タイトル:世界は混沌に満ちているマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/11 02:19

●オープニング本文


世界は混沌に満ちている。

今の世の中、平和な場所なんて存在しないのだとボクは思い知った。

※※※

ごめん、と目の前に立つ能力者達は申し訳なさそうに謝ってくる。

「‥‥別に、いいです。もう‥‥終わった事だから‥‥お願いだから帰って、ください」

拳を強く握り締めながら少年は能力者達を追い払うように呟く。

少年には我慢がならなかったのだ、白い布を顔に被せて今にも起きてきそうな少女――妹の前に能力者がいることが。

能力者達は表情を歪めて霊安室から出て行った。

「レナ、お前さ‥‥能力者はスーパーマンだって言ってたけど‥‥違うじゃん、本当に能力者がスーパーマンだったら‥‥お前がこんな姿で、こんな場所に寝てるはずないじゃんか」

何で死んじゃったんだ、少年が呟いた時に病院内の警報が鳴り響いた。

『病院内にキメラが侵入しました! 病院内から逃げてください!』

放送の内容に少年は驚きつつ、妹をこのまま置いていけないと抱えて病院から逃げ出そうとしたのだが‥‥。

「‥‥ちょ、扉がロックされてる!? 出られない!」

ドアは緊急ロックされているのかビクともしなかった。

そのとき、ひた、ひた、と誰かが歩いてくるのを感じて少年は妹の遺体を抱えて何処か隠れられる場所を探して歩き出す。

「ボクは此処で死ぬのかな‥‥」

少年は妹に話しかけるように呟くが、返事が返ってくるはずも無くただただ静寂が続くばかりだった。

●参加者一覧

リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
水流 薫(ga8626
15歳・♂・SN
フィオナ・フレーバー(gb0176
21歳・♀・ER
アリス・L・イーグル(gb0667
18歳・♀・SN
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
しのぶ(gb1907
16歳・♀・HD
芹沢ヒロミ(gb2089
17歳・♂・ST
高橋 優(gb2216
13歳・♂・DG

●リプレイ本文

〜病院内のキメラを退治する為に〜

「病院の中にまでキメラが‥‥突然の避難だったようですし、逃げ遅れた患者さんがいないか心配ですね‥‥」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)が病院の前に立ち、小さく呟く。キメラが現れて病院の前は患者や医師、看護師達で騒然としていた。
「怪我人、病人が山盛りの所にまで来るなよ、キメラも、さ‥‥」
 ため息混じりに呟くのは水流 薫(ga8626)で周りの状況を見る、小児病棟もある病院なのか小さな子供が何人も泣きながら看護師たちにあやされている姿が見受けられた。
 そんな様子をフィオナ・フレーバー(gb0176)が見ながら「ちゃんとみんな避難出来ているのかしら‥‥」と呟いた。
 確かに大勢の人間がパジャマでうろうろしている姿が見受けられるが、緊急で避難警報が出されたので全員が避難出来ているのか分からないのだ。看護師達が患者の確認を行っている姿も見られるが、それが終わるまで待っていられる状況ではない。
「私達は依頼を受けてキメラを討伐に来た者です! 病院内の情報をお持ちの方、私の所まで来ていただけませんか〜? それに併せて病院内に取り残された人がいないかも確認しています、ささいな情報でもいいので私に教えてくださ〜い」
 フィオナが手を口の横に当てて大きな声で叫ぶと、患者、医師達が能力者達を見た。
 そして数名の人間が能力者達の所までやってきた。
「全く‥‥病院にキメラなんて‥‥一体どこから沸いているのかな?」
 アリス・L・イーグル(gb0667)が病院内を覗き込むような格好で呟く、しかし今は病院から離れているので中の様子を知る事は出来なかった。
「何でも髪の毛で攻撃するキメラらしいですね‥‥ホラー映画じゃあるまいし‥‥兎も角逃げ遅れた人がいなければいいのですが‥‥」
 鹿嶋 悠(gb1333)が呟くと「逃げ遅れた人がいても助ければいいんだよ」としのぶ(gb1907)がにっこりと笑顔で言葉を返した。
「さーて、俺の力はどれ程のモンかね‥‥?」
 芹沢ヒロミ(gb2089)が拳を鳴らしながら呟く。どうやらキメラ相手に自分の力がどれほど通用するか楽しみにしているようだ。
 そして高橋 優(gb2216)はしのぶを見て「また騒がしい女と一緒だし」とため息混じりに呟いている。
「そういえば病院内は緊急ロックがされている場所があるんですよね? 取り残されている人がいた時の為に解除の仕方を教えてもらえませんか?」
 リゼットが医師の1人に問いかけると「分かりました」とメモのようなものをリゼットに渡した。
「一応、解除の方法も聞きましたし、そろそろ中に入ってキメラ退治と逃げ遅れた人がいないかを確認しましょう」
 リゼットが呟き、能力者達はキメラが潜む病院内へと潜入していったのだった。


〜静まる病院内、取り残された子供〜

 今回の能力者達は、迅速にキメラを倒す為に班を二つに分けて行動するという作戦を立てていた。
 一班として行動するのはリゼット、高橋、しのぶ、アリスの四人。
 二班として行動するのは鹿嶋、芹沢、水流、フィオナの四人。
 一班の四人が上の階から、二班の四人が下の階から捜索していく事になっていた。
「何かあったら『トランシーバー』で連絡、って事で」
 水流は呟き、二班の能力者と一緒に1階から捜索を始めるために歩き出した。
「こっちには騒がしそうな女が2人もいるし」
 はぁ、と大きなため息を吐きながら高橋はしのぶとアリスを見て呟く。
「どういう意味? 高橋優!」
 しのぶが反論するように呟くが、肝心の高橋の耳には入っていない――というより高橋が聞いていないだけだったりするのだけれど。
「まぁまぁ、早くキメラを退治してしまいましょう」
 リゼットがなだめるように呟き、一班の能力者達も動き始めたのだった。

――1班――

「意外と緊急ロックがされている場所が多いんですね」
 病院内を見渡しながらリゼットが小さく呟いた。本来ならば病院で療養している人達、それは今、外にいるために廃院のように院内は静かだった。
「誰か残ってるかと思ったけど、誰もいないし。みんな逃げたんじゃない?」
 高橋が病室の中を覗き込みながら呟く。確かに人の気配は感じられず、キメラがいる様子もない。
「確かに誰もいない――‥‥人は残っていなくて良かったと思うんだけど、キメラが何処にいるか分からないと困るね」
 アリスが周りを見渡しながら苦笑気味に呟いた。
「もしかしたら不意打ちなどを狙って、隠れている可能性もあります。十分に気をつけましょう」
 リゼットが周りを警戒しながら呟く。もちろん他の能力者達も気を抜いているわけではないので、警戒を怠ることはしていなかった。
「三階は異常ないみたいだね、下に降りてみようか」
 しのぶが呟き、能力者達は階段を使って下の二階に降りていき、三階と同じように捜索を行っていく。
「二班の皆様からも連絡ありませんし、キメラを発見してはいないみたいですね」
 リゼットは『トランシーバー』を見ながら呟く、まだ連絡がないという事はキメラも取り残された人も見つけてはいないのだろう。
 しかし『トランシーバー』から視線を外した時に二班から『キメラと少年を見つけた』という連絡が入って、一班の能力者達は二班の能力者がいる『霊安室』へと急いで向かい始めたのだった。

――2班――

 一班に連絡を入れる少し前、二班の能力者達は病室のドアを開けて救助対象がいないかを確認している所だった。
「救助に来ましたー、誰かいませんかー?」
 フィオナが問いかけるように各病室で必ず呼びかけをしていた。それなりに大きな声で呼びかけを行っているので、キメラを呼び寄せるかもしれないとも思ったが救助する人優先だと思って呼びかけを止める事はしなかった。
「‥‥いねぇな。まぁ、いない方がいいんだけどよ」
 芹沢が誰もいない病室を覗きながら小さく呟く。
「あと調べてないのは、霊安室周辺かな」
 水流が病院内に入る前に渡された見取り図を見ながら呟く。
「霊安室に誰かいるとは思えませんけど‥‥念には念を、ですしね」
 鹿嶋が呟き『霊安室』と書かれたドアに手をかけたのだが、緊急ロックがされている為にピクリとも動かすことは出来なかった。
「緊急ロックの解除方法はどうやってすればいいんですか?」
 鹿嶋がフィオナに問いかける。医師から渡されたメモの写しをフィオナも持っている為、緊急ロックされているドアが開けられるのだ。
「えぇと、このパネルの‥‥」
 フィオナは呟きながらメモ通りの解除法でコントロールパネルを操作して、緊急ロックを解除すると機械的な声で『解除しました』と短い言葉が発せられ、ドアが開いていく。
 そこで二班は目を丸くするような場面を目撃してしまう。
「‥‥男の子?」
 鹿嶋が呟く。
 そう、誰もいないだろうと思っていた霊安室に小さな女の子を抱えている少年の姿と気持ち悪く髪を宙に浮かせている女の姿が視界に入ってきた。
「皮肉にも、緊急ロックのせいで生存者とキメラを一緒に閉じ込めちまったわけか」
 芹沢が『メタルナックル』で女性、つまりはキメラを攻撃して少年から引き剥がす。
 その間に鹿嶋が『トランシーバー』で一班に連絡を入れた。
「その抱えてる子は‥‥キメラに?」
 水流が少年に問いかけると「‥‥あのキメラじゃないけど」と俯きながら言葉を返した。
「レナは‥‥能力者はスーパーマンだって言ってた‥‥だけどボクはそう思わない、能力者なんて‥‥スーパーマンなんかじゃない」
「えっと、あ〜‥‥スーパーマンを名乗る資格も、気もない、ね。此処に来てキミを助けて、キメラを倒す、この程度が今の俺達の精一杯」
 水流の言葉に少年は何も言葉を返さない。
「な――――」
 何で、そんなに能力者を嫌う? 水流が問いかけようとした時に一班の能力者達が合流して本格的な戦闘になり始めたのだった。

〜迫り来る髪との戦い〜

「さぁ、私達ドラグーンの力、見せ付けてやろうよ!」
 しのぶが覚醒しながら叫び「高橋優! しっかりやってよ!?」と高橋の方を見ながら言葉を付け足す。
「ボク天才だし、だから大丈夫。そっちこそミスしたら切り刻んであげるから覚悟しといてよ」
 高橋も言葉を返しながら覚醒を行い、戦闘準備を進めていく。
「あの髪は厄介ですね‥‥」
 切っても切っても伸び続けるキメラの髪を見てリゼットが呟く。だけど何度かその光景を見ているうちに『ある事』に気がついた。
 それは、髪を切られた後に再び同じ長さまで伸びる間、ほんの僅かながら隙が生じるのだ。
「その隙を突けば、此方が有利になるかもしれない」
 リゼットが呟いて、行動を開始しようとした時に水流が「すみません! 少しキメラお願いします!」と叫んで、妹を抱えている少年の方へと向かって走り出す。
 何事だろうと、リゼットはもちろん他の能力者達も水流と少年に視線を移す、するとキメラの髪に狙われている少年の姿があった。
 いくら水流が気づいて走り出したとしても少年が攻撃される事に間に合わない、少年とキメラの髪がぶつかりあう――能力者達がそう思った時、高橋が少年を庇って攻撃を受けていた。
「大丈夫か?」
 芹沢が高橋に問いかけると「ボクなら大丈夫だし」と言葉を返してきた。
「心配してる暇があったらあのクソキメラを早くやっちまうし」
 血が少し滲む箇所を乱暴に拭いながら高橋は呟き『エンリル』を構えた。
「伸縮まで自在ってどうやって亜鉛とか補給してるんだろ?」
 呟きながら水流は『ショットガン20』で『二連射』と『鋭覚狙撃』を使用して攻撃を繰り出す。
 しかし髪が切れるだけで、キメラ自身にダメージは少ししか与えられないでいた。
 それを見たフィオナが『練成強化』で能力者達の武器を強化して『練成弱体』でキメラの防御力を低下させた。
「さて――先ほどのように後ろを狙わせたりはしませんよ」
 鹿嶋が呟き『刀』でキメラに攻撃を仕掛け、注意を自分に引き付ける事で、後衛から援護射撃を行ってくれるもの、そして後ろに避難している少年に攻撃が向かわないようにしていた。
 広い場所に誘導しているおかげで、能力者達は窮屈な思いをしながら戦うという事はなかった。
 だけど、仮にも病院なのだから建物や器物などを破壊しないように気を使いながら戦う点ではやりにくさを覚えているのも確かだ。
「全力っ全壊ぃっ!」
 しのぶが叫びながら『蛍火』で攻撃を仕掛け、キメラの髪をばっさりと斬り落とす。
「ちょっと待ってな。すぐに倒してくるからよ」
 芹沢が攻撃を仕掛けるために動き出そうとした時、少年が不安げに見つめてくるのを感じて頭に手を置いて笑って話しかける。
「スーパーマンだって言いたいから? だから戦うの?」
 少年の言葉に「‥‥違ぇよ」と短く言葉を返す。
「‥‥俺達はあくまで傭兵だからな、ヒーローじゃねぇ。期待に応えられねぇ時もある」
 芹沢は少年が抱えている少女に視線を移しながら言葉を返し『メタルナックル』で攻撃を仕掛けるために『竜の翼』を使用して一気に間合いを詰める。
 そして『竜の爪』と『竜の鱗』を使用して振り上げた拳をキメラ目掛けて振り下ろした。
「テメェ‥‥ど突き合いの喧嘩で俺に勝てると思ってんのか!? オラオラオラオラぁっ!」
 連打するように次々に繰り出される打撃にキメラの動きが少し鈍る。
 髪を伸ばして攻撃を仕掛けようとしたキメラをリゼットが『ソニックブーム』で髪を斬り落として『豪破斬撃』を使用して攻撃を繰り出し。
 前衛を援護するようにアリスが小銃『S−01』で射撃を行い、射撃が終わると同時に鹿嶋が『刀』を振り上げてキメラに攻撃を繰り出す。
 鹿嶋が攻撃を仕掛けた後、髪が後衛に向けて伸びていったので、それを鹿嶋が斬り落とす。
「おっと、お前の相手はこっちだ」
「そうそう、後ろに行ってもらっちゃ困るのよね」
 しのぶも『蛍火』で攻撃を仕掛け「高橋優! しっかりしなさいよ」と叫ぶ。
「いちいち言わなくていいし」
 高橋は『竜の翼』で間合いを詰めた後に『竜の爪』を使用して攻撃を仕掛ける。
 そしてダメージが蓄積されて思うように動けなくなったキメラは能力者達によって退治されたのだった。
「‥‥これが実戦か、喧嘩とは全然違う‥‥だが手ごたえはあったぜ」
 キメラを倒した後、拳を強く握り締めて満足そうに呟くのは芹沢だった。


〜世界は混沌に満ちている、だけど‥‥〜

「ボクは能力者なんて嫌いだ、レナを助けてくれなかったんだから‥‥」
 キメラを倒し終え、少年と一緒に病院の外へと出るために歩いていると少年がポツリと呟いた。
 能力者なんか、その言葉を聞いてフィオナは凄く悲しそうな表情で少年を見た。そして足を止めると「‥‥ごめんね」と呟いて少年を抱きしめた。
「‥‥傭兵が嫌いというのは何も言えない。だけどあたし達傭兵はいつも命を賭けて戦ってるんだ。それだけは‥‥覚えておいてね!」
 アリスが少年に言い聞かせるように話しかける。
「‥‥分かってる。だけどボクにとって家族はもうレナしかいなかったんだ‥‥家族がいない中、ボクは生きていける自信がないよ」
 少年が涙混じりに言葉を返すと「生きなくちゃ駄目ですよ」と鹿嶋が話しかけてくる。
「生き残った以上、君は妹さんの分まで生きなきゃいけない‥‥それがどんなに辛いことだとしても‥‥それが生き残った者の務めだ」
 鹿嶋の言葉に少年は物言わぬ妹の遺体を見つめる。
「‥‥自分が出来る事もせずに誰かのせいにしていれば楽だろうね」
 高橋がポツリと呟く。
 その後、少年は病院の外に出るまで何も言う事はなく看護師達に保護されて、能力者達が帰還しようとした時「まって」と少年が呼び止めてきた。
「レナの事は‥‥まだ許せないけど、あんた達には感謝してる。ありがとう」
 それだけ言うと少年は看護師達の方へと走って行ってしまう。
「今日、少しだけ分かったような気がする」
 しのぶが空を仰ぎながら能力者達に話しかける。
「初めての本格的な実戦、無我夢中だったけど死と隣り合わせなんだって実感した。怖い、とても怖いけど力を持たない人はもっと怖い。死んじゃうんだ。ならば私は戦って1人でも助けなくちゃ。そのための能力者、そのためのリンドヴルムなんだから」
 宜しくね、相棒――しのぶはリンドヴルムへ向けて挨拶するように呟き、大きく伸びをする。
 そして能力者達は、今回の事件のことを本部に報告するために帰還していったのだった。


END