タイトル:その奥に潜むものマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/13 23:47

●オープニング本文


その洞窟の奥深くには、天女が存在するのだと住人達は口々に呟いていた。

心が澄み渡るような綺麗な音楽を奏で、それと同時に人の命が奪われるのだとか‥‥。

※※※

「洞窟の奥に天女〜?」

今回現れたキメラの報告書を見て、男性能力者がため息混じりに呟いた。

「そう、飛びっきりの美人だって噂よ」

女性能力者の言葉に「噂? 誰も見た事がないのか?」と男性能力者が言葉を返してくるが、女性能力者は意味ありげにため息を漏らした。

「そう、誰も帰って来ないのよ。だから住人達も『美人だから帰ってこないんだろう』って無理矢理納得しているような感じね」

女性能力者の言葉に「‥‥無理矢理感が否めないな」と男性能力者も言葉を返す。

「‥‥無理矢理納得させるような言葉を自分達に言い聞かせて、次は自分の番なんじゃないかとおびえているのよ」

それで、と女性能力者はメモのようなものを取り出して「別の能力者達が調査に行った結果よ」と男性能力者に調査報告書を渡した。

「‥‥琵琶のような楽器を持った女性型キメラで、攻撃方法は琵琶による音の攻撃だと見られる。仏教画に見られる飛天のように羽衣を身に纏った女性型キメラ――か」

男性能力者が調査内容を口に出して呟くと「その調査書を届けた一人以外は全滅だったわ」と女性能力者は呟いた。

「‥‥一人だけ生き残ったのか‥‥そいつはどうしているんだ?」

「今は病院に入院しているわ。怪我はもう治ったみたいなんだけど、精神的なもので入院しているみたいよ」

女性能力者は呟く。

「そういえば、飛天といえば仏教で言うところの『天使的存在』らしいな――音で生者を死へと導く天使――冗談じゃねぇや」

男性能力者は呟くと「さっさと退治されるといいんだけどな」と呟き、再び資料に目を通したのだった。

●参加者一覧

旭(ga6764
26歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
火茄神・渉(ga8569
10歳・♂・HD
中岑 天下(gb0369
19歳・♀・GP
野之垣・亜希穂(gb0516
26歳・♀・DF
城田二三男(gb0620
21歳・♂・DF
都倉サナ(gb0786
18歳・♀・SN
J.D(gb1533
16歳・♀・GP

●リプレイ本文

〜偽者の天女を倒すために集まりし能力者達〜

「天女か‥‥女性型というか‥‥人間型キメラなんて怖いよな‥‥」
 出発前、火茄神・渉(ga8569)がため息混じりに呟く。
「そうですね‥‥しかも音による攻撃ですか‥‥視覚で判断出来なさそうで厄介ですね」
 都倉サナ(gb0786)が報告書を見ながら呟く。
 今回の敵とされているキメラは天女の羽衣を身に纏い、琵琶の音で攻撃してくるというキメラだと報告されている。音の攻撃とは言っても耳を塞ぐだけでは避ける事は出来ず、琵琶の音で空気を震わせて攻撃してくる――衝撃破のようなものだと書いてあった。
「天女を模して人を攫うキメラみたいですね。つくづくバグアは神話に出てくるものをキメラにするのが好きですね」
 見る者に畏怖を感じさせる為でしょうか? 旭(ga6764)は言葉を付け足しながら今回一緒に『飛天』を退治に向かう能力者達に話しかけた。
「いくら神を真似ても所詮は紛い物‥‥そんな事で私達の心が挫けるとでも思うのかしらね――愚か極まりない」
 アンジェリナ(ga6940)が忌々しげに呟くと「それが分からないから真似をするんでしょうね」と中岑 天下(gb0369)が言葉を返した。
「そういえばヘッドライトの申請は通ったのかしら?」
 野之垣・亜希穂(gb0516)が問いかけると「えぇ、貸し出し許可が下りました」と城田二三男(gb0620)が人数分のヘッドライトを見せた。
「あれ? 七つですか?」
都倉が城田の手に持たれているヘッドライトが七つしかないのを見て首を傾げた。
「暗視スコープを持っている人はそれを使うようにして下さい、と言われました」
 城田の言葉に「えぇ‥‥」と都倉はがっくりと肩を落としながら言葉を返した。
「ヴィジュアル的にこれだけはつけたく無かったのですが‥‥」
「でも、貸し出された物も似たような感じですし、気にしなくてもいいと思いますよ」
 J.D(gb1533)が落ち込んでいる都倉に話しかけると「仕事だから、仕方ないですよね‥‥」とため息混じりに言葉を返したのだった。
「地図を見てみたら、キメラがいる洞窟は一本道みたいですね」
 旭が他の能力者達に見せるように地図を広げながら呟く。本部で入手してきた地図を見る限り、奥行きはあるものの一本道で洞窟内で迷うような事はなさそうだ。
「昔、何かの神様を奉っていた場所みたいで奥には祭壇跡のようなものがあるみたいです」
「へぇ、祭壇跡に天女キメラ――まるで自分を奉ってほしいように思えるわね」
 野之垣がクスと笑みながら言葉を返す。
「‥‥くす‥‥天女狩り――――楽しみ‥‥」
 J.Dはポツリと楽しそうに呟いたが、他の能力者は『飛天』の対策を話し合っていて聞こえていなかったようだ。
「それじゃ、行こうか」
 アンジェリナは『蛍火』を握りしめながら呟き、他の能力者達と共に『飛天』が潜む洞窟へと向かい始めたのだった‥‥。


〜その道の果てに在りし音の天女〜

「暑い‥‥」
 現地へ高速艇で移動し、降りると同時にアンジェリナが短く呟いた。能力者の現在の位置は洞窟がある場所から少し離れた開けた場所。
 本当ならば高速艇で洞窟の所まで行きたかったのだが、降りる場所が見当たらず止むなしに離れた場所から行動を開始する事になったのだ。
「洞窟は此処からだと――‥‥あっち?」
 火茄神が首を傾げながら指差す。指した方向は山で、洞窟は山を少し進んだところにあると地図には載っている。
「あんたら、山に入りなさるか」
 山を進もうと足を動かしかけた時に年老いた女から話しかけられ、動かしかけた足を一度止めた。
「‥‥そう、ですが‥‥何か?」
 城田が老女に問いかけると「山には天女がいるよ、死にたくなかったら帰るんだね」と俯きながら呟くように話しかけてくる。
「私達はその『天女』を倒す為にやってきた能力者です」
 都倉が老婆に説明をすると「‥‥前にきた若いのもそう言うていたよ」と老婆は言葉を返してきた。
「‥‥死にたくなかったら引き返すといい――でもどうしても進むというなら‥‥自分を見失ってはいけないよ」
 老婆はそれだけ言い残すと町の方へと向かってゆっくりと歩き出していった。
「自分を見失うな? どういう意味かしらね」
 中岑が首を軽く傾げながら一人呟く。
「魅了でも使ってくると言うのかしら‥‥情報が少ないから心配になるわね」
 野之垣が呟くが、考えていても何も変わらないと言葉をつけたして洞窟への道を急いだのだった‥‥。


〜音で生者を死へと導く仏教の天使〜

「うわ、きみわる‥‥」
 洞窟の中に入ると同時に火茄神が腕を擦りながら小さく呟く。洞窟の中は外とは違って冷え冷えとした空気があって、上から滴る水音が洞窟内の不気味さに拍車をかけていた。
「‥‥聞こえます?」
 城田が耳のところに手を当てながら呟き、他の能力者も耳を澄ませる。
 すると、遠くから琵琶の音が聞こえてくるのが分かる。
 もちろん、音を出しているのは能力者達の標的である天女型キメラ『飛天』に間違いないだろう。
「‥‥これは‥‥」
 J.Dが足元に何かを見つけ、それを拾う。
「‥‥‥‥血まみれの、ネックレス?」
 そう、J.Dが拾ったものは血まみれのネックレス。だけど血まみれとは言っても血は完全に乾いていて、赤黒く変色していた。
「前に来た能力者のものでしょうか‥‥」
 旭がネックレスを見ながら呟く。
「恐らく‥‥いえ、間違いなくこの先にいる『飛天』の仕業でしょうね」
 洞窟の奥を厳しい視線で見つめながら旭は小さく呟く。
「そうね‥‥ヘッドライトが貸し出されなかったら少し厳しかったかもしれないわ。こう暗くちゃライトなしで戦うなんて考えられないもの」
 野之垣が周りを見渡しながら呟く。そして続くように他の能力者達も洞窟内を見渡す。確かに洞窟内は真っ暗ではないが、薄暗く視界が悪いのでライトなしでは戦闘に支障が出ていただろう。
「さて――そろそろ見えてきたかな」
 城田が呟き、他の能力者達も前方を見るとひらひらと羽衣を靡かせ、宙に浮いて琵琶を弾く女性――飛天の姿があった。
 最奥に到着するまでに能力者達は戦闘準備を完了しており、飛天の姿を見かけると同時に攻撃を仕掛ける。
 最初に攻撃を仕掛けたのは都倉だった。彼女は『ライフル』を構えて『鋭覚狙撃』『強弾撃』『影撃ち』を使用して飛天が持つ琵琶を目掛けて攻撃を行った。
 しかし、都倉の攻撃は飛天の腕を掠めるだけに終わり、武器破壊までには至らなかった。
 だが――攻撃が避けられ、武器破壊を出来なかった場合の事も考えてあり、都倉が攻撃を始めた瞬間に二人の能力者が動き出していた。
 それは中岑とJ.Dの二人だった。中岑は『瞬天速』を使用して飛天に接近して『疾風脚』と『急所突き』を使用して攻撃を仕掛ける。
 そしてJ.Dも中岑の行動と少し間を置いて『瞬天速』を使用する。飛天が中岑の攻撃を避けた時に琵琶を破壊すべく『疾風脚』と『急所突き』を使用して攻撃を繰り出す。
 だが、僅かの差で飛天の方が早かったらしく羽衣を破いただけで琵琶破壊までは至らなかった。
「失敗か‥‥」
 中岑が小さな舌打ちと共に呟くと「そうでもなさそうですよ」と旭が飛天を指差しながら言葉を返す。
「伝説では羽衣を失った天女は飛べなくなるものです――その辺まで忠実にされているようで、羽衣が破かれた今、あのキメラは空を飛ぶことは出来なくなったみたいですね」
 旭の言葉を聞き、能力者達は飛天へと視線を移す。確かに羽衣を失ったおかげで空を飛べなくなり、地面へと足を下ろしていた。
 そして、飛天が琵琶を奏でると同時に衝撃破のようなものが地面を伝い、能力者達に襲い掛かる。
「‥‥音の攻撃ってかわすのは無理そうね‥‥」
 中岑が裂けた地面を見ながら小さく呟く。
「でも倒さなくちゃ! また人が攫われちゃうんだから! 美人だからって手加減はしないぞ!」
 火茄神が「火茄神・渉! 突貫するぜ!」と言葉を付け足しながら叫び『サベイジクロー』を構えて飛天めがけて攻撃を行う。
 いきなりの突貫攻撃の理由はアンジェリナの合図にあった。彼女は飛天の後ろに立ち、火茄神に合図を送ったのだ。
 そして火茄神が『流し斬り』で攻撃を仕掛け、タイミングをズラしてアンジェリナも攻撃をしかける。飛天は『流し斬り』の攻撃を横に避けたのだがアンジェリナの攻撃が琵琶に当たる。
「意外と丈夫だな、だがこれでどうだ?」
 アンジェリナは『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して琵琶に攻撃を仕掛ける。先ほどの攻撃でひびの入った琵琶はぱきんと音をたてて壊れ、それと同時に軽い衝撃破が能力者たちを襲う。
「くっ‥‥どうやら壊すと同時に此方も攻撃を受けるような仕組みになっていたみたいね」
 野之垣が呟き『サベイジクロー』を構えて飛天が逃げ出さないように入り口に繋がる道を封鎖するような形で立つ。
 だが、そこでおかしな事に気づく。確かに攻撃は受けたが、こんなに激痛が起こるほどの傷ではない。それなのに能力者達はガクリと膝をつく程身体に激痛が走るのだ。
 何かに身体を刺されるような痛み、何かに身体を焼かれるような痛み、全ての『痛み』が襲い掛かってきているような感覚が能力者達を襲っていた。
「な――」
 能力者達が戸惑う中、城田が洞窟に来るまでに出会った老婆の言葉を思い出す。

 自分を見失ってはいけないよ

 恐らくその言葉が何かに繋がっていると城田は自分の直感で思う。
 そして、近くにあった石で自分の手を強めに殴る。殴打される痛みに表情を歪めるが、先ほどの激痛は消えている。
「‥‥これは幻覚?」
 実際に何かの痛みが襲い掛かれば『激痛』は治まるらしく、城田は苦しがっている能力者達にそれを知らせる。
「人を痛みで苦しめる――飛天にあるまじき行為」
 J.Dは呟くと小銃『フリージア』で飛天に攻撃を仕掛けた。
「天女というのは姿ばかり――所詮キメラでしかない貴方に僕達は倒せないですよ」
 旭は『蛍火』を構え『豪破斬撃』を使用して飛天に攻撃を繰り出した。
「これがおいらの最大級だ! 両断剣!」
 火茄神は『両断剣』を使用して飛天に攻撃を繰り出して攻撃を行った、しかし飛天はそれを避けようと動きかけたが野之垣が背後から攻撃を仕掛けて、結局野之垣と火茄神の攻撃を直で受けてしまうことになった。
 その後、琵琶を失った飛天はまともに攻撃する方法が無いのか、逃げ回るような仕草を見せ、能力者達に追い詰められて退治されたのだった‥‥。


〜死を運ぶ偽の天女去りし町〜

「自分を見失うな‥‥それは惑わされるなという意味だったんですね」
 戦闘が終わり、行方不明の者たちの手がかりがないか洞窟内を捜索している時に都倉が小さく呟いた。
 洞窟の中には無残に殺されてしまった者、戦って適わず逃げようとした所を飛天に殺されてしまったもの、数人もの遺体が発見された。
 そして飛天を退治したことを知らせるために町へと足を運ぶと「無事だったんだね」と老婆が近寄ってくる。
「前に来た若いのは怪我なんてたいしたものじゃないのに物凄く痛がっていてさ‥‥何かあるんじゃないかと思っていたんだよ」
 老婆の言葉に「そうだったんだ」と火茄神が言葉を返した。

 そして、能力者達は本部に報告をする為に高速艇で本部へと帰還していったのだった‥‥。


END