●リプレイ本文
「俺は‥‥怖かったんだ」
任務地へ向かう前にアリサの姉を見殺しにしてしまった男性能力者・マコトに能力者達は話を聞いていた。
彼は数人の能力者と一緒にキメラ退治へと向かったらしいのだが、キメラに負傷させられて逃げるように帰ってきたのだという。
後ろから「助けて」と懸命に叫ぶ少女の声を聞かぬように両手で耳を塞ぎながら。
「俺はあれから――能力者として戦う事が出来ない。あの子の声が頭に響いて‥‥消えないんだ」
マコトの話を聞いて「やはりか」と九条・命(
ga0148)が小さく呟いた。九条はアリサ姉の件が彼の心の楔になっていると考えていたのだ。
そして、それは九条の予想通りだった。
「ふざけるな、適わないという理由で引いたのならば、お前はもう能力者として地に落ちている。責められている理由を知りながら、如何すればいいかなど思うことは愚か」
御影・朔夜(
ga0240)が激昂したようにマコトに話しかけていると「まあまあ」と鳥飼夕貴(
ga4123)が宥めるように話に入ってきた。
「あのね、失敗は反省するべき。だけど引きずらずに糧にしないとだめだぞ」
鳥飼の言葉を受けて、マコトは気まずそうに俯く。
「キミは一人じゃない、仲間だっているんだ。だから戦いから逃げないで――今回の作戦についてきて」
鳥飼の言葉に中々返事をしないマコトを見て、櫻杜・眞耶(
ga8467)がため息混じりに言葉を紡ぎだす。
「過ちは誰にだってあります。愚か者とは、その過ちを認めて正そうと努力しない者のことです」
貴方は愚か者ですか? 櫻杜の言葉にマコトの肩が小さく震える。
「‥‥俺は、怖いんだよ。また自分が助かる為に誰かを見殺しにするんじゃないかって‥‥」
マコトの言葉に絶斗(
ga9337)が「‥‥お前が‥‥」と小さな声で話し始める。
「どんな理由があろうとも‥‥あんたは人を‥‥しかも女性を見殺しにした‥‥それは許される事じゃない‥‥」
絶斗は一度言葉をとめ、「だが‥‥あんたは‥‥まだ変われる」と言葉を付け足した。
「変われる‥‥? 俺が? ‥‥まだ、大丈夫なのか?」
マコトの言葉を聞いて「いつまでもうじうじしとるんやないで!」とこうき・K・レイル(
gb0774)が大きな声で叫んだ。
「見殺しにしてしまった事を後悔しとるようなら、そんなもんするんやない! 後悔は何も生まへん、ただその人をその場に縛り付けるだけや! ‥‥だから、ワイ等と一緒に来いや」
こうきの言葉でも躊躇していると「前へ進むためにも一緒に行きましょう」と都倉サナ(
gb0786)がマコトの前に立ち、穏やかな笑みを浮かべて話しかける。
「分かった――俺も、行く」
マコトは強く目を閉じ、自分の心にある恐怖を振り払うように頭を振ると、立ち上がって能力者達と一緒に問題の森へと向かい始めたのだった。
任務へ向かうマコトの姿を、離れた所でアリサが見ているとも気づかずに‥‥。
〜狼男の潜む森〜
「森の中の狼男か‥‥猟師に狩られる運命にある類の奴だな」
九条が森の中に足を踏み入れ、周りを見渡しながら呟いた。
「大丈夫ですか?」
少し震えているマコトを見て、木花咲耶(
ga5139)が話しかける。
「あ、あぁ‥‥大丈夫だ」
自分の武器である弓を持ち、マコトは拳を強く握り締める。
「私達は神ではないので、救うにも限界があります。ですから行動は慎重に行わなければなりません――任務失敗は誰かを不幸にしてしまうのですから」
木花の言葉で、マコトはアリサの事を思い出した。姉の死を分かっているはずなのに、毎日本部へ来て『助けて』と叫ぶ少女。
どれだけ苦しんだのだろう、マコトは心の中で呟き、罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。
「さて、動き出すかな」
九条は呟くと、囮役としてキメラを探しに出て行く。彼がキメラをおびき出して、他の能力者達は待ち伏せしている場所へと誘導していく――これが今回の作戦だった。
「俺が行ったときには、此処を真っ直ぐ行った所に少し広い場所がある。そこにいた‥‥木に傷をつけてあるから、それを目印にいけば‥‥」
マコトの言葉に「分かった」と言葉を返して、囮として出て行ったのだった。
〜鋭い牙を持つ狼男〜
「‥‥これか」
九条は木につけられた傷を手で撫で、短く呟く。後ろを見れば、九条より距離を置いて待ち伏せ班も移動を開始している。
後は九条がキメラを見つけて、待ち伏せ班のところへ誘導すれば此方の作戦通りになる――ハズだったのだが‥‥。
「―――――っ!?」
突然、雄たけびのようなものが森中に響き渡り、木の上から狼男キメラが九条に向けて攻撃を仕掛けてくる。
上からの攻撃だったが、雄たけびのおかげで九条は攻撃を受ける事なく無事によけることが出来た。
「さて、わざわざ目立つように行動してやったんだ。次はこっちについてきてもらおうか」
九条は『砂錐の爪』を装着した『ライアシューズ』で狼男キメラの頬を掠めるような攻撃を仕掛ける。
もちろん、これは挑発的な意味を持つ攻撃で狼男キメラは再び吼えた後に仲間達の元へ向う九条目掛けて走り出した。
それから狼男キメラの攻撃を避け、そして牽制攻撃を仕掛けつつ待ち伏せ班が潜む場所へと狼男キメラを誘導していく。
九条から少し距離を置いた前には御影が待機しており、小銃『シエルクライン』で九条に当たらぬように攻撃を仕掛けた。
そして、九条が待ち伏せ班と合流するとキメラを囲むような形で陣形を取り、それぞれの役割で狼男キメラへと攻撃を仕掛け始めたのだった。
「さぁ、私と勝負なさい」
木花は挑発するように狼男キメラへと言い放つと、狼男キメラが木花に標的を定めて攻撃を仕掛けた。
しかし、狼男キメラの攻撃は木花の持つ『エアストバックラー』のおかげで、木花自身にダメージはない。
「素早いだけですわね。その程度の攻撃ですか」
ふ、と嘲るような笑みを見せると狼男キメラは激昂したのか先ほどよりも強い攻撃を仕掛けてきた――のだが絶斗の攻撃によってそれは遮られた。
「ドラゴンキィィックッ!」
他の能力者達が攻撃を仕掛けている間に絶斗は木の上に登っていて、木花へと攻撃を仕掛けた瞬間に勢いをつけて飛び降り、狼男キメラに蹴りを食らわす。
「ワイの弓をくらえや!」
絶斗の攻撃によって弾き飛ばされたところを、こうきが『長弓』を、そして都倉が『ロングボウ』で攻撃を仕掛ける。弾き飛ばされて、宙を移動している狼男キメラは二人の攻撃を避ける事が出来ずに左足と右手にそれぞれダメージを負う。
そして、着地点を狙って鳥飼が『蛍火』と『刀』で、櫻杜が『刀』と『菖蒲』で攻撃を仕掛ける。
「素早い相手ならば、動けぬように攻撃すればいいだけのこと‥‥此方も参ります」
木花は呟くと名刀『国士無双』を構えて『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して狼男へと攻撃を仕掛ける。
「さて、そろそろ終わりにさせてもらおうか」
九条が呟くと『ジャック』で『急所突き』と『瞬即撃』を使用して狼男の腹部へと攻撃を仕掛ける。
「‥‥笑わせるな、この程度だと? ‥‥この程度の奴にお前は尻尾を巻いて逃げたのか」
御影はマコトに視線を向け、忌々しげに呟くと『強弾撃』と『影撃ち』で攻撃を仕掛け、トドメといわんばかりに『二連射』を二連続で使用して狼男キメラを退治したのだった。
「‥‥俺も、あんたらみたいに強かったら‥‥あの子を見殺しにしなくて済んだのに」
自嘲気味に呟くマコトに「まだそんな事を言っているのか」と御影がジロリと睨みながら言葉を返してきた。
「お前に足りないものは、心の強さ、覚悟を持つ強さだ。その強さを持たぬ者が戦いに挑んでもお前のような結果を残すばかりだ」
御影の言葉にマコトは俯くと、小さなペンダントが視界に入る。
「‥‥これは‥‥」
地面の上で鈍く光るペンダントをマコトが拾い上げると「‥‥ありさ、と書いてありますね」と都倉もペンダントを覗き込みながら呟く。
赤い宝石を真似たビー玉が飾られた後ろには黒いペンで『ありさ』とお世辞にも上手とは言えない文字が書かれていた。
「ありさ――て本部で騒いどる子の事ちゃうん?」
こうきが呟くと「恐らく、間違いないだろうな」と絶斗が短く言葉を返す。
そして、能力者達はアリサに今回のことの報告、そしてマコトは謝るために本部へと帰還していった。
〜私は貴方を許さない〜
「‥‥これ、お姉ちゃんにお守りに貸したペンダント‥‥」
アリサは少し血で汚れたペンダントを大事そうに握り締めると「‥‥ありがと」と俯きながら言葉を返してきた。
「お姉ちゃんはいつ戻ってくるのかな、ずっと待っているのに」
涙を溜めた瞳でアリサが小さく呟く。その表情を見る限り、アリサ自身は姉の死を認めているのだと能力者達には一目瞭然だった。
「‥‥現実を直視しなさい。姉様の死を、あなたはもう気づいているのでしょう?」
木花が問いかけると、アリサはビクリと大げさに肩を震わせる。
「‥‥お姉ちゃんは、死んでない――絶対に帰ってくるもの‥‥」
「もう、お姉さんを眠らせてあげましょう?」
櫻杜がアリサと目線を合わせるようにしゃがみながら話しかける。
「眠らせる‥‥?」
アリサが泣きそうな表情で能力者達を見上げる。すると、こうきがしゃがみこんで「せや」と言葉を返した。
「確かに、お姉ちゃんは死んでしまったわ‥‥でもな、ここでアリサちゃんが泣き続けるとお姉ちゃん心配していつまでも眠る事が出来へんやろ?」
アリサちゃんはお姉ちゃんが大好きなんやろ? こうきがアリサに問いかけると、アリサは首を縦に振る。
「だったら大好きなお姉ちゃんが安心して眠れるように笑って見送ってあげるんや‥‥な?」
こうきの言葉に「‥‥私のせい?」と涙の混じった声で問いかけてくる。
「違う、俺のせいだ‥‥俺が弱かったから、俺はキミに悲しい思いをさせてしまったんだ」
マコトが「本当にすまないことをした」と頭を下げて心からの謝罪をする。
「私は‥‥貴方を、許さない」
涙を堪えてアリサが呟いた言葉に、マコトは苦しげな表情を見せた。
「今度、お姉ちゃんみたいな人を出したら‥‥私は貴方を許さない。本当にごめんなさいって思ってるなら‥‥困っている皆をこれから助けていって」
アリサの言葉に、今度はマコトが泣きそうな表情を見せて「‥‥分かった」と言葉を返した。
アリサとマコトの問題が解決した後、絶斗は本部の外に出て空を見上げていた。
「‥‥今日は‥‥あなたのことを思い出したよ‥‥強くて優しくて‥‥俺を護ってくれた‥‥姉さんのことを‥‥」
その後、全てが吹っ切れたわけではなさそうだが、仲間と一緒に任務地へ向かうマコトの姿を能力者達は見かけ『もう大丈夫だ』と思ったのだった‥‥。
END