タイトル:山間に潜む死霊マスター:三橋 優

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/09 20:27

●オープニング本文


 ヤツが来る。
 漆黒の闇の中から。
 重い重い呻きを響かせながら。
 追いつかれたら、終わりだ‥‥
 いや、この子だけは、この子だけは守るんだ!
 立ち去れ!異形のものよ!
 この地球に汝らの居場所は、無い!

 嗚呼! 駄目だ‥‥僕の命が消える!


 その日、1匹のセントバーナードが飼い主の少年を庇い、命を散らした。


「高山地帯に、幽霊のようなキメラが出没するそうです。数は3体。常に一緒に行動しているとのこと」
 本部にて傭兵達に配られたのは、今あわてて作りましたという感じのわら半紙のプリント。
 小学校みたいだな、と思いつつも傭兵達は目を通す。
「依頼主は若きエグゼクティブでして、報酬は弾むそうですよ」
 彼は、付近の高原の中でもかなり大きな部類の町に住んでいる。
 そしてその町から出るためには数本の道しかない。
 だから、封鎖されてしまうと大変なのだ。
 このキメラは日光が苦手なのか町には姿を見せないが、まさか山道の木を全部切り倒してしまうわけにもいかないし、切り倒すとしても何日かかるか‥‥
 それならば手っ取り早くキメラを退治してもらった方がよい、という事だ。

「灰色の布を頭からすっぽりかぶっているような外見の人型キメラで、中を見た人はいません。とても速く空を飛び、影のような玉を飛ばして攻撃してくるとあります。あら、闇弾でしょうか?珍しいですねえ。威力は大型のセントバーナードが1発で死に至るほど‥‥まあひどい!」
 そこでオペレーターが憤慨した。
 犬好きなんだろうか?
「コホン、失礼。しかし、相手はスピードはあっても急旋回や急ブレーキはできないようです。町の猟師さんが鳥用のライフルを撃ちましたが何発も当てる事ができたと言っていますから」
 もちろんその銃弾はフォースフィールドに阻まれたが。
「相手のスピードがスピードなので、皆さん全員が射程の長い武器を持っていく事をおすすめします。車があれば使うのもいいでしょう。まあ‥‥相手の射程も短いらしいので、待ち構えて倒す方が確実ですが‥‥」
 それはそうだ。移動しながらの攻撃は、命中率が格段に下がる。
 だが。
「しかし根本的に、その『町へ向かう道』に出没するので‥‥運転してくれる人がいません。キメラは怖いですからね」
 つまり移動手段としてマイカーを持っていけと。
「ふもとの方でレンタ・カーを借りるのでしたら必要経費として出せますが、弁償となるとそんな大金は出せません。もちろんマイカーの修理費用も各自持ちで」
 世知辛い世の中である。


 とりあえず行きの道では、運がよかったのかキメラには会わずに高原の町に着くことができた。
 現地で依頼主に挨拶を済ませた傭兵達は、その大きな庭の隅に木の十字架が立てられているのを見る。
 周囲に花が咲き乱れるその一角に、少年が座り込んでいた。
 書類にあったセントバーナードの飼い主‥‥依頼主の息子だったのか。
 どう声をかけたものかためらっているうちに、少年の方から口を開いた。
「ホンロンは、僕の身代わりになって‥‥」
 まだ一昨日の事だ。悲しみは深いだろう。
「僕が近道しようとしたせいで‥‥」
 少年は言葉少なに、家に入ってしまった。

 キメラを放っておけば、今度は家族を奪われる者も出るかも知れない。
 急ごう。

●参加者一覧

沢良宜 命(ga0673
21歳・♀・SN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
立浪 光佑(gb2422
14歳・♂・DF
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN
神崎 真奈(gb2562
18歳・♀・SN

●リプレイ本文

 高原の町は少々肌寒い。
 なるべく早く決着をつけよう。
「日光が苦手というのは正しかったようですね。昨夜は町にも現れたそうです。しかし‥‥灰色の布を被った様な‥‥? どこのお化け屋敷から逃げてきたんでしょうね」
「少年の『近道』というのは、散歩帰りの話だそうです。あそこの森でキメラに襲われたと」
「幽霊っていうのは時を止めたり、拳をラッシュしてくるらしいですよ」
 フェイス(gb2501)、瓜生 巴(ga5119)、立浪 光佑(gb2422)が集めてきた情報を統合する。
 若干1名、子供から聞き込んできたのもいるが。
 少なくとも今回のキメラは時は止めないし、ラッシュの速さ比べなんぞもしないだろう。
「待ち伏せポイントは‥‥ここか、ここね」
 地図を見てアズメリア・カンス(ga8233)が待ち伏せる場所を選ぶ。
 この町に来る途中の道でもチェックしたが、なかなか条件は揃わないものである。
 キメラを誘い出すためには、日光のあたらない影がなければならない。
 そう、今回は誘い出し作戦だ。
「とりあえず東からでしょうか。もう午後ですから、こちらの2本の道の方が山の陰になっています」
「準備完了‥‥では、東側に出発しましょう。まずは上に向かう道に」
 囮班の運転手はセレスタ・レネンティア(gb1731)。
 フェイス、巴、光佑を乗せて、彼女のジーザリオは走り出した。

「じゃ、こちらも行きましょうか」
 アズメリアのインデースに乗りこむ神崎 真奈(gb2562)、番 朝(ga7743)、沢良宜 命(ga0673)。
「破魔は巫女の務めやし、これ以上犠牲が出ない内に退治して仕舞いたい所やわ」
 命が妙な京都弁? で呟いた。
 既に4本の道は封鎖済み。
 他に車が入ってくる事はなく、何も支障は無い。
 作戦開始だ。


「こちら誘い出し班、今のところ異常ありません」
 巴は地形図と道路地図をもとに勾配とカーブを確認、実際に見てそれを記憶していた。
 Gを計算に入れて狙うとか器用な話じゃなく、不意に振り回されないように。
 人によってはかなり難しい事だろうが、少なくとも彼女の頭脳にとっては苦でないようである。

「こちら待ち伏せ班、了解。こちらにも異常なし、トンネル手前のポイントに向かう」
 真奈はアルファルを膝に乗せ、窓から山の方を見ている。
 わりと短い部類の弓とはいえ車内から射撃する事はできないだろう。
 キメラが待ち伏せ班を無視して飛んで行ってしまったら、車から身を乗り出して撃つしかない。
 良い子は真似しないでください。


 結局1本目の道にはキメラは出現しないまま、隣町が見える所まで来てしまった。
 牧場が広がっていて日光をさえぎるものが無いので、ここで終点という事らしい。
 道路を封鎖している警察官の方々に軽く挨拶をし、道を戻る。

 2本目の東側の道は、中ほどを過ぎたあたりから鳥の死体が目立っていた。
 もちろんキメラにやられたのであろう、外傷の無い死体である。
 1本目の道にもあったがこちらの方がずっと数が多い。
 さいわい、一箇所に大量に落ちているわけではなかったので避けそこなったりはしなかったが。
 そして2本目の道もあと1km程度で終わりにさしかかろうという所で。
「‥‥?」
 それに気付いたのは朝だった。
 山の中、誘い出し班の車が2段ほど下の道を走っているのが見え、そしてその向こうに。
 木々に潜んで動く大きな影。
「もしもし、キメラをみつけた。そっちがはしっていく、すぐしただ」
 ラストホープに来るまで山林を遊び場としていた少女、朝。
 この、森というフィールドにおいて彼女の眼は冴え渡る。
「ちょうどいいわ、さっき隠れるのに使えそうな場所を見つけたから。こっちの準備が整ったら引き付けてもらえるかしら」
 アズメリアも、運転しながらも無線機は常に会話できる位置にセットしてある。
 Uターンして目をつけておいた林の中へ車を寄せ、ゴーサイン。
 命がS−01を、朝がクルメタルP−38を取り出し、いつでも撃てるようにしておく。
 真奈も最初の矢を持った。
「さて、片付けるぞ。車を傷つけられる前に済ませよう」


「あれですか‥‥よほど注意していないとわかりませんね」
 誘い出し班のドライバー、セレスタがアサルトライフルを構え適当な所に撃ち込む。
 本格的な攻撃は自分の役目ではない。注意をひくだけだ。
「うまく、こちらに来たようです」
 森の中から湧き出るようにこちらに飛んでくるキメラ達。
 灰色の衣の中から枯れ枝のような腕が伸びる。
 こちらを招くように‥‥
「誘い出し班、注意を引きました。道を戻ります!」
 フェイスが窓を開けて銃を構え、セレスタはライフルを後部座席に渡す。
 それをしまいながら光祐は口を開いた。
「俺達は逃げながらやつらと戦う、アズメリアさん達は追いながらやつらと戦う、つまりハサミ討ちの形に」
 それはもういい。
 言ってる事は合ってるが。

 相手の数は3体。前情報通りである。
 巴のエネルギーガンが早速キメラのうち1体に突き刺さった。
(「こちらの蛇行に対し、飛んでいる相手はやや直線気味になる‥‥と読んでいましたが」)
「確かに速いですね‥‥ちょっと単調ですが」
 ちょっとどころではなく、動きはただの鳥に近い。
 むしろ鳥よりも、逃げずに向かってくるぶん当てやすくなっていると言ってもいいだろう。
 しかし。
 フェイスの鋭覚狙撃が正確にキメラの胸のあたりを貫き、空中でよろめくものの‥‥
「‥‥あまり効いていなさそうですね」
 効いていないわけではない。
 巴のエネルギーガンが当たった時も、かなりよろめいてはいた。
 純粋に打たれ強いのだろう。
「思ったより厄介ですが、それなら倒せるまで叩き込むのみ」
「同感です」
 いったん引き付け役を巴と光祐に交代し、フェイスは無線機で待ち伏せ班と連絡を取る。

「撃ってきた‥‥掴まってください‥‥!」
 近付かれ過ぎたか、キメラから真っ黒なかたまりがどんどん発射されてきた。
 セレスタの運転は上手な方だが、こんな曲がりくねった山道のヘアピンカーブで時速40kmをキープするというのも困難である。
 たとえ能力者であっても、車は普通の車なのだ。
 セレスタが運転に専念していなければ、もっとひどい曲がり方になっていただろう。
 場合によっては車が転がり落ちていたかも‥‥
「当たるかなぁ〜」
 光祐が闇のかたまりに向かって銃撃を放つ。
「なるほど‥‥撃ち出された銃弾は熱を帯びていますから‥‥」
 そのぶんだけエネルギーを奪わせて相殺するという事か?
 成功すればよし、もし効かなくとも。
 闇弾をすり抜けた弾丸は、キメラに向かって一直線。
「やっぱ駄目かー」
 残念ながら迎撃はできなかったが、また1発キメラに叩き込む事に成功する。
「う‥‥」
 と、たまたま巴が、エネルギーガンを持つ肩にその闇を受けた。
 もともと非物理攻撃に対する防御を固めてきた巴、威力確認の意味で最初の一撃は受けるつもりだったが。
 当たった右肩を中心として筋肉が萎えるかのような錯覚を覚え、心臓がひときわ高い鼓動を刻む。
「これは喰らっちゃいけません。フェイスさん、追加情報を。闇弾は危険だと」
 巴自身のダメージは大した事はないが、薄着の仲間が狙われたらひとたまりもないだろう。
「そろそろ待ち伏せポイントです、加速します!」
 最後のカーブを曲がると同時にセレスタはアクセルを踏み込んだ。


 セレスタのジーザリオが猛烈な勢いでタイヤを鳴らしつつカーブを曲がってくる。
 もちろん飛んでいるキメラ達は段差などショートカットして‥‥
 待ち伏せ班の狙っている真横に現れる。
「射程距離ジャストだ」
 真奈の、弾頭矢を用いた鋭覚狙撃がキメラ1体の顔面を直撃した。
 顔面と言っていいものかわからないが。
「狙撃するなら、本当はライフルの方が良かったかも知れへんけど‥‥足りない分は技術でカバーや!」
 命もまた貫通弾を用いて鋭覚狙撃、別のキメラの腕を吹っ飛ばす。
 おおっ、と喜ぶのも束の間。
 キメラの灰色の衣から、新しい腕がにょきっと生えてくる。
「‥‥そんなんアリかいっ!」
 朝とともに銃を撃つ命、さらにもう1本の弾頭矢を放つ真奈。
 今ので完全にこちらに注意が向いたようだ。
 キメラは通り過ぎたかと思いきや、待ち伏せ班の方へと戻ってくる。
 追いかけるつもりで発進したアズメリアは、すぐにブレーキを踏み込んで皆を車外へ出した。
 朝はスコーピオンとイアリスに持ち替えて、遠近どちらにも対応できるように。

 向こうの方で激しいブレーキの音。十秒後には誘い込み班も戻ってくるだろう。
 飛ぶとはいえ、相手は直射日光を嫌う。はるか上空を飛んで逃げられる事はありえない。
「わたたっ‥‥うち達の方が素で射程長いんと違いはります?」
 相手が射程ギリギリから撃ってくるなら狙撃眼を使うつもりでいた命だが、キメラは一気に接近してくる。
 発射された闇弾と、すぐ側を通り過ぎるキメラをそれぞれ根性でかわした。
「‥‥しかし、覚醒すると何や胸が邪魔で仕方あらへんわぁ‥‥」
 何を言っているのかと思うだろうが、覚醒時の変調だ。
 生存のために脂肪が集まるのか、胸筋や背筋を守るためなのか、とにかく胸が大きくなるのである。

「確かに速いがそれでは宝の持ち腐れだな」
 その命が身をかわしたキメラに対し、闘牛士のように接近距離で矢を打ち込む真奈。
 こいつらの動きは本当に鈍い。
 ほぼ確実に当てる事ができる、と判断した真奈は。
「燃え墜ちろ‥‥」
 強弾撃。SES弓を通し矢に力を伝え。
 鋭覚狙撃。視覚を最大限に発揮し。
 影撃ち。キメラの通り過ぎた直後を狙い、背後から首筋を狙う。
 そして爆発する弾頭矢。
 しかし。
「‥‥まだ動くのか?」
 首を吹き飛ばされてなお、キメラは飛び回っている。
 本物の亡霊のようだ。

「‥‥‥‥」
 こちらは覚醒した途端に無口になる朝だが、決して味方との連携をおろそかにするわけではない。
 放たれる闇弾をかわしざま、イアリスで流し斬りをキメラに叩き込む。
 バッティングセンターで時速百km未満のボールを打った事のある人ならわかるだろう、それがどれほど打ちやすいものか。
 ましてこのキメラ達のスピードは時速40km程度、大きさは人間なみなのだから。
(「これ‥‥つかえない、かな‥‥?」)
 流し斬りは素早い動きで相手の横に回りこんで一撃を加える技。
 その応用で闇弾をかわせないかと思いついた朝だが‥‥
 何かに『反応』する時には使えないようだ。
 エミタAIにインプットされているスキルなのでうまく説明できないが。
 攻撃する、という、準備のある動作において発動させるとか、そんな感じかも知れない。
「‥‥!」
 気合で避けていた朝だったが、闇弾をひとつ脚部に受けてしまう。
 さっきの光祐は走行中である事による相対的なスピードがあるからこそ迎撃じみた真似ができたが、本来は闇弾とて一瞬で吐き出される、簡単には避けられない攻撃。
「おーっとぉ! 往生してもらいますえっ!」
 朝に追撃を加えようとしたキメラに向かい、命の鋭角狙撃が炸裂する。
 姿勢がゆらいだ所にアズメリアの銃撃。
 こいつは、真奈に首を飛ばされたやつだ。
「逃がしはしないわよ」
 セントバーナード、ホンロンの仇。
「亡霊はあの世へ行くものだ」
 他の2体がアズメリアと真奈に闇弾を放つが、2人は避ける動作をしつつも攻撃体勢に入っていた。
 結果的には2人とも避けられず、痺れるような感覚を味わう。
 しかしこれは錯覚。巴から聞いていたから問題ない。
 アズメリアの銃弾が胴を貫き、真奈の弾頭矢が今度こそ、首なしキメラにとどめを刺した。
 ブスブスと煙を上げて消滅してゆく。

 朝もすぐさま反撃に転じ、素早く回り込んで下から振り上げるような流し斬りを見舞う。
 そして空中でよろめいたキメラを銃弾と光が貫いた。
「幽霊退治も銃でやる時代になりましたか」
 もちろん誘い込み班が来たのだ。フェイスの強弾撃と巴のエネルギーガンである。
 セレスタはキメラが逃げる事を考え、追いかけられるように運転席に座ったままだがハンドガンで応戦している。
 8対2。もう、キメラ達に退路は無かった。
 威力はともかくとして、もとより射程でも負けている。
 かと言って体当たりをしようものなら剣を持つ朝に、アズメリアに、強烈なカウンターを叩き込まれる。
「狙撃はパワーだz‥‥やわっ!」
「成仏なんてできないでしょう? 消えて下さい」
 再び命の鋭角狙撃と、フェイスの強弾撃が突き刺さる。
「‥‥今度こそ、終わりです」
 焼け焦げのあとがあるキメラの顔面に、エネルギーガンの射撃を叩き込む巴。
 外見上はよくわからなかったが知覚武器は有効だったらしく、その攻撃で終わった。
 衣の内側からブスブスと蒸発してゆく。
 そして最後の1体は。
「‥‥っ」
 朝が、闇弾を避けてキメラの突進の方を自分から受けに行った。
 そして豪力発現、枯れ枝のような腕を掴んで投げ飛ばす。
 キメラは朝に向かおうとしたのか、空中で方向転換し‥‥その一瞬の静止が、最大のミスだった。

 命の、フェイスの、アズメリアの、光祐の、巴の、真奈の、セレスタの、銃弾が、矢が、集中する。
 いかなしぶといキメラでも、耐えきれるものではなかった。
 大地に落ちるより早く、黒い煙を上げて消滅してゆく。
「終わりました‥‥『彼』にも報告しましょうか」


 3体が常に一緒に行動していたという情報は正しかったが、そのわりにコンビネーションなどはまったく無かった。
 他にもいるかも知れない、と思った傭兵は1人ではなく、他の道も回ってみたが‥‥特に異変は見当たらず。
 まあ、何もなければそれに越した事はない。


 まだ夕方にもなっていない時間帯。
 フェイスは町の花屋で買った花束を、セントバーナード、ホンロンの墓に供えた。
「ともあれ、命を懸けて主人を守り抜いた。立派な心構えだ」
 真奈も、他の能力者達も、黙祷を捧げる。
 勇敢な彼が安らかに眠れるよう‥‥
 と、後ろに気配を感じた。
 飼い主の、少年だ。

「君のペットの仇は討ちましたよ‥‥」
 最初に口を開いたのはセレスタ。できるだけやわらかく言ったつもりだが。
「う、うん‥‥‥‥でも‥‥」
 まだ、悲しみは新しい。
 命がしゃがみこみ、微笑んで少年の頭に手を乗せる。
「ホンロンはね、命散った今でも君の事を護ってくれてはるんよ。その子の為にも、これから精一杯生きていかなね‥‥」
「うん‥‥うん‥‥」

 朝は‥‥改めて町の周囲を、納得の行くまで見回った。覚醒の変調の効果が切れるまで。
 夜、1人でホンロンの墓前に経つ朝。
「きみのしゅじんをおびやかすのはやっつけたから‥‥もうだいじょうぶだ、やすらかにな」


 今はかりそめの平和だが、いつか必ずバグアを追い出す。
 君の主人が安心して生きて行ける世界を取り戻す。
 だから‥‥応援していてくれ。