●リプレイ本文
「愛する人を失って自棄になるのは分かるけど‥‥だからってこれはねぇ‥‥」
呟くのは御嶽眞奈(
ga0068)、彼女はケイタ‥そして静のお腹の中にいる子供の為にも、彼女を何としてでも無事に連れて帰る事を決意した。
「私も両親をバグアによって亡くしてしまったので‥‥静さんの気持ちが少し分かるような気がします」
椎橋瑠璃(
ga0675)が小さく呟く。
「ケイタの魂が我らの到着まで彼女を守ってくれると、そう思いたいんだよ〜」
獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)が少し悲しそうな表情を見せながら呟いた。
「そのキメラに他意はないのでしょうが‥‥許せませんね」
神徳 奏音(
ga1473)が静の気持ちを察して拳を強く握り締めながら呟いた。
「とりあえず‥‥静を無事に保護する為に急ごう」
ブレイズ・カーディナル(
ga1851)の言葉にメンバー達は静が向かった場所へと急いで向かったのだった。
●静を保護せよ――!
メンバー達は効率よく仕事をする為に二つの班に分けて行動する事になった。
第一班は静の保護・護衛を目的とした班で、神徳、椎橋、御嶽、そして月森 花(
ga0053)の四人で行動を共にする。
第二班はキメラの殲滅を目的とした班で、烈 火龍(
ga0390)、獄門、ブレイズ、如月・彰人(
ga2200)の四人で行動を共にする。
「ボクたちは静さんを探すから、その隙に出来たらキメラを倒して欲しいんだ、もちろんボクたちも静さんを保護したら直に戦闘に参加するようにするから!」
月森は二班のメンバーに叫びながら、一斑のメンバーは静を探す為に走り出したのだった。
「この場所にキメラが二体いるんだよね、特徴も分かってないみたいだけど‥‥油断しないで行こうね」
月森が鬱蒼とした森の中を見渡しながら呟く。
「本部で調べたんだけど‥‥ケイタの致命傷となったのは鋭利な刃物で傷つけられたような刺し傷が原因みたいね」
御嶽が持って来たメモを見ながら呟く。
「情報によると、此処から少し奥に向かった場所がケイタさんの遺体があった場所のようですね」
その情報は椎橋も持っているらしく、その続きを椎橋が答えた。
「人の気配がする」
神徳が呟き、その方向へ視線を向けると、一人の女性が倒れていた。慌ててメンバーが駆け寄る。幸いにもキメラに傷つけられたわけではなさそうで、外傷は見当たらない。
「‥‥きっと色々なショックが続いて気疲れしたんだろうね」
月森が静を見つめながら呟く。
「とりあえず‥‥静を見つけたし‥‥キメラ殲滅班のところへ向かいましょうか」
神徳が静を抱きかかえながら、二班の所へと向かい始めた。
●キメラとの交戦中――第二班
一班のメンバーが静を探しに行った後、二班は問題の二匹のキメラを確認していた。
「ケイタくんほどの剛の者が倒されるキメラアルから、無理に撃破は狙わないで静さんが見つかるまでの時間稼ぎをするアル」
烈が攻撃態勢を取りながら呟くと、他のメンバーも同じ意見なようで首を縦に振る。
「外見ではどんな攻撃をするのか分からないね」
ブレイズが呟く、確かに敵の能力などが分かっていない以上、無闇に飛び込むことはできない。
その時、静を連れて一斑のメンバーが帰ってきた。
今までは気を失っていた静だったが、キメラの唸り声を聞いて目を覚ましてしまった。
「きゃあああああっ!」
突然の悲鳴に能力者達はもちろん、キメラも驚いたかのように此方をゆっくりと見つめている。
「お、落ち着くアル!」
烈が静を諌めるように話しかけるが、興奮状態にあるのか静の耳に烈の声は届いていない。
「私達は後ろで彼女を護衛するから、彼女を落ち着かせるまででもキメラの相手を頼むよ」
神徳を含む一斑が後ろへ下がり、二班にキメラを任せる。
「ちぃっ! 結構最悪な状況だぜ!」
如月が小銃・スコーピオンで離れた所から撃ち、弾切れを起こしたら武器を刀に持ち替えて、同じファイターであるブレイズと共にキメラに攻撃を仕掛ける。
「きたきたきたきた、電波来たァーっ! 受信完了! 科学の総統・ここに爆誕☆」
獄門が戦闘に入ると同時に覚醒し、敵を睨みつける。
「生まれもしねェ子供の父親を奪った罪は万死に値するって言うかぶっ潰す! 勝負しようか宇宙人!? カツカレーが喰いてェーなああぁ!」
人が変わったかのように口調を変えて叫ぶのは獄門。最初の話は分かる気がするが、最後のカツカレーは一体何なんだろうと心の中で呟くメンバーだった。
そして彼女は覚醒しつつも、キメラの調査・特徴などを事細かにメモを取る。
その頃の静は‥‥何とか落ち着きを取り戻したものの、キメラに立ち向かおうとしていた。
メンバー達はそれを必死で止めるが、自棄になった彼女にメンバーの言葉は届かない。
「きみもおなかの子供の父親‥‥ケイタと同じことをするのか?」
神徳の言葉に、静はピタリと動きを止める。
「ケイタと同じ事って――」
静が問いかけた時、二班のメンバーが『逃げるよ!』と叫ぶのが聞こえ、神徳が静を再び抱きかかえ、戦線を離脱しようとする。
戦いが有利に動いているのであれば、キメラ殲滅まで行っても良かった。
しかし、今は身重の静を連れている上にキメラの能力などははっきりしていない。そんな悪状況の中で無理は出来なかったのだ。
メンバーは離脱する為にキメラへと攻撃を仕掛け、何とか隙を作ろうとするが、意外と素早く、簡単には逃がしてくれなさそうだ。
「しつこいってのよ! アンタら! とっとと尻尾巻いて逃げ出さないと叩き落して研究材料にしちゃうわよ!」
御嶽が叫ぶが、きっとそれが出来たら事件は解決しているだろうと、誰かが心の中でつっこみをいれた。
「いつまでも調子に乗ってんじゃないわよ!」
そう言って月森が怒りの弾丸をキメラ二体の頭部に撃ち込む。それと同時に神徳も小銃・スコーピオンでキメラを撃ち、何とか離脱する為の隙を作る事が出来たのだった。
●そして―――。
UPC本部に静を連れて帰って来た時、彼女はメンバーが驚くような言葉を呟いた。
「何で‥‥死なせてくれなかったの。ケイタと同じ場所で、この子と一緒に死にたかったのに」
顔を両手で覆いながら、静は喚くように大きな声で泣き始めた。
「確かに〜、守るべき者がある身としてぇ、彼の行動は軽率だったかもしれないわぁ。死んでしまったら終わりだものねぇ。だからって貴方まで同じ轍を踏んでどぉするのぉ?」
御嶽が呟く。
「貴方はぁ、勝手にお腹の子供を殺そうとしてるけどぉ、人の命って勝手に生死決められるものじゃないのよぉ?」
「でも――ケイタがいなくて私一人で‥‥この子を育てられるか分からない」
泣き止まない彼女に話しかけたのは烈だった。
「人は何れ死ぬ。でも、その人を知り、その思いを受け継ぐ者がいれば命は続く。今、貴女が死んでしまえばケイタは忘却の彼方に忘れ去られてしまう。彼の思いは喪われてしまう」
そこで言葉を一旦止め、烈は静と目線を同じにして再び口を開く。
「今、貴方に力強く息づく命の為にも生きるんだ。生きる意味を知る為に、命の意味を受け継ぐ為に――」
烈が諭すように話しかけると、静は嗚咽混じりに口を覆う。
「貴方がお腹の子供を産むこと――それがケイタさんの最も望むことだと思いますよ」
椎橋がにっこりと笑みながら言うと、静は泣きすぎて滅茶苦茶になった顔で強く頷く。その様子を後ろで獄門がただ静かに見ていた。伴侶を亡くしたばかり、しかも妊婦中の人を納得させられるような理論を、獄門は持ち合わせていないと判断し、説得は他のメンバーに任せたのだ。
「それにしても‥‥能力者か。獄門もいつかは―――いや、よそう」
獄門は苦笑しながら言葉を止め、静を見やる。
「みんなが笑って生きていける世界‥‥俺は共感できるよ。変えられる可能性があるなら――出来る限りやってみたいんだ。少しでも彼のやろうとした事を無駄にしたくないと思うなら‥‥生きるんだ」
ブレイズが呟くと、静は下を俯きながら首を何度も縦に振った。
「その子やアンタ、皆が笑って生きられる世界は――俺達が切り開いてみせるからさ」
「ふふ、お話が纏まったところで祝杯――とは申しませんけどお茶をご馳走します」
椎橋の言葉、初めて静が見せた笑顔にメンバー達も笑みを浮かべたのだった。
しかし、ケイタが死んでしまった森、あの場所にはキメラがまだ存在する。
いずれ‥‥誰かが倒すのだろう。
きっと、その日は近い。
END