●リプレイ本文
〜セイレーンを倒すために集まりし能力者達〜
「何で‥‥他人の幸せを簡単に奪えるの? 何の権利があって‥‥そんな事をするの?」
キメラのこと、そして依頼人のことを聞いて霞倉 那美(
ga5121)が震える声で呟いた。彼女は目の前で両親を殺害された過去があり、依頼人の気持ちが誰よりも分かるのだろう。
「霞倉さん‥‥」
「‥‥大丈夫?」
ファイナ(
gb1342)とアセット・アナスタシア(
gb0694)が親友である霞倉を心配するように話しかけると「‥‥大丈夫、です」と短く言葉を返す。
「今回の相手はセイレーンですか‥‥これ以上の被害を出さない為にも、ここで倒しておきたいですね」
鳴神 伊織(
ga0421)がセイレーンに関しての情報を見ながら呟くと「厄介なものだな」と木場・純平(
ga3277)が言葉を返す。
「厄介‥‥とは?」
鳴神が問いかけると「あぁ、キメラのことだよ」と言葉を返した。
「海辺に現れるセイレーンのキメラ、バグア軍も厄介なものをキメラ化させたものだと思ってな。実被害も出ているようだし、依頼人の無念を晴らすためにもきっちりと落とし前をつけておかねばな」
木場は拳を強く握り締めながら、依頼人のことを考える。幼い子供とまだ生まれてすらいない子供、そんな2人を抱えて残された奥さんはどんな気持ちなのだろう――そんな事が彼の頭に過ぎったからだ。
「私は傭兵兼アイドルです。歌が不幸を砕く武器になるなら喉枯れるまで戦います」
呟くのは常夜ケイ(
ga4803)だった。同じ『歌』を歌うものとして、歌を『不幸にする武器』として扱っているセイレーンに許せない何かを感じているのだろう。
「どんなキメラであろうと‥‥斬り捨てるのみだ‥‥」
八神零(
ga7992)は『月詠』を握り締めながら呟く。
「その通りだな――皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
終夜・無月(
ga3084)が祈るように呟いた後、能力者達はセイレーンが潜む『海』へと向かい始めたのだった‥‥。
〜海に潜む、妖しの歌人魚〜
「まずは住人に‥‥話を聞きましょうか‥‥確実な場所が分かって‥‥いないので」
終夜が地図を広げながら呟く。
確かに『海』にセイレーンがいるという話だけで、具体的な場所はかかれていない。だから住人の話を聞くべきだと能力者達は判断をした。
「おにいちゃんたちがパパの『かたき』をとってくれるひと?」
広い海を見ていると、小さな女の子に話しかけられる。パパのかたき、と言っているから目の前の少女が依頼人の子供なのだろう。
「そうだ、話を聞きたいから町の方まで案内してくれるか?」
八神が少女と目線を合わせる位置までしゃがみながら話しかけると「いいよ!」と少女は笑って「こっち」と走り出した。
「キメラが発見された場所なのに、あんな小さな子供が歩き回っているのは‥‥少し感心しませんね」
鳴神が走っていく少女の後姿を見ながら呟く。
やがて町の姿が見えてくると、一人の女性が慌てたように少女に駆け寄って軽く頬を叩いている姿が見えた。
「何してるの! 危ないから海に行っちゃ駄目だって言ったでしょう!」
叩かれたことで少女の顔が悲しみに歪み「ごめんなさい、パパのかたきをとってくれるひとをまってたの‥‥」と涙を流しながら答えた。
「そこまでにしてあげたらどうですか? でも危ないからこんな事はしちゃ駄目だよ?」
常夜が少女の頭を撫でながら話しかけると、少女は勢いよく首を縦に振った。
「貴方達が‥‥?」
女性が能力者達の姿を見ながら問いかけると「‥‥はい、セイレーンを倒す為に来ました」とファイナが言葉を返した。
「これからセイレーンを倒しに‥‥行きます‥‥だから情報と警戒を‥‥」と終夜が女性に話しかけると、女性は俯きながら「岩の‥‥近くに」と震える声で言葉を紡ぎだした。
「海まで行くと、大きな岩が海にあるのが見えます‥‥主人は、その岩の所で死んでいるのが発見されました‥‥恐らくその周辺にセイレーンがいるのではないかと‥‥」
女性の言葉に「分かりました」と終夜が答え「これから戦闘に入ります‥‥警戒を」と言葉を付け足した。
「すまながい‥‥他の住人たちにも協力してもらいたい」
八神の言葉に「分かりました、皆にも伝えておきます」と町の住人達に知らせるために女性は背を向けて歩き出した。
「さて、岩の所だな。さっきそれらしき岩が見えたから、その場所だろう。魅了対策に借りてきた『耳栓』が役に立てばいいのだが‥‥」
木場は現場へ来る前に借りてきた『耳栓』を手の上に乗せながら呟く。歌を通して魅了効果をしてくるキメラ、それが今回のセイレーン。耳を防ぐしか方法を思い浮かばなかった。
そして、能力者達は海へと向かい、戦闘準備を行い始めたのだった。
〜歌人魚 VS 能力者達〜
「‥‥絶対に許さない‥‥今回は‥‥感情の抑制だってしない‥‥」
霞倉は耳栓をつけながら怒りを露にした表情で呟く。彼女はキメラを誘き出すという囮役を買って出た。
そして前衛で霞倉を援護する役割は常夜で、彼女には通信機を通して歌を歌い、セイレーンが歌う魅了効果を打ち消そうという目論みがあった。
「お前の歌は死を誘う歌、私は命を与える歌――勝負よ!」
常夜は叫ぶとアイドルポップ調の持ち歌を歌い始める。その歌がセイレーンに届くように霞倉が仲間の一人に借りた通信機を持ってセイレーンに近づくという作戦だった。
常夜が歌い始め、異変に気がついたのだろう。岩場の所から頭だけをセイレーンが覗かせていた。
今回の敵、セイレーンは水中戦が得意そうなキメラだ。だから水中から陸地、もしくは浅瀬まで誘き寄せる必要がある。水中戦になったら能力者達が断然不利になるのだから。
「逃げられたら‥‥ゲームオーバーか‥‥上等だね」
アセットは誘導を行う霞倉と常夜を遠くから見ながら小さく呟く。そして周りに他のキメラがいないかを確認すると「敵は一体‥‥」と言葉を付け足した。
「‥‥少ないけどそれだけ自由な動きが出来る‥‥慎重にいかないと、ね」
アセットの言葉に「うん、海の中に逃げられたら厄介だね」とファイナが言葉を返す。
海の中に逃げられたら作戦は失敗も同じ――それはどの能力者達も考えていることだった。
「まずは此方側に誘き寄せないことにはどうにもなりませんね‥‥」
鳴神はセイレーンの様子を見ながら呟く、何か警戒しているのか、それとも攻撃の隙を狙っているのか、セイレーンはまだ動く様子を見せない。
「まだ昼間だからいいが、夜まで引っ張られたら余計こちらが不利になるな‥‥」
木場が呟いた瞬間だった、霞倉が見せた一瞬の隙を突いてセイレーンが飛び上がって彼女へと攻撃を仕掛けようとしていた。
「危ない!」
常夜は小銃『S−01』で射撃を行い、セイレーンの腕を貫く。陸地にあがってバランスを崩した所に射撃を受け、そしてその間に霞倉はセイレーンが海の中へ逃げないように、覚醒を行い、足止めとして攻撃を仕掛ける。
そして能力者達はセイレーンの前へと現れ、それぞれ攻撃を仕掛けるために武器を構えた。
仲間の能力者が現れたことにより、セイレーンは表情を醜く歪めて持っている弓で攻撃を仕掛ける。
遠距離攻撃として『ソニックブーム』を終夜、八神、アセットの三人が使用して攻撃を仕掛け『ソニックブーム』の攻撃を受けている間に鳴神が『豪破斬撃』と『紅蓮衝撃』を使用して攻撃を仕掛けた。
「人の幸せを奪って、まだ奪おうとするあなたを許すわけには行きません‥‥ここで倒れていただきます」
鳴神が離れた所に木場が『クルメタルP−38』でセイレーンに牽制攻撃を仕掛ける。それでもセイレーンは海へ向かって自分に有利な場所から攻撃を行おうとしているのか、能力者達に背を向けて海へと向かい始める。
だが、セイレーンの下半身は『魚』であり、人間の足のようにうまく走れないことから、移動速度は遅く、常夜が小銃『S−01』でセイレーンの腰や尾に集中砲火を浴びせる。そしてセイレーンに走り出すと同時に『獣の皮膚』と『瞬速縮地』を使用して距離を一気に縮め『バスタードソード』で人魚の尾鰭に勢いよく剣を突き立てる。
「剣は一撃必殺‥‥それ以上でもそれ以下でもない‥‥狙うは一瞬の隙‥‥己の剣に一遍の曇りなし‥‥」
アセットは尾鰭を地面に突き立てられた隙を見逃すはずなく、呟くと同時にセイレーンの背中に『コンユンクシオ』で攻撃を仕掛けた。
そして「‥‥目標、キメラ脚部、破壊します‥‥」とファイナが呟き『エネルギーガン』で攻撃を仕掛けようとしたとき――セイレーンの歌声が響いた。
セイレーンの歌声=魅了と能力者達は判断していた。もちろんそれは間違いではない。現に女性の主人は魅了されて死んでいるのだから。
だけど、今現在能力者達を襲っている『歌声』は痛覚を与える歌のようで、僅かでも耳に届いた能力者達は全身に激しい痛みを感じていた。
「ぐ‥‥」
木場は耳を押さえながら『クルメタルP−38』でセイレーンに攻撃を仕掛ける。その攻撃はセイレーンに当たることはなかったが、歌を中断させる事が出来て、能力者達は痛みから解放された。
「あんな歌、歌じゃない‥‥人命を餌にしている人はロクな歌を歌えないわ!」
常夜は叫び、射撃を行う。その射撃から逃れるようにセイレーンは動き回るが、霞倉が先回りして胴体部分を蹴り上げて、海から引き離す。
「逃がさないよ‥‥いや、逃がして堪るか‥‥誰かの大事な者を奪った奴を‥‥私は許さない!」
セイレーンが蹴り上げられて、陸地へ落ちた所へ「悪いが手加減は苦手でね‥‥」と八神が呟き『紅蓮衝撃』と『二段撃』を使用してセイレーンに攻撃を仕掛けた。
続いて終夜が『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して攻撃を繰り出した。能力者達の攻撃に半死半生のセイレーンは弓を手に取ろうとするが、武器を『パイルスピア』に持ち替えた木場が「逃がさないよ」と呟いて手を貫く。
その後、セイレーンは動くことも出来ない状態になり、能力者達の総攻撃を受けて幼い子供の父親を奪ったセイレーンは退治されたのだった‥‥。
〜倒しても帰ってこない者〜
「これであの方達の無念を少しでも晴らすことが出来たのでしょうか‥‥」
さざめく波の音を聞きながら鳴神が呟く。
「安らかに‥‥眠ってください‥‥」
終夜は海に花束を流しながらセイレーンの犠牲になった人の冥福を祈るように呟き、手を合わせる。
「‥‥終わりました‥‥騒がす者は‥‥もういません‥‥。だから、どうか安らかに‥‥眠ってください」
霞倉もアセットとファイナと一緒に花束を海に流しながら呟く。その表情に先ほどの怒りはなく、悲しさに満ちた表情でとても寂しげなものだった。
「ありがとうございます‥‥」
能力者達が海に花を流している時に少女を連れた女性がやってくる。
「新しい命‥‥大切にしてあげてくださいね‥‥」
終夜は少女の頭を撫でながら呟くと「‥‥えぇ」と女性は涙を流しながら応えてくる。
「ご主人の犠牲は無駄じゃないです。命の営みを未来に繋ぐため、時には一歩踏み出す事も大切です。2人のお子さんはお父さんから貰った勇気を財産に生きていくことでしょう」
常夜は女性に呟いた後、鎮魂歌を歌い始める。
「ありがとう‥‥でも、私は勇気とかいらない、あの人がいてくれたらそれだけで良かったのに‥‥」
女性は泣き崩れるように地面に座り込む、少女も母親である彼女を心配するように「ママァ‥‥」と今にも泣きそうな表情で呟いている。
「お父さんか‥‥私にはいないけど‥‥きっと失うと凄く苦しくて悲しいんだ‥‥」
ごめんね、もっと早く助けてあげられなくて――アセットは申し訳なさそうに少女と女性に頭を下げる。
「いいえ、貴女たちのせいではないです。貴女たちは主人の仇を取ってくださいました。私はまだ‥‥あの人を失った現実がつらくて、悲しくて、前を向けません‥‥だけど、もう少しだけ悲しんだら、元気にならなくちゃと思います」
私は母親ですから、そう呟いた女性の瞳は何処か強さが見られた。
その後、霞倉は報酬拒否を行ったが女性から貰ってくれと言われて受け取ることにした。
その後、少女からの手紙が能力者達に届き、いつか自分も能力者になるのだと書かれていたのだった‥‥。
END