●リプレイ本文
「さぁ! ボクとグレイシの為に頑張っておくれーーっ!」
はははは、とコリオは高らかに、そしてけたたましく叫ぶ。
「本当に懲りませんねぇ‥‥コリオさんも。それと初恋に三回目とかないと思うんですけど‥‥」
遠い目をしながらリゼット・ランドルフ(
ga5171)がため息混じりに呟く。
「全くだ、今度は一体何をやらかすんだぁ?」
オーガン・ヴァーチュス(
ga7495)もリゼットの言葉に賛同しながら苦笑する。
そんな二人の会話を聞きつつ、そしてコリオを見ながら榊 紫苑(
ga8258)が小さくため息を吐く。
(「くそ〜‥‥ジンマシンが、出そうだ‥‥あまり近づきたくないが、しょうがないか」)
はぁ、と榊は疲れたようにため息を再度吐く。
「待ってておくれ! ボクの愛しいグレイシーっ!」
手を空高く上げ、無意味なポーズを取りながら叫ぶコリオの姿を見てホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は唖然としていた。
「これも‥‥恋は盲目、という奴だろうか?」
コリオを『遠くから』見ている分には楽しいかもしれないが、あまりお近づきにはなりたくない人物だ――ホアキンは心の中で小さく呟く。
だから今回の彼は『任務を受けた以上キメラは倒す』がコリオの恋の行方については『我関せず』を突き通すらしい。
「あたしも好きな人がいて、気持ちが分かるからお手伝いっ! と思ったけど‥‥‥‥あははははは」
葵 コハル(
ga3897)は引きつったように笑いながらコリオから視線を逸らす。
「今回はぁ『らぶれたあ』も48枚とぉ、随分増えましたねぇ。恋愛小説家になった方が宜しいのではないでしょうかぁ?」
門鞍将司(
ga4266)が穏やかな笑顔を浮かべながらコリオに話しかける。
「はっはっは! 確かにボクのグレイシに対する想いはさながら恋愛小説のようだけど! これはグレイシだけに見せたいからね! ボクは小説家なんてならないよ」
コリオは言いながら原稿用紙に書かれた『らぶれたあ』を見せてくる。
ここできっと能力者達は心の中で思ったことだろう。
『グレイシだけに見せたいんじゃなかったのか?』
――と。
しかも書かれている内容は『君はボクの太陽だ!』とか『君を思うと悪夢にうなされる』とか失礼極まりないことも書かれている。
「あ、あはは‥‥コリオさん、貴方のその相手に想いを伝えようとする勇気、少し分けてほしいくらいです」
ねいと(
ga9396)が苦笑しながら話しかけると「ボクが代わりにらぶれたあを書いてあげようか!」とある意味最強な提案が出される。
しかし、ねいとは「いえ、結構です」と即答で言葉を返す。コリオにラブレターを書かせては実る恋も実らなくなると考えたのだろう。
「‥‥‥‥ん?」
猫瞳(
ga8888)が眉を寄せながら小さく呟く。そしてコリオの前に立ち、ゴーグルをはずしてコリオの匂いを嗅ぎ始める。
「な、なんだい! ボクはちゃんとお風呂には入っているよ!?」
コリオが腕を鼻のところに持って行き、匂いを嗅ぎながら慌てたように叫ぶ。
「いや、そういう匂いじゃなくて――おまえ、何だか破滅っぽい匂いが全身に纏わりついてるぜ?」
猫瞳の言葉に「ええええっ! 縁起でもない事を言わないでおくれ!」とコリオは大げさに慌ててみせる。
「は、破滅とか言う前に早くボクをグレイシの所まで連れて行っておくれ!」
コリオは叫ぶと、グレイシへの想いを綴った原稿用紙(の入ったクラフト封筒)でバシバシと能力者を叩き始める。
これ以上、暴れられても適わないので能力者達は盛大なため息を吐きながらキメラがいる場所へと向かい始めたのだった‥‥。
〜コリオが想いを寄せるグレイシ、その正体は? 〜
「先に注意しとくよ? 戦闘中とかに余計な事をすると痛い目にあうからね」
キメラがいる場所に向かう途中、葵がハリセンをスイングしつつ、にっこりと笑顔でコリオに話しかける。
「し・か・も! 回数が増える度に痛みがランクアップするなんて!?」
あたしってばふとっぱらー♪ と叩くのを楽しみにしているかのように話す葵に「大丈夫さ! 余計な事はしないよ!」とコリオが自信満々に言葉を返した。
葵はハリセンを振り回しながら「それならいいんだけど♪」と答える。その時に携帯していた『夕凪』がゴトリと落ち「最終的にはコレかもね」と言葉を付け足す。
「‥‥ってお前は何を持ってきているんだ」
オーガンがコリオの荷物をチェックすると灯油が入った瓶とライターがコリオの持ち物から検出された。
「ほい、またまた没収な」
オーガンがコリオの荷物を取り上げると「あぁ! ボクの武器が!」と叫ぶ。
「さかきん! ボクの武器を奪い返してくれ!」
いつの間にか『さかきん』などというあだ名をつけ、馴れ馴れしく抱きついてくるコリオに榊は軽く殺意が芽生える。
「俺から離れてくれ、そして武器なんて持たずに大人しくらぶれたあでも守ってろ」
ジンマシンが出そうになるのを我慢しながら榊が言葉を返す。そして抱きついてくるコリオを見て、他の能力者はおかしそうに笑い、安心する。
『自分でなくて良かった――』
――と。
「‥‥俺は初めてキメラに同情するよ」
ホアキンがコリオの騒がしく叫ぶ姿を見ながら小さく呟く。憎き敵であるキメラに対して哀れみを感じさせるコリオという男は、ある意味凄い男なのかもしれない――ホアキンはそう思ったが、やはりお近づきになりたくないため、コリオからは少し離れた場所に立っていた。
「――という事で失礼しますぅ」
いきなり門鞍がにっこりと笑い、コリオを簀巻きにし始めた。突然の出来事に「何事ですかーっ!」とコリオが叫ぶ。
「余計な事をされない為だぜぃ、大人しく簀巻きられてるんだな」
オーガンが簀巻きにされたコリオを抱え、目的の場所まで移動を始める。
「そういえばぁ、グレイシさんはどんな方なのですかぁ?」
門鞍が問いかけると「天使だね! ボクの心を惑わす悪魔でもあるけど!」と意味の分からない事を話し始める。
「うん、やっぱり破滅街道を行く奴なんだな、すでに頭が破滅的だよ」
猫瞳が頷きながら簀巻きられながらグレイシの惚気を話すコリオを見ていた。
それから、暫く歩いていくと問題の『植物園』を発見して、能力者達は戦闘準備を行い始めた。
〜戦闘・コリオの野次飛ばし攻撃〜
植物園の中を歩いていくと、中央部分にグロテスクな外見をした植物キメラがひっそりと立っていた。
今回の作戦は榊と門鞍がコリオの護衛役で、他の能力者達は植物キメラへ総攻撃を仕掛けるというもの。
今回の任務は前衛で戦える能力者が多いことから、短期決戦の作戦を行う事になったのだ。
「皆さん〜、コリオさんは私に任せてぇ、キメラをタコ殴りにしちゃってください〜」
門鞍が植物キメラに『練成弱体』を、能力者達に『練成強化』を行いながらエールを送る。
「これだけの、能力者が揃っているなら‥‥俺達は見守るだけでも大丈夫そうだな?」
問題はコイツだ、と榊は簀巻きられているコリオに視線を向け、ため息を吐く。
「それでは、さっさと片付けるとしようか」
左手に『ソード』を、右手に『フォルトゥナ・マヨールー』を構え、ホアキンが低く呟く。
「‥‥悪く思うな。厄介な男の恋路にたまたま立っていたのが、その身の不運だ」
ホアキンは多少キメラへ同情をしながら、植物キメラに攻撃を仕掛ける。最初に『ソード』で『紅蓮衝撃』を使用して植物キメラの本体を攻撃する。
一気に大ダメージを与えて硬い樹皮を削り取る作戦を彼は行ったのだ。樹皮のはがれた部分を『フォルトゥナ・マヨールー』で攻撃すると、植物キメラは苦しそうに体を蠢かせる。
「せめて‥‥よく燃える薪となってくれ」
ホアキンの攻撃が終わり、後ろへと下がる。それと同時に葵が長弓『クロネリア』で植物キメラを攻撃する。
「植物のクセに人に手を出すとは何と言う不届き者っ! 天に代わって成敗してあげる! もちろん恋路の邪魔もダメだよ」
葵は前衛能力者達の支援攻撃を行い、戦いやすい状況を作っていく。
「やはり――その枝、邪魔ですね」
リゼットがため息混じりに呟くと、うねる触手のような枝を『ソニックブーム』を使用して斬り落としていく。
「早くそいつを倒してグレイシの元へ生かせておくれーーーーっ! 何のための能力者だい!」
後ろから簀巻きにされているコリオが野次を飛ばしてくる。イラッと来るのは何故だろう。
「貴方が早く倒れてくれないから、あんな事を言われてしまうんです」
リゼットは『豪破斬撃』を使用して植物キメラの本体を攻撃する。彼女の攻撃が終わりかけた時に「今日のおいらは剣持ちだぜぃっ」と叫んでオーガンが『ヴィア』と『菖蒲』で攻撃を行う。
「早く倒さないと、コリオさんが暴れそうで怖いですね」
ねいとが苦笑気味に呟き『両断剣』を使用して植物キメラを攻撃する。
「植物ですし、斧とかを持ってきた方が良かったですかねっ!!」
攻撃を行いながら、ねいとが叫ぶ。
能力者達の総攻撃を受けて、植物キメラはたいした攻撃をする事も適わず、能力者の攻撃を受けるだけだった。
「さて、そろそろトドメかな」
猫瞳が呟き『電磁正拳突き下ろし』で根っこに攻撃を仕掛ける。
そして『布斬逆刃』で電磁波を物理ダメージに変換して攻撃を行う。
「これが物理ダメージの電磁波攻撃、必殺『猫瞳コレダー』!!!」
猫瞳が叫び『超機械』を使って攻撃を仕掛け、その後に他の能力者達も攻撃を仕掛け、植物キメラを倒したのだった。
〜コリオの愛の行方〜
「さてさて、今回はどっちに転ぶカナ? ‥‥‥‥ってあの人?」
葵が物陰から覗きながらコリオの三回目の初恋を見守り、呟く。
「とりあえず、俺は我関せずだな」
ホアキンはコリオを見ながらため息混じりに呟く。
今回の『グレイシ』についてだが、能力者達は『男』もしくは『ニューハーフ』だと考えていた。
「48枚のラブレターの力、果たしてどうなるかな、だぜぃ」
オーガンも小さく呟きながら、コリオとグレイシの様子をみている。
しかし――‥‥。
「あ、殴られた」
ポツリと呟いたのは猫瞳だった。
状況を軽く説明すると、クラフト封筒に入った『らぶれたあ』を渡し、自分の思いをグレイシに伝えたのだろう。
しかし、グレイシは顔を真っ赤にしてコリオを殴りつけたのだ。もちろんグーで。
「あれ、誰でしょう」
ねいとが指さしたのはグレイシより背の低い女性と小さな子供の姿。
「‥‥『奥さん』と『子供』にしか見えないな」
ホアキンの言葉に能力者達は苦笑するしかなかった。後から分かった事だが、コリオの三度目の恋の相手は『グレイシ』ではなく『グレイ』という名前だったとか。
グレイが『グレイ氏』と呼ばれていたのをコリオが勝手に『グレイシ』と勘違いしたのだ。
「だ、大丈夫。きっと4回目、5回目の初恋は来るよ。きっと‥‥」
生温い視線をコリオに送りながら葵が呟く。
「‥‥そうですね、今度こそ成功するといいですね」
限りなく棒読みでリゼットが呟くと「次、か。すぐに来そうだぜぃ」とオーガンが苦笑気味に言葉を返した。
どうせフラれるなら『らぶれたあ』を八分の一くらいまで切ってやればよかったか? とオーガンは心の中で呟きながら見事に砕けたコリオを見ていた。
「‥‥疲れた。何かをしたわけではないんだが、ひどく疲れた‥‥」
榊が呟くと砕けたコリオがくるりと向きを変えて榊めがけて走ってくる。
「さかきーーーん! ボクを慰めておくれええええっ!」
コリオの言葉に「げ」と呟き、榊は逃げの体制を取る。
それを見て、ねいとは「困りましたね」と呟くが、決して助けようとはしない。
その後、本部に帰還するまでに再びコリオは簀巻きにされ、報告を終えた後に解放して、被害を受けないように能力者達は走って帰っていったのだった。
END