●リプレイ本文
「今回は宜しく」
任務地へ向かう前に、今回一緒に同行する仲間達にナナシが軽く挨拶をした。
「‥‥復讐者‥‥か」
西島 百白(
ga2123)がナナシを見て、小さな声で呟いた。ナナシは『理由無き復讐者』として能力者の間でも少しばかり有名な存在だ。
だが、彼女自身『復讐者』と呼ばれる事に抵抗はないらしい。
「ナナシさん? スナイパーの小鳥遊神楽(
ga3319)よ、今回は宜しくお願いするわ」
小鳥遊が話しかけると「あぁ、此方こそ宜しく」と素っ気無い言葉が返ってくる。
「こんにちは、ナナシはどうしてバグアを憎んでいるのかな? 何故‥‥戦い続けるのかな」
皆城 乙姫(
gb0047)が挨拶をしながらナナシに問いかける。問われたナナシは少し考えこんだ後に「分からない」と短く答えた。
「憎しみは何も生まないよ? 理由が分からないなら尚のこと――ナナシは憎み続ける事に疲れるんじゃないの?」
ナナシは皆城の言葉を聞いて「‥‥疲れる? あたしが?」と首を傾げながら呟く。それは皆城に返した言葉ではなく、まるで自分に問いかけるような感じだった。
ナナシと皆城の会話を横で聞きながら夜坂桜(
ga7674)は穏やかな笑みを浮かべ、小さく呟く。
「人の戦う理由をとやかく言う覚悟など、私にはありません」
ただ祈るだけです、言葉を付け足しながら呟いた。
「‥‥しかし‥‥紛らわしいな‥‥」
ため息混じりに呟いたのはエリク=ユスト=エンク(
ga1072)だった。
「何が紛らわしいんだい?」
ナナシが問いかけると「お前の名前だ」とエリクは言葉を返す。
「確かに、ナナシ君とは随分な名前だ。それは自分を好きになれる名前なのかな」
国谷 真彼(
ga2331)がナナシに問いかけると「別に不便はしていない」と彼女は答えた。
「今回の敵は鳥型と聞いてるけど、誰か詳しい事を調べた?」
ナナシが能力者達に問いかける。すると国谷が調べていたらしく、メモを見ながら今回の敵について話し始めた。
「数は一匹しか確認されていないようですね。大きさは普通より少し大きめだそうです。後は自分達の目で確かめる事にしましょう」
国谷がメモを閉じながら呟く。
「そうだな、とりあえず目的地に移動しよう」
レティ・クリムゾン(
ga8679)が呟く。
「んでは、死なない程度に頑張りますから危なくなったら助けてくださいね」
岡田 和也(
gb0543)がおどけたように呟き、能力者達は鳥型キメラが潜んでいる山へと移動を始めたのだった。
〜戦う理由・戦わなければならない理由〜
「記憶があるって‥‥どんな感じなんだ? あたしは――『昔』がないから分からない」
山を登りながらナナシがポツリと呟く。
「あたしは自分の名前すらも分からなく、家族がいたのかさえ分からない。だけど一つだけ覚えている事は――怒りと憎しみ。これだけが今のあたしを作っている全てなんだ」
ナナシがポツリ、またポツリと呟いてくる。その言葉に『記憶がない』というだけでナナシがどれほど苦しんできたのかが垣間見えた。
「その怒りや憎しみに和解や共感が出来たとしても、共有は出来ない。それが復讐です」
国谷がナナシの呟きに言葉を返すと、ナナシは俯いていた顔をあげる。
「ナナシ君の言葉を聞いていると、キメラを倒す事でしか確認できない自分を理解してほしいというSOSにも聞こえます」
国谷の言葉に「確かにそうね」と小鳥遊も話に入ってくる。
「貴方の失われた記憶がどんなモノであったかなんて、もう誰にも分からないのかもしれない。記憶が戻るかも分からない」
小鳥遊は一度言葉を止め、ナナシの顔を真っ直ぐ見つめて「過去ばかりに目を向けずに、新しい関係を築いて未来を生きてみない?」と言葉を投げかけた。
「新しい――未来‥‥」
ナナシがポツリと呟いた瞬間、耳を劈くような奇怪な鳴き声が耳に入ってきた。
「まずはアイツを倒してからだ、あくまで冷静にな。頼むぞ」
レティがナナシに言葉を残し『ドローム製SMG』を装備して構える。
前衛で攻撃を行うのはレティ、西島、夜坂――そしてナナシの四人。残りの能力者は支援などをメインにする作戦だ。
「‥‥‥‥ゆくぞ」
エリクが呟きながら眼帯をはずして覚醒を行う。そして空から見下ろす鳥型キメラに洋弓『アルファル』で攻撃を仕掛けた。
だが、事前情報の『素早い』という事からエリクの攻撃は避けられてしまう。
「まずは降りてきてもらいましょう」
国谷が呟き、鳥型キメラに『練成弱体』を使用して鳥型キメラの防御力を低下させる。それと同時に自身に『練成強化』を使用して武器の強化を行った。
「これで視界を遮れればいいのだが‥‥」
レティが呟き『ペイント弾』を使用して鳥型キメラに向けて射撃を行う。彼女が放ったペイント弾は鳥型キメラの目に命中して、鳥型キメラは鳴き声をあげながら下にふらふらと落ちてくる。
落ちてくる鳥型キメラに備え、攻撃態勢を取っていた能力者達だったが――鳥型キメラは羽を飛ばす攻撃を行い、能力者全員にダメージを与えた。
「いたた‥‥こんな攻撃、事前情報にありましたっけ?」
岡田が呟き『ハンドガン』で鳥型キメラを牽制攻撃をして、主力の能力者達が動きやすいようにした。
「皆、頑張ってキメラを倒そうねっ」
皆城が呟きながら『練成強化』を使用して、武器が強化されていない能力者達の武器を強化する。
「ダメージ受けすぎた人は治療するからっ、無理はしないでね」
皆城は言葉をつけたし、いつでも治療できるように準備を行って後方に下がり。
「視界を奪われたからと言って‥‥翼が無くなったわけじゃないのよね」
小鳥遊は呟き『ドローム製SMG』で鳥型キメラの翼を重点的に攻撃する。
そして、小鳥遊の攻撃が終わり、鳥型キメラが動き出そうとした所を国谷が『エネルギーガン』で攻撃を仕掛ける。彼は『電波増幅』も使用していたため、武器は高火力になっている。
支援役の能力者達が攻撃を終わり、鳥型キメラを逃げられない状況まで追い詰めると前衛能力者達が動き出した。
最初に攻撃を仕掛けたのは、鳥型キメラに一番近い位置にいた西島だった。
彼は『流し斬り』と『紅蓮衝撃』の二段攻撃で鳥型キメラを攻撃して後ろに下がると、鳥型キメラに攻撃をさせる隙を与えないかのように夜坂が行動を開始した。
彼は『疾風脚』と『瞬即撃』を使用して鳥型キメラを攻撃する。そして攻撃が終わった後、岡田が鳥型キメラの攻撃を受けそうになったが、それを夜坂が庇う。
そしてレティが『ドローム製SMG』で攻撃を仕掛ける。そしてわが身を省みずにナナシが鳥型キメラに突っ込んで、持っていた武器で鳥型キメラを激しく斬りつける。
攻撃の後、ナナシが後方へ下がり、岡田が『レイ・バックル』を使用して『イアリス』で斬りつける。
その後、他の能力者で総攻撃を仕掛けて鳥型キメラを見事倒したのだった。
〜ナナシ‥‥彼女の名前は〜
「全ての敵を滅ぼした後‥‥お前は‥‥どうするのだ?」
鳥型キメラを倒し、少し休憩を取っていた時に西島がナナシに問いかける。
「‥‥倒した後、か――分からないよ。あんたは?」
ナナシが自嘲気味に言葉を返す。
「俺は‥‥仇のキメラを討つ為だけに‥‥生きているからな」
西島の言葉に「あたしと似たようなものじゃないか」と笑って言葉を返した。
「やはり『名無し』は紛らわしい――クローバー、今度からはそう名乗るといい」
エリクがポツリと話しかけてくる。彼の知り合いにナナシと同じ名前の知り合いがいるらしい。
だから『紛らわしい』と言っていたのだろう。
「‥‥クローバー、か。花言葉は『復讐』だね。あたしにはぴったりだよ」
ふふ、と少し寂しげに言葉を返すと「それは違う」とエリクは呟いた。
「クローバーには『約束』という花言葉もある‥‥」
エリクの言葉にナナシは「あたしには不似合いだよ」と言葉を返した。
「あたしは復讐なんていうどろどろとした感情によって生かされている――約束なんて言葉からは程遠いよ」
ナナシの言葉に「私も‥‥分かるよ」と皆城がポツリと呟く。
「私は研究材料の立場だった事がある。でも研究所の人たちは優しくて大好きだったよ‥‥だからバグアの攻撃で皆が死んじゃった時は憎みもしたよ?」
皆城はそのときの事を思い出しているのか、少し俯きながら言葉を続けた。
「だけど今は友達や仲間もいる。自分の力を皆の為に使って、少しでも私と同じ思いをする人を減らしたいと思う」
仲間がいる――それはレティも考えていた事だった。ナナシに足りないもの、それは『仲間』なのだと。
「だから、さっきも言っていたけど新しい名前は必要だと思う」
皆城がにっこりと笑顔で話す。
「エリクの言ったクローバーって名前と私が考えた椿って名前、好きな方を使って」
先ほどと同じような笑顔で答え、ナナシは少し不器用に笑って「ありがとう」と言葉を返した。
そして、夜坂と岡田が鳥型キメラに手を合わせ、能力者達は報告の為に本部へと帰還していった。
その後、UPC本部から『ナナシ』という女性能力者は姿を消した。
その代わり『椿・クローバー』と名乗る女性能力者が現れた。
復讐に囚われていた彼女が『仲間』を得た事で、少しずつ前へと進み始めたという事なのだろう。
END