タイトル:双頭の蛇マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/22 06:22

●オープニング本文


前後両方に進む事が出来る蛇――それがアンフィスバエナ。

※※※


昼でも薄暗く気味の悪い鬱蒼とした森の中、一匹の大蛇が存在した。

その大蛇は尾の部分も頭があるという双頭の蛇で、古代ローマに実在したと囁かれている『アンフィスバエナ』だった。

もちろん本物であるはずもなく、バグアが真似て作り出したキメラなのだろうけれど。

「面倒ね」

女性能力者がため息混じりに資料を見ながら呟く。

「この前、発見された大蛇か? 確かなんとかバナナ」

「――アンフィスバエナ、でしょ。何よバナナって‥‥」

呆れ気味に女性能力者が言葉を返すと「カタカナばっかり覚えにくいんだよ」と男性能力者は拗ねたように呟く。

「それで? 何が面倒なんだ?」

「伝説の通りなら、この大蛇は猛毒の毒液を吐くらしいのよ。しかも両方の頭から‥‥」

うわ、と男性能力者も面倒そうに呟く。

「近くに民家が少しあるらしいんだけど、アンフィスバエナがいる沼から近いみたいね」

沼? と男性能力者が問いかけると女性能力者は地図を見せた。

「森の奥側に沼があるみたいなのよ、住人の話によればアンフィスバエナはその場所によくいるらしいわ」

「この丸がついてる所が沼か‥‥能力者が退治には向かわないのか?」

「一度能力者が討伐に向かったらしいんだけど、アンフィスバエナは沼から動かないらしいのよ」

つまり討伐に向かった能力者達は自分達が有利に戦えるように場所を変えようとしたらしいのだが、アンフィスバエナは沼から動けないのか、それともわざと動かないのか、どちらなのかは分からないが沼から動こうとしないらしい。

「うへぇ、面倒だな」

でしょ、女性能力者は呟き「どうするのかしらね」とため息を吐いたのだった。


●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
NAMELESS(ga3204
18歳・♂・FT
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
紅蓮・シャウト(ga9983
15歳・♀・GP
都倉サナ(gb0786
18歳・♀・SN
Fortune(gb1380
17歳・♀・SN

●リプレイ本文

〜双頭の大蛇を倒すために集まった能力者達〜

「最近やけに怪物が多いなー、けけけー!」
 NAMELESS(ga3204)が楽しげに叫ぶ。
「へぇ、アンフィスバエナか。敵に不足はねぇぜ」
 紅蓮・シャウト(ga9983)がキメラの報告書を読みながら笑みを浮かべて呟く。
「バグアも色々なキメラを次から次へ繰り出してくれるものだな。まぁ良い。此方はそれを一つずつ潰していけばいいだけの話だからな」
 榊兵衛(ga0388)は自分の武器『ロングスピア』を握り締めながら紅蓮に言葉を返すように呟いた。
「今回は双頭の大蛇型キメラの撃破ですね。モチーフは‥‥アンフィ‥‥えぇと、ややこしい名前と」
 都倉サナ(gb0786)が苦笑しながら呟く。
「そういえば沼から出てこないという報告があるわね。前に討伐に向かった人たち、敵が沼から出てこなかったから失敗したのかしら? それとも諦めただけ?」
 Fortune(gb1380)が前回の能力者達の報告書を読みながら独り言のように呟いた。
「前と後ろに頭があるのよね? この双頭の蛇ってどうやって自分の行動を制御しているのかしら‥‥」
 興味深いわね、と言葉を付け足しながらエリアノーラ・カーゾン(ga9802)が呟く。
「二つの頭――それって前後両方に進める‥‥というか、両端に頭があるんなら前も後ろもない‥‥って事だよね‥‥?」
 シェスチ(ga7729)が首を傾げながら「あと‥‥毒液も気になるし‥‥」と言葉を付け足した。
「一応『対毒液』用に裁縫をしてみました〜♪」
 シエラ・フルフレンド(ga5622)が『エマージェンシーキット』に入っている『防寒シート』を見せた。防寒シートを裏返しにして『ライトシールド』と合わせて毒液を弾く撥水性ライトシールドに仕立て上げたのだ。
 彼女以外にもNAMELESSは装備品や携帯品のほかに一般的な袋と保存道具を所持して現場へ向かうと能力者達に向けて話した。
「それで何をするのですか?」
 都倉がNAMELESSに問いかけると「キメラの肉を持って帰るのさ、けけけけけー!」と楽しげに叫ぶ。
 そんな楽しげな彼に『食べるんですか』と聞ける者はいなかった。
「さて、そろそろ向かいましょうか。私も神経系がどうなっているのかを調べる為にキメラの死体一部を持ち帰って調べてみたいしね」
 エリアノーラは呟き、準備を終えたそれぞれの能力者は『アンフィスバエナ』と畏怖されるキメラの退治に向かい始めたのだった‥‥。


〜深淵の森、潜む大蛇〜

「みなさ〜ん、危険になる可能性があるから避難をお願いしま〜す!」
 まず最初に能力者達が行ったこと、それは問題の沼の近くに住んでいる住人達への避難勧告だった。
 シエラはまず警察に連絡をした後、沼がある森の近くに住んでいる住人達に避難するように呼びかける。能力者達が避難を促しておけば、後から到着する警察が住人達の避難をうまく手伝ってくれるだろう。
「こっちが問題の森か、薄暗いね‥‥」
 シェスチが森の前に立ち、昼間だというのに薄暗い森の中を見て小さく呟く。
 今回、能力者達が『アンフィスバエナ』と戦うためにたてた作戦は囮役を出して、アンフィスバエナを沼から誘き出すというものだった。
 もちろん確実に誘き出せるという保障はないので、作戦が失敗した時の為に保険作戦ももちろん彼らは考えてきていた。失敗した時は持久戦覚悟で遠距離からの攻撃を優先にするという攻撃を考えていた。
「森という事もあって、木は沢山あるし毒液を避ける時の障害物として使えそうね」
 Fortuneは木に触れながら小さく呟く。もちろん盾として使うという事は木の命を奪う事にも繋がる――だけどやむなしという場合もあるのだ。
「そろそろ沼が見えてきたみたいだな」
 紅蓮が視界に入ってくる沼を見つめながら呟く。囮役である彼女は同じ囮役のNAMELESSと視線を交わして、他の能力者達より一歩先に足を進める。
「私も行くわね。スパークマシンでの感電も試してみたいし‥‥まぁ、発案者である私が言うのもなんだけど‥‥あまり期待していないけれどね」
 エリアノーラが呟きながら『スパークマシン』を持ち二人と同じところまで進む。
 三人は沼のところまで赴き、他の能力者は実験が成功してアンフィスバエナが沼から出てくるのを祈るしか出来なかった。
「上手くいってくださいっ」
 シエラが両手を合わせるように祈りながら遠くなっていく三人の姿を見つめる。遠く、とは言ってもアンフィスバエナが沼から出てきたら、すぐに攻撃に移れるような場所で待機をしていた。


「けけけけけーっ! でっかい蛇だなぁ!」
 NAMELESSが叫びながら沼の中から姿を見せたアンフィスバエナを見て、感心したように叫ぶ。
「本当に沼から出てこねぇな。出てくれば攻撃範囲に入っているだろうに」
 紅蓮は呟きながら、沼から出てこないアンフィスバエナに小さく舌打ちをする。
「アイツがホームに居座るってのはだ、その方が有利だからだよなぁ? 底なし沼にはまらせれば後はアイツの思いのままってわけだ。くそっ」
 自分の思い通りに事が進まない、向こうが有利な状況にあると考え、苛立ちが募るのか紅蓮は忌々しげに呟く。囮役と一緒に来たエリアノーラは少し離れ「感電しないように離れて!」と囮役の二人に向けて叫ぶ。
 エリアノーラの言葉を聞いて紅蓮は右に、NAMELESSは左に避けて二人に被害が行かないと思ったエリアノーラは『スパークマシンα』で沼に電流を流す。
 電流を受けたアンフィスバエナは一瞬だけ動きを止めたが、すぐに行動を開始し始めた。
「やっぱり――効果はないのね」
 エリアノーラはため息を吐くと、自分の方に吐かれた毒液を避ける。
「お前の相手は俺らだぜ! けけけけけーっ!」
 NAMELESSが叫び『ロングスピア』で攻撃を仕掛け、そしてまた後ろに下がる。紅蓮とNAMELESSは互いに連携を行ってアンフィスバエナが攻撃出来る範囲を慎重に見極めていた。
「俺のやり方じゃあねーがー、しゃーねーかーっ!」
 来いや、蛇っこ! とNAMELESSは叫びながら攻撃を仕掛ける。
「やっぱり沼から出てはくれないのね」
 エリアノーラは呟き、沼から出てくる様子のないアンフィスバエナの事を待機している能力者達に伝え、本格的に戦闘を開始したのだった。


〜双頭の大蛇 アンフィスバエナ〜

「沼から出ては来てくれないのか、仕方ない‥‥持久戦だな」
 榊はため息混じりに呟き、遠距離から攻撃を行う能力者達の盾になるために庇うように前に出る。
「むぅ〜、先ほど『双眼鏡』で戦いを見させていただきましたが‥‥まだ何かあるように思えました」
 シエラが『アサルトライフル』で遠距離攻撃を仕掛けながら呟く。
「確かにそれはあるかも‥‥双頭の大蛇って言っていたけど‥‥沼から見える頭は一つだけ‥‥もう一つの頭がどうしているのか‥‥」
 シェスチはアンフィスバエナを見ながら呟く。おそらくもう一つの頭は沼の中なのだろうが、姿を見せない以上は何を仕掛けてくるか分からないので警戒を強める必要がある。
「出し惜しみをせずに使ったほうがいいですね」
 都倉は『弾頭矢』で攻撃を行うが、その際に『強弾撃』も併用して攻撃を仕掛ける。そしてFortuneも『鋭覚狙撃』を使用して確実に当てる方向で『弾頭矢』を使用して攻撃を行う。
 やはり遠距離からの攻撃には弱いのか、アンフィスバエナは近くにある木をなぎ倒して能力者達に攻撃を仕掛けた。
 能力者達は倒れてくる木を避け、少しだけ近づいたアンフィスバエナに紅蓮とNAMELESSが攻撃を仕掛ける。
「危ない――っ! 後ろが――‥‥」
 シエラが能力者達の背後にある水溜りを見て叫ぶ。アンフィスバエナのもう一つの頭が能力者達の背後から襲いかかる。
「なるほど、沼の頭は陽動で隙を狙って背後からの攻撃――か」
 榊は『流し斬り』と『急所突き』を使用して背後から現れた頭に攻撃を仕掛ける。背後からの頭はどうやら積極的に前に出て攻撃を仕掛けてくるタイプのようで、どちらかといえば能力者達に戦いやすい状況になったと言える。
「回り込まれてはいるけど‥‥戦えない状況じゃないよね‥‥」
 シェスチは呟き、沼の頭に背中を向けて背後から現れた頭に『強弾撃』と『急所突き』を使用する。沼の頭の方は毒液にさえ気をつければ積極的に攻撃は仕掛けてこない。
 だったら接近攻撃が出来る頭の方を狙ってすぐに戦いを終わらせる――能力者の中でそういう結論に至ったのだろう。
 都倉、Fortuneも『弾頭矢』とスキルを併用して援護射撃を行い、接近攻撃の出来る榊、NAMELESS、紅蓮が積極的に攻撃を仕掛ける。
 エリアノーラは遠距離攻撃を行いながら沼の頭からの毒液などに気をつける。
「さて、その目――抉ってやんよ」
 紅蓮は呟き、毒液を避けながら『急所突き』を使用して背後から現れた頭の目を攻撃する。
「くっ、痛いだろう? これからもっとだ、もっと――」
 そう呟いて紅蓮が次の攻撃に移ろうとした時、沼の頭から吐き出された毒液を受け、紅蓮が乗っている頭は彼女を振り落とすように暴れ、その反動で紅蓮は木に叩きつけられてしまう。
「ぐっ!」
 叩きつけられた際に紅蓮は肩を強打し、戦闘に復帰するのは難しいだろう。
「無茶をするからよ‥‥大丈夫なの?」
 エリアノーラが問いかけると「悪ぃ。やっぱ無茶しかできねぇようだ」と痛む肩に手を乗せ、走る激痛に表情を歪める。
「大丈夫でしょう、見て」
 エリアノーラは沼の頭を見るように促す。沼の頭はふらふらとしていて、攻撃を仕掛けてくる様子は無い。
「‥‥つまり、あちらの頭に攻撃した分もダメージが蓄積されているという事ですか」
 都倉が呟くと「そうとしか考えられないわね」と言葉を返した。
「つまり、あちらの頭にはもう攻撃する力も残っていない――だから倒せるのも時間の問題なのよ」
 エリアノーラが呟いた瞬間、アンフィスバエナの大きな悲鳴が森中に響き渡る。
「コレで終わりですっ♪」
 シエラは叫ぶと『鋭覚狙撃』『強弾撃』『影撃ち』を使用してアンフィスバエナの頭を目掛けて攻撃を仕掛けた。
 その後、能力者達は総攻撃を仕掛けて見事アンフィスバエナを倒したのだった‥‥。


〜帰還の前にやるべきことは〜

「結局、あの沼の頭は背後から現れる頭の為に陽動させる役割だったのかしらね」
 Fortuneが地面に突っ伏しているアンフィスバエナを見ながら呟いた。
「それだったら前に退治に来た能力者達はこの蛇に本気を出させる事も出来なかったのね」
 エリアノーラがキメラについて調べるためにアンフィスバエナの死体の一部を切り取り、そしてNAMELESSは『夕凪』でアンフィスバエナの死体を少し多めに切り取る。
「さーて、一体どんな味がすんのかねー‥‥っと」
 NAMELESSの呟きを聞いて「本当に食べるんですか」と都倉が問いかける。
「毒があるし、止めておいた方が‥‥」
 シェスチの言葉に「毒? 気にしてたらキメラは食えねー」と言葉を返した。
「ま、まぁ‥‥無事に倒せてよかった」
 榊が苦笑しながら呟くと「そういえば‥‥」とシエラが思い出したように呟く。
「何であのキメラは沼から出られなかったのでしょうね〜」
 彼女の問いかけは尤もだ。沼から出ていれば能力者達も戦いやすかったが、キメラ自身も戦いやすかったのではないかと能力者達は心の中で呟く。
「結局役に立たない奴で悪かったな、無茶した挙句がこんな様さ、ただの大馬鹿野郎だよ。全く‥‥」
 自重気味に紅蓮が呟き、能力者は彼女の痛みが治まるのを待って本部へと帰還していったのだった。

 余談だが、持ち帰ったキメラ肉を食したNAMELESSは痺れて暫くの間動けなくなったのだとか‥‥。


END