タイトル:芸人道中記マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/14 01:56

●オープニング本文


俺は売れない芸人・山吹 嵐(やまぶき あらし)ッス!

どーぞ、ご贔屓に!

※※※

「次の公演は――‥‥少し遠いなぁ」

山吹 嵐は自分のスケジュールを見ながらため息混じりに呟く。

自称芸人を名乗る彼は、何処かに所属しているとかではなく個人で芸を見せて回っているのだ。

だから公演なども自分から電話をしたり、手紙を送ったりでさせてもらえるように交渉を行っている。

「そういえば、その町の近くにはキメラがいるって噂よ」

知り合いの女性が思い出したように呟くと「げ」と嵐は下品に言葉を返す。

「‥‥‥‥俺の芸ってキメラに通じるかな?」

嵐が唸りながら呟くと「無理じゃない?」と女性は即答で言葉を返してきた。

「‥‥なんか酷くね?」

「だって本当でしょ? 人間相手にも笑いを取れないんだから」

「うぅ‥‥酷いけど確かに‥‥」

がっくりとうな垂れながら嵐は呟く。

「キメラ相手に笑いが取れたら、能力者なんて必要なくなるじゃない。それこそ世界の英雄になれるわね――ま、笑いを取る前に貴方の命が取られてそうだけど」

けらけらと笑いながら女性は言葉を続ける。

「本部で能力者を雇って町まで護衛してもらうのね」

「そーするよ、死んだら意味ないからな」

嵐は呟きながら本部へと向かっていったのだった。

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
門鞍将司(ga4266
29歳・♂・ER
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
志羽・翔流(ga8872
28歳・♂・DF
城田二三男(gb0620
21歳・♂・DF

●リプレイ本文

「キメラを笑かそうっちゅー姿勢に感動した! こう、同じ志を持つ仲間として!」
 ぐっと握り拳を作りながらクレイフェル(ga0435)が山吹 嵐に話しかけた。
 どうやら同じ芸人気質を持つ者として、クレイフェルは山吹に興味があったようだ。
「まぁ‥‥このご時世に旅芸人とは‥‥なんとまぁ、酔狂と言いますか」
 翠の肥満(ga2348)が苦笑気味に呟き「まぁ僕も似たようなものですか」と言葉を付け足した。
「何で私ってお笑い関係の人に縁があるのかしら。ともかくお仕事ですもの、きちんとやり遂げないとね」
 小鳥遊神楽(ga3319)は「宜しく」と山吹に手を差し出しながら挨拶をした。
「山吹さん、キメラ相手に芸を披露するのはやめてくださいねぇ。危ないですしぃ、手間がかかりますのでぇ」
 門鞍将司(ga4266)が山吹に話しかけると「当たり前ッスよ!」と慌てて言葉を返した。
「俺だって死にたくないし! キメラに芸が通じるとは思ってないし――人間相手にも笑ってもらえないのに」
 がっくりと肩を落としながら山吹は言葉を返した。
「でも人間相手に通じないからキメラに通じないってワケじゃないんだよなぁ‥‥」
 山吹がぼそりと呟いた言葉に能力者達は「え」と嫌な汗が頬を伝うのを感じたのだった。
「キメラを笑わせるとかバカみてぇッスけど、それってマジパネェッスよね!?」
 少々興奮気味に叫ぶのは植松・カルマ(ga8288)だった。
「パネェ奴は俺大好きなんで、いっちょドーンと守ってやろーじゃねえッスか!!」
 宜しく! と山吹の手を握りぶんぶんと勢いよく振りながら植松は少々激しい挨拶を終えた。
「は、はは‥‥よ、宜しくッス‥‥」
 山吹も言葉を返すと「能力者がこんなに揃っているんだから、大丈夫だよ」と鳥飼夕貴(ga4123)が呟いた。
「‥‥先人いわく‥‥『笑いは人類の財産である』‥‥か‥‥」
 こんな時でもいるもんだな、芸人って奴は――言葉を付け足しながら城田二三男(gb0620)が呟き、能力者達は山吹を目的の町まで送り届けるべく行動を開始したのだった。


〜山吹の嫉妬?〜

 今回、山吹を無傷で町に送り届ける為に能力者達は班を分けて行動することにしていた。
 まず、キメラが現れるまではクレイフェルと翠の肥満が前方を歩いてキメラに対しての警戒を怠らないようにする役目を受け持っていた。
「それにしても‥‥あなたとは気が合いそうですねぇ。クレイさん‥‥もといハリセンマン。町に着いたらあなたも公演に飛び入り参加なさっては?」
 翠の肥満がニヤリと不敵な笑みを浮かべながらクレイフェルに話しかける。
「な、何スか――そのハリセンマンという呼び名は! 名前だけで俺よりウケそうな感じがするんスけど!」
 山吹が翠の肥満とクレイフェルとを交互に見ながら呟く。
「ずるいッスよ、傭兵で芸人なんて‥‥羨ましい」
 ジト目で自分を見つめてくる山吹に「ちゃうて! 俺は芸人やのうて傭兵や!」とクレイフェルが慌てて言葉を返す。
「あらあら、前の方は結構楽しそうね」
 小鳥遊がわいわいと騒ぐ三人を見ながら目を細めて笑みを浮かべる。
 だが、その笑みも突然険しいものへと変わってしまう。
「――あれが問題の橋ッスねぇ?」
 クレイフェルたちも山吹を後ろの方へと下がらせ、能力者達はそれぞれ戦闘の準備を始めたのだった。


〜戦闘開始、決戦蜘蛛型キメラ〜

 蜘蛛型キメラとの戦闘の時にキメラ攻撃班と山吹護衛班の二つに分ける事にした。
 攻撃班は、翠の肥満、クレイフェル、小鳥遊、鳥飼の四人。
 護衛班は、植松、門鞍、城田の三人。
「‥‥来たか‥‥」
 城田が短く呟き『刀』と『ヴィア』を構える。
「‥‥落ち着けよ‥‥今回は護衛だ‥‥対象からは離れるな‥‥衝動を抑えろ‥‥」
 ぶつぶつと呟きながら山吹を後ろに下がらせ、キメラが襲ってきてもいいように攻撃態勢を整える。
 どうやら彼は覚醒を行うと独り言が増えるようだ。
「護衛班として嵐サンには指一本糸一本触れさせねぇッスよ!」
 植松も『フォルトゥナ・マヨールー』を構え、攻撃班の支援を行う。もちろん味方には当てないように充分に気をつけている。
 前衛で攻撃を仕掛けたのはクレイフェルだった。彼は蜘蛛型キメラの背後にまわり『巨大ハリセン』でスパコーンと攻撃を仕掛ける。
 そして武器を『ルベウス』に持ち替えて吐き出される糸を裂きながら攻撃を仕掛けた。
「さぁて、お仕事だい!」
 クレイフェルの攻撃が終わるのを確認すると、煙草を吐き捨てマスクを引き下げながら『ライフル』で攻撃を仕掛ける。その際に『強弾撃』を用いながら攻撃を仕掛け、小鳥遊も『スナイパーライフル』で攻撃を仕掛ける。途中で蜘蛛型キメラは糸を吐き出して此方の動きを封じようとするが鳥飼は『蛍火』でそれを裂いて『刀』で攻撃を仕掛ける。
「公演の時間まで時間がないようだ、さっさと消えてくれるか?」
 鳥飼は攻撃を仕掛けながら呟くと今までよりも与えるダメージが増えている事に気づく。
 後衛で山吹を護衛している門鞍が『練成弱体』で蜘蛛型キメラの防御力を低下させて『練成強化』で能力者達の武器を強化していたのだ。
「怪我をされた方はぁ、治療しますので言ってくださいねぇ」
 門鞍が後衛の方から能力者達に言葉をかける。戦闘は圧倒的に能力者たちが有利な立場に立っていたが、油断は出来ない状況だった。
「危ないっ!」
 能力者の誰が叫んだのかは山吹には分からなかった。能力者よりも目の前に迫る蜘蛛型キメラに体が恐怖で動かなくなり、その場に座り込む。
 来るであろう衝撃に山吹は目をきつく閉じたが、いつまで待っても痛みはやってこない。恐る恐る目を開くと自分を庇う城田の姿があった。
「わ、あ‥‥血、血が‥‥」
 山吹は持っていたハンカチで城田の血を拭うが「‥‥これくらい問題ない‥‥」と再び戦線へと戻ろうとする。
「‥‥下手に動くなよ、お笑い芸人‥‥終わるのをジッと待ってろ‥‥」
「で、でも血が――」
「‥‥なに‥‥盾くらいにはなってやるさ‥‥時々は剣にもな‥‥」
 無造作に血を拭い城田は『刀』を構える。後衛にまで攻撃がやってくるくらいだから、次も来ないとは言えないからだ。
 同じ護衛班の門鞍、植松も同じ気持ちらしく襲い来るキメラに対して警戒を強めた。
「こんな所まで下がらずに――俺達の相手をしてもらいたいだな」
 鳥飼が『蛍火』で蜘蛛型キメラを斬りつけながら呟き、前衛班の所まで蜘蛛型キメラを弾き飛ばす。弾き飛ばされた場所は小鳥遊の近くで、彼女は蜘蛛型キメラに『スナイパーライフル』を向けて冷たく呟く。
「あたしの銃口の前に来たのが己の不運と心得るのね。とっとと消えうせて」
 小鳥遊は呟くとトリガーを引き、蜘蛛型キメラに攻撃を仕掛ける。攻撃された瞬間に僅かな隙が生じて、能力者がそれを見逃すはずも無く総攻撃を仕掛けて蜘蛛型キメラを無事に倒したのだった。


〜戦闘終了〜町へ到着〜

「そういえば嵐サンはまた何で芸人に?」
 蜘蛛型キメラを退治した後、けが人の応急処置を行い、能力者達と山吹は町を目指して足を動かし始める。
 その途中で植松が山吹に疑問に思っていた事をストレートに問いかける。
「こんな世の中なんだし、俺らみたいなバカがいてもいいじゃんって感じスかね」
「俺――ら?」
 植松が聞き返すと「本当は二人組の芸人だったんだけど」と山吹は苦笑混じりに言葉を返す。
「相方は今日、休みなの? 一人よね?」
 鳥飼が問いかけると山吹は少し間を空けて「死んだッス」と言葉を返した。
「初めての公演に行く途中、キメラに遭遇しちゃって殺されたんスよ」
 山吹が背中を見せながら呟く。背中を見せたのは自分の表情を見られたくないからだろう。
「ツラい時は無理する必要ないと思うわ」
 小鳥遊が話しかけると「それじゃダメっすよ」と山吹は言葉を返してくる。
「芸人は笑わせてナンボ! 芸人が悲しい顔とかつらそうな顔見せたらいけないんスよ」
「‥‥だそうですよ、ハリセンマン」
 翠の肥満が視線をクレイフェルに向けながら呟く。
「いや、何でそこで俺に話が振られるん? 俺は芸人やのうて傭兵やから」
 苦笑しながらクレイフェルが言葉を返すと「町が見えてきましたよぉ」と門鞍が前方を指差しながら呟いた。
「これで僕らの仕事はお終いだ。あとはあなたの仕事を頑張って。これ、あげますよ」
 翠の肥満は呟きながら『牛乳』を山吹に渡す。
「飲むと力が湧いてくる気がしないでもありません」
 どっちだよ、山吹はツッコミを入れたかったが「さんきゅ!」と言って一気に飲み干す。
「折角だしぃ、山吹さんの芸を拝見して帰りましょうよぉ」
「え、マジ!? じゃあチケット――」
「拝見料はタダにしてくださいねぇ。苦楽を共にした仲間じゃないですかぁ。護衛してさしあげたのですしぃ」
 意外とちゃっかりな性格に山吹は苦笑しながら「オーケー」と言葉を返した。
「嵐サン! 俺って死にたくねーから能力者やってんスよ。そんでパネェ奴は大好きッス。
キメラを笑わせようなんて奴はマジパネェんで、俺ファンになっちゃうッスよ!」
 町に到着して、関係者側の方へと足を進める山吹に植松が叫んで話しかける。
「俺のファンなんてすっげぇ嬉しい! 今日の芸、頑張るから見てってくれな!」


 そして、能力者達は山吹の芸を見るために席についた。肝心の芸は――‥‥背筋が凍るほど笑えないものばかりで、逆に笑えないことが観客にはウケているようにも見えた。
「なんつーか‥‥寒っ」


END