タイトル:キアラ―迫り来る決断マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/02 05:08

●オープニング本文


やっぱり人間なんて嫌い――大嫌いっ!

‥‥そんな自分のことしか考えられない自分も嫌い。

だから――‥‥。

※※※

「‥‥みんな、もうすぐ―――だからね」

キアラは山の頂上で小さな町を見下ろしながら寂しげに呟いた。

手に持たれているのは古くなった一枚の写真。

それはキアラがまだ『人間』として笑えていた頃に撮った最後の写真。

写真の中のキアラはとてもいい表情で笑っていて、自分なのに、まるで他人を見ているような気がした。

それはきっと自分が変わりすぎてしまったからなのだろう。

「――もう、おしまい」

山の頂上から写真を落とす。落とされた写真はひらひらと舞いながら、ゆっくりと下へと降下していく。

「――さよなら、あたしに残った最後の感情――」

落ちていく写真を見るキアラの表情に、今までのようなおどけた様子は微塵も感じられない。

「さて――‥‥貴方には、どうしてもらおうかな」

キメラに捕まえられた能力者の男性を見て、キアラは冷たく、そして薄く笑う。

「ふざ、けるな――‥‥俺を、利用なんて――」

「貴方に選択権はないの――死んでもらおうかな」

男性能力者が最後に見た景色は、何処か悲しそうに笑うキアラの姿だった。


そして――数日後、無残な姿で殺された男性能力者が発見されたのだった。


●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
高坂聖(ga4517
20歳・♂・ER
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
サイオンジ・タケル(ga8193
26歳・♂・DF

●リプレイ本文

「あれから一ヶ月か‥‥いつものパターンならそろそろ動きがある頃だね」
 ポツリと呟くのはMAKOTO(ga4693)だった。彼女が言っているのは『キアラ』の事だろう。理不尽な目に合わされ、人間全てを憎み、死んでしまえと言っている哀れな少女‥‥。
「キアラさんの事は、これまでの報告書で知っています」
 能力者達に「初めまして」と挨拶をしながら話しかけてくるのは高坂聖(ga4517)だった。
「確か『世界が平和になる為には人間なんかいなくなればいい』って言う考え方をしているんですよね? まぁ、ちょっとだけ共感するものはありますけど」
 私も一時期そういう風に考えていた事があった、高坂は言葉を付け足しながら呟く。
「キアラ――差し詰め理不尽の被害者と言った所か‥‥哀れな事だ。だが、私は同情しない――救って欲しいというならば話は別だがね」
 御影・朔夜(ga0240)が呟くと「救ってあげたい、ですね」とベル(ga0924)が小さな声で言葉を返してきた。
 彼は高坂と同じく、キアラ自身と対面した事はないが報告書などでキアラの生い立ちなどは知っていた。
「‥‥昔の自分と似ているから‥‥助けられるなら助けてあげたいです‥‥と言ってもこれは自己満足な考えなのかもしれません‥‥」
 ベルは少し苦笑気味に呟くと「確かにな」と威龍(ga3859)が呟きながら話に入ってきた。
「アイツの『死んでしまえ』という言葉は‥‥助けてくれ――にも聞こえるからな」
 威龍はため息混じりに呟く。
「キアラか‥‥今の彼女には、誰も信用する事が出来ないのだろうか‥‥」
 八神零(ga7992)が呟くと「今回の任務はどうなんだろうな」と神無 戒路(ga6003)が言葉を返す。
「今回の事件がキアラ、という事ですか?」
 サイオンジ・タケル(ga8193)が問いかけると「犠牲者が能力者って言うのが気になってな」と神無は言葉を返した。
 そう、今回の能力者惨殺事件は山の中で起きているが、近くに小さな町があるにも関わらず町への被害は一切ないのだ。
 普通ならば能力者が殺された後、町への被害があってもおかしくないのに――と神無は考えたのだろう。
「‥‥一般人への被害が全くナシ――もしかしたらキアラがいるかもね‥‥」
 MAKOTOも呟き「殺された能力者の死因は何だったっけ?」と能力者達に問いかけると「鋭利なもので心臓を刺された事が直接的な原因のようです」と高坂が言葉を返してきた。
 現場の地図などと一緒に犠牲となった能力者の事も調べてきたのだろう、高坂はメモを見ながら答えた。
「体中に刺し傷のようなものがあったらしいんですけど、心臓の一突きは他の刺し傷と違ったみたいですね」
 高坂の言葉に「‥‥他とは違う傷、か」と八神も考えるように呟いた。
「二種類の刃物みたいな攻撃をしてくるのかな。気をつけないといけないね」
 MAKOTOが呟き、能力者達も首を縦に振る。
 そして、準備を始めて能力者達は目的の『山』へと向かい始めたのだった。


〜彼女に残された最後の感情、そして消えうせたもの〜

「どうぞ」
 山を登り始めて少し経過した頃、高坂が能力者達におにぎりと水筒(中身は緑茶)をおすそ分けとして渡していた。
 今回のキメラは『植物系』という事で、前衛の御影が小銃『シエルクライン』で、ベルが小石や『スコーピオン』でばら撒き攻撃を行いながら、先へと進んでいた。
「‥‥これは‥‥」
 途中でサイオンジが立ち止まり、泥に塗れた『それ』を手に取る。
「どうしたんですか?」
 ベルがサイオンジに話しかけると「これが落ちてた」と一枚の写真を見せた。
 どうやらそれは優しそうなごく普通の家族写真だった。
「この子、キアラじゃない?」
 MAKOTOが写真の中央で笑っている少女を指差しながら呟く。キアラ、という言葉に他の能力者達も写真を覗きこむ。
 すると、今では雰囲気がだいぶ変わってしまっているが確かにキアラだった。
「‥‥こんな風に笑える人が‥‥」
 ベルは少し悲しそうに呟く。
「‥‥‥‥それ、拾っちゃったの」
 突然、背後から一部の能力者にとっては聞き覚えのある声が耳に入ってきて、能力者達は勢いよく後ろを振り返る。
 すると、離れた場所に少女・キアラが立っていた。
「キミがキアラ、なのか」
 八神が問いかけるように話しかけると「初めまして、見慣れないお兄さん」と茶化すようなおどけた口調で言葉を返してきた。
「初めまして、サイエンティストの高坂 聖といいます。貴方の事は今までの報告書で知っていますよ」
 高坂が挨拶をした後に『自分も一時期はそういう考えを持っていた』という事を伝えると「じゃあ仲間になる?」とキアラが逆に問い返してくる。
「恐ろしく大変そうなので、私は選べませんよ」
 高坂が話している中、MAKOTOがキアラに一歩、また一歩と近づいていくと鋭い物が足元に刺さる。
「またこの前みたいに油断させて――って作戦? いい加減しつこいよ」
 地面に刺さったものはキアラが投げたナイフだった。何故か刃が赤黒く変色していて、MAKOTOは眉間に皺を寄せる。
「この先――頂上にキメラがいるよ。あたしもそこにいるからさ、話がしたければそこまで来なよ」
 キアラは言い残すと、頂上の方向まで走っていく。彼女が去った後、サイオンジは怪訝そうな表情でナイフを見ていた。
 今までのキアラは此方をからかうかのような態度で来ていた。もちろん今のキアラも揶うような感じではあったのだが――サイオンジは『何かが違う』と違和感を感じていた。
「わざわざ教えてくれたのはありがたいが――‥‥山頂までにキメラがいないという確実性もないからね、油断は出来ないか」
 御影は呟くと、先ほどまでと同じように警戒をしながら山頂までの道のりを急いだのだった。


〜彼女が初めて見せる咎人の顔〜

 山頂に到着すると、二匹の植物型キメラがキアラを護るかのように立っていた。
「来てくれたんだね。うん、来てくれなくちゃ困るから助かったよ」
 にっこりと笑顔で話しかけるキアラに能力者達は多少の不気味さを感じた。キアラは確かに笑っているが、目は笑っていない。
「‥‥この前の能力者惨殺事件もお前の仕業か‥‥結局は町を襲ったりしないんだな。一般人を傷つけるのは気が引けるか?」
 神無がやや挑発するかのようにキアラに話しかけると「自分の本当の気持ちに気づいたからだよ」と先ほどと同じような笑顔で言葉を返してくる。
「そう、気づいたの! あたしが何を求めているのかをさぁ! 家族を殺され、あたしも殺されかけ、人間を皆殺しにする――それは本当の気持ちを隠すための偽りの気持ち」
 キアラはけたたましく笑いながら話しているが、何故かそれは泣いているようにも見えた。
「‥‥確かに、お前はこの戦争の被害者だ。だが、いつまでにそれに甘えているつもりだ‥‥? 自分自身の悲しみに‥‥無関係な人間を巻き込むな」
 八神は『月詠』を構えたまま、キアラに向けて言葉を放つ。
「ふふふふ‥‥だったら、あたしに何が出来たのか教えてよ‥‥能力者も! 他の人間も! あたしを助けてくれなかったじゃない! あたしにどんな道が残されていたのか教えてよ!」
 キアラは激昂したように叫ぶと、はぁはぁと息を整えて「‥‥それに‥‥」と言葉を付け足し、何かを言おうとしていたのだが途中で口を噤んでしまった。
「‥‥キアラ――――‥‥」
 MAKOTOが何かを言おうとした時、二匹の植物型キメラが能力者達に向かって襲い掛かる。
 戦闘に入った瞬間、高坂は『練成強化』で能力者達の武器を強化して、自身も『超機械α』を構える。
「話をするには――――邪魔だ」
 御影が小さく呟くと植物型キメラへと走り出し、距離が縮まる前に『強弾撃』を発動して『二連射』を4回連続発動して攻撃を仕掛けた。
「キアラさんと話をさせていただく為に‥‥消えてもらいます」
 御影の攻撃が終わりかけた頃にベルが『スコーピオン』で植物型キメラへと攻撃を仕掛ける。
 そして弱った所を威龍が『ディガイア』で攻撃して、まずは一匹目の植物型キメラを撃破したのだった。
「向こうは終わったか‥‥お前も散り行くがいい‥‥」
 神無は呟くと覚醒を行い『ライフル』を構えて、植物型キメラに攻撃を仕掛ける。神無が攻撃を仕掛けたと同時に八神も『月詠』を構えて、植物型キメラへと走りだす。
 そして『豪破斬撃』を発動して『二段撃』と『流し斬り』を使用して植物型キメラを攻撃する。
「雑魚に用はないんだ‥‥下がっていてもらおうか‥‥」
 八神は攻撃を終えると、既に瀕死の植物型キメラに向けて冷たく言い放つ。今回のキメラは今までよりも特に強くなく、伸縮する枝にさえ注意をすれば問題なく倒せる相手だった。
 そしてトドメとしてMAKOTOが『獣の皮膚』を使用して防御力を高めて『瞬速縮地』で一気に間合いを詰めた後に『急所突き』で植物型キメラのボディを貫いたのだった。
「よしっ! 倒し――」
 MAKOTOが呟くが、植物型キメラの枝がまだ動けるようで、彼女を狙って攻撃をしてきた――のだが、サイオンジの『ワイズマンクロック』のおかげで、枝は破壊されてMAKOTOは攻撃を受ける事なく無事に戦闘は終わったのだった。


〜彼女の望むもの、そして彼女が進む道〜

「もう、そっち側は嫌になったんじゃないんですか?」
 戦闘が終了した後、高坂がキアラに向けて話しかける。キアラはそれに対して言葉を返すことはなく、ただジッと高坂を見ていた。
「大量虐殺の手助けなどがあるので、何らかの償いはあるでしょうけど、まだ戻ってこられる所にいるんですし」
「戻れるところ?」
 キアラが聞き返すように言葉を返すと「まだ人を殺していないでしょう? 報告書を見てもそんな事は書かれていませんし」と高坂は答えた。
 キアラは高坂の言葉に目を丸くしながら、唇を強くかみ締めていた。
「私は世界平和のためになど戦っている覚えはない。全ては自分のためだ。恐らく誰もが自分のために戦っているんだろう。誰かを喪いたくない自分のために」
 御影が低い声で呟く。誰かを守る為ではなく『誰かを喪いたくない自分のため』に戦っているという御影の言葉を聞いてもキアラは口を開こうとはしない。
「味方と敵なら命の重さだって違う。元来人間とはそういう生き物だ。個である以上は軋轢も生じる。理不尽も間々あるだろう。だがいいのか?」
 御影の言葉に「え?」とキアラが聞き返すと「人間の否定は喪った両親を否定する事に繋がるのだぞ?」と御影は言葉を付け足した。
「‥‥人間は嫌いよ‥‥大嫌い‥‥」
 キアラが震える声で呟いていると「‥‥俺も昔は人間が嫌いでした」とベルが話し始める。
「それこそ笑った事なんてありませんでした。でも色んな人と出会って今では笑えるようになったんですよ? ‥‥だから‥‥キアラさんもやり直せると思うんです‥‥一緒にラスト・ホープへ帰りませんか?」
 軽く微笑みながらベルが手を差し伸べると、キアラは迷っているような表情を見せた。
「こんな時代だからこそ、汚い人間なんて沢山いる。俺だって何人も見てきた。でもそうじゃない人間だって沢山いる。そういう人間を信じたいから、俺は戦っている――お前さんは馬鹿だと言うだろうがな」
 威龍が呟くと「‥‥そんな人が一人でもあの時いたら‥‥あたしは‥‥」とキアラは体を震わせながら呟いていた。
「ねぇ、そっちにいるのだけはやめようよ」
 MAKOTOが話しかけると「‥‥なんであたしに構うの?」とキアラが問いかけてくる。
「おねーさんはいつもそう。あたしを心配しているような素振を見せるよね。何で?」
 キアラの言葉に「きっと私は‥‥キミと友達になりたいんだ」と嘘のない表情で答えた。
「だから、こっちに来いとは言わない。でも其方へは行かないで」
 MAKOTOは言いながらキアラに近づき、強く抱きしめる。
「は、はなして!」
 キアラが暴れてMAKOTOから逃れようとするが、MAKOTOはキアラを抱きしめたまま放そうとはしなかった。
「何をされたって、この腕は離さないよ」
 MAKOTOの言葉にキアラが震える――――そして。
 どす、と鈍い音が響いたかと思うとMAKOTOがその場に膝をついていた。キアラの手には血の滴るナイフ。
「もう騙されない。それに――‥‥おにーさんは言ったよね‥‥『まだ人を殺してないから戻ってこれるはず』だって」
 キアラの言葉に高坂は首を縦に振る。
「さて、ここで問題。少し前に此処で能力者が殺されました――殺したのは、誰でしょう?」
 ナイフの切っ先を能力者達に向けながらにっこりと笑顔で問いかける。

 心臓の一突きは他の刺し傷と違ったみたいですね――‥‥。

 キアラの言葉を聞いて、能力者の頭の中には高坂の言葉が蘇ってきた。
 そして、最初にキアラが現れた時に投げてきた赤黒く変色したナイフ。
 この二つを結びつけるものは――‥‥。
「キアラ‥‥君は、何をした」
 サイオンジが問いかけると、キアラはナイフを刺すような仕草をしながら、自分の心臓部分をトンと手で押さえる。
「おにーさんのココをね、刺したのよ」
 キアラの衝撃的な言葉に能力者達は目を丸く見開く。今までのキアラならば、自分の手を汚す事はしなかった。
「お前は、そこまで‥‥堕ちたのか」
 神無の言葉に「‥‥もうどん底だよ」とキアラは言葉を返してきた。
「だからさ、もう心配してくれなくていいの。助けようとしてくれなくていいの。やり直させようなんて思わなくていいの。友達なんて‥‥なってくれなくていいの」
 だから、キアラは何かを呟こうとして口を閉ざし、崖から飛び降りた。
「キア―――っ!」
 MAKOTOが手を伸ばすと、大きな鳥型のキメラの背中にのって「さよなら――――」と何かを言い残して去っていった。


〜少女去り、そして〜

「もう、無理なのかな」
 MAKOTOは小さく呟く。
 今回、キアラと初めて対面した八神は『彼女を死なせない為』に注意を促した。
 しかし、このままの状況ならば確実にキアラを殺さなくてはならなくなる。既に人一人の命を奪っているのだから。
「もう‥‥彼女に道は残されていないのか‥‥?」
 サイオンジは少し悲しそうに呟くと「‥‥まだ迷っている感じでした」とベルが呟く。彼が手を差し伸べた時、確かにキアラは迷っていたのだから。それが嘘だとはベルはどうしても思えなかったのだ。
「‥‥全てを否定する覚悟があるならば、最早何も言うまい――私もまた彼女を『敵』として対処しよう」
 キアラが去った空を見て、御影は小さく呟く。
 他の能力者達も、何もいう事が出来ず、そのままキメラ退治の報告のため、そしてキアラのことを報告する為に本部へと帰還していったのだった。


END