タイトル:神の耳を持つ者マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/21 00:53

●オープニング本文


魂の善悪を裁き、従順と規律の化身――スラオシャ。

名前の意味は‥‥『聴覚』

※※※

「まるでスラオシャだわね」

女性能力者がため息混じりにキメラ出現の報告書を見ながら呟く。

「スラオシャ‥‥? 確かガブリエルと同じ天使だって言われるやつだっけ」

「そう、本によっては四大天使のガブリエルと同一視するものもあるわね。でも実際は別人という説が強いみたいね」

へぇ、と男性能力者は呟くと「何でスラオシャの話になってるんだ?」と問いかける。

「今回現れたキメラよ。聴覚が特化しているらしいのよ」

女性能力者が見せた紙には、おそらく前回の能力者が報告したであろう内容がびっしりと書かれていた。

「行動の際に音が出ないものなんてない、ただそれを人が聞き分けれるかどうかのこと。今回のキメラは聴覚が特化しているから、少しの音も聞き逃さないらしいわ」

女性能力者の言葉に「音ねぇ、そんなもんで苦労するのか?」と男性能力者が「ふ」と笑いながら言葉を返した。

「手を右に動かす時、左に動かす時、それぞれ音は違うと聞くわ。それを全て判別しているとしたら? 此方の攻撃全てが相手に丸分かりという事よ」

女性能力者の言葉に「げ」と呟き、男性能力者は嫌な汗が頬を伝うのを感じるのだった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
エリク=ユスト=エンク(ga1072
22歳・♂・SN
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
月村・心(ga8293
25歳・♂・DF
ゴリ嶺汰(gb0130
29歳・♂・EP
鴉(gb0616
22歳・♂・PN

●リプレイ本文

〜神の耳と対峙した能力者達〜

「今度はあんた達がアイツを退治に向かうのか」
 話しかけてきたのは少し前に『スラオシャ』を退治に向かった能力者の1人だった。
 今回『スラオシャ』を退治しに向かう能力者達は効率よく戦えるようにと、前回戦場へ赴いた能力者に話を聞きに来ていたのだ。
「敵の特徴や動き、周辺の地理などもお聞きしたいのですが‥‥」
 石動 小夜子(ga0121)が男性能力者に問いかけると「‥‥神の耳というものを実感したよ」と言葉を返してきた。
「‥‥神の耳、か」
 伊佐美 希明(ga0214)がため息混じりに呟く。
「‥‥敵の情報を‥‥」
 エリク=ユスト=エンク(ga1072)が先を促すように男性能力者に話しかけると、男性能力者はため息混じりに「動きが先読みされるんだ」と俯きながら答えた。
「3人という少人数だったせいか、攻撃が全て先読みされてしまうんだ。攻撃がアイツに届く頃にはもう回避されている‥‥適わない、正直そう思ったよ」
 男性能力者は自嘲気味に呟き、乾いた笑みを浮かべた。
「まぁ、行ってみない事にはどうしようもないか」
 新条 拓那(ga1294)が呟くと「でも」とラウル・カミーユ(ga7242)が言葉を返した。
「バグアもマニアックというか、いっそ褒めたいくらいなキメラ作るヨネ、僕らよりイロイロ詳しいんじゃない?」
 ラウルが可笑しそうに笑いながら能力者達に話しかける。今回の『スラオシャ』は全く知らない――というほどでもないがあまり知られていない天使でもあった。
 わざわざそんな天使をキメラ化するというバグアのマニアックぶりにラウルは可笑しさを隠し切れなかったのだろう。
「神の耳――と言い方は良いが要するに『地獄耳』という事だな? 耳が良いと要らん事まで聞こえて大変だろうに」
 月村・心(ga8293)が呟く。
「スラオシャは死者の審判に立ち会う事が出来る神だそうだが、生憎とまだその場に立つ気は無い。自分の審判に立ち合わせてやればいいさ」
 ゴリ嶺汰(gb0130)が呟くと「それはいいですね」と鴉(gb0616)が言葉を返してきた。
「スラオシャは懺悔や訴えを聴き魂を裁く者‥‥とは言え、懲罰の天使に名を連ねているでもなければ、アフラ・マズダでもないですから」
 鴉は「ふふ」と笑みを浮かべながら呟く。
「あ、待て。山の中腹にある一本の木を目指せ。結構目立つ木だから分かるはずだ、あいつの目撃情報はいつもその場所らしいから」
 男性能力者の言葉を聞いて「分かった、ありがとう」と能力者達は言葉を返して『スラオシャ』が潜む山へと向かい始めたのだった。


〜神の耳が潜む山〜

「それじゃ、行ってくるぜ」
 嶺汰が能力者たちに軽く手を挙げて、先へと進む。
 今回の作戦は新条が持つ『エマージェンシーキット』の『ラジオ』をぶら下げて、嶺汰と二人でハイキングをする――ふりをして囮になる。
 スラオシャ発見後は仲間である能力者達が待ち伏せている場所まで誘導したあと、能力者達で攻撃を仕掛ける‥‥という事になっていた。

「‥‥静かだね、無駄に緊張しちまうな――こういう状況ではスラオシャじゃなくても、妙に周りの音が耳につくよ」
 新条が周りを見渡しながら嶺汰に話しかける。嶺汰は囮として行動をする際に『GooD Luck』を使用して運を少し上昇させていた。
「確かに‥‥静か過ぎる。鳥の声も何も聞こえない――それにこういう状況じゃなければもっとハイキングを楽しめたんだろうけどな」
 嶺汰が苦笑混じりに呟く。
「早いトコ出てこないかな。あまり長い時間かけて彼女に心配かけたくないからね」
 新条は少し前に石動から貰った『必勝祈願』のお守りを取り出して、それをじっと見る。気分的なものだろうけれど、お守りを見ていると何故か新条は何者にも負ける気がしない‥‥そんな気分だった。
「あの能力者が言っていたのは、あの木の事だな」
 嶺汰が一際高く立っている木を指差しながら呟く。
「そうみたいだね――っと、おいでなすったか! 後は36計逃げるにしかず、だ!」
 新条は『スラオシャ』の姿を発見すると仲間達が待っている林の方へと向かって走り出す。
 そしてスラオシャは二人の姿を見ると、下卑た笑みを浮かべ、手に持った天秤を揺らめかせながらゆっくりと近づいてくる。

 二人が囮として向かっている頃、残された能力者達は『スラオシャ』が誘導されてくる林の方へと歩き出していた。
「拓那さんは大丈夫でしょうか‥‥」
 先に向かった新条と嶺汰のことを考えて、石動は少し表情を曇らせた。
「大丈夫だよ、彼らだって能力者なんだし‥‥それより私達は迎え撃つ事を考えなくちゃ」
 伊佐美の言葉に「そうですね」と石動は顔を上げて言葉を返した。
「‥‥耳栓」
 エリクがポツリと呟く。囮の二人がスラオシャを引き連れてきたら爆竹を使って、スラオシャの耳を機能させないようにするという作戦もあった。
 もちろん耳栓をしないと能力者達の耳も機能しなくなるので、忘れずに耳栓をしなければならないのだけれど。
「まずは耳を削ぐ事から始めないといけないな。いくら聴覚が良くても耳そのものがなくなれば意味がないだろうから」
 月村が「ふむ」と呟きながら武器を構える。
「あ、ラジオの音が近づいてきたみたいだから、そろそろスラオシャが来るんじゃないですか?」
 鴉がラジオの音が聞こえる方を見ながら呟く。彼が呟いた数秒後に囮役とスラオシャは、能力者達が周りを固めた林の中へとやってきた。
「皆〜! 連れてきたよ〜! 歓迎の準備はOKかい? 盛大な花火でお出迎えしてやってくれ! っせ〜のぉっ!」
 新条が叫ぶと同時に爆竹の音が一帯に響き渡る。もちろん能力者達は耳栓、もしくは耳栓の代わりになるものをつけているため、問題はない。
 もちろん、爆竹を投げる役目だった新条も『瞬天速』を使用してすぐに離れたので巻き添えは受けていない。
「あれが神の耳‥‥か‥‥ならば私は山猫の眼」
 伊佐美は呟きながら覚醒を行い、彼女自身が嫌う左顔を抑える。
「‥‥これは私自身‥‥。戦うべき最大の敵‥‥」
 伊佐美は呟きながら頭の中に浮かべたイメージで自らの心に逆巻く激情を抑える。
「‥‥外敵なんていない。戦う相手は常に‥‥自分自身のイメージ」
 伊佐美は射法八節を正しく踏んで『長弓』でスラオシャに攻撃を仕掛ける。風に呼吸をあわせ、大気と一体化しながら放った矢はスラオシャ目掛けて飛んでいくが、スラオシャはそれを避け、素早く伊佐美の元へ走り、左手に持った剣で攻撃をする。
「くっ‥‥」
 伊佐美は剣が振り下ろされる瞬間に後ろへと飛び、攻撃を避けようとしたのだが切っ先が僅かに掠り、肩から血が滴る。
 そこへ石動が攻撃を仕掛けてくるが、やはり音を聞き逃さないのかスラオシャはそれを避ける。
 しかし、それは伊佐美にとって好都合だった。回避を行った瞬間に『即射』と『鋭覚狙撃』を使用してスラオシャに攻撃を仕掛ける。
「知覚出来ても、行動、運動能力には限界がある――『山猫の眼』は、どんなものも見透かす超越的な視線」
 伊佐美が呟き終わると、スラオシャが剣を振り上げる。石動にその剣が振り下ろされようとした時、ラウルが潜伏場所から『即射』を使用して『強弾撃』を四連続で繰り出す。
「天秤持って何様のつもりサ! 何かを量りにかけてヨイのは、僕の最愛の妹だけだー! でも天秤にかけるまでもなく、僕は恋人に負けてるケド‥‥」
 文句あるか、ばかー! とラウルはスラオシャに関係のないことを喚きながら攻撃を仕掛ける。攻撃されているスラオシャにとっては何が何だかだ。
 だけど、そんなラウルの叫びに気を取られていたせいか月村の『アサルトライフル』がスラオシャの耳を掠める。
「ち、耳を潰すまでにはいたらなかったか‥‥」
 月村は軽く舌打ちをしながら武器を『アサルトライフル』から『アーミーナイフ』に持ち変えてスラオシャの前に立った。
 月村が攻撃を仕掛けると同時に鴉が『呼笛』で月村の音を隠すように音を鳴らす。音によって遮られたせいで月村の攻撃予測が出来なかったのか、スラオシャは剣で『アーミーナイフ』を受け止める。
 そしてエリクが洋弓『アルファル』でスラオシャの持つ天秤を落とす。
「聴けば聴くほど、首を絞めることになりますよ?」
 鴉は笑顔でキメラに話しかける――だが、表情は笑っているのだが情を一切感じさせない冷たい笑顔だった。
 月村が剣を止めている状態なので、スラオシャは完全に無防備となり鴉の武器『蛍火』がスラオシャの胴体を斬りつける。
「‥‥真実をなぜ聴かないのか、なぜなら‥‥」
 呟いて鴉は言葉を止める。
「やめましょう。あなたに俺の希望を語っても意味がない――‥‥」
 鴉は呟き、もう一度攻撃を繰り出した後に後ろへ離れる。
 そしても打つ手なしのスラオシャにトドメを刺そうと能力者達が動いた時、嶺汰の呻くような声が能力者達の耳に入ってきた。
 嶺汰の手には鋭いもので刺されたような傷、そして――その鋭いものの正体は‥‥先ほどエリクが撃ち落とした天秤だった。中央の尖った部分が伸びて嶺汰を傷つけたと思われる。
「何かあるとは思っていたけど‥‥まさか伸びるとは‥‥」
 新条が呟き、スラオシャに攻撃を仕掛けるために走り出す――しかし、スラオシャを護るかのように天秤が伸びて新条を傷つける。
「これじゃ近寄れない‥‥矢を放ってもアレに止められてしまう」
 伊佐美がため息混じりに呟く。
「あんなもの‥‥打ちぬけぇえっ!」
 嶺汰が『蛇剋』を構えて『影撃ち』をスラオシャに発動する。途中で天秤が邪魔をしに入ってきたが嶺汰は『プロテクトシールド』を天秤の方に投げつける。盾によって天秤は押さえられてスラオシャに向かう攻撃を止める事が出来なかった。
「なるほど‥‥要は一箇所に向かわずに両方に攻撃が行けばキメラを護ることも出来なくなるのですね」
 石動が呟くと伊佐美、エリク、ラウルの3人は天秤に攻撃を仕掛けて石動、新条、月村、嶺汰、鴉の5人はスラオシャへと総攻撃を仕掛けた。
 最初に月村が『アーミーナイフ』で『両断剣』と『流し斬り』を使用して耳をそぎ落としたおかげか、残る4人の攻撃も避ける事が出来なくなりスラオシャは総攻撃を受けて地面に伏すことになった。


〜神の耳がなくなりし今〜

 全員が無傷というわけにはいかなかったが、能力者達は苦戦を制してスラオシャを見事退治した。
「大丈夫ですか? 拓那さん」
 戦闘が終わると石動は新条の無事を確認しに小走りで彼の元へと走っていった。
「大丈夫大丈夫、怪我もそんなに大きなものじゃないし‥‥きみこそ大丈夫?」
 新条の問いかけに石動は首を縦に振りながら「大丈夫です」と答えた。
「まさか天秤が攻撃してくるとは‥‥前の能力者たちの報告書には書いてなかったぞ」
 天秤によって受けた傷を見ながら嶺汰は「くそ」と忌々しげに呟く。
「おそらく、前回の能力者達はそこまでスラオシャを追い詰められなかったんだろうね」
 ラウルの言葉に「そうだろうね」と伊佐美も言葉を返す。
「お疲れ様です‥‥皆さん、耳は大丈夫でした? 特にエリクさんは耳が良いみたいだから‥‥」
 鴉がエリクに問いかけると「‥‥大丈夫だ」と短く言葉を返した。
 その後、能力者達は少し休憩を取ってから山を降りて、報告の為に本部へと帰還していったのだった‥‥。


END