タイトル:幽霊を信じますか?マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/28 00:10

●オープニング本文


それは罪悪感からなのかもしれない。

いるはずのない者、だけど確かに彼は私を責めたてる。

※※※

数日前、私は一人の男性能力者を殺した。

相手は人獣型のキメラで形状は狐だった。

長い蔓のような武器を手に持ち、蔓には棘がびっしりとついていて、まともにくらえば軽い怪我ではすまされないだろう。

もちろん私はキメラとの戦闘は初めてというわけでもなく、結構な数のキメラを屠ってきた。

戦いへ赴くことへの意味、そして戦いの中で命を落とすかもしれない『覚悟』も持っていた――つもりだった。

だけど私の『覚悟』は軽いものだったと思い知らされた。

右目に傷を負い、足も怪我をして戦う事など出来ない状態に陥った。

『人間は窮地に追い込まれてこそ、本性を見せる』

誰からか聞いた事のある言葉だった。

死にたくない、そう心の中で強く願った時――私は自分でも驚く事をしていた。

私を庇いながら戦っている仲間――男性能力者をキメラの前に突き飛ばしたのだ。

突き飛ばされた事によって、男性能力者はバランスを崩して倒れてしまう。

そしてバランスを立て直す前にキメラの蔓が男性能力者を襲う。

「何で‥‥?」

キメラに攻撃されている彼を私は振り返る事なく、逃げ帰ったのだ。

それからだ。

耳鳴りのように頭の中に響いてくる彼の言葉――。

――何で?

いまさら謝ることも出来ない。

償うことも出来ない。

だったらせめて彼のそばで死んであげよう。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
トリストラム(gb0815
27歳・♂・ER
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD

●リプレイ本文

〜消えた女性能力者を探すために集められた能力者達〜

 今回の能力者に与えられた任務は『消えた女性能力者を探す事』と彼女が向かったであろう場所にいる『人獣型キメラの退治』だった。
「でも、何故1人で行ってしまったのでしょうね。まだ怪我も治っていないでしょうに‥‥」
 石動 小夜子(ga0121)が女性能力者――セリカのデータを見ながらため息混じりに呟いた。セリカの怪我は右目と右足が特に酷いもので、右目はもう目として機能する事はないだろうと医者が言っていた。
「一体何があったか知りませんが‥‥無謀な行動は感心出来ませんね」
 神無月 るな(ga9580)が呟き、セリカが向かった『森』の情報を見る。
「人獣型キメラか‥‥能力者が1人犠牲になっているんだね――このセリカって能力者と関係あるのかな」
 伊佐美 希明(ga0214)が呟く。だけどそれはあくまで予想でしかなく、本当の事などセリカに聞くまでは分からない。
 彼女がどんな想いを胸に森へ行ったのかなど、彼女自身にしか分からないのだから。
「ん‥‥形状は狐‥‥狐獣人のキメラか‥‥相手に不足は‥‥無し‥‥保護対象を‥‥これ以上危険に‥‥曝せない‥‥全力で‥‥斬る」
 幡多野 克(ga0444)が今回のキメラの情報を確認しながら呟く。保護対象であるセリカは少し前に同じキメラと対峙していて、その情報を本部へと届けていた。
「狐型キメラは蔓を使うのか、戦闘場所が森というのが厳しいかもしれないな」
 カルマ・シュタット(ga6302)が呟くと「蔓の鞭か‥‥鞭って苦手なんだけどな」とレイヴァー(gb0805)がため息混じりに言葉を返した。
「そのキメラに能力者も殺されているんですよねぇ? 顔も知らない誰かですが『同胞』には変わりないですからなぁ‥‥仇はきっちり討たせていただきましょう」
 ヨネモトタケシ(gb0843)が人獣型キメラに殺されてしまった男性能力者のデータを見ながら呟く。
「そうですね、それと1人で無茶な行動をしたセリカさんのお説教もしてあげなくてはですね」
 トリストラム(gb0815)が呟き、能力者達はセリカの向かった森へと急いで向かい始めたのだった‥‥。


〜静寂の森、促す罪の声〜

「何か音がしない?」
 伊佐美が耳を澄ませるような仕草を見せながら、他の能力者達に話しかける。
 そして他の能力者も耳を澄ませると、確かに何か激しい音が少し遠くから聞こえてくる。
「‥‥ここで考えられるのはセリカさんとキメラが交戦中――しかないですね‥‥」
 神無月が呟き、能力者達は慌てて音がする方へと走って向かい始めた。

 音のする場所まで来ると、セリカと人獣型キメラが対峙している場面に遭遇した。
 いや、対峙という言い方はおかしいかもしれない。武器を持っているのも攻撃を仕掛けているのも人獣型キメラだけであって、セリカ自身はあまり逃げ回ることもせずにただ立っているだけだった。
「何をしているんですか!」
 神無月がセリカに向けて叫ぶと、人獣型キメラの攻撃が来ない場所へと一時避難をした。幸いにも森の中という事があって、身を隠すのには都合が良かった。
「貴方達は‥‥誰、キメラを倒しに来たの? それなら私が死んだ後にして‥‥私はあのキメラに殺されなければならないのよ‥‥」
 虚ろな瞳でセリカは呟く。
「一体何があったんだ‥‥死んでやらなくちゃって、おかしいよ‥‥」
 伊佐美が問いかけると「この前の任務の時‥‥」とセリカはポツリと呟きだした。
「私は、私を庇って戦っていてくれた仲間を‥‥突き飛ばして、キメラが彼に攻撃を仕掛けている間に‥‥私は逃げたのよ‥‥償う事も出来ない。だったらせめて彼の側で死んであげようって決めたの!」
 セリカが叫んだ時だった。伊佐美がセリカの頬を叩いた後に胸倉を掴んで立ち上がらせた。その表情は険しく、普段の彼女とは違い、怒りを露にした表情だった。
「せめて彼の側で死んであげよう‥‥だと? 何様だテメェ‥‥! テメェはただ罪から逃れたいだけだろうが! そいつに本当に悪いと思っているのかよ! 自分の都合で生きたんだろ! なら自分の都合で死ぬんじゃねぇよ!」
 伊佐美が激昂して叫ぶ姿を、他の能力者達は止めることはしなかった。なぜなら、心のどこかで彼女と同じ事を思っているからなのかもしれない。
「‥‥お前が死んだところで誰も救われねぇよ。死んだ奴も‥‥お前も、な」
 呟いて伊佐美はセリカの胸倉を掴んでいた手を離す。
「‥‥話の前に‥‥キメラを倒すのが、先かも‥‥」
 幡多野が呟く。先ほどの人獣型キメラは能力者達とセリカを探しているのか手に持った鞭を振り回し、森を破壊しながら近づいてきている。
「‥‥それじゃ‥‥行きましょうか‥‥」
 幡多野がヨネモトに話しかけて、ヨネモトが首を縦に振りながら人獣型キメラの方向へと歩き出す。
 今回の作戦は人獣型キメラが持つ鞭を囮役としてキメラの前に立つヨネモトが引き付け、隙を見て幡多野が斬り捨てるというものだった。人獣型キメラが鞭を持っている限り、能力者達はまともに戦えないと判断したからだ。
 セリカは足の怪我でまともに動く事は出来ない、無理に動いて此処までやってきたせいもあって彼女の足の傷はぱっくりと開いて、とても戦闘を行ったり逃げ回ったり出来るような足ではなかった。
「む‥‥どうしました? 敵は真正面にいるのですよぉ? 自慢の『草』で打ち据えてはいかがですかなぁ?」
 ヨネモトは人獣型キメラがセリカの方へ、そして攻撃するタイミングを図っている他の能力者の所へ行かないように人獣型キメラの真正面に立ち、二刀の『蛍火』を構えて挑発的に話しかける。
 ヨネモトの言葉通りに人獣型キメラは蔓の鞭を振り上げて攻撃を仕掛けてくる。ヨネモトは襲ってくる鞭をわざと受けて『蛍火』に絡ませて、そこを幡多野が斬り落とす――という作戦だった。
 しかし、慣れない作業にヨネモトは一回で鞭を絡ませる事が出来ず、鞭の攻撃を受けてしまう。
「むぅ、中々うまくいきませんねぇ」
 ヨネモトは『活性化』で傷を塞ぎながら呟く。そして、何度目かの行動で人獣型キメラの鞭はヨネモトの『蛍火』に絡まり、その瞬間を見逃さず幡多野が『月詠』を構えて『豪破斬撃』で蔓の鞭をばらばらに斬り落としたのだった。
 そして、鞭が無くなったのを待機していた能力者達が確認をすると、それぞれで攻撃を開始し始めた。
 最初に行動を開始したのは石動で『瞬天速』で人獣型キメラとの距離を一気に縮めて『疾風脚』を使用して構えていた『蝉時雨』で攻撃を仕掛ける。
「‥‥お前らがいなければ、こんなことにはならなかった‥‥」
 伊佐美が『長弓』を構えて呟きながら矢を放つ――しかし、能力者達が予想もしていなかった攻撃が人獣型キメラから繰り出された。人獣型キメラの尻尾が5つに分かれて能力者達を攻撃し始めたのだ。
「厄介だな‥‥」
 カルマは呟きながら、人獣型キメラの足を狙って『先手必勝』と『急所突き』を使用して攻撃を仕掛ける。
 もちろん槍である『セリアティス』の長さを生かして足払いをするように攻撃を仕掛けた。
 そして能力者達が戦う姿を見てセリカも「私も‥‥戦う」と持ってきていた武器を手にとって立ち上がろうとする。
「その傷では無理です、ここで大人しくしていてください」
 神無月がセリカに話しかけると「でも、私も‥‥」と何やら必死に戦場へ立とうとしているのが分かる。
「‥‥もしかして、まだ死ぬということを諦めていないのですか?」
 神無月の言葉にセリカは言葉を詰まらせる。その行動が図星なのだと神無月に知らせる結果となった。
「先ほどのお話で事情は分かりました。ですが、貴女がどれだけ後悔しようとも彼は戻ってこないし、貴女が此処で命絶えても何の意味も成しませんよ?」
 神無月の言葉にセリカは言葉を返す事もなく、ただ黙って話を聞いていた。
「私は残された貴女の出来る事をする‥‥それだけが彼に対する懺悔になるのだと思います。例えば、彼がこれから守っていくはずだった人々を貴女が代わりに守っていこうとは思いませんか?」
 神無月の言葉を聞いてセリカは武器を握り締める手をゆっくりと離す。
「貴女は生きなければなりません。誰よりも彼のために」
 呟いて神無月は立ち上がり『強弾撃』を使用して人獣型キメラへと攻撃を仕掛けた。
「危ない!」
 石動が攻撃を仕掛けようとした時に人獣型キメラの尻尾が彼女に襲い掛かるのにいち早く気がついたカルマが『セリアティス』でなぎ払うように攻撃を仕掛ける。
「まだ気が抜けないな。木の葉を隠すなら森の中とも言うしな、蔓を隠していてこっちに伸ばしてくるかもしれないし、十分気をつけないといけないな」
 カルマは呟き、周りへの警戒を強める。
「そろそろ‥‥遊びは終わりにしよう?」
 幡多野は呟きながら尻尾を『バックラー』で防いで『月詠』で尻尾を斬りおとす。全てを斬りおとすには至らなかったが、痛みを感じているのか人獣型キメラは動きが格段と鈍くなる。
「これからの攻撃は所謂『御返し』というやつですよぉ、いえいえ‥‥御礼は結構です」
 ヨネモトは叫びながら『両断剣』と『二段撃』を繰り出しながら攻撃を仕掛ける。
 そして、確実に動きの鈍ったこの隙を見逃さなかったレイヴァーが「トリス!」と叫ぶ。
「さぁ、戦いの即興詩を紡ぎましょう」
 トリストラムは『ファング・バックル』と『ソニックブーム』を使用しながら少し離れた場所から槍での攻撃を行う。
「アル!」
 追撃を促すようにトリストラムが叫ぶと「どうぞ、最後までお楽しみを」とレイヴァーが呟き『瞬即撃』と『急所突き』を使用して全身全霊の一撃を人獣型キメラへと放つ。
「蒼き殺戮の即興詩」
「Pale slaughter cadenz‥‥!」
 トリストラムとレイヴァーは呟くと、攻撃を受けて絶命する人獣型キメラに視線を向けて小さく呟いた。
「判決、死刑――貴方に蒼き死神は見えましたか?」


〜セリカ、これからを照らす彼女の光は〜

「貴方達は簡単に言う。生きろって‥‥でも私が彼を突き飛ばしたから死んだのよ! のうのうと生きるなんて出来るわけないじゃない!」
 戦いが終わった後、傷だらけの能力者達を瞳に沢山の涙を浮かべながらセリカが叫ぶ。
「そいつ、お前を庇って戦ってくれたんだろ? ‥‥最後までお前の為によ‥‥だったら分かるだろ? お前が死んで、そいつ喜ぶと思うか?」
 伊佐美が先ほどまでの激昂したような口調ではなく、落ち着いた感じの口調――セリカを諭すような口調で問いかける。
「もし喜ぶような‥‥そんな奴なら、初めからお前を庇って戦ったりしてねぇよ‥‥そいつの気持ち、大事にしてやれよ‥‥『二度』も気持ちを裏切るなよ」
 最後の言葉は涙混じりで呟く伊佐美だったが、顔を覆う前髪のせいで伊佐美が泣いているのかは確認出来なかった。
「この世の全ての者は、他の色んな何かによって生かされているのです。貴方もどんな形であれ、男性隊員によって生かされました。だから‥‥貴女も他の誰かの為に力を振るわねば‥‥」
 でなければ貴女を生かしている全ての者達に申し訳ないでしょう? 石動は言葉を付け足しながらセリカに話しかける。
「‥‥でも、私は‥‥誰かを護れるような綺麗な立場じゃない‥‥」
 拳を強く握りながらセリカが搾り出すようなか細い声で言葉を返す。
「‥‥後悔は‥‥分かるけど‥‥自ら命を絶つのは‥‥良くない‥‥手段は‥‥どうであれ‥‥生き残った‥‥なら、最後まで‥‥戦い続けるしかない‥‥能力者なら‥‥ね‥‥。それは‥‥悪い事じゃ‥‥ないよ」
 幡多野が呟くと、セリカは涙をぼろぼろと流しながら「‥‥いつか、許されるのかな‥‥」と震える声で呟く。
「許される、許されないの前にまず貴女が生きる事を考えるべきですね。生きて、生き抜いて、許されるまで生き抜く――‥‥」
 レイヴァーの言葉に「私が生きることが懺悔に‥‥なるの」と問いかけるように言葉を返す。
「それは貴女が決める事です。第三者の俺達が決めれる事じゃない。許されたと思うほど生き抜いて、戦い続ける――これが彼にとって一番の懺悔じゃないか?」
 レイヴァーの言葉にセリカは無言で首を縦に振る。
「咄嗟とは言え‥‥今の生は貴女の望んだ結果です。つらくとも‥‥彼の生の分まで安易に死に逃げず、生で償うことですねぇ‥‥」
 ヨネモトの言葉に「そう」と伊佐美が呟く。
「‥‥アンタに罪は重く、つらいもんだ。でもだからこそ、生きて、罪と向き合って償わなければ‥‥救われないから‥‥」
 何処か優しさを感じさせる伊佐美の言葉に「ありがとう」とセリカは言葉を返し、能力者達と共に本部に帰還していったのだった‥‥。

 本部に帰還した後、セリカは自分がしてしまった罪を全て報告して、今まで以上に戦いに貢献することを決意した。
 それは死に急いでいるからではなく、自分が死なせてしまった彼の分まで人々を守ろうと考えたからだった‥‥。


END