タイトル:ホーネットINネットマスター:三橋 優

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/08 17:47

●オープニング本文


 よう、オレの名前はアレクサンドル。
 ULT末端の能力者だぜ!
 いやまあそれはいい。
 今のオレの状況でのんきにしてられるわけもない。
 ま、キメラの調査に来るって任務は毎度の事だ。
 命の危険も承知してる、それでそれなりの給料もらってるんだからな。
 だが。
 問題はそんな所じゃあない。

「数え切れねえし! 事前調査もできねえよ!」

 アレクサンドルは、何百匹という蜂の群れに襲われて全速力で逃げ出した。
 自身障壁があったとはいえ、よく自力で帰ってこられたもんである。


 全身に包帯を巻きつけ、ストレッチャーの上から傭兵達に解説をする赤毛の大男。
 お前もう病院に帰って寝てろよ。
「でっかい手のような形をした生き物がうろついてるってんで行ってみたが‥‥」
 まんまと騙された。
 巨大な手のように見えたのは蜂の群れ。
 それを視認できる距離まで近付いたら、即座に襲い掛かってきたという。
「普段はどういうわけか人間の手のような形を取ってる。きちんと5本指だったぜ」
 まだフォースフィールドすら確認していないが、十中八九キメラだろう。
 蜂そのものはキメラでないとしても、操っているものが中心部にいるはずだ。
「探査の眼で見たところ、数箇所に怪しい部分はあったが‥‥そこまでしかわからなかった、すまねえ」
 全長3mの蜂の群れ。
 それは、恐怖だろう。

 今のところ、人間に被害は出ていない。
 が、人里に近付けば確実に大量の死人が出る事が予想される。
 ただの蜂でも、複数に刺されればたやすく死に至る毒をもっているのだから。
 戦線の最先端で発見できたのは幸運としか言いようがない。
「オレ達のような能力者の抵抗力ならなんとか対抗できるはずだ。頼んだぜ」


 もしキメラであれば、1匹たりとも逃がすわけには行かない。
 1匹で何人の人間を殺害できるか予測できないからだ。
 とはいえ、小さな虫を逃がさないというのは非常に難しい‥‥

 そんなわけで作戦アルファ。
 蜂の群れのいる場所を中心として、目の細かいネットを1km四方に張る。
 これでだんだん範囲を狭めていけば‥‥
 だが、ネットを完全に閉じる事ができるほどの距離まで近付けば襲われてしまう。
 そこで傭兵達の出番だ。
 ネットの内部で、手の形になっているうちに蜂の群れを殲滅するのである。
 湿度が高ければ空高く飛べる虫は少ない。
 しかし雨を待つわけにはいかなかった。
 どこかに隠れようとするかも知れない、そうなったら見つけ出すのはきわめて困難になる。
 湿度の高い今のうちに殲滅しなければ。

 この作戦アルファ、ULTとしても赤字だが、人の安全には代えられない。
 報酬もかなり少ないが‥‥どうか受けてくれる傭兵がいる事を願う。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
アルフレド(ga5095
20歳・♂・EL
水瀬 深夏(gb2048
18歳・♀・DG
ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522
23歳・♂・SN
アブド・アル・アズラム(gb3526
23歳・♂・EP

●リプレイ本文

●敵討ち‥‥って死んでないから
「安心して眠れよ、あんたの敵は俺が討ってやる!」
 ベッドで横になっているアレクサンドルの手を握って水瀬 深夏(gb2048)が涙を流す。
 雫がアレクサンドルの手に落ちてパンとはじけた。
「おい、こいつ死んでないから‥‥」
 しかし、その感動的なシーンはアブド・アル・アズラム(gb3526)の一言で消える。
 アレクサンドルと呼ばれる赤毛の大男は病院を抜け出してまで傭兵に連絡を伝えたあとそのまま搬送されたのだ。
 命に別状はない。
 医者も奇跡というが、どちらかといえば陳腐な出来事だ。
「どっちでもいいじゃん、手の形に集まった蜂をとりあえずぶったたけばいいんでしょ?」
 ばしばしと怪我人であるアレクサンドルを容赦なく叩いて弓亜 石榴(ga0468)は笑顔をアレクサンドルに向ける。
「いったぁ!? だ、だが、俺の生死よりも待ちの人の安全が第一だ‥‥そこは頼む」
 石榴に叩かれて飛び上がったアレクサンドルは何事もなかったかの様に話し出した。
「作戦アルファの概要は聞いています。確実に成功させると誓いましょう、第二、第三の犠牲者がでないように‥‥」
「ちょちょちょちょい! それどこか死んでいるから」
 ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)はアレクサンドルから突っ込みをいれられながらも病室を後にした。
「はした金が報酬か‥‥いや、命の価値は金じゃきめられないからな。人々を救うために傭兵は動こうじゃないか」
 アレクサンドルのベッドの脇にあった報酬を手にとってアブドも病室をでていく。
「ああ、金じゃないからな。俺はお前の心に感動して今回の作戦をやりぬくんだ。囮をしっかり果たすから、この香水もらっていくぜ」
「そ、それはこの戦いが終わったら彼女に渡すはずたったも‥‥のぉぅ!?」
 勝手に香水を取って出て行く水瀬をアレクサンドルは追いかけようとするもベッドから転げ落ちるだけだった。
 ハチに刺された痛みよりも心が痛む。
「この戦いが終わったら、俺は結婚するはずだったのに‥‥」
 傭兵の一部においてタブーとされる台詞をアレクサンドルは呟いた。
 
●地道な調査
「蜂の巣とかがなきゃいいがな‥‥」
 1km四方のネットを張る軍と連絡を取り全身に傷跡を浮かび上がらせたアブドは『探査の眼』を使って隠れているものがないか、
 アレクサンドルから聞いた怪しい部分を調査したが、異常はないようだ。
「北方面、問題ない。ゆっくりと目標に近づいていってくれ」
『了解した。そのほかの方面は問題ないか?』
『こちら南方面。ネットの設置を完了』
 協力体制をしていたハインからの通信が届く。
「北の南は完了、後は西と東だな‥‥」
 トランシーバーを置いて、アブドは一息ついた。
 視線の先には小さな黒い塊が見える。
 3mほどのサイズに固まったスズメバチキメラの群れだ。
「あれに囲まれて刺されるのは想像したくないな」
 キメラとの距離を詰めるようにネットを持つ軍と共にアブドは黒い塊に向かって進む。
 すると、アブドの眼が岩陰の巣を見つけた。
「止まれ! 蜂の巣だ。あいつのかもしれないからその場で待機していろよ」
 進行する軍に向かって無線機ごしに叫び、アブドはゆっくりとその巣へと足を進める。
 ザッザッという足音を響かせ、手に持っていた試作型超機械から小銃「シエルクライン」へと得物を持ち替えた。
 ゆっくりと巣に向かって銃口を向け、アブドは引き金を引いた。
 タァンという音と共に巣が打ち抜かれ、衝撃で宙を舞う。
 クルクルと回り、落下するところでハチが飛び出してきた。
 数は30匹はいる。
「一匹一匹が小さくても、まとめて撃てるこいつならば当たるはずさ」
 タタタンと20発にも及ぶ弾丸がシエルクラインから放たれ、ハチに食い込んでいった。
 フォースフィールドが発動するも小さなハチキメラはプチプチとつぶれて落ちる。
 だが、リロードする手前まで撃ってもキメラの数は半分ほどにしかならなかった。
 生き残ったハチキメラはアブドに向かって飛んでくる。
「このまま囮もかねる。タイミングは随時指示するからゆっくり進んでこいよ」
 トランシーバーに向かって指示を出したアブドはそのまま中央に見える黒い物に向かってかけだした。

●派手な囮
「そーら、こっちの水は甘いぜ!」
 普段のツインテールが解け、炎のオーラをまとってなびかせる水瀬がバイク形態のリンドヴルムを走らせる。
 手の形だったスズメバチキメラは水瀬を確認すると、掴みかかるように広がり襲いだした。
 3mサイズだったものが5m近くなり、スズメバチキメラの間から空がところどころ見える。
「この香水は効果抜群だな。むしろ、襲われた原因がこれだったりとか? いや、そんなことは関係ないかっ!」
 年頃ではありながらも化粧っ気のない水瀬は甘く香る香水に感心しつつもスズメバチキメラから遠ざかった。
 ギュルルルルとホイールを回転させ、足を地面についてターンをする。
 スズメバチキメラの群れは水瀬を包囲するように広がり、撹乱には応じなかった。
 周囲を確認すると、ネットが人の姿と共に見え出す。
「まだ、間合いじゃないな。もう少し遊んでやるよ!」
「よっと、お客さん追加でよろしく!」
 水瀬がアクセルを回したとき、石榴が別方面からスズメバチキメラを引っ張りながらやってきた。
 グラップラーの十八番『瞬天速』による引き寄せである。
「こっちも追加。まとめて頼んだよ」
 アブドもやってきてスズメバチの巣のかけらを水瀬に投げた。
「味方に四面楚歌にされるとは思っても見ないぜ‥‥だけど、面白い!」
 四方八方をスズメバチキメラに囲まれながらも水瀬は勝気な笑みを崩しはしない。
 リンドヴルムを変形させ、襲い掛かられる瞬間にアーマーをまとった。
『よっし! 行くぜ! ‥‥まずいまずい、囮だったな』
 両手につけられた激熱を構えようとするが、囮であることを思い出しエルガードに持ち替えて比較的空いている方へ体当たり気味に抜ける。
 リンドヴルムの足に装着されたホイールが回転し、加速された体当たりでスズメバチキメラはプチプチプチっと倒されていった。
『このプチプチ感は癖になりそうだぜ』
 楽しそうに水瀬はスズメバチキメラを一手にひきつけて去っていく。
「いまだ、間合いを全力で詰めてくれ」
 アブドがトランシーバーに連絡をいれると薄く広がっていたネットが大きくはっきりと見えてきた。
「それじゃ、私もネットの方に回ってくるね」
 キメラが近いためこれ以上は一般人では厳しいレベルとなってくる。
 能力者自身がネットを引いてこなければならなかった。
「そちらは頼む。俺は水瀬を支援してくる」
 アブドはそう答えて石榴と拳を軽く打ち合わせる。
「ぼろぼろにならないよう気をつけてね」
 石榴はウィンクを飛ばし、アブドが担当していた北方面へと駆け出した。
 
●一斉攻撃
 能力者が4人がかりで包囲網を狭めていき、アルファ作戦は第二段階に移ろうとしている。
『よし、逃げるぜっ!』
 迫り来るものがスズメバチキメラとネットとなった状況で、水瀬は辛うじて空いている隙間に向かって全速力で走った。
 後ろからはスズメバチキメラが追い、目の前のネットも静かに閉じられていく。
「早く脱出してください、でないと水瀬さんを巻き込んで攻撃しなければなりません」
 ハインの声が水瀬の耳に響いた。
『わかってるぜ!』
 水瀬はアーマー形態のままに叫ぶとバイク形態にリンドヴルムを戻した。スズメバチキメラが腹の針を突き出して水瀬を狙う。
 ブゥゥゥンという羽音がいくつも重なり大きなうねりとなって水瀬を刺そうと槍の形に変形した。
 アクセルを回し、加速して水瀬は黒い槍をよけた。
 そして、急ブレーキをかけて反転後、隙間に向かって直進し一気に駆け抜ける。
「ネットを閉じろ!」
「了解です」
 水瀬の声にあわせ、ハインはネットを狭めスズメバチキメラが外に出ないようにした。
 ネットに阻まれたスズメバチキメラは上から外へと飛び出そうと形作りだす。
「そうはさせないよ!」
 石榴が『瞬天速』で飛び上がり、あまったネットで蓋をした。
「総攻撃開始です」
 インサージェントを持ち出したハインが水瀬を狙おうとネットにへばりつくスズメバチキメラを面積の広い部分で叩いた。
 ブオンと空気を鈍く切る音がなり、逃げ場のないスズメバチキメラを容赦なく叩く。
 ブチブチブチと多くのスズメバチキメラが潰れる音が聞こえた。
「本当に数だけ多いぜ‥‥面倒くさい」
 アブドが超機械を持ってスズメバチキメラの中心を直接電磁波によって焼く。
 しかし、一対象が小さいため、思ったほどに効果をあげることができていなかった。
 プチプチプチと地道な攻撃でスズメバチキメラを潰していく。
「2mくらいにはなったかな? ネットが破られないうちに全部倒さなきゃいけないけれど、ホント手間だよね」
 ネットから逃れようとブゥンブゥンと飛び回るキメラを石榴が月詠の腹でもって叩き潰す。
『そうか? 俺はこのプチプチ感は好きだぜ?』
 アーマー装着状態になった水瀬が小銃「S−01」をつかって射的ゲームの要領でスズメバチキメラを一匹一匹地味に撃ち落した。
 水瀬の言葉どおり、プチプチと一発に付き一体ほど潰れていく光景は梱包材のふくらみを潰す感覚に似ているかも知れない。
「それでも覚醒し続けるにも限度があります。疲労困ぱいで動けなくなったところをブスリとはされたくありません」
 ハインはインサージェントの当たり判定の広さを利用して数を一気に減らす作戦にでた。
「それもそうよね。何か広くて大きいものがあると手早そうだけど」
「おい、こいつを使ってみないか?」
 自分の装備が向いていないことを嘆く石榴にアブドが自分のアーマージャケットを脱いで渡す。
 アーマージャケットは対バグア用に開発された能力者向け防具で軽量化合金繊維が織り込まれており、とても丈夫というふれこみで売られている防具だ。
「硬い防具はそのまま武器か‥‥面積広いし、いけるよね?」
 不安を感じながら石榴はアーマージャケットの袖を両手で持ってスズメバチキメラの群れに向かい振り下ろす。
 プチプチプチと一気に数匹のスズメバチキメラが落ちた。
「面積勝負ならこっちの方がいいよな」
 アブドも小銃「シエルクライン」の銃口の方を持ち、鈍器のようにしてスズメバチキメラを叩く。
 長さ1350cmの小銃はアブドの身長の8割近い長さのため、打撃に使う方が面積では勝った。
 よい子はこんな使い方をしてはいけない。
『俺もエルガードで叩くぜ、日が暮れないうちに片付けようぜ!』
 水瀬もネットの上から立ててスズメバチキメラをたたき出した。
 黒い塊が段々と小さくなっていく。
「一体、彼らは何をしているのだろうか?」
「遊んでいるように見えなくもないですね」
 集団で盾や銃で塊を叩いている姿を見た軍人はそんなやり取りをしていた。
 
●お前の敵はとったぜ‥‥いや、だから死んでないし
「よーっす! 敵は俺達がとってやったぜ! 安心しろ!」
 バタンとアレクサンドルのいる病室のドアを開けた水瀬が大声を上げる。
「静かにしてください、ここは病院ですよ」
「おお、悪いぜ」
 検査を済ませた看護士にいさめられ、水瀬は頬を掻いて謝った。
「敵って俺はまだ死んでないぞ」
 包帯が幾分かとれ、元気そうなアレクサンドルが水瀬を迎える。
「数が多くてさすがに疲れましたよ。収入の割に合わない依頼でした」
「それをいってやるなよ。この街の人間の命を救ったのが一番の報酬さ」
 水瀬がアレクサンドルに突っ込まれているとハインとアブドも病室にやってきた。
「スズメバチキメラは全部潰したよ。事後処理はUPC軍の人にお任せしてきちゃった」
「助かったぜ、俺がこんな体でなかったら‥‥」
「であったときも思ったけど、十分元気そうだよ?」
 映画などでおなじみの台詞を言い出すアレクサンドルに石榴が突っ込みをいれる。
 彼女の言うことももっともだ。
「ほら、一人ではなんともできない作戦だったからな。協力あってなしえたことだからそれを素直に喜ぼうじゃないか!」
 ごまかすようにアレクサンドルは笑う。
「それにおまえからもちゃんと協力してもらったからな、香水の空き瓶置いておくぜ」
「ぬわぁにぃ!?」
 笑っていたアレクサンドルの顔が青くなった。
 末端の能力者で生活費で四苦八苦していたアレクサンドルが少しずつ恋人のためにためたお金で買った香水が一日でなくなっている。
 驚くなという方が無理な話だ。
「俺は香水なんか碌に使わないからよ、どれだけつけたら蜂がよるかわからなかったから全部使ったぜ」
 けらけらっと水瀬は笑いアレクサンドルの背中をバシバシと叩く。
「街の人の命に比べれば安いものなのでしょう?」
 ご愁傷様と思いながらもハインはアレクサンドルの肩を軽く叩いた。
「給料3ヶ月分が‥‥俺の結婚がぁ〜」
「生きていればいいことあるさ、前向きにな」
 ショックに打ちひしがれているアレクサンドルに対してアブドも優しい言葉をかける。
 赤毛の大男アレクサンドルはそのまましばらく病室でなき続けた。
 
 大いなる使命のためには大きな犠牲が必要となる。
 
 しかし、成功したとはいえ、素直に喜べないことだってあるのだ。
 
 
 <代筆:橘真斗>