タイトル:ギガンティック・トイマスター:三橋 優

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/17 00:46

●オープニング本文


 足の複雑骨折による入院生活3日目の朝。
 僕はものすごい地鳴りで目が覚めた。
 外を見ると真っ黒な箱のようなものが道路を走っている。
 ゴロン、ズシン。ゴロン、ズシン。
 ブロック塀も植木も家も関係なしに壊して、瓦礫の上をどんどん転がってゆく。
 お、次の建物は立体駐車場だ。この鉄筋コンクリートは壊せないだろう。
 でもその真っ黒な箱は、右側3分の1くらいの部分を縦にグルリンと回転させて器用に曲がってしまった。
 どっかで見たな、ああいうオモチャ。
 もう少し近くで見られたらなあ‥‥
 そうだ双眼鏡が有った、父さんが買ってくれたやつ。

 え? ちょ、ちょっとちょっと、そこの猫、危ないよ!?
 うわっ‥‥
 ああ‥‥
 ‥‥ああ‥‥
 ‥‥‥‥南無阿弥陀仏。
 動けなかったのかな‥‥? でも、緊張してたわけじゃないように見えたけど‥‥
 普通に座ってたんだよ‥‥なんでだろ。
 あっ、能力者だ。
 何人かは遠目からでも目立つ覚醒の仕方をしてる。
 そうか、やっぱりあの箱はキメラなのか。
 今度は横にグルリンと、中央3分の1くらいの部分が高速で回って傭兵達を弾き飛ばした。
 ゴロン、ズシン。
 あ。
 1人つぶされた。
 ゴロン、ズシン。
 ‥‥良かった、潰れてない。
 全身血まみれだけど立ち上がった。さすが能力者。すごいぞ能力者。
 キメラのあの動き、やっぱりどっかで見た事あるなあ‥‥
 3×3×3のブロックでできた立方体‥‥

 あ、今度は槍や銃でちくちくやり始めた。
 まあ近付かなければ、横にグルリン攻撃は受けないよね。
 移動する時のゴロンズシン攻撃にさえ気を付ければ。
 そんなこんなで巨大立方体のキメラは、どんどん削られていく。
 え!?
 いきなりその、ど真ん中のブロックが突き出た。
 あ〜‥‥傭兵さん顔面強打。かわいそ。
 でも、今ほんのちょっと箱の内部が見えた。
 あれはやっぱり3×3×3の、合計27個のブロックの集合体なんだ。
 ‥‥真ん中だけサボってない?

 あれ?
 ちょっと待って。
 こっちに来てる?
 ここ、築30年のオンボロ病院だよ!?

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

 ゴロンズシンと派手な音を立てて転がるキメラを発見するのは実に簡単だった。
「昔流行りましたね、あぁいう玩具が。しかしあそこまで大きいと、とても玩具とは言っていられませんね‥‥」
 走りながらも微妙に緊迫感のない台詞のリディス(ga0022)。
 その横では瓜生 巴(ga5119)が地図を見ていた。
「誘導できる敵でもなさそうだし、現状を理解する以上の役には立たないかも知れないけど」
「えっ、そうかしら。私は攻撃して気を引くつもりだったのだけれど‥‥」
 アズメリア・カンス(ga8233)が月詠の鯉口をきりながら走る。
 そこに、向こうから傷ついた男が這いずってくるのが見えた。
 どうもさっきまで戦っていた能力者のひとりらしい。
「大丈夫か?」
 駆け寄って話を聞こうとする南雲 莞爾(ga4272)。
「‥‥押し潰された‥‥」
 だが男はそのまま突っ伏してしまう。一応、この程度では死にはしないだろう。
「わかった、後は任せろ」
 キメラの地響きはどんどん近くなっている。
 あと路地1、2本くらいで出会えるだろう。
「ん?」
 緋室 神音(ga3576)の無線機に連絡が入った。
 キメラの正面に回った方からだ。
 さっきまで戦っていた別の能力者4人(うち1人はすぐそこで倒れているが)は、撤退を決めたらしい。
「了解よ。‥‥こちら、キメラの側方に回りこんだわ」
 包囲はできた。
 さて、このキメラの実力やいかに。

「えと‥‥スライムというのは不定形な物と思っていたのですけれど‥‥これもそうなのでしょうか?」
 側後方、立方体の面に正対しない位置‥‥角から石動 小夜子(ga0121)が蝉時雨で切りかかる。
 ガギリと食い込む刃。
 さすがに硬いようだが、ダメージにはなっているはず。
「見れば見るほど、ルービッ‥‥いや、何も言うまい。ホント、妙なキメラだな」
 こちらは前方の角からツーハンドソードによる攻撃を行う新条 拓那(ga1294)。
 表面の文字になんらかの規則性があるか、つぶさに観察し見極めようとしている。
「っと!」
 小夜子と拓那に、それぞれ後方中央の3ブロック、前方中央の3ブロックが横に滑って攻撃してきた。
 2人とも疾風脚を使用済み、なんとか回避するが。
「‥‥なんか、崩さないように真ん中残して引っ張り出すおもちゃもあったような気がするなあ‥‥」
 そう、今の動きはまさにそれ。
 大剣で受け流した拓那も苦笑気味である。
「そこだ」
 外に露出した中央ブロックを狙い、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)がエネルギーガンで狙いすました射撃を放つ。
 バシッと小気味よい音を立ててブロックが飛び散った。
 続いて連射したぶんは戻ってきたブロックに当たったものの、これまたブロックを削ぐ。
「‥‥非物理攻撃は有効のようだが」
 中央ブロックが核と踏んでいたが、脆弱ではなかったようだ。
 それでも、露出し次第狙っていくつもりである。
 ホアキンにはあれが回転運動の中枢ではないかという予想があった。
「一体どんな経緯でこんなキメラが誕生したかは知らないけど、また妙なものを‥‥」
「見ているとぼうっとしてしまう、ということだが今は普通か‥‥あの全身に刻まれた文字のようなものが気になる」
 アズメリアの、リディスの銃撃が少しずつキメラの表面を削り取る。

 そしてぱしゃぱしゃ降りかかる塗料。
 リディス、神音、莞爾のペイント弾である。
「これで恐らくは‥‥」
 何か文字が彫られているという情報から、意識を朦朧とさせる能力は表面の文字列にあると見た傭兵達。
 そして汚れは完璧なものとなり、表面はもはや半分以上が極彩色に染まっている。
「‥‥ここっ!」
 ズシン、と転がってきた瞬間を見計らい、巴もペイント弾を発射する。
 しかしそれは真っ黒なものだ。
 ひとつの角に命中して黒色に染め上げる。
 もともとのブロックキメラの色も黒だったが、ペイントされた部分は光の照り返しがないのですぐわかる。
「完全に攻撃を集中させるのは無理でも、攻撃があちこちに散らばるよりは多少良いかと」
 さらにもう1回キメラは回転したが‥‥
 ガギッと妙な音とともに途中で止まる。
「っくぅっ! ふざけたナリをしててもっ、迷惑さと力は一級品か! 上等だよ。力比べとしゃれ込もう‥‥かぁっ!」
 拓那が大剣を地面に突き立てて、キメラの移動を妨害したのだ。
 壊されそうな町並みには近付けさせない。
 表面の文字に規則性があるようには見えなかった‥‥というかそもそもよく見えなかったので、とりあえず正攻法で立ち向かう事にした拓那。
 これには困ったキメラは、ひとまず脇の9ブロックを回転させ方向転換して剣の上から退避する。

 体当たりをしても約半分の傭兵は近付いて来ないし、リディスや莞爾はキメラが倒れこもうとするその前に瞬天速で飛びのいている。
 莞爾はキメラを撹乱しようと超スピードで動いているが‥‥
 どうもこのキメラ、撹乱されるほどの知能すら無いようだった。
 また小夜子と拓那に攻撃を仕掛けるブロックキメラ。しかし、その隙に。
 神音がキメラの上に飛び乗った。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 両手に持った月詠にSESを通して膨大な力が流れ込む。
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影(ミラージュブレイド)」
 神音の体から赤いオーラが顕現する。
 双刀でほぼ同時に。
 紅蓮衝撃を用いた二連撃。その攻撃は紛れも無く急所突き。ブロック同士の接合部を切り離し‥‥
 そして地面に降りる瞬間、三方向目の切れ目を入れ、完全に切り離して引き剥がす。
 神音はサービスとばかりに落ちゆくブロックに斬撃を浴びせた。
 重い音を立てて落ちる1立方mのブロック。
 それは着地と同時に2つに分かれ、そして粉々になった。
「凄‥‥」
 たった10秒にも満たない時間で、1つのブロックを破壊。しかも、物理攻撃で。
 なんという膂力、なんという切れ味。
 そしてこのキメラは攻撃対象を傭兵達に絞ったようだ。
「これで遠慮なくやれるってもんだな」

 と。
 キメラの中から妙な音が聞こえてきた。
 何かをすりつぶすような、あずきを研ぐような‥‥
 傭兵達は止まらず攻撃をかけるが、音はやまない。
「‥‥え?」
 変化はすぐに現れた。
 黒い砂のようなものが破損したブロックの部分に吹き出て形を作ると同時に、キメラのボディがぐっと小さくなったのである。
「岩石スライムって何の事かと思ったら‥‥こういう事ですか」
 縮んだ事で乾いた塗料がパラパラと落ちてしまい、ペイント弾を持っている者は慌てて再び塗料を放つ。
 しかし、この『再生する』という行動は。
「『中央を壊されたくない』と言っているようなものだな。もし中央ブロックが見えたら全員で攻撃をかけるぞ」
 まさにその通り。
 そして、サイズが少し小さくなった事で押し潰しの威力も減っている。
「さっきほど重くないぜ‥‥もう一丁来な」
 大剣を抜いた拓那が再びキメラの正面に回りこむ。
 そして、それをサポートするようにホアキンとアズメリアがソニックブームを放ち、無理矢理攻撃方向を強制させた。
 またも拓那の大剣によるつっかい棒、成功。
 そしてまた困ったキメラが脇のブロックを回転‥‥させようとした時。
「回転します! 隙間に何かを!」
 巴の指示に従い、小夜子が刀を、神音がバスタードソードをブロックの隙間に突き立てた。
 ガギョッと美しくない音が響き、キメラの回転運動が止まる。
 その場にいた傭兵達には、キメラが慌てたように見えた。
 もうかたっぽの9ブロックを回転させて逃れようとするも‥‥
 中途半端に回転した、逆側のブロックが邪魔をして拓那の突き立てた大剣に引っかかる。
「ほう」
 少し笑みを浮かべ、ホアキンは拓那の大剣と同じように、キメラのブロックを挟み込むように、地面にイアリスを突き立てた。

 もはやブロックキメラは移動することもままならない。
 脇の9ブロックが中途半端に突き出ているので、ブロックを飛び出させての攻撃も方向が限定される。
 滅茶苦茶に突き出し攻撃を行うが、もはやキメラの命運は尽きていた。
 リディスのシエルクラインが、小夜子のS−01が、莞爾のブラッディローズがブロックを少しずつ次々と削ってゆく。
 もはや飛び出し攻撃のみならず回転も加わりさらにむちゃくちゃな動きをし始めたキメラ。
「悪いけど」
 アズメリアが、回転運動に合わせて月詠を隙間に差し込む。
 そして、動きが完全にパターン化しはじめ、中央ブロックの露出が目に見えるようになると。
「年貢の納め時だ」
 ホアキンと巴がエネルギーガンによる的確な攻撃を見舞い、リディスと莞爾の急所を狙った射撃も加わり、物理と非物理のいくつもの射線が中央ブロックを貫いた。


 大きな破片はあるものの、ほとんどかけらと化してしまったキメラ。
 結局、中央ブロックの中に核と呼べるものがあった事は間違いなく、ドロドロしたゲル状の体液が大量に発見された。
「しかし、キューブワームといいこいつといい、バグアは四角が好きなのか? 全く変わった趣味だ‥‥今度から四角いものを見たら嫌になりそうだな」
 未来科研の調査員からの連絡を受けていたリディスがぼやく。
 かたや、小夜子と拓那は。
「1週間いじくり回しても揃わなかったんだよなー‥‥」
「あ、私は揃えた事ありますよ」
 おもちゃの話題で盛り上がっていた。
 そういえば、文字は少し残っていたが特別何か感じるようなものではなかった。
 やはり表面を汚したのは正解だったのだろう。
 しかし‥‥
 その内容は、古代ギリシア語で‥‥


「『そして彼の逞しい腕に抱かれ、恍惚とした僕は流されるまま‥‥』これってボーイズラブ小説!? ちょ、肝心なとこ欠けてる、続きはないの!?」
 未来科学研究所の女性所員数名が妙なパニックに陥った事を知る者は少ない。
 実のところ、本来はまっさらなキメラだったのだが。
 とある親バグア派の人間が悪戯心で彫り込んだものだという事を知る者は、さらに少ない。