●リプレイ本文
〜能力者という立場に驕った者達〜
「今回の仕事は馬鹿の回収か」
九条・命(
ga0148)がため息混じりに呟く。彼がため息を吐きたくなるのも無理はない。今回の標的はバグアでもキメラでもなく『同じ能力者』なのだ。
「旅の恥はかき捨て、後は野となれ山となれ――そういう言葉もあるからハメを外すのは悪くはない‥‥が、それとコレは別だ。治安維持の為に赴いた者が治安を乱して如何する」
九条は額に手を置きながら再び大きなため息を吐く。
「我欲の赴くがままか‥‥愚かな」
白鐘剣一郎(
ga0184)が呆れた表情で呟くと「愚かしいな」と御影・朔夜(
ga0240)が言葉を返した。
「この能力者達――浅ましく卑しい力の使い方だ。そして浅慮としか言い様がない。目には目を、歯には歯を。そして能力者には能力者を――この程度の事は簡単に思いつくだろうに」
「‥‥確かに、愚かとしか言えないですね」
ベル(
ga0924)が短く言葉を返す。今回の標的となっている三人の能力者達は一般人に重傷を負わせている事も分かっている。ベルはその事を聞いて、表にこそ出しはしないが三人の能力者に対して怒りを覚えていた。
「まぁ‥‥『この世界の』能力者が『力』を持っているという事が分かった所で、その暗黒面は確実に存在し、いずれはこうなる事も分かっていました」
辰巳 空(
ga4698)が呟き「そして」と言葉を続ける。
「このまま放っておけば権利を主張する能力者が反乱を起こし、能力者同士での無意味な戦争にもなりかねない事を考えると‥‥此処は何とかその芽を摘み取りたいですね」
確かに彼の言う通りだろう。人間という生き物は欲深い生き物だ、一つの町の支配だけでは欲が満たされず、一つの国に、そして世界を――と考え始める輩も出てくる事だろう。
「‥‥止めなきゃ‥‥僕達の力は好き勝手する為にあるんじゃない‥‥」
拳を強く握り締めながら鐘依 透(
ga6282)が小さく呟く。
「能力者の力は、力の無い人達を、大切な人を守る為のもの。それを‥‥他者を虐げ、従わす事に使うなんて、絶対に許せない!」
皆城 乙姫(
gb0047)が呟くと「能力者として見過ごせないな」と篠ノ頭 すず(
gb0337)が言葉を返した。
「最新の情報を問い合わせてみたが‥‥状況は悪化しているようだな」
白鐘が一枚の紙を見ながら呟く。問い合わせた情報によると、怪我人が数名増えて、その中には幼い子供まで入っているようだ。
白鐘の説明を聞きながら、御影は何処か何かを考えているように俯いた。彼が考えている事、それは『果たして本当に三人の能力者だけが悪いのか』という事。能力者が一般人を虐げれば能力者全体の立場が悪くなる。それに自分達が能力者に狙われる可能性も考え付かなかった筈はない――事件は本当に単純なものなのか、御影は答えの出ない考えを先ほどから繰り返していた。
「‥‥杞憂であれば、面倒な事もないのだがな」
御影は呟き、出発のための準備を始めたのだった。
「さて、さっさと馬鹿三人を回収しなければな。急ごうか」
九条が呟き、能力者達は三人の能力者がいる町へと急いで向かったのだった‥‥。
〜潜めく町、住人達の苦しみ〜
「静か、だね」
少し離れた場所から町を見て、皆城が小さく呟いた。決して狭い町ではないのに、子供の声、生活する人々の声なども聞こえず、不気味にひっそりとしていた。
今回の能力者達は任務を迅速に遂行すべく、二つの班に分けて行動をする事に決めていた。
A班・九条、鐘依、皆城、ベル、白鐘の五人。
B班・御影、篠ノ頭、辰巳の三人。
A班の目的は問題の能力者達に『自分達より人数が多く、実力的にも遜色ない十分な戦力』である事を認識させ、B班の能力者――つまり問題の能力者達が気づいていないB班を動きやすくさせるというものだった。
知恵のないキメラが相手であれば総攻撃でも問題ないかもしれない。だけど――今回の相手は知恵のある人間、窮地に陥れば人間はどんな事だってする。例えば――住人を人質にしたり、根っからの悪人であればそんな事など造作もないことなのだから。
「乙姫、気をつけて」
篠ノ頭が別行動を取る恋人、皆城に言葉をかけると「すずもね」と言葉を返して足を進めて先に向かい始めた。
※A班※
「地形は頭の中に入れましたが、問題の能力者達が何処にいるのかが分かりませんね」
ベルが地図を見ながら呟くと「ある程度場慣れしていれば気がつくだろう」と白鐘が言葉を返した。
もちろん町への潜入は隠密に行うが、気がつかないのはあくまで『一般人』のレベル。ある程度場慣れしている能力者なら気配を読む事くらいは出来るはず、白鐘はそう言いたいのだろう。
「そうだな、いくら馬鹿でも能力者の端くれ――気配くらいは‥‥読めるみたいだな」
九条が少し先を睨みながら呟き、他の四人の能力者もそちらに視線を向けると‥‥男性二人、女性一人が此方を警戒するようにして見ていた。
「武器を持っているところを見ると‥‥能力者で間違いないな」
白鐘が小さく呟き、三人の能力者を見据える。
「既に依頼は終了している筈だ。何故いつまでもこの町にいる」
白鐘が問いかけると、三人の能力者は互いに顔を見合わせて「一応、まだキメラがいるかもしれないから‥‥」と白々しい嘘を吐いてきた。
「‥‥本部から帰還命令が出ています‥‥そろそろ帰ってきてもらえないでしょうか?」
ベルが能力者達の嘘をスルーして言葉を投げかけると「‥‥町の住人がもう少しいてくれって言うからさぁ」と男性能力者が言葉を返してくる。
「お前達が歓待されているのなら、この町の状況はあり得ないな。これではお前達がキメラに成り代わったようなものだ、違うか?」
白鐘が問うと「能力者の力は、力を持たない人達を守る為にあるんだよ!」と皆城も言葉を付け足す。
「ウルサイよ」
スナイパーらしき男性能力者が銃を取り出して構える。それを見て九条は「やっぱり馬鹿か」とため息混じりに呟く。
「悪いことは言わない、俺達と共にラストホープへ戻ろう」
白鐘が手を差し出しながら訴えかけると「俺達は正義の為に戦ったんだ! 少しくらいイイ目を見たっていいじゃないか!」と男性能力者が大きな声で叫んだ。
その言葉を聞いて、今まで黙っていた鐘依が「冗談じゃない」と短く呟く。
「‥‥自分勝手なだけだと思います。正義でも何でもなく‥‥甘えているだけです」
鐘依の言葉に「うるさい! お前らこそ帰れよ!」と男性能力者が銃を取り出して構え、戦闘準備に入ったのだった。
※B班※
「住人達はこれで全員か」
篠ノ頭が「ふう」と言葉を付け足しながら呟く。A班が目立つように行動を行っている間、B班は住人達の安全を確認、そして巻き込まれないように一箇所に集めていた。もちろん問題の能力者達から離れた場所に。
「A班の説得で大人しくしてくれればいいんですけど‥‥無理でしょうね」
辰巳が苦笑気味に呟くと「だろうな」と篠ノ頭が言葉を返す。
「能力者が来て大人しくなるような連中だったら、こんな事はしていないだろう」
篠ノ頭の言葉に「同感だ」と御影も言葉を返してくる。
「‥‥音がし始めた、向かいましょうか」
辰巳は戦闘の始まった音が耳に入ってきたのを感じ、御影と篠ノ頭と共にA班と問題の能力者がいる場所へと密かに向かい始めたのだった。
〜能力者 VS 能力者〜
「‥‥姿を消したか」
戦闘が始まると同時に姿を消したスナイパーを探そうと周りを見渡すが、流石に戦い方を心得ているのかすぐに見つかる場所には潜んでいない。
しかし――これはまだ予想の範囲内だった。スナイパーを探す役目はA班ではなく、隠密に行動を行っているB班の役目だった。A班はスナイパーからの攻撃を受けて、潜伏場所をB班に知らせる‥‥危険な役割であったがそれ以外に方法はなかった。
「腕の方は多少使えるらしいな」
九条が靴に装着させた『砂錐の爪』で男性能力者に攻撃を仕掛けるが、決定打にはならない。その上、女性能力者は『練成強化』で男性能力者の武器を強化してくるから、多少の油断も出来ないのだ。
「‥‥これほどの強さを持ちながら、何故こんな事にしか使えないんですか」
鐘依は呟き『ソニックブーム』を男性能力者に使用して、その後に出来た僅かな隙を突いて『影撃ち』を使用して『ペイント弾』で男性能力者に攻撃を行う。
しかし一回目は避けられた――が皆城が『スパークマシンα』で攻撃を行い、その後に戦闘力を低下させる為に鐘依は『ペイント弾』を男性能力者の顔面に放ったのだった。
「もうやめにしましょう」
鐘依が呟いたが、男性能力者はなおも剣を振るって攻撃を仕掛けてくる。皆城はそんな男性能力者の姿を見て、少し悲しそうな表情を見せた後『練成弱体』で男性能力者の防御力を低下させて『練成超強化』を九条に使用する。
九条は『瞬天速』を使用して男性能力者の背後に回り、多少手荒いとは思いつつも、これ以上暴れられないように腕を折った。
男性能力者の悲痛な叫び声が響くと同時にA班の能力者に向けてスナイパーの銃弾が襲う。
物陰に隠れていたB班は銃弾の降る方向を見て「あそこだ」と呟き、スナイパーの男性能力者を目掛けて攻撃を開始する。
「面倒になる前に潰す‥‥」
女性能力者が『エネルギーガン』を持って攻撃しようとしている事に気がついた篠ノ頭は『スナイパーライフル』で女性能力者の手を狙い撃つ。
「莫迦が――やり過ぎたんだよ、貴様等は。そして、そんな奴らの末路も分かるだろう?」
御影が呟きながら逃走を図ろうとしている女性能力者の足を狙って『スナイパーライフルD−713』で攻撃を仕掛ける。
「殺さずとの指示だ、殺しはしない――殺しは、な」
御影が呟き、サイエンティストの女性能力者まで捕縛終了した所で、スナイパーの男性能力者が仲間を見捨てて逃げようとしているのに辰巳が気づく。
「やれやれ、ですね」
辰巳は呟くと『獣突』と『急所突き』を使用してスナイパーの男性能力者目掛けて攻撃を仕掛ける。
三人が抵抗出来ない段階まで来ると、辰巳が持ってきていたワイヤーでぐるぐる巻きにして逃げられないようにして、無事に三人の能力者を捕縛したのだった。
〜暴挙の理由、だけどしてはならないこと〜
「何でこんな馬鹿な真似をしたんだ、こんな事したらどうなるか分からないほど馬鹿でもあるまい」
九条が問いかけると「‥‥ここの奴らがさ」と男性能力者が俯きながら小さな声で言葉を返してきた。
「キメラを退治して、怪我してたから一日だけ休ませてもらえないかって聞いたんだ‥‥そしたら、あいつら――『キメラを倒したんだからさっさと帰れ』って言いやがったんだ」
「私のせいなのよ‥‥」
サイエンティストの女性能力者が左目を押さえながら泣きそうな表情で呟く。彼女の話を聞けば、キメラから攻撃を受けた際に左目を負傷したらしい。怪我を心配した男性能力者二人が住人に話したところ『帰れ』の一点張りだったらしい。
「気持ちは分からなくもないが、こんな事をして解決になったとも思えんが」
御影の言葉に「‥‥ならないのは分かっていたけれど、戦っているのは俺達なんだぞ、少しくらい優しくしてくれたっていいじゃないか」と男性能力者は言葉を返してくる。
「優しくして欲しかったのなら尚更――やり方を間違っています」
ベルが呟くと、能力者達も分かっていたのか気まずそうに俯いた。
「それにしても楽な仕事ではなかったですね」
本部へ帰還中、辰巳が苦笑交じりに呟くと「一枚岩じゃないんだよね、人間が人間と戦っていたら‥‥」と篠ノ頭が言葉を返してきた。
「我達は正しく力を使えているのかな?」
付け足した篠ノ頭の言葉に「大丈夫だよ、すずも私も頑張ってるもの、他の皆も同じ」と皆城が答えた。
そして本部に帰還すると報告を行い、負傷した能力者達は手当てを受けて、それぞれの帰路へと着いたのだった‥‥。
END