉を返した。
「そういや、お前の名前聞いてなかったな‥‥名前、何て言うんだ?」
魔宗が問いかけると「幸児」と短く名前を告げてきた。
「へへ、そうか。幸せの児、か。いい名前じゃねぇか――って寝てやがる」
極度の緊張状態が続いたおかげで幸児は疲れきっていたのだろう、幸児は静かに寝息を立てていた。
その後、母親の所まで幸児を連れて行くと、母親は泣きながら幸児を抱きしめていた。母親の涙に釣られるように幸児も泣きながら「ごめんなさい」という言葉を繰り返していた。
「‥‥また何時か会おうな! 幸児!」
魔宗が幸児に手を振り、他の能力者と共に報告の為に本部へと帰還していったのだった‥‥。
END