●リプレイ本文
●学校の怪談
高速移動艇から降りてすぐ、ある者は自分の乗り物で、ある者はULTのワゴンに乗り換えて現地へ。
ラストホープから僅か2時間で到着である。
武器を取り、夜の町へ散ってゆく傭兵達。
「あー熱い熱い‥‥のぼせるようなご高説だったよ。‥‥あぁ、メンドイなぁ」
気だるげな瞳でタバコをくわえ、面倒臭そうにぼやくエティシャ・ズィーゲン(
gc3727)。
別に依頼に関して不満があるわけではない。いつもこんなもんなのだ。
その横を芹架・セロリ(
ga8801)は、特に文句も言わず並び走る。
向かう先は小学校。
その裏手に広がる雑木林の近くの民家がまさに今、キメラにかじられているという。
「小学校か‥‥懐かしいなぁ。最後の二年はまともに通った記憶ねぇけどさ」
ぼそりと呟くセロリ。
行く先には夜の闇にそびえ立つ校舎。
なんとも言えぬ不気味さがある。
「学校裏って言うと、墓地が多かったりするよね。うん、そろそろそんな季節だね」
さらに怖さを引き立たせるようなエティシャの言葉。
しかし彼女の感覚は真面目に周囲に向けられており‥‥
懐中電灯の光が、校舎の壁面でムカデのように這い回るキメラの姿をとらえた。
猫のしなやかさが不気味に思える日が来るとは。
「うっへ、悪趣味なキメラだな‥‥足以外は不合格ですよ。一体誰が考えたんだか」
セロリがぼやく。
この姿は下手な怪談よりおぞましい。
何かガリガリとかじる音のする方に光を向ければ、そこには民家の石壁を食むキメラがいた。
いきなり2体。
「出たな! 相棒が倒すぞ! 覚悟!」
「ボク!?」
もとよりそのつもりだが一応ツッコミを入れておくのがたしなみというもの。
刀『菫』を抜き放ち、逆手で腰のフォルトゥナ・マヨールーを抜くセロリ。
電灯に照らされて向こうも臨戦態勢のようだ。
‥‥キメラの瞳からは感情をうかがえないが。
カラコロカラコロ、カラカラカラ、と尻尾のガラガラを振っている。
「お前が、がらがら鳴いてもかわいかねぇ!」
民家の壁についている方のキメラに練成弱体を飛ばすエティシャ。
その下には既に練成強化された武器を手に、セロリが待ち構え。
凶暴なキメラは何も考えず飛びかかってくるが‥‥
銃声一発。
猫が何匹も連なったような胴体はどこが急所かわからないので、キメラの頭部を狙い引き金を引く。
空中では姿勢も変えられない。
「そんなに鎮痛剤が欲しいのならばくれてやろう」
覚醒で口調がさらに変わっているセロリ。
マヨールーの銃口を、着地した瞬間のキメラの頭に素早く押し付けて引き金を引く。
零距離射撃。
苦悶の声も上げぬうちに二発目の銃弾を眉間に受け、最初のキメラは倒れ伏した。
「せめて、苦しまずに‥‥だな」
なんか違う。
残り1匹のキメラは‥‥
1匹じゃなくなっていた。
仲間の血の匂いに誘われたか、ウギャウギャと鳴き声を発しながら集まってくるキメラ達。
その数、3匹。
「うへ」
今度は近付かれること必至。
刀を横に構え、突撃してきたキメラの顔にカウンターで刃を食い込ませるセロリ。
「‥‥ま、林の中で戦うよりゃ好都合だぁね」
タバコの火を超機械のグローブで揉み消し、エティシャはそのまま拳の形でキメラに電磁波を放った。
逆の手で無線を操作し連絡も入れておく。
「こちらセロリ・エティシャ班。1体は撃破、続いて3体との戦闘に入るよ」
●せせらぎの音の中で
エティシャとは逆に移動艇のULT職員に同意し、やる気を出しているのがこの人‥‥
米本 剛(
gb0843)。
「我々が『深夜の処方箋』ですか‥‥そう在りたいものです」
バイクの後ろにセレスタ・レネンティア(
gb1731)を乗せて団地はずれの河川公園へ。
水の流れが森からの匂いを運んでくるのだろうか、空気は清清しい。
足元は石畳。しかし街灯が少ない上に、手入れのなってない木々が視界をさえぎる。
「この暗さでは少し骨が折れそうです、十分な注意を」
しかしこの2人‥‥
かたや武者鎧、かたや軍用ベストに野戦服と、知らない人が見たらけっこー怖い外見をしていたり。
「米本さん、左前方に何か!」
「おっと‥‥いましたねぇ」
河川敷の遊歩道の入り口付近。
キメラもこちらを認識している。向かってくる前にバイクから降り‥‥
重装甲で身を固めた剛は言うに及ばず、数種の銃火器と刃物完備のセレスタもだいぶ重々しい足音を立てる。
だがそんな威圧感もキメラは気にしない。
カラカラと尻尾を鳴らしつつ、うねうねと体を蛇のようにくねらせながら走ってくる。
「動きが気持ち悪い‥‥随分と悪趣味なキメラですね」
セレスタのハンドガンが、キメラの足を、胴体を撃ち抜いた。
大丈夫、当てられる。
その銃弾を避けようとしてのものかキメラは自ら飛びかかろうとするが、それは剛が阻んで止める。
頑丈な手甲には牙も立たない。
そして、噛み付いたその時こそキメラの動きが止まる、攻撃のチャンス。
「ふっ!」
息を吐き出すとともに妖刀「天魔」の二刀が夜闇にひらめく。
キメラの首が落ちた。
だが、音を聞きつけて河川公園の中から2匹の新手もわいてきた。
‥‥いや、2匹ではない。
(「右、約30度。上下角、約60度」)
ごく自然な動きでセレスタの銃口が右前方の木の上を向く。
体は剛の側を向いたまま。
銃声。
「‥‥ヒット」
木の枝の上で油断していたのだろう、キメラが派手に落ちる音がした。
この冷静な動き、歴戦の風格というものか。
この近くでは住民からの発見報告が多い。
ここにいるキメラですべてとも限らないのだし、全域を見回らねばなるまい。
慌てることはないが、手早く片付けよう。
「一匹でも討ち漏らせば‥‥事ですからね」
剛は二刀の天魔を改めて構えた。
木から落ちたキメラはセレスタの方へ向かおうとしている。が。
「吹き荒べ‥‥剛双刃『嵐』!」
上段。
胴。
切り上げ。
袈裟懸け。
逆胴。
突き。
薙ぎ払い。
打ち下ろし。
重い鎧が激しく動いて作り出す空気の動きが、10m離れているセレスタの場所まで届く。
重装備重装甲の重量をも活かした、まさに嵐と呼ぶに相応しい剣舞が‥‥3匹のキメラを葬り去った。
「こちら米本・レネンティア班、4体撃破。引き続き川沿いにキメラを探します」
●熱い血潮で暮らしを守れ
「早いところキメラを片付けて、住民の皆さんに安心をお届けだ! ガンバりましょうね!」
こちらも剛・セレスタ組と同じくバイクで疾走する平野 等(
gb4090)、後ろには陽山 神樹(
gb8858)。
(「先の見えない不安と怖さってホント、頭おかしくなりそうになるからね」)
何かしら経験があるのか、等は気合充分。
その後ろの神樹は?
「うう‥‥ヒーローが相乗りするなんて‥‥かっこ悪い‥‥」
いきなり何だろう。
特注のスーツを着て特注のヘルメットをかぶった、ヒーロー神樹としては今の状況は不本意なのか。
別に自分の乗り物が壊されたとかいうわけではなく、元から持っていないだけである。
しかしそんな余裕もここまで。
2人の傭兵は向かう先の街灯の上に、猫をタテに繋いだような不気味に長い体を認めた。
商店街のロゴの入った、建物から生えているタイプの看板街灯。
「出たな、合成獣キメラ! 破暁戦士ゴッドサンライトが相手だ!!」
まだ微妙に余裕がある気がするが、それは置いといて。
バイクを止めるとガラガラの音がよく聞こえる。
しかしここは建物の密集した商店街。
音が反響し、どこから聞こえているのか注意していないとわからなくなる。
今もまるで二重に聞こえるように‥‥
「わわっ、陽山さん、コッチ何かウネってるのがいますよ! ウネウネでガラガラってます!」
‥‥2匹いた。
「でぇいや!」
等の瞬天速。
壁を蹴り、ブティックの入り口にしつらえられた頑丈な雨よけの上に乗る。
そこを狙ったわけでもないだろうが跳びかかってくるキメラ。
びっしりと生えた牙を見せるように大きな口を開けるも‥‥
等はその口を横から蹴り飛ばす。
そしてキメラは、うまく神樹の近くに落下。
「喰らえ! サンライトスマッシュ!!」
キメラの着地の直前、体勢をたてなおす前に天拳「アリエル」の重いストレートを見舞う神樹。
非物理攻撃にもんどりうつキメラだが、さすがに8本も足があると立ち上がるのは早い。
追撃をかけようとも思ったが‥‥
ひとまず横から近付いてくる、もう1匹のキメラに注意を向ける。
「そおい!」
そこに等が飛び降りて、急所‥‥眉間を狙った回し蹴りを放った。
「こっちは俺が!」
「わかった! 背中は預けたぞ、等君!」
金属爪『ジ・オーガ』で噛み付きを防いだ等。
噛まれると思った瞬間、咄嗟に腕を回転させ‥‥その回転で、キメラの顔の角度はちょうど正面を向いた。
蹴り上げたブーツの先についた砂錐の爪が、キメラの下顎に突き刺さる。
(「急所はともかく‥‥浅かったかな?」)
苦悶の鳴き声を上げるキメラ。
神樹も負けてはいない。
攻撃に移る際は、敵の前脚が踏む場所を見て確実に。
いくら不安定な動きといえど、地面を踏みしめる足はそう簡単には動かないのだから。
「町の人達が安心して夜を過ごせるように‥‥俺は戦う!」
そしてキメラに対抗して素早い足さばき、疾風脚。
「決してモテたり人気者になるために戦うわけじゃないぞ!」
本音っぽいものが漏れたような気がするが気にしてはいけないのだろう、多分。
背中合わせになって2匹のキメラと相対するグラップラー2人。
はさみうちは通常は避けたい状況だが、相手はキメラの中でも知能の低い部類。連携などしてこない。
周囲に一般人もいないのだ。なんら問題は無い。
●パン屋の謎の魅力
キメラの発見報告があった現場に自家用ジーザリオで向かった幡多野 克(
ga0444)とファリス(
gb9339)。
田園の中に家屋がゆとりを持って並び、賑やかさは無いが確かな人の息吹を感じる風景。
その中の1軒、突き出た煙突が特徴のパン屋にキメラが群がっていた。
「こんなキメラが町中にいたんじゃ‥‥怖くて出れないよね‥‥手早く‥‥片付けないと‥‥」
克に同意し、ファリスも応える。
「夜はお休みの時間なの。ゆっくりお休みするのに、キメラは邪魔なの!」
キメラの数は4。煙突には鳥よけの金網でもあるのだろう、上でガリガリと何か金属をかじっている音。
見たところ家屋の損傷は入り口の自動ドア1枚にちょっとヒビ。
入り口は二重になっていて、まだ内部には入られていない。
営業時間は午前7時から。
‥‥家人と家屋の無事の次に、しっかりチェックするのは開店時刻。なかなかの度胸である。
しかし助けたいという思いは本物だ。克に同意するようにファリスも飛び降りた。
「困っている人が居たら、夜でも助けに行くのは当然のことなの! ファリスは困っている人を見逃せないの」
ランタンを店近くの電柱に吊るし、照明としておき。
「だから、頑張るの!」
グラーヴェの切っ先が最初のキメラの引っ掻きを防ぎ、同時に敵に傷を与える。
リーチで勝るファリスは、反撃のいとまも与えず連続で突き続ける。
まるで槍でなくフェンシングのように。フェンサーの名の通り軽快に。
「戦闘に適した場所‥‥は、道路しかないかな‥‥」
克は周辺を見渡すが、広い場所は田んぼの中くらいしか無く、このパン屋の駐車場は砂利。
ここまでの道を思い返してみても道路の真ん中が一番戦いやすいと判断。
ファリスの横、槍のリーチを考慮してやや離れた位置に立ち、並んで多数を迎えうつ戦闘態勢に移行した。
先手をとっての克の二段撃。
敵の数は多い、最初から全力でかかる。
克の持つ月詠がキメラの顔面を切り裂き、一瞬後には短刀「菖蒲」が鼻から後頭部に抜ける。
うねうねした変則的な動きにも、克は惑わされない。
そこで横から迫る音に気が付いた。
5体目のキメラがガラガラの音をさせつつ、道路の向こうから姿を現す。
(「パンの香りでも染み付いてる‥‥?」)
商店街に向かった等と神樹からは、特に食料品店にキメラが集まっているという話は無いが‥‥
このキメラ達の嗅覚が、たまたまパンの何かに惹かれているのかも知れない。
「不細工なキメラなの」
嫌悪するでもなく挑発するでもなく、淡々とファリスは言う。‥‥それが逆に手厳しい。
「ファリスがきちんと退治するの!」
円閃。
槍を振り回すのではない。
体だけを半回転させて背中側から槍を突き出し、そのまま回転して強烈な突きとなす。
これが良いフェイントになったのか、先ほど傷を与えたキメラに致命傷を与えた。
そして克。
電柱を上り横から飛びついてくるキメラには、流し斬りを加えた二段撃で迎える。
二丁の刃が上下から鋏のように迫り、キメラの下顎を断ち割ってその戦闘能力を奪う。
あっという間に2対2だ。
●戦い終わって‥‥
午前4時。
各場所での戦闘は無事に終着を迎えた。
森の中を探していた仲間の傭兵達も数匹のキメラを退治し‥‥
今はULT職員もワゴンで、傭兵達はそれぞれの乗り物で、あるいは歩いて、町中を探索している。
安心を確保するのが傭兵の仕事なのだから。
「もう大丈夫ですよ、仲間らも安全確認しに行ってますからねー」
町の病院。
意外にも患者に優しい言葉をかけながら治療して回っているエティシャ。
「こんな小さな娘が戦っているなんて‥‥」
壮年医師の発したその言葉に、くるりと振り向く。
「悪かったな小さくて。これでも三十路前だよチクショウ」
外見年齢14歳。実年齢28歳。
場の空気が凍りついた。
もう充分だろうと判断されたのは午前5時。
役場に集まった傭兵達に、町の人達が次々感謝の言葉を述べてくれる。
倒したキメラの総数は24匹。
少し疲れたが‥‥しかし傭兵達よりも、町民達のほうが恐怖に怯えていたぶん、長い夜だっただろう。
それに対処できた事は、とても嬉しい事だ。
「ん?」
神樹は、機械に向かう人の姿を目ざとく見つけた。
町の随所の有線スピーカーで、安全が確認された旨を放送するマイク。
そこに割り込み。
「町のみんなー!」
役場にいた全員が、その声に驚いて神樹の方を向いた。
「キメラは破暁戦士ゴッドサンライトとその仲間たちによって成敗したぜー! もう大丈夫だぞー!!」
明け方の町にでっかく響くヒーローボイス。
その直後に響く「ボコッ」という鈍い音。
スピーカーのスイッチが切られた。
そして午前7時。
「ん‥‥出来立てのパンの香りは‥‥好き‥‥幸せな気分に‥‥なるから‥‥」
移動艇が着く前にちゃっかり大量のパンを買い込んだ幡多野克。
「あ‥‥これ食べる‥‥?」
「いただきますの」
ファリス達、ほかの皆もその『評判のパン』を朝食に、帰途につく。
町の人の感謝の気持ちがこもった品。
疲れた体に染み入る味であった。