タイトル:魂の爆炎舞踏マスター:三橋 優

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/12 23:49

●オープニング本文


 どんどこどんどこ。ドコドコドコドコ。
 太鼓の音に合わせて老若男女の引き締まった肉体が揺れる。
 ここはまだ平和がある、インドネシアの島。
 バグアのせいで観光業績は若干下り坂だが、そんな事は関係ない。
 火は我々の魂だからだ。
 伝統だけでなく新しいファイアーダンスの技法も取り入れて、民は火の美しさに酔う。
 夜の闇の中に明るくきらめく幻想的な火の軌跡。
 人類が火を手にした時から、それは希望の灯りとなっている。
 希望は絶やせぬ。
 どんこどんこどんこどんこ。


「キャー!」
「うわぁっ!」
 だが闖入者は突然に。
 町外れから、火が歩いてきた。
「ヒューホホホホ!」
 走り回る、炎を灯した木。
 高さ2メートル程度なので太った人間かとも思ったが、目も口も木のウロのような穴。
 まして胸のあたりまで口が縦に裂けている人間などいるものか。
「ヒュゥッ!」
「ヒュホホホホホ!」
 口とおぼしき穴から意味不明の鳴き声を発して走り回る、炎の木が3つ。
 頭に巨大な炎をともし、上にあげた両手にも火がついている。

「どうしたぁ!」
 町長含む高齢のダンス指導者が、事態を把握すべく出てくる。
「むぅっ、あれは!」
「知っているのかナイデン!」
「うむ」
 トーチャ。そのまんま『松明』という意味。
 花のかわりに火を咲かせる、伝説ともお伽噺ともつかない想像上の怪物だ。

 その3本の木はめちゃくちゃに走り回り、民家に激突し、火の粉を散らす。
「いずれにせよ黙って見ているわけにはいかん!」
 高齢の指導者4人が、洋服を脱ぎ捨てる!
 その下には鍛え抜かれたダンサーとしての肉体が!
「火は我々の希望‥‥それを無差別破壊などに使うとは言語道断!」
「ゆくぞ皆の衆!」
「おうっ!」
「我ら爆炎四方陣の力、見せてくれる!」
 ビシッとポーズを決めて、敵に挑む爆炎四方陣!

 すかぽーん。
「うあー」
「ほぅあっ」
「ぐあぁー」
「うおっ‥‥」
 なぜかエコーを響かせながら吹っ飛ばされる爆炎四方陣の皆さん。
 しかしまだ力尽きてはいない。
「あ、あれはっ‥‥」
 今殴った際の、赤い光はフォースフィールド。
 あれらは現代でキメラと呼ばれるもので、通常の攻撃はほとんど効かないという。
「‥‥ULTとやらに、連絡じゃっ‥‥!」

 能力者が来るまでの時間は、わしらが稼ぐ!
「消防車! 放水準備急げぇー!」
 ファイアーダンサー達の戦いが、始まった‥‥!
「われらの希望が、やつらを倒すと信じて!」
「そんな打ち切りみたいなセリフを言うでない!」

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
佐藤 潤(gb5555
26歳・♂・SN
桃ノ宮 遊(gb5984
25歳・♀・GP
アンナ・グリム(gb6136
15歳・♀・DF

●リプレイ本文

 現地に着いた傭兵達は、物凄く頑張っている人々の姿を見た。
 鉄のドアをひっぺがして持ち、果敢にもキメラに体当たりを行う者。消防車から放水を行う者‥‥
 なんというバイタリティだろう。

 みんなで走り出している最中、リア・フローレンス(gb4312)が呟いた。
「いやあ、ここだけは夏まっさかりって感じだねぇ‥‥って言ってる場合じゃないか」
 うん。
「火のついた木が動くなんて、迷惑な話や」
 桃ノ宮 遊(gb5984)も、口調こそ軽いが早く片付けようという意思がある。
 まったくもって迷惑きわまりないキメラである。
「どうせ踊るなら、町ではなく己を燃やせば良いものを‥‥っと。もう燃えてるか」
「あのまま燃え尽きて炭になってもらえないかしら」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)とアンナ・グリム(gb6136)も思わずツッコミ。
 やはりこのキメラの外見は特異。
 騒ぎの中心に向かえば、キメラの姿はたやすく見つけられるだろう。
 各自の持っている無線も、消防署が今日使っている周波に合わせてもらったことだし。
「キメラは3体とも比較的近い場所にいるようだが、行動の予測がつかない。打ち合わせ通り3班に分かれよう」
「OK」
「わかりました」
 ホアキンの声に、それぞれ応えて散っていく。


 最寄りのキメラに辿り着いたのはホアキンとアンナのA班。
 ちょうど民家に近付こうとしたキメラがポンプ車の強力な放水で押し戻されているところだった。
 ホアキンは遠距離からキメラの注意を引こうとエネルギーガンを撃つ。
 しかしキメラの横っ面に当たり大きな焦げ痕を付けたにも関わらず、そいつはまだポンプ車に向かおうとしている。
「こっちを、向きなさい!」
 アンナからのソニックブームが飛び、キメラの顔面に大きな裂け目ができた。
 しかしそれでもなおキメラはアンナを気にも留めず。
 ホアキンはポンプ車の前に躍り出て、強力な剣閃でキメラの左腕を落とし‥‥
 しかし腕を落とされながらも止まろうとしないキメラ。
「ヒューホホホ!」
「な!?」
 普通ならそのまま体当たりを受けているところだが、そこは闘牛士ホアキン、突撃する相手を回避するのはお手のもの。
「牽制、できないみたいね‥‥」
 少々呆れながらアンナがホアキンの横まで移動してくる。
「本当のバーサーカーか」
 動きを制限するつもりで放った攻撃がことごとくクリーンヒットするとは。
 だがそれならそれでいい、次は思いっきり力を込めてやるだけの話だ。

「今の動きは‥‥まさかとは思うたが」
「知っているのか?」
「うむ」
 爆炎四方陣の爺さん達が解説を始めた。
「以前、大陸に出かけた時に見たことがある‥‥左利きの闘牛士、ホアキン・デ・ラ・ロサ!」
「あの人が、ホアキン・デ・ラ・ロサ‥‥」

(「なんで知られているのだろう‥‥」)
 背中に妙な期待のまなざしを感じつつ、ホアキンは民家に近付こうとしたキメラの腕を鷲掴みにし、無理矢理方向転換させた。
 アンナと2人、ともにイアリスを抜く。
「どちらかが死角に入るように回り込みながら、と考えていたが」
「ひたすら攻撃した方が、早そうだわ」
 キメラの真正面で2人は瞬時にすれ違い、両脇を駆け抜けざまキメラの顔をえぐる。
 十字交差の流し斬り攻撃。
 シュガッと気持ちのよい音がしてキメラの頭部(?)の両脇に大きな筋が走った。
 道路標識に突撃していったキメラは、標識にぶつかったその衝撃で頭を落とす。
 頭が落ちると、まるで爆発したように前後左右に大きく炎を吹き上げ‥‥
 予想だにしていなかったアンナに手傷を負わせた。
 が、最後のあがきというわけではなかったようで、頭が完全になくなっても、まだ倒れない。
 こんな外見で脳があるなんて期待はしていなかったが。
「ふんっ!」
 気合裂帛、民家にぶつかろうとしたキメラを根性で押しとどめるホアキン。
 地面に1メートルほどもブーツの靴跡が残るが、そこでキメラの動きは確かに止まった。
「いい加減、鬱陶しいのよっ‥‥!」
「‥‥下手な踊りもここまでだ」
 キメラの背後、アンナが真上から振り下ろした全力の一撃は、確実にキメラの肉体をとらえた。
 その斬撃が食い込んだ瞬間にホアキンもキメラから手を離し、同じく上から下まで真っ二つに裂く。
 両断剣と紅蓮衝撃。
 前後からの同時攻撃は今度こそキメラの活動を停止させた。
 雷に打たれた木のごとくドタンと倒れる左半身と右半身。
「‥‥やれやれ」
「なかなか良い薪になりそうだ‥‥例のご老人たちにでも、使ってもらえば良いかな」
 一般の方々や消防車に被害はなし。
 アンナの火傷はホアキンの救急セットの中の塗り薬で応急的に処置し、次の行動へ。
 2人は無線で仲間と連絡を取りつつ、火種が無いかどうか町の見回りに入った。

 
 佐藤 潤(gb5555)と石動 小夜子(ga0121)、そしてヒューイ・焔(ga8434)の3人体制のB班。
 無線連絡をしつつ探し回っていたところ‥‥
 いきなり民家の陰から現れたキメラに対応が遅れ、潤が体当たりを受けてしまう。
「っつ!」
 キメラの頭部の火で少し火傷を負ったが、やはり直接的な腕力はさほどでない。
 一般人も怪我で済んでいる、という情報通り。
 ヒューイは、普段つけている加護の指輪を外し、饕餮の腕輪をはめた。
 無線連絡で相手の回避能力が低いと知って、攻撃重視に。

 そして一足先に先手必勝、小夜子は見えたキメラに向かい‥‥
「待ちなさ、い゛っ!?」
 蝉時雨を抜いて切りつけざま、喋ろうとした所に枝ラリアットが直撃した。
 一応言うと、小夜子の刀、蝉時雨の切れ味はすさまじい。
 加えて水の属性もついており、このキメラに対しては異常なほどの攻撃力を持つ。
 枝をなかばから斬り落とした、にも関わらず、やっぱりキメラは走り続けているのだ。
 半分ほどの長さになった枝でラリアットをかましつつ。
 おでこをしたたかにぶつけた小夜子だが、そのぶつかってきた枝をしっかり掴んでぶら下がっているあたり傭兵根性を感じる。
「おっと」
 切り飛ばされた枝は民家近くに落ちようとしていたが、そこをヒューイがすかさず番天印で打ち砕く。
 本体から離れた部位はフォースフィールドを失っており、簡単に四散した。

「止まらないなんて‥‥」
 小夜子は枝にぶら下がりながら顔だけ後ろを振り向く。
 危険のない事を確認し、片手だけで振り子のように勢いをつけ、大きく宙を舞った。
 そしてキメラの進行方向に着地。
「ヒュゥオゥッ! ホォーウ!」
 行動の先を取り、今度は向かってくるキメラと組み合う。
 もともとグラップラーとしてもかなりの実力者なのだ、行動が予測できていれば力勝負でも引けは取らない。
 時に柔らかく、時に力ずくで。キメラをかっちり押さえ込む。
 位置は変わってしまったが、潤が撃ちやすい方向へとひねりを加えて‥‥
「砕けろ!」
 潤のフリージアのSESに力が流れ込む。
 強弾撃を用いた射撃が、的確にキメラの足の弱い部分を抉った。

 あらかじめダンサーの方々に川べりで火を使ってもらえないか頼んでおいた小夜子だが‥‥
「誘導するのは無理そうね‥‥」
 組み合ったまま川まで引きずっていくのは現実的ではない。
 キメラを誘き寄せようと頑張っている人々を思うと少々気の毒だが。
「すみません、火のついてる所を切り落としたらすぐ消し止めてください!」
 潤は消防の人々に指示を。
 優先すべきは火災を防ぐこと。
 そしてキメラの足を奪うため、執拗に片足に攻撃を集中させる潤。
 足もまた太くはあるが、本体を潰すよりは足を切り落とす方が早いはず。
 そして弾丸の再装填。
 潤のリロードの隙を補うようヒューイが飛び出し‥‥
(「しまったな‥‥ここまで避けないとわかってれば、両断剣をインストールし直してきたのに」)
 今は無いスキルを嘆いていてもしょうがない。
 小夜子の邪魔にならぬよう素早くキメラの後ろに回ると、潤の攻撃していた方の足を狙って、流し斬りの往復運動を叩き込んだ。
 そのヒューイの一連の行動が終わったところに‥‥
「ハッ!」
 小夜子はキメラを掴んでいた腕を離し、深くかがむと、電光石火の動きで抜刀。
 キメラの股の間を前転でくぐりながら、既に潤とヒューイの攻撃でボロボロになった足めがけて斬り付けた。
 キメラにとっては組み合っていた相手が突然消失したように感じただろう。
 そして‥‥
 外側から何度もえぐられていた足。
 そこに内側から切り込みを入れられては、自身の体重を支えることさえかなわず。
 ドーンという轟音を立てて大木は倒れた。
 それでもなお頭を大きく振って火の粉を撒き散らそうとするものの‥‥
「放火は決して許しません‥‥!」
 小夜子が火のついた頭を切り飛ばす。
 キメラはまたもその傷口から大きく火を吹き上げるが、横倒しになっていては誰にも当てられない。
「終わりです!」
 火を吹き終えた頭部の傷口めがけて、潤は何度も銃弾を叩き込んだ。
 数秒の後、キメラが完全に動かなくなると、周囲の民家の中から歓声が上がる。
 隠れていた人々からの、傭兵を歓迎する拍手だ。
「すみません、お願いします」
 消防車からの放水でキメラの炎も消えた。
 さて、町の中に火事がなければよいのだが。


 同時刻、遊とリアのC班も戦闘に入っていた。
 こちらはホアキンや小夜子が誘導しようと狙っていた川べりでの戦闘である。
 グラップラーとフェンサー。
「お互い接近戦のスピード勝負、似たもの同士ってことで」
「一撃離脱戦法、連携していきましょうか」
 大剣クルシフィクスを持つリアは、一見とてもそうとは思えないが‥‥
 戦闘が始まると、その本領がわかった。
 十字架状の鍔と持ち手を上手に使い、梃子の原理で超接近状態から斬撃を浴びせる。
 円閃により体の回転も加わり、水の属性を持つ大剣は、本人の予想以上にキメラの体をえぐった。
「ぶっ!?」
 しかし、攻撃などお構いなしで突撃してくるとは思わなかったのだろう、リアはキメラの前面にしたたかに顔をぶつけてしまう。
「随分頭が足りてへんようやな‥‥丸坊主にしたろうか」
 カマキリを模った爪、鎌切を装着したまま枝の上に飛び乗る遊。
 その形状ゆえ、このふとっちょキメラの体を狙ったら刺さって抜けなくなる危険もあると考えた。
 しかしこの鎌切もまた水の属性のついた武器‥‥
 飛び乗った時に前面から1回。そして飛び降りざまに後方を1回。
 わずか2回の攻撃で、枝‥‥いや、キメラの片腕は切り落とされた。
 遊はその切り落とした枝についた火を踏み消す。
「どやっ!」
 しかしキメラは後ろなんて見ちゃいなかった。
 微妙に悲しいが、そんな事も言っていられない。
 あらかじめ決めておいた合図で、リアと遊は位置を入れ替える。今度は遊がキメラの前に。
 交互に攻撃を加える戦法だ。
 キメラはひたすら突撃し片腕となった枝を振り回してくるが、遊には瞬天速がある。
 一瞬にして距離を離したかと思うと一気に近付いて攻撃を加える。
 さらに、攻撃を受ける心配のなくなったリアは、キメラの背後から渾身の二連撃を見舞う。
 二連続で円閃を叩き込むという大技だ。
 下から振り上げる攻撃に遠心力が加わり、残っていた枝をも簡単に切り飛ばした。
 川に切り飛ばされた枝が落ち、ジュゥッと音を立てて沈む。
 そして。
「え‥‥!?」
「くぅおっ!?」
 他の敵より下の部分で頭部を断たれたこのキメラは、大きく広がるように炎を巻き起こした。
 とっさに後方に跳んだものの、2人とも火傷を負う。
 耐火ジャケットを着ている遊さえだ。
 キメラは一撃離脱を繰り返していた遊に向かって、まだ突撃し‥‥
「あ?」
 そのまま川にダイブ。
「えっ、ちょっ‥‥なんや?」
「‥‥もしかして川底を走ってる?」
 水面の波紋から想像するに、何も考えず直進しているようだ。
 まだ生きているということ。
「しょ、消防の方ー! あたしらを乗せてってやー!」
 住民の方々にキメラの行方を見ていてもらい、消防車で川向こうまで運んでもらうことに。

 結局、キメラは川に飛び込んだその方向を保ったまま、愚直に向こう岸に現れた。
 火の消えたキメラなど、もはや敵ではなかったが‥‥
 妙に疲れさせられた、珍妙なバーサーカーだった。



 戦い終わって、2時間後。
 消火活動も終わり町の中にはもう火は無く、怪我人もそれぞれ治療してもらった後。
 傭兵達は、ファイヤーダンサー達の歓待を受けていた。
「ふふ‥‥皆さん元気になられたようで良かったです」
 覚醒が終わって普段通りに戻った小夜子とリアも、素直に楽しんでいる。
 キメラに襲われたというのにここまで早く立ち直れる町民達の精神力の賜物か。
 いや‥‥傭兵達の迅速な対処あってのものか。
「ちょっとええかな?」
 遊はファイヤーダンスを教わろうとしているし。
 爆炎四方陣の爺さん達も、包帯を巻いてはいるが、ひじょーにお元気そうで何より。

「やれやれ」
 アンナは日傘をさして、すっかり落ちついた佇まい。
 消防の人々に、ねぎらいの言葉をかけに行った。
「ありがとう、おかげで助かったわ」
 いかに攻撃能力が弱かったとはいえ、未知の生物に対抗しようという精神が凄い。
 そして、能力者と協力し、その異常な戦闘力を目の当たりにしても変わらず接してくれる‥‥
 火に希望を見る人々。
 この町の住民達はきっとこれからもずっと、良き隣人であり続けるだろう‥‥