●リプレイ本文
今回は『山の頂上』に現れたキメラ退治の任務と、その場に居合わせた男女の能力者を救出するという任務も兼ねていた。
今回の事件が発覚したのは救出対象である男性能力者が救助要請を求めてきた事から始まった。キメラの簡単な特徴と自分達の居場所、そしてその場所に来た理由を伝え、再びキメラから攻撃されてしまったのか、通信機はノイズだけを流し、二人の消息は分かっていない。
「それにしてもおかしいな」
榊兵衛(
ga0388)が考え込むように小さく呟いた。他の能力者達も『おかしい』という事に心当たりがあるのか『何が?』と聞き返す者はいなかった。
「いくら他事に集中していたとはいえ、能力者二人がいて、キメラの接近に気がつかなかったとは‥‥」
そう、救助要請を求めてきた男性によれば現れたキメラは『巨鳥』のはずだった。
しかし、二人は攻撃されるまでキメラの存在に気がつかなかった。それが今回任務へ向かう能力者達の心に引っかかっていた。
「救助要請の時点で状況はかなり悪いみたいだったから、急がないとマズいな‥‥」
桜崎・正人(
ga0100)が呟くと「絶対助ける」と新条 拓那(
ga1294)が言葉を返した。
「墓参りに行って自分もお墓に入ります、じゃ、お話にもなんないでしょ! 絶対に助けるよ。恋人の後なんて追わせるかってんだ!」
「そうですね、必ず助けましょう」
鳳 湊(
ga0109)がポツリと呟く。
するとレイヴァー(
gb0805)がコインを弾き、手の上に落とす。
「表だな、なんとかなるさ。コインは嘘つかないんだぞ?」
「ふふ、きみらしいですね。それでは行きましょうか。一分一秒でも早く現場に到着した方がいいですから」
トリストラム(
gb0815)がレイヴァーに言葉を返して『ジーザリオ』のキーを取り出す。
今回は時間との勝負なので、桜崎とトリストラムが所持している車両『ジーザリオ』に乗って現地へと向かう事になった。もちろん車が通れるような道がなければ麓に車両を停めて走って向かうつもりだったのだが、救助要請をしてきた能力者も車で向かったという情報を得ているため、限りなく近くまでは車でいけるだろうと考えていた。
トリストラムの『ジーザリオ』には、所持者であるトリストラムはもちろん、レイヴァー、エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)、新条が同席する事になった。
そして桜崎の『ジーザリオ』には、所持者である桜崎、鳳、榊、緑(
gb0086)が同席して、二台の『ジーザリオ』は二人の能力者が救助を待つ山へと急いで走り出したのだった。
〜空から来る透明に近い鳥〜
「此処までが限界――だろうな‥‥」
先を進んでいた桜崎は呟くと『ジーザリオ』を停めて、車両から降りる。道はまだもう少し続いており、車両でも進めそうなのだが、あまり戦闘区域に近い場所に停めると戦闘に巻き込まれて『ジーザリオ』が大破するかもしれない。
そうなったら怪我人の能力者を運ぶ事が出来なくなる――と考えた。
「頂上まではもう少し距離があるみたいですね、急ぎましょうか」
トリストラムも『ジーザリオ』から降りて、他の能力者に向けて告げると走り出しのだった。
ジーザリオを停めた場所から、約十分程度で山頂付近までやってくる事が出来た。もちろんこれは彼らが『能力者』だったからだろう。普通の一般人では十分程度で来る事など出来ないのだろうから。
「あれが‥‥慰霊碑」
鳳がポツリと呟いて、視界に入ってきた大きな石を見る。確かに『慰霊碑』と呼ぶにはあまりにも不恰好なものだが、それでも鳳は慰霊碑の主『シュリオ』は幸せなのだと心の中で呟く。
「こっちに血の跡が続いている‥‥結構な量だ」
榊が見つけた大量の血痕を見て、少しだけ嫌な予感がよぎる。人間という生き物は不思議なもので、此方の調子が良い時の『予感』なんて当たりはしないのに、此方が窮地に陥っている。もしくは当たって欲しくない時に限って『嫌な予感』は当たるものなのだ。
「右に避けてっ!」
エリアノーラが何かに感づいたかのように叫び、能力者達はエリアノーラから向かって右へと避ける。
すると避けると同時に地面が何かに攻撃されたかのようにぱっくりと割れている。
「‥‥これが、気づかなかった、原因‥‥?」
緑が巨鳥キメラを見て小さく言葉を漏らす。これなら攻撃されるまで気づかなかったわけだ、他の能力者も納得したような表情で巨鳥キメラを見ていた。
その巨鳥キメラは、透き通って後ろの景色が見えるほど、限りなく透明に近いものだった。
「‥‥墓参りに来ている奴に不意打ちなんかしてるなよな――おら、お前の相手はこの俺だ‥‥とっととかかってきやがれ」
桜崎は小銃『S−01』で巨鳥キメラに攻撃を仕掛ける。
今回の作戦は桜崎と緑が囮役となって巨鳥キメラを引き付け、岩場に隠れて鳳とトリストラムが援護として攻撃を仕掛け、エリアノーラも射撃組が翼を落として巨鳥キメラが地面に落ちてくるのを待つ。
彼女は遠距離で戦える武器を持っていないため、落ちてきた所をすぐに攻撃出来るように『月詠』を握り締めていた。
「おい、そこに眠っている人! アンタが命をかけて誰かを護る高貴な心を持ってるんなら、今、アンタの大事な人も護れよ! 俺達も手伝うから!」
新条は慰霊碑に向かって叫び、レイヴァー、榊と共に能力者二人を探しに走り出した。
〜消えた能力者を探せ〜
「あれだけの出血をしているわけだから、そんなに遠くへいけるとは思えないんだけどな」
レイヴァーが呟きながら、血痕を辿って能力者達を探す。来た道とは逆の方に血痕は続いており、何かを引き摺るような跡も見られた。
恐らくはどちらかが、どちらかの能力者を引きずって歩いているのだろう。
「二人仲良く眠らせる――‥‥そんな事させやしない」
新条は呟きながら血痕を辿り、能力者二人を捜索する。
「おい、見つけたぞ!」
榊が一方を指差しながら叫ぶ。彼が指す方向には女性能力者を護るように抱きかかえた男性能力者の姿があった。
「おい、大丈夫か! おいっ」
男性能力者の頬を軽く叩きながら新条が話しかける。見る限りでは女性能力者よりも男性能力者の傷の方が酷い。おそらく女性能力者を庇いながら此処まで逃げてきたのだろう。
「とりあえず気休めにしかならないかもしれないけど‥‥」
レイヴァーは『救急セット』で簡単な治療を行う。女性能力者も傷は深いが、男性能力者の方は命に関わるかもしれないから早急に治療を行う必要があったのだ。
「とりあえず二人とも『ジーザリオ』の所まで運ぼう」
榊が男性能力者を、レイヴァーが女性能力者を背負いながら『ジーザリオ』まで二人を運んだのだった。
〜巨鳥キメラ VS 能力者達〜
「‥‥仲間を、傷つけた‥‥翼あるモノ‥‥その翼に、欺かれるといい‥‥それに」
緑は「グラップラーの脚をなめないで欲しい、ですね」と言葉を付け足して巨鳥キメラに『ディガイア』で攻撃を仕掛ける。
もちろん、そのままでは攻撃出来ないのだが、援護射撃や同じ囮役の桜崎が引き付けて、巨鳥キメラが一度下へと降りてきた所を緑が攻撃を仕掛けたのだ。
「やっぱりこの辺は攻撃がし辛いみたいですね」
鳳は『アサルトライフル』で攻撃を仕掛けながら小さく呟く。彼女とトリストラムは岩場に身を潜めながら攻撃を仕掛けている為、巨鳥キメラから攻撃は来ない。先ほどからの戦闘を見ている限り、巨鳥キメラには羽を飛ばしたりなどの遠距離攻撃などは存在しないらしい。
そもそも『鳥』とは名ばかりで、羽などは何処にも見当たらない。よって手足の鋭い爪を用いた攻撃しか持っていないのだ。
「キメラの翼はもうじきで落ちますね」
ぼたぼたと流れ落ちる血を見て、トリストラムが呟く。
そして再び攻撃を仕掛けようとした時に、負傷した能力者達を探しに行っていた能力者達が戦線へと戻ってきた。
「遅くなってすまない、負傷者を『ジーザリオ』に置いてきた」
榊が『イグニート』を構えながら、小さく呟く。
「早く戦闘を終わらせて病院に運ばないと、男の方がヤバイ。急ごう」
新条も『超機械y』を構えて攻撃を仕掛ける。電磁波の攻撃のおかげで巨鳥キメラがぐらりと揺れ、地面へと落ちる。
「此処まで何も出来なかったんだから――その分、強く行くわよ」
エリアノーラが『月詠』を振り上げて、巨鳥キメラの翼を斬り落とす。
「これで空に逃げる事は出来ないでしょう」
エリアノーラは離れ際にもう一撃与えてから離れる。翼を落とされたダメージが酷いのか、巨鳥キメラは先ほどまでの素早さを出せずにいる。
そこへ榊が『イグニート』で巨鳥キメラの体を貫き、地面へと刺す。
「僕たちは先人達の二の舞にはなりませんよ」
レイヴァーは呟くと『ファング』で攻撃を与える。
「真デヴァステイター‥‥外しません」
トリストラムは呟くと『鋭覚狙撃』と『影撃ち』を使用して攻撃を仕掛ける。
そして桜崎も同じく『狙撃眼』と『影撃ち』を使用して巨鳥キメラに攻撃を仕掛け、彼の攻撃がトドメを刺す形になったのだった。
〜最も天国に近い場所で‥‥〜
「迷惑をかけたわね、ごめんなさい」
ジーザリオに戻ると女性能力者は申し訳なさそうに謝ってきた。
「貴方の恋人は幸せですね、慰霊碑を作ってもらえるのですから‥‥」
鳳が小さな声で女性能力者に話しかけた。
「え?」
「私達は戦いの果てに慰霊碑など建たないでしょう。それは、ただの兵士が戦場で果てただけに過ぎないのですから‥‥」
鳳は空を見上げながら言葉を続ける。
「だけど何時かこの『想い』が、人々に届くことを信じて戦うしかありません‥‥私達は誰かのために戦うのではなく、己で決めた道を進んでいるだけなのですから‥‥」
自分で決めた道、女性能力者は鳳の言葉を繰り返すように小さく呟いた。
「貴方が助かったのは運がよかったからと、そこの彼――そして、あの場所で眠る彼が償いのつもりで助けてくれたのかもしれませんよ」
死んで尚も残る思いか、凄いですね――と新条は言葉を紡いだ。
「死んで残る思いより――私は生きて帰ってきて欲しかったけれどね」
女性能力者は切ない笑顔を見せて、新条に言葉を返す。
「えぇ、分かってます。まず生きて、切ない想いをさせない事が重要なんですよね」
新条は苦笑交じりに呟く。
「夭逝するのは、その魂が主に愛されすぎた為に‥‥実際、こうでも考えなきゃ、やりきれないでしょ‥‥命の重さは平等なんかじゃ、ないんだし」
エリアノーラが女性能力者に呟くと「そうね、アイツは‥‥誰からも好かれたから」と女性能力者は笑いながら言葉を返した。
「何かを守り抜いた対価としての死というものは、本人は満足かもしれないけれど、遺された方や護られた方はキツいのよね」
だから、彼が生きられなかった分までせいぜい人生を謳歌する事ね――エリアノーラの言葉に「そうするつもりであの場所へ行ったのよ」と少し寂しそうな表情で言葉を返してきた。
「ここは、天に近い‥‥主の御許に近い‥‥君の友達を、見守ってあげて」
能力者達が『ジーザリオ』が向かった後、緑と榊だけは慰霊碑のところへと残っていた。
榊は汚れた慰霊碑を綺麗にするため、緑は祈りを捧げるためだった。
「こんなもんかな、これくらいの始末はしないと、きちんと任務を達成したという事にならないからな」
結局、この場所に残ったことが原因で『ジーザリオ』に乗り切らない二人分として麓まで走っていったのだとか‥‥。
END