タイトル:小さな吸血鬼の恐怖マスター:三橋 優

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/01 12:23

●オープニング本文


 昼夜の気温差が激しい、秋の日の夜。
 公民館から博物館に向かう渡り廊下に出た時、中年の警備員はゾクッと寒気を感じた。
 今日はなぜか空気が生ぬるい。
 慌ててカギを開け、小走りに博物館に入る。
「‥‥嫌な空気だなあ」
 博物館と言っても小さな町のこと、それほど大層なものがあるわけではない。
 ただ、前町長が持ち込んだ大量のオルゴールや人形が目玉になってくれている。
 そのような品々があるため、空調には気が遣われているのだ。
 絨毯の臭いがする乾燥した空気に包まれ、警備員はほっと息をついた。

 自動警備システムのパネルを確認し操作してから中央ホールへ。
 さまざまなオルゴールが彼を出迎えるが、ここの人形の材質は陶器や布で、デフォルメされているためあまり怖くはない。
 スイスの民族調の服を着た少女が手回しオルガンを弾いているオルゴール。
 シルクハットに燕尾服の魅力的な老人がステッキを躍らせながら歌うオルゴール。
「これなんて、30万もするんだよな‥‥」
 自分の給料を考えてややブルーになる。
 そんな彼の顔が、次の瞬間凍りついた。

 キィ‥‥キィ‥‥
 木の関節がきしむ音。
 セルロイドの無機質な肌が月明かりに照らされ、青白い照り返しを放つ。
 人形が、歩いている‥‥

 ブラックオニキスのような漆黒の眼球がグリンと動き、哀れな警備員の姿をとらえた。
「ひえっ‥‥」
 カコッ、と口のパーツが開く。
 ビッシリと太い針が生えたような異形の口を見、恐怖に駆られた彼が逃げ出そうとした時‥‥
「うわあああ!?」
 右足に鋭い痛みが走り、たまらず倒れこんでしまう。
 見れば、腿に別の人形が噛み付いている‥‥そして、ズルズルと血を吸われる嫌な感覚。
 さらに視界に入った人形、右後方から1体。
 展示されているオルゴールの陰から、また1体。

 半ば狂乱しながらめちゃくちゃに手を振り回す警備員。
 と、運良く人形に手がぶつかった時。薄赤い光が人形を包むように発現した。
(「フォースフィールド!?」)
 彼にはキメラに関する知識があった事が幸いだった。
 敵はキメラだ。
 一瞬にしてホラー映画から現実へと帰還した彼は、痛みをこらえて立ち上がる。
 何体も何体もへばりつき噛み付いてきたが、もう痛みに倒れている暇はない。
 自分ではどうやってもこいつらは倒せないのだから。
(「死にたくなければ、走れ!」)


「お、おじさん!?どうしたんですか!?おじさん!」
(「‥‥良かった」)
 公民館に入ったと同時に、顔見知りの司書に会えた。あちこち血だらけの体を見て駆け寄ってくる。
 この青年が襲われないだろうかと一瞬考えたが、もう警備員の彼は限界だった。
 倒れこんだ警備員の、その背中から。
 3体の人形が、口元からおびただしい量の血を垂らしながら姿を見せた。


「‥‥被害は公民館職員6名。そのうち1人、キメラを発見したであろう警備員は失血死寸前の重体です」
 警備会社の人間が異常通知を聞いて迅速に駆けつけたため、くだんの警備員を助け出せたのだという。
 他の職員らは自分の足で逃げ出した。
 なぜかは知らないがキメラ達は建物からあまり離れようとしないらしい。
 外気が嫌いなのか、日光が苦手で朝を恐れたのか。
「なお、キメラは博物館または公民館から外には出ていませんが、時間の問題でしょう」
 初老の貴婦人といった感じのオペレーターが説明を終えた。
 人の血を吸うならば、血を求めて外にさまよい出してもおかしくない。迅速な解決を願う。
 ‥‥賢明なる警備員の働き口を守るためにも。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF
エメラルド・イーグル(ga8650
22歳・♀・EP
風花 澪(gb1573
15歳・♀・FC
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
雨宮 志保(gb2784
17歳・♀・FT

●リプレイ本文

「‥‥犠牲者を増やさないためにも頑張って早く解決しないとね」
(「う〜ん。でも、頑張るの私だけどね。じゃあ、行ってくるわ」)
 言葉を発したのは白雪(gb2228)だが、それに応えたのは彼女の心の中の姉、『真白』だ。
 多重人格で、完全に別個の存在として確立しているようである。
「それじゃ、私達は博物館側ね」
 ゴールドラッシュ(ga3170)と雨宮 志保(gb2784)が、鏑木 硯(ga0280)と白雪の後に続く。
 あらかじめ公民館と博物館を同時に探索していく事は決められていたのだ。
「それじゃ後でね」
「公民館側は建物が古いそうですし、気をつけてください。装備の重さで床が抜けるとか、体重も――」
 硯は純粋な気持ちから言葉を発したが。
 女性7人に囲まれた中で言うべき言葉ではなかった。
 殺気。
「え、え〜と。お、お互い無事に退治して後で合流しましょうか」
 慌てて博物館へと走って行く硯。



 公民館というのは広い。
 雑多な部屋に物を詰め込んであるため、隠れ場所にも事欠かないだろう。
「錬力は心配ですが‥‥不安要素を残すよりはいいですね」
 エキスパートのエメラルド・イーグル(ga8650)が、探査の眼を発動させる。
 この公民館はコの字型になっているため、ほぼ一本道。
 完全殲滅はけして難しい事ではない。
「吸血鬼のキメラなんて奇遇ー、血が好きなのは共感できるし☆」
 なにやら物騒な事を言っている風花 澪(gb1573)とエメラルドが先行し、囮となる。
「まあそれと仕事は別だけどね」
 笑みを浮かべて拳を握る澪。

「さて、件のキメラはどれほどの知能を持つのかが問題よね」
 鯨井昼寝(ga0488)は囮役2人の周囲を、優(ga8480)は自分達の周囲を警戒しつつ前進。
 優の方は天井の染みや床の絨毯の色を見て気にしている。
「だいぶ老朽化していますね‥‥確かに不安があります」
 鎧を纏っているという事もあり、装備重量はかなりのものだ。
 明らかに腐っているような場所は無いが‥‥
「さーて、キメラちゃーん、出ておいでー」
 前方から澪とエメラルドの声が聞こえる。
 外見は確かに一般人だが、遠目から見ても一分の隙もない。



 博物館側の4人は、まず外に置いてあった資材などを裏口、非常口に置いて、キメラ達を外に出られないようにしてから中に入った。
 仮に窓を割って出たとしたら音で気付くはず。
 慎重に入り口を開け、白雪と硯が囮として先行。
 志保とゴールドラッシュがその後を歩く。
「本当はニンニクや銀の武器があれば尚良かったんだけど」
 十字架の腕輪に十字架のチョーカーと万全の装備のゴールドラッシュがぼやく。
「っていうかさ、何でよりによってこんな場所に出るかな‥‥やだな、滅茶苦茶怖いんだけど‥‥」
「え、怖い? キメラが?」
「弁償が」
 強く握手する志保とゴールドラッシュ。
「同志」
 視線はそれぞれ囮組と後方を見ているが、背中合わせに堅い握手が交わされていた。
 と、2人の耳は小さな音をとらえた。
 コトン‥‥コトン‥‥と。
「囮の様子に気を配っていたばかりに、予想外の場所から現れたキメラにがぶり、なんてのはホラーの定番よね」
 2体の人形キメラが、角の向こうから出現した。

 時間は多少前後するが、囮の2人。
「人形型のオルゴール‥‥可愛いわね。白雪が喜びそう」
 一般人を装い、真白が独白する。
 (あえて真白と呼ばせて頂こう。覚醒により外見も銀髪紅眼に変化し、人格交代がなされるのである)
 硯もおどおどとした様子を装いながら周囲を見回している。
 と、視界の隅に動くものを見つけた。
「‥‥真白さん、目だけ左を見てください」
「‥‥ん、了解」
 木のきしむ音がした。
 カラカラカコン。
 首を不気味にひねり、口のパーツを開けるキメラ。

「来たよ!」
「えっ!? こっちもです!」
 襲撃はほぼ同時だった。廊下から聞こえた志保の言葉に驚く硯。
「どうしようかしら?」
「とりあえず後退しましょう。廊下の方が戦いやすいかと。色々な意味で」
 しかし。
 キリキリと木の間接を軋ませながら、さらに2体の人形が囲むように現れる。
 そして部屋の入り口近く、展示棚の上からも1体。
 そちらに気をとられた瞬間、最初の人形が飛びかかってきた。
「っと!」
 硯はわざと噛み付かせる。
 噛み付かれ血の吸われる感触を感じたと同時に、袖から素早くアーミーナイフを抜く。
 瞬即撃。
 人形の首を狙った一撃はあやまたず命中し、刺し貫いた。
 そのままナイフを振り下ろしてリノリウムの床にキメラを縫いつける。
「真白さん!」
「大丈夫!」
 2体のキメラに噛み付かれながらもナイフを袖から取り出す真白。
 硯もそうだが、和服の袖から白刃を抜き放つ一連の動作は美しい。
 キメラのうち1体を斬り飛ばし、もう1体は噛み付いている所を硯がパリィングダガーで刺し貫く。
 しかしとどめには至らない。
 一旦離れてしまったキメラに攻撃を当てるのは容易な事ではなくなる。
 やはり吸わせて叩くのが効果的か。
 その時、廊下から‥‥小さなものを思いっきり叩き付けたような轟音が響いた。
「お待たせ!」
 志保とゴールドラッシュも吸わせて叩く戦法で2体を倒した所。
 どうも硬い所に当たってしまったようで、一刀両断とは行かず床をへこませてしまったが。
「まあ床くらいならなんとでもなるよね‥‥うわ!」
 入り口脇の展示棚の上にいた人形は、まだその場所から動いていなかった。
 またもや噛み付かれる志保。
 それでも咄嗟に廊下に飛び出すあたり、弁償を恐れる気持ちの方が勝っているようだ。
 ゴールドラッシュが志保とすれ違うように流し斬りを放つ。
 しかし惜しいところで倒しきれない。
 ‥‥再び志保に噛み付くキメラ。
「なんで、私、ばっかり!」
 そして志保の夜刀神が、今度こそ綺麗に人形の胴を輪切りにした。
 真白と硯は廊下へと下がりながら残り2体のキメラに注意を払う。
 いや、縫い付けたのも合わせれば3体か。
「あ」
 ここで本来の囮役、真白がキメラ1体をうまく腕に噛み付かせた。
 なんと噛み付かせたまま逆の手でその頭を掴み廊下に出る。
 さすがはダークファイターの膂力。
「OK!」
 再びゴールドラッシュの攻撃。
 宙ぶらりんの人形の胴を狙い、真白の前を通り過ぎながらの流し斬り。
 さらに急ターンして、またも逆方向から通り過ぎながらの流し斬り。
 真白に掴まれているので飛びのく事もできず、あわれキメラはまっぷたつ。
 地獄の往復列車と名付けよう。
「雨宮さん」
 硯もまた、キメラを腕に噛み付かせたまま廊下に出てきた。
「ん。‥‥大人しく散れ!」
 今までさんざん噛み付かれた恨みを晴らすかのような豪破斬撃。
 先ほどよりさらに大きな音を立てて、リノリウムの床がへこんだ。
 最後の1体、硯が縫い付けたキメラは動かなくなっていたが、ゴールドラッシュはきっちり頭を叩きボディを両断してからナイフを抜く。
「倒したと思ったらまだ生きてたっていうホラーのパターンがあるけど、これをしないからよ」
 そこは小説や映画のお約束なので勘弁してください。

 その後4人は館内をすべて見回ったが、キメラは残っていなかった。
 隠れている可能性も少しはあるが、公民館付属なので展示物の倉庫というものは無く、天井裏か床下くらいにしか隠れるスペースは無い。
 それに、見境なしに噛み付いてきたあたりから察するに知能は低いはずだ。



 一方、公民館組はキメラと遭遇しないまま探索を続けていた。
 事務室、図書室、託児施設とプレイルーム、談話室、講堂、いくつもの会議室。
 町の公民館とはいえ、さすがに広い。
 そして2階に上がろうとした時。
「‥‥あ」
「?」
「います」
 階段の手すりに、ごくごくわずかな赤黒い血の跡。
 職員が襲われた時は全員が1階の事務室と図書室にいたというから、2階に血の跡があるならキメラがいる証。
 キリ、と木の軋む音。
 頭上から人形が降ってきた。
「おおう」
 人形キメラは即座に針の牙で噛み付いてくる。
 澪は人形を噛み付かせたまま、2段ほど上がりかけた階段を飛び降りた。
 エメラルドが昼寝と優に呼びかける。
 しかしその前に。
「ふぉーすふぃーるどが素手で抜けるのか興味あったんだよねっ!」
 拳を振り上げ、自分に噛み付いているキメラに渾身の力を込めて振り下ろす‥‥
 ズドン! と人形キメラが床にめり込んだ。
 ほんの少し、本当にほんの少しだが、ダメージを与える事はできていた。
 SES武器なしでは対戦車ライフルでも使わなければ倒せないキメラに、わずかとはいえダメージを与えたのだ。
 驚きの‥‥いや‥‥
 『生身で戦闘機を超える』と豪語する昼寝や、メンバー随一の攻撃力を持つ優は、驚いていないか。
 メンバーも素早く集まっていたが、石の床にめり込んだキメラを見ると出番は無さそうである。
(「うーん‥‥手間がかかりそうだなぁ」)
 澪としては、手ごたえは充分にあった。かなり上手に入った一撃だと思う。
 今のでこのダメージという事は、普通に攻撃していたらまったくダメージにならない可能性が高い。
「仕方ないか」
 ちょっと残念そうにアーミーナイフを取り出し、めり込んだキメラに突き刺す。
 攻撃力自体はあまり変わらないはずだ。少なくとも物体に与える効果は。
 SESがなければほぼ打ち破れないフォースフィールド‥‥本当に厄介なものである。
「‥‥」
 ふと、澪はキメラから出た血を目に止めた。
 被害者の血なのか、今自分が吸われた血なのか。
 ぺろりと少し舐めてみる。
「案外美味しいかもしれない‥‥?」
「いやいやいやいや」
 澪を除く全員がツッコミを入れた。

 2階へと探索の場を移した一行。
 空気が少し変わったのを皆が感じている。
 なんと言うか、犬でもいれば臭いを理解できるのだろうが。
 おそらく血の臭いなのだろう、明確にはわからない『人間の臭い』だ。
 最初の部屋は‥‥和室。
 何かイベントがあった時のための控え室なのだろう広い和室だ。
 囮役の2人が入ってみたが、エメラルドの探査の眼にも何もひっかからない。
 しかし外に出られる窓があったため、皆で一旦部屋に入る。
「っと‥‥!」
 優が乗ると、足元の畳が大きくたわむ。
(「だいぶ老朽化しているようですね‥‥」)
 あとほんの少し、そう、救急セットひとつでも持っていたら間違いなく畳と床板が抜けていた。
 所持品を調整しておいて良かった。
「‥‥あ、います」
 窓のそばに立ったエメラルドが、カギに手をやると既に開いている。
 カギを開ける知能があるのか、職員が忘れただけか。
 ‥‥後者だろう。
 窓の外では、人形キメラ4体が猫の死体に群がっていた。
 こうなるとせっかくのフランス人形の外見も台無しだ。
「誘き寄せますね」
 エメラルドが窓を開けると、途端にキメラ達はターゲットをこちらに移す。
「く‥‥あ! 部屋の外から来ます!」
 1体に噛み付かれながら和室の中に戻ったエメラルドは、探査の眼で新たなキメラの影をとらえていた。
 廊下から部屋に入ってくる2体。
「手早くやるわよ。私は窓側」
「僕は廊下側行くね」
 先手必勝。
 昼寝の判断は早く、行動は凄まじかった。
 限界突破し、即座に移動してエメラルドに噛み付いたキメラをシュナイザーで突き刺し、引き離してから空中で引き裂く。
 何回も何回も繰り出される攻撃は、噛み付いていないキメラまでもその爪にとらえた。
「ちょこまかと‥‥鬱陶しいのよッ!!」
 それでも回避された事は悔しいのだろうか、両手の爪で天井に叩きつけ、落ちてくる所を薙ぎ払う。
 小さいのに、すばしっこいのに、一撃では倒しきれないというのも厄介なところ。
「凄い‥‥」
 しかし今の全力攻撃で窓側のキメラは半減した。

 そして廊下側も‥‥
「‥‥?」
 ガギッと硬い音。
 これがギャグ漫画だったら、人形キメラの口の中から牙がボロボロと落ちているだろう。
 アーマージャケットの下にカールセルを着ていた優。
 一般人相手に何回も噛み付いてさえ命は奪えなかったキメラの牙が、そんなものを貫き通せるわけがない。
 そして体勢を崩している所に流し斬りを叩き込む。
 周囲を壊さぬよう、斜め下から切り裂くような斬撃。
「吸わせて叩くつもりだったんですが‥‥」
 さらにもう一撃。はずれ。二撃目で当たった。
「ふっ!」
 気合とともに振るった月詠が綺麗に人形の体を2つに分ける。
「よっ‥‥!」
 もう1体の方も澪に噛み付いたが運の尽き。みしり、と頭を握られる。
「やっぱり素手じゃ無理なのかな? 『一瞬の衝撃』じゃなければ行けるかと思ったんだけど」
 みしみしと手ごたえはしているが、フォースフィールドが間断なく発動している。
 とはいえ、キメラは逃げる事もできないようだが。
「いいですか?」
「あ、よろしく」
 ナイフを取り出そうとした所に声をかけられ、澪は優の前にキメラを突き出した。
 がぶっと手を噛まれるが、それで手を離すほど澪はヤワではない。
 人形の胴体が綺麗に両断された。

「ありがと、エメラルド。平気?」
 昼寝とエメラルドの方も終わったようだ。
「自身障壁のおかげでさほどの怪我はありません」
 エメラルドが窓際に立ち、食らいついてきたキメラを昼寝が倒す。
 良いコンビネーションで1体ずつ倒す事に成功していた。
 仲間が倒されても、ダメージを受けても向かって来ていた事で、キメラの知能はほとんど無いと昼寝は判断した。
 逃がさないように集めてから叩くという戦法も考えていたが、その必要は無いと考えて各個撃破したのである。



「おつかれー」
「いや、本当にお疲れ様、エメラルド‥‥」
「いえいえ‥‥このくらいでしたら」
 だいぶ疲れた様子のエメラルド。
 1人だけ3時間ぶっ続けで覚醒しっぱなしだったのだから無理もない。
 もっとも、そのおかげで色々な物品の置かれた公民館を隅から隅まで探索する事ができたのだから感謝である。
 傭兵達だけで徹底的に調べ終えており、よっぽどの事がなければキメラの残っている可能性はない。
 しかも何ひとつ壊さずに仕事をしてくれたとあって、気前のいい町長と会計事務員は特別ボーナスまで渡してくれた。
 もっとも‥‥
「皆さんお怪我をされているようなので、気持ちばかりですが」
 と渡されたコーヒーとリンゴジュースには皆して苦笑いだったが。
 それなんて献血? だとか、支給品で大量にもらってるよ、だとか色々言いたい事はあったものの、とりあえずもらっておく事に。

「被害に遭った人達も無事に意識を取り戻したらしいし、近来稀に見るめでたしめでたし、ですね」
「それじゃ、抜けた血を補うために、レバーでも食べますか」
「ねえ、丁度串焼きと日本酒の美味しい焼き鳥屋を知ってるのだけど、打ち上げがてら行ってみない?」
 真白(いや白雪か?)の提案に、皆で賛成する。
 今夜の夕食は美味しいものになりそうだ。