●リプレイ本文
〜復讐をお願いします〜
彼と同じように切り刻んで、痛めつけてから殺して――。
それが依頼人であるスエリからの要求だった。結婚を約束した恋人を殺されたのだから復讐という感情に駆り立てられるのは能力者達にも分かる。
だけど――‥‥。
「彼と同じように‥‥か」
伊佐美 希明(
ga0214)が、少し離れた場所にいる依頼人・スエリを見て小さく呟く。
「復讐か‥‥それは当然の感情の帰結だし、キメラを切り刻んで殺せと言われた以上はそうするつもりだったんだが‥‥」
藤村 瑠亥(
ga3862)が呟きながら、今回一緒にキメラ退治を行う能力者達を見る。スエリの『彼と同じように』という考えに納得出来ていない能力者が多いらしい。
「貴女は‥‥全てから顔を背けずにいられますか?」
優(
ga8480)がスエリに話しかける。スエリは恋人を殺したキメラの最後を見たいと言って同行を申し出てきた。
「え‥‥?」
スエリが目を瞬かせながら聞き返すように呟くと「どんな惨劇もその目で見ていられますか」と再度言葉を続けた。
「奴らに対する憎悪、復讐心で戦っている私はスエリさんに何かを言う資格はありませんし、私は奴らに過程ではなく結果を求めます。同行するのなら、望んだ結果から目を背ける事は許しません、それでもいいのですか?」
優の言葉に「‥‥いいわ、私は――あの人を殺した奴が憎いもの」と言葉を返してきた。
「では、もう一度聞きます」
愛輝(
ga3159)がスエリの前に立ち、呟く。
「貴女の望む通り、俺達はキメラを退治します。切り刻み嬲り殺せば、きっと貴女の恋人と同じ死に顔が見られるでしょう――それが、貴女の望みで間違いありませんね」
愛輝の言葉に「‥‥私は彼と同じ死に顔が見たいんじゃない」とスエリは小さく呟く。
「苦しんで苦しんで、苦しみぬいたところを見たいんです。彼を殺したことを後悔させてやりたいの」
スエリの言葉に能力者達は黙って互いの顔を見合わせる。
「彼と同じ死に顔なんて許さない‥‥あんな満足な顔で死なせやしない」
スエリは拳を強く握り締めて搾り出すような声で呟いた。
「キメラ討伐は、亡くなった方の御遺志ですか?」
愛輝が問いかけると、スエリは答えることはなく「‥‥頼まれた仕事だけしてください」と背中を向けて言葉を返す。
「切り刻んで、痛めつけて殺して‥‥ですか。キメラを倒すことは吝かではありませんし、彼女の気持ちも分からなくはないのですが‥‥何なのでしょうね、この釈然としない気持ちは‥‥」
遠倉 雨音(
gb0338)が呟くと「きっと、彼女の望みに賛成出来ないからだろう」と楓姫(
gb0349)が言葉を返した。
「皆様の言葉で‥‥彼女が残酷な復讐はやめてくれると良かったのですが‥‥彼女自身の為にも」
ルーシー・クリムゾン(
gb1439)がスエリの背中を見て呟くと「まぁ、僕たちは依頼人の望み通りにするしかないよね」と風花 澪(
gb1573)が言葉を返し、能力者達はスエリを連れて彼女の恋人が殺された『教会』を目指して出発したのだった。
〜彼と約束したあの場所で〜
能力者達は前衛、囮、後衛、スエリの護衛、そして狙撃と班を5つに分けて行動することにしていた。
前衛には楓姫と風花、囮役には愛輝と藤村、後衛にルーシー、スエリ護衛には伊佐美と優、そして狙撃には遠倉という班分けを行っていた。
町はキメラが現れた事で人の姿はなく、キメラが暴れたのか崩れ落ちている建物もいくつか見られた。
「あのさ、本当に‥‥いいの?」
伊佐美が問いかけると「あなたはキメラに同情するんですか?」とスエリが言葉を返してくる。
「‥‥キメラに同情するわけじゃない、倒す事に変わりはないし、依頼人がそれを望むのなら、そうするけど‥‥でも私は貴女が貴女の恋人の気持ちをちゃんと汲んでいるのか、それが気になるんだ」
先ほど愛輝の言葉にきちんと答えなかった姿を見て、伊佐美は気にしていたらしい。
「貴女の彼は、自分を殺した相手に復讐したいって望んだ? ‥‥きっと違うと思う。彼は愛しい貴女をただ守りたかった‥‥貴女に生きて欲しかったから――自分の命を投げ出しても、それで満足だったんだ」
「お前の大切な者は優しい顔をして死んだらしいな。その意味を少し考えたらどうだ?」
伊佐美と藤村がスエリに話しかけると、彼女は俯いたまま言葉を返す事はしなかった。
「今回は捕獲に近いのかなー、がんばろっと」
風花は『ハンドガン』を握り締めながら呟く。彼女は普段銃を使わないらしいから上手く捕獲できるか心配であると同時に楽しみでもあるのだそうだ。
「もうすぐ教会ですね‥‥」
人の気配のない町を歩いて進みながら、優が小さく呟く。
教会、つまりスエリにとって最愛の恋人を失った場所――トラウマとなっていてもおかしくない場所だ。
「大丈夫か?」
かたかたと小刻みに肩を震わせるスエリに気がついて藤村が問いかけると「大丈夫‥‥大丈夫よ」とまるで自分に言い聞かせるように言葉を返した。
この後、遠倉は狙撃しやすい場所を見つけて建物に身を隠して、キメラを発見するために警戒を強めた。
「‥‥いました」
ルーシーが呟き、鳥型キメラが潜んでいる場所を指差す。その場所は教会の屋根の上で、向こうは能力者達に気づいているのか、確りと此方を見据えている。
「戦闘開始、だな」
藤村が呟き、愛輝と共に鳥型キメラを下に引きずり下ろす為に、危険とは思いながらも鳥型キメラの標的になるように前に出る。
「キメラに‥‥血染めの花の祝福を‥‥」
覚醒を行うと同時に楓姫が鳥型キメラを睨みながら呟く。
鳥型キメラも能力者を見て、耳を劈く奇声をあげて藤村と愛輝に攻撃を仕掛ける。鳥型キメラの攻撃を藤村は『バックラー』で防ぎ『月詠』で攻撃を仕掛ける。
僅かに出来た隙を突くように愛輝も『パイルスピア』で鳥型キメラに攻撃を仕掛けるが、鳥型キメラは翼を広げて上空へと浮かび、二人の攻撃を避けた。
「やっぱりあの翼が厄介ですね‥‥」
狙撃地点から遠倉が呟き、前衛で戦う能力者たちを支援するように『アサルトライフル』で鳥型キメラを攻撃する。
そして遠倉の攻撃に合わせるように優が『ソニックブーム』を使用して鳥型キメラを地面に落とそうと試みるが、攻撃は当たるものの、地面へ落とすまでには至らなかった。
「出来るだけ怪我させないで捕獲――それか落とすんだっけ?」
風花は『ハンドガン』を構えて、鳥型キメラに攻撃を仕掛ける。鳥型キメラは風花の攻撃を避けたが、間髪いれずに小銃『ブラッディローズ』で攻撃を仕掛け、鳥型キメラは避ける動作が間に合わず、楓姫の攻撃を直撃で受けてしまう。
その後、鳥型キメラは急降下して藤村を襲いに来るが、藤村はあえて避ける事はせずに、鳥型キメラは藤村の腕に噛み付く。
「腕の一本くらいくれてやる、ただ‥‥代償はでかいぞ?」
藤村は『月詠』で鳥型キメラの翼を貫き『月詠』ごと地面に突き刺して、鳥型キメラを捕獲する事に成功したのだった。
〜復讐するとき、彼女は‥‥〜
「キメラ、捕まえたみたいだね‥‥本当にいいの?」
伊佐美が問いかける。スエリは伊佐美の言葉に「‥‥だって、あのキメラは‥‥あの人を殺したんだもの」と涙混じりに言葉を返してくる。
「私もね。大事な家族をキメラに殺されたんだ、私を守って‥‥」
私を守って、という言葉のスエリは驚いて伊佐美を見る。
「正直、未だ憎しみも悔しさも消えない。でも兄貴達が、自分達が死んだことを悔やむよりも、私のことを、ずっと大事に想っていたのはわかる。だって、最後の最後まで‥‥優しく笑っていたから‥‥」
「笑っていた‥‥?」
スエリが問いかけると伊佐美は首を縦に振る。
「どうなさいますか?」
優がスエリに問いかける。他の能力者達もキメラが逃げないようにした上でスエリの答えを待っていた。
「あなたの気持ちも分からなくはない‥‥しかし、あなたがキメラと同じ事をして、あなたの想い人が喜ぶとは限らない」
楓姫がスエリに話しかけると「‥‥そんなの分かってます」とスエリは言葉を返した。
「私が残酷な殺し方をお願いして、キメラに復讐しても彼は喜ばない――‥‥だけど」
スエリは呟き、泣き崩れながら手で顔を覆う。
「で? このキメラどうするの? 殺る?」
風花の言葉に「‥‥殺して」とスエリは短く言葉を返す。
能力者の誰もがスエリに説得は効かなかったと思った時に「‥‥残酷な方法じゃなくてもいい‥‥ですから」と涙をまじえて小さく呟いた。
「分かりました」
ルーシーは何処か嬉しそうな表情を見せて、再び鳥型キメラを見据える。もちろん他の能力者も。
「依頼主に感謝しろ‥‥苦しまずに終わらせてやる」
藤村が呟き『月詠』を振り上げて攻撃を仕掛けるが、鳥型キメラは体を捩って藤村の攻撃を逸らす。
愛輝も『パイルスピア』を振り上げ、鳥型キメラに攻撃を仕掛ける。その際に先ほどのように鳥型キメラが避けれないよう、風花と遠倉が援護射撃を行う。
その後、能力者達は鳥型キメラに攻撃を仕掛けて、スエリの恋人を殺したキメラを倒したのだった。
「キメラに本当の祝福はいらない‥‥血染めの花だけで十分」
楓姫は息絶えたキメラを見て、小さくポツリと呟いた。
〜彼との約束、裏切れぬ想い〜
「結局は残酷になれなかったね」
風花がスエリに話しかけ「それでいいんじゃないの」と言葉を付け足した。
「忘れて、なんて言えないけれど‥‥あなたが笑っているのを恋人も望んでいるはず」
楓姫の言葉に「‥‥暫くは笑えないけれど、努力してみます」とスエリは言葉を返す。
「バグアに宗教があるかどうかは知りませんけど‥‥此処なら、すぐにお迎えがきてくれるでしょう‥‥」
遠倉は鳥型キメラを見て、小さく呟く。
「ただ死んだのならば、それは無駄死にだが、お前の恋人は大切な者を守りきった。その点においては、俺より強かったと言えるんだろうな」
藤村の言葉に「‥‥ありがとう」とスエリは言葉を返す。
「俺自身、残された側の人間だから、お前の気持ちがよく分かる。ずっと引きずっている俺が言える台詞じゃないが‥‥いや、引きずっているからこそ、そのつらさが分かる。どうか俺のようには、ならないで欲しい」
愛輝の言葉に「‥‥残される側はつらいものね」とスエリも自嘲気味に呟く。
「笑った方がいいよ、彼はきっと、貴女の‥‥今のそんな顔の為に死んだんじゃないよ。彼が何を一番に望んだのか、忘れないで‥‥」
伊佐美の言葉に「笑ってろ、ですって」とスエリは呟く。
「最後の言葉、ずっと笑ってろ、だった。無理なのにね」
空を見上げ、スエリは呟く。
だけど、その表情は憑き物が落ちたかのようなすがすがしい表情にも見えて、能力者達は安心する事が出来た。
「‥‥私達は彼女の心を救ってあげることが出来たのでしょうか‥‥」
ルーシーが呟き、能力者達は報告の為に本部へと帰還して行ったのだった。
END