●リプレイ本文
〜能力者達を救出する為に〜
「‥‥またお前か。何? 付き纏ってるわけ?」
ため息を吐き、挑発的な態度でしのぶ(
gb1907)に話しかけるのは、友人の高橋 優(
gb2216)だった。
「そんなワケないでしょー!? 何言ってるのよ、高橋優!」
しのぶが反論の言葉を投げかけると「‥‥どーだか」と小さく呟く。
「えっと‥‥」
二人の口論(という名の世間話?)を止めようとおろおろしているのは周藤 惠(
gb2118)だった。
「ハッキリ喋ってほしいもんだし」
おろおろしている周藤に高橋が話しかけると「ご、ごめんなさい‥‥」とうな垂れながら言葉を返した。
「そういえば能力者の人たちは生きてるのかな? まぁ僕はキメラと戦えればどっちでもいいけどー♪」
楽しげに話すのは風花 澪(
gb1573)だった。風花の言葉を聞いて、今回同行するサイエンティスト・ビスタが「‥‥キメラを殺すんですか?」と小さく呟き、能力者達の表情が少し険しいものに変わった。
「キメラを倒したくないのに、何で傭兵になったの?」
風花が不思議そうにビスタの顔を覗きこみながら問いかけると「‥‥私は‥‥」と俯いて言葉を返す事はしなかった。
「優しさが、時には邪魔になる愚かさだって言ったのは誰だったっけ」
呟くのは新条 拓那(
ga1294)で、「でも」と言葉を付け足した。
「優しさがなければ、俺らとキメラに大した違いはないんじゃないかな」
新条の言葉に「‥‥そんな事言ったのは貴方が初めてです」とビスタは言葉を返す。
「私はあなたの葛藤には興味がないし、関係もないわ。尤も、その感情が今回の仕事に影響するようなら傍観していられないけれどね」
水枷 冬花(
gb2360)がビスタに向けて呟くと「確かに」と高橋が言葉を返してくる。
「ボク達はキメラを倒す事が仕事だし。邪魔しなければ別にどうでもいいよ」
高橋の言葉に多少なりとも傷ついたのだろう、ビスタは居心地悪そうに俯いた。
「まぁ、此方の救助を待っている人がいますし、急いで向かいましょうよ」
田中 直人(
gb2062)が呟き、能力者達は目的の場所である『廃墟』へと向かい始めたのだった‥‥。
〜彼女が戦いたくない理由〜
「私、何度も変わろうとしたんです――‥‥だけど――」
出来なかった、ビスタは今にも泣きそうな表情でぽつり、またぽつりと呟くように言葉を紡いでいく。
「君が敵を傷つけたくないって優しさを持つなら、俺はその優しさを護る為に牙を振るうよ、だから君は今のままでいいんだ」
新条の言葉にビスタは目を丸くしながら彼を見る。今までビスタは『役立たず』などと罵られる事はあっても『そのままでいい』と言ってくれた能力者は初めてだったからだ。
「私は少し考えてる事が違うかも」
呟くのはしのぶ。ビスタ、そして他の能力者もしのぶを見やり次の言葉を待つ。
「命の尊さ、とか難しい事は分からないど、大切な人や友達を守りたいなら戦うべきだと思う。それが他者の命を奪う事になっても。必要なのはその覚悟かな?」
しのぶが苦笑気味に呟くと「貴方にはその覚悟が‥‥?」とビスタが言葉を返す。
「覚悟かぁー‥‥私もようやく出来てきたかなー? って感じかな」
しのぶは「あはは」と笑いながら言葉を返すと「‥‥羨ましいわ」とビスタが短く言葉を返した。
「そうだ、これを渡しておくね」
風花が『ミネラルウォーター』を周藤に渡す。
そして能力者達は廃墟の手前で立ち止まり、近くにキメラの気配を感じるため、予め決めていた班で分かれて行動することにした。
キメラとの戦闘を担当する『戦闘班』には風花、高橋、水枷、田中の四人が。そして救助要請を行った能力者を探して保護する『救助班』には新条、しのぶ、周藤――ビスタ。
「み、水があれば助かります‥‥」
周藤が呟く。そう、風花は救助者に飲ませたり、傷口を洗ったり出来るだろうからと『ミネラルウォーター』を用意していたのだ。
「それじゃ何かあったら『トランシーバー』で連絡を取り合おうね」
しのぶが戦闘班の能力者達に向けて言葉を投げかけ、二つの班は分かれて行動を開始した。
※救助班※
三人の能力者を救出する為に周藤は『探査の眼』を使用して、能力者たちを発見しやすいようにしていた。
「あの、何か‥‥分かりましたか?」
ビスタが周藤に問いかけると「‥‥三人はまだ一緒に行動しているみたいです」と周藤は言葉を返した。
「この場所から離れていないって事は、怪我をして動けないのかな?」
しのぶが首を傾げながら呟く。確かに救助要請が来たのは二日ほど前、それなのにさほど時間の経っていない痕跡が見つかるという事は怪我をして動けない――という事だろう。
「とにかく、その人たちが心配だよ! 急ごう!」
しのぶは歩く足を少しだけ早めて三人の能力者達を探し始める。
「でも‥‥私が同行してもお役に立てるか分からないです‥‥」
ビスタは立ち止まり、いまさらながらに同行したことを後悔するように呟いた。友人であるリィナの危機、感情に絆されてやってきたのだが足手まといになる事を恐れたのだ。
「要は戦い方一つ、だと思うんだ。何も戦う力が俺達の全てじゃない。特に、こうして誰かを助ける事はそれ以上に重要な役目だよ。ビスタちゃんの力ならうってつけさ」
新条の言葉に「‥‥私の力――」と自分の手を見ながら小さく呟く。
そして、それから数分後に「あ、あの‥‥血が‥‥」と周藤が地面に点々と続く血痕を見つけて呟き、四人は血痕を辿っていくと壊れた家屋の地下室に隠れている三人の能力者を発見したのだった。
※戦闘班※
「三人の能力者、見つかったみたいだし」
周藤からの連絡を受けて、高橋が『トランシーバー』を切りながら『戦闘班』に属する能力者達に伝えた。
「という事はアレを何とかすればいいんですね」
水枷が『エクリュの爪』を構えながら呟く。救助班と分かれた後、戦闘班の能力者達も救助を待つ能力者達を捜索しようとしていたのだが、突然現れたキメラに捜索を中断せざるを得なかったのだ。
救助班が『能力者を見つけた』という報告を受けるまでは牽制攻撃を仕掛けたりなど、救助班にキメラが向かわないようにしていたのだ。
「治療終わって、能力者を安全な場所に移動させたらコッチ来るらしいし」
高橋も『エンリル』を構えながら呟く。
「ふふ、これからは本気♪ 今回は負けるわけにはいかないよねー♪」
戦う事を嫌うビスタが同行している以上『負け』は許されない状況に風花は何処か楽しげな表情で呟く。
「覚醒完了‥‥さあ、踊ろうか、キメラ」
田中が覚醒を行い、AU−KVをアーマーモードにして小銃『S−01』で空中から此方を見下ろしているキメラに攻撃を仕掛ける。
しかし相手は空中にいるせいか狙いづらく、それ以上に避けられやすい。
「キメラが見下ろしてくるなんて気分悪いし‥‥堕ちろ」
高橋が忌々しげに呟き『スコーピオン』で攻撃を仕掛ける。
「‥‥ち」
水枷も舌打ちするように呟き、小銃『S−01』でキメラに向けて発砲する。数人が纏まって射撃を仕掛けたおかげか、キメラが地面近くまで降りてくる。
「降りてきたら――こうなるんだよね!」
風花が叫び『豪破斬撃』と『紅蓮衝撃』を使用して地面すれすれまで降りてきたキメラに攻撃を仕掛ける。
「その翼! 貰ったよ!」
風花の言葉通り、攻撃が終わると同時にキメラから黒い翼が斬り落とされ、苦しげな声が廃墟内に響き渡った。
その時に救助者を安全な場所に運び終わった救助班の能力者が合流して本格的に戦闘が始まったのだった。
〜命を奪うもの、奪われるもの〜
「なんて事を‥‥」
ビスタが苦しむキメラの姿を見て「もう戦えないわ! だからもうやめて」とビスタがキメラと能力者との間に入って叫ぶ。
「悩んで悩んで、何も出来なかったくせに‥‥理想だけ語るな」
高橋が怒気を含んだ口調で低く呟くと、ビスタは怯んだように肩を竦ませた。ビスタと能力者達が話している間、キメラは残ったもう片方の翼で浮上しようとするが、田中が『試作型機械剣』を振り上げて、もう片方の翼を攻撃してキメラが浮上できないようにする。
「高みの見物は些か無粋というものだろう」
田中が呟くと「もう戦えないのに‥‥」とビスタが表情を歪めて話しかけてくる。
「そんなに戦うのがイヤなら戦わなくても構わない――だけど、貴方の言葉一つで此方が全滅の可能性もあるって事を忘れないで」
しのぶが呟き『竜の翼』と『竜の爪』を使用して攻撃を仕掛ける為に走り出す。
「全力ぅっ‥‥全壊ぃっ!」
しのぶが『刀』で攻撃を仕掛け、キメラの腹に武器を突き立てる。しのぶの攻撃を避けようとしたが、新条の『超機械γ』で電磁波を発生させて動きを止める。
そして周藤も『スコーピオン』で攻撃を仕掛け、周藤の援護射撃を受けて水枷が『エクリュの爪』で『瞬天速』と『急所突き』を使用して攻撃を仕掛ける。
「ばいばい☆」
風花は呟くと、頭と心臓に『ハンドガン』で二発ずつ攻撃を仕掛け、キメラを無事に倒す事が出来たのだった‥‥。
〜優しさを強さに〜
「私は‥‥皆を助けたいと思った‥‥人間も能力者もキメラも関係なく‥‥」
ビスタは地面に伏しているキメラを見て、涙を流しながら小さな声で呟く。
「甘さが身を滅ぼす事もあるのよ、覚えておきなさい」
水枷が涙を流すビスタに近寄り、言葉をかける。先ほどキメラとの間にビスタが入った時、キメラが逃げようと行動していたからビスタは攻撃を受けることはなかった。
もし、あのキメラが傷ついていなくビスタがキメラに背中を向けている状況だったら‥‥今、この場でビスタは生きてはいないかもしれない。
「今回の件はあなたの甘えが招いた結果よ。自分がどうあるべきか良く考えるのね」
水枷の言葉にビスタは俯いたまま何も言葉を返さない。
「ビスタさんは戦うのが嫌なんですか? だけど‥‥戦わずとも何かを守る事は出来ると思う。ビスタさんは人を癒すことが出来るでしょう? 俺は盾にしかなれないけれど‥‥」
田中の言葉に「戦わずに癒す‥‥」とビスタは言葉を繰り返す。
「あ、あの‥‥私‥‥流されて能力者になったけれど‥‥両親とか姉妹とか、大事な人がいて‥‥守るために戦っています‥‥確かにキメラも命だけど‥‥命を奪うために作られた、悲しい命です。放っておくと‥‥そんな命が生まれ続けます。そして‥‥もっと沢山の命が奪われます‥‥」
そんなの、駄目です――周藤が呟き「ビスタさんは‥‥」と言葉を続ける。
「凄く優しいです‥‥でも、このままじゃ戦えません‥‥決めなくちゃ戦うかどうか‥‥戦うと決めたなら迷っちゃだめ‥‥戦えないなら‥‥傭兵辞めなくちゃ」
周藤の言葉にビスタが顔を上げると「ご、ごめんなさい‥‥言い過ぎました」と慌てて謝ってくる。
「ん〜‥‥戦う理由は人それぞれだし。キメラに情を抱く能力者がいてもいいんじゃない? ボクは理解しかねますけど」
高橋が呟くと「‥‥私は戦う‥‥」とビスタが小さく言葉を返す。
「だけどやっぱり命を奪うのは嫌‥‥これはただの自己満足かもしれないけれど‥‥私はサイエンティスト――人を癒せるから、そこを私の戦場にしようと思う。癒して悲しい命を屠る能力者たちを手助けしたい‥‥」
ビスタの言葉に「それでいいんじゃないかな」と新条が言葉を返す。
その後、能力者達は負傷した能力者達を連れて帰還する。報告の為に本部に向かうもの、負傷者を連れて病院に行く者など様々だったが、別れる前に「ありがとうございます」とビスタが小さくお礼を言うのが聞こえた。
そして――その後もビスタの『臆病者』という噂は付き纏っていたが、彼女自身は気にする事もなく『自分に出来ること、自分にやれること』をして、友人達と任務に赴いているのだという‥‥。
END