●リプレイ本文
●黄昏の廃城
「おぉ、古城探索なのですか! 城の秘宝は私が見つけ出してやるのですよ!」
「‥‥え〜と、普通の観光のはずじゃないんですか?」
夕暮れの中にたたずむ古城の入り口でなにやら明後日の方向に感性を走らせているフェリア(
ga9011)に出来れば肝試しなんて嘘だと言って欲しそうな柚井 ソラ(
ga0187)が困惑気味に訪ねる。
「ふふ、お城探検ですか楽しそうですね」
「そっ、そうですね」
城を見学するのを楽しそうに話すクラウディア・マリウス(
ga6559)を見ると行くのをやめようと言えないソラだったりする。
そのクラウが実は肝試しについて気付いていないとも知らずに。
「ふっ、幽霊か今回こそ斬ってみせる!」
「えっと、幽霊って斬れるんですか?」
以前にも幽霊に出会ったらしい鳳凰 天子(
gb8131)とペアを組む月城 沙耶(
gb7550)は幽霊を切ると豪語する天子に何を言えばいいか戸惑っていた。
「兄上のバカ、あんなに強引に誘っておいてヒドイのでありますよ」
誘った本人にドタキャンされてしまった美空(
gb1906)がいじけて地面に『の』の字を書いていたりする。
「世間じゃ幽霊なんていないというけど、いかにも出そうだな‥‥よし、つれて帰れば大もうけだな!」
「幽霊の話しって聞けるのでしょうか?」
そして、何やら幽霊と会える事を前提に話している山崎・恵太郎(
gb1902)と雪待月(
gb5235)であった。
「みんな、そろそろ出発するよ」
「お〜! 一番乗りは私が頂くのですよ!」
出発の言葉に一人で勢いよく城へと突撃していくフェリア、それを追って行く美空だった。
「あ〜! 一番槍は美空がもらうのでありますよ!」
ペアに分かれる話しとか聞く前に二人共行ってしまったが、ちょうど良いので残りの仲間で自然に分かれて後でこの城門前に集合という事になった。
●何かいる?
「こういった大きな城なら何か美味いものがあるはず、という事で冷蔵庫を!」
「あの、さすがに廃城に冷蔵庫はないのでは?」
「‥‥ふっ、鋭いですね真実を見抜くなんて」
雪に一番大事な部分を指摘されて恵太郎の背中に微妙な汗が流れる。
別に隠されてもいないが、既に歴史的価値以外になにもない場所に冷蔵庫が必要であるはずもなかった。そもそも、城の中に電気は通されていないので動かないのだが。
「そういえば、幽霊を捕まえるんですか?」
「‥‥友達になりましょう、と言えばついて来てくれないかな?」
むしろ、その場合は『憑く』になるのだろうが些細な問題らしい。
「でも、幽霊ってプラズマですよね」
「‥‥」
「それにお化けは、夜にしか出ないのでは‥‥」
「‥‥‥‥さすがですね」
プラズマ云々はともかく、連れ帰る手段をまったく考えてなかった恵太郎だったりする。二人の間に微妙な沈黙がおちる。
「え〜と、食堂の方も見て行きましょうか?」
「‥‥はい」
昔は城の主達が食事をとっていた食堂に行ってみると部屋の中には燭台の載った長いテーブルと光を取り入れるための大きな窓があった。だが、頑丈で品質の良い家具も薄く埃をかぶった姿は一抹の哀愁を感じさせられずにはいられない。
「こう、暗くて広い部屋っていうのは不気味だな」
「夜の学校とかみたいですね」
そんな話をしていると、部屋の奥の方でカツーンと何かが床に落ちた音がした。
「なんだ?」
音のした方へ行ってみると月明りを反射して輝いている物があった。拾い上げてみると銀製のナイフ。
「ふぅ、ただのナイフか」
恵太郎がそんな事を言っていると左の頬から肩辺りを薄絹で撫でられた様な感触があって背筋が震えた。
「うお! 雪さん、何するんですか!?」
「へ? 私、まだ何もしていませんよ」
そう言いながら後ろを向くと今にも机の下に鎌を持って隠れようとしている雪が『右側』にいた。
「今の雪さんじゃないなら、誰?」
恵太郎がそう言うか言わないかの瞬間、窓の閉っているはずの室内に風が吹いてランタンの明かりを消してしまう。
「ひゃっ!?」
部屋を照らすのは窓から入る月明りだけとなったがそれも雲が出てきて全てを覆い隠してしまう。
そして、カツーン‥‥カツーン‥‥。と、陶器がぶつかり合う音が聞える。
「いっ、一体何が?」
いきなり暗闇に包まれたのといきなり聞こえだした音に雪も恵太郎にしがみつきながら固まってしまう。
そして、いきなりボッ、ボッという音を立てて食卓の上の燭台に灯が燈る。いつの間にか最初に居た方に人影がいくつか点在していた。
「あ、あら?」
「こ、これは?」
二人共、事態が飲み込めず忍び足で人影の方に近付いていった。
そすると、ギョロリっという音が聞えそうな速さで全員こちらを向く。
「あ〜、な、ナイストゥー‥‥ミートゥユー?」
恵太郎の挨拶に主人らしき人影が手招きでこたえる。二人が少しずつテーブルに近付いていくと全ての人影がそのままの姿勢で一気に迫り来る。
「きゃああああああ!!」
「うおわあああああ!?」
雪の手を引いて恵太郎は扉を破壊しそうな勢いで廊下に出ると脇目もふらずに来た道を戻っていった。
かつては荘厳であったであろう薄汚れた柱の列と埃っぽい絨毯、玉座の後ろにある壁の中程には何故か管理人に良く似た人物が描かれた絵が飾ってある。そんな、玉座の間では‥‥。
「ふははははっ! これで私もドラグーンフェリ、ってこれはヤバイのですよ!」
飾ってある甲冑に入り込んだフェリアだったが、致命的な問題を見過ごしていた。
それは‥‥。
「うお〜、足がつかないのですよ!」
そう、それは背がまったく足りないのだ。しかも、足が地面につかないから股の部分が食い込んで来る上に胴部に腕までスッポリはまって身体を持ち上げられない状態になっていた。
「ふむ、我が騎士のくせに情けないでありますな!」
その様子を玉座に腰掛けながら眺めている美空、王様のマネらしいが威厳は皆無に等しい。
「そこは私の席だ〜! って、美空殿の後ろに何かが」
「えっ!? あっ、い、いいやそんな手には乗らないのでありますよ」
分っていても広間のそこかしこにわだかまる影の中にいないはずの怪物の姿を想像してしまうお年頃らしい。ただ、今回の場合は事実でそれが何かが問題であった。
「あひゃ!? な、なな、何でありますか!?」
美空の衿元に何かが落ちてカサカサと動く感触があった。
「いや〜! いや〜っ、取って〜〜!!」
「だから、言ったのですよ。ちょい、待つのです」
何とか甲冑から這い出したフェリアが上着を脱ぎ捨てた美空の背後に回って首筋の辺りで動くモノを捕まえる。
「クモ? もしかして、クモでありますか!?」
「お〜、単なるGなのですよ」
「あ〜、なんだGでありますか」
二人して慌てて損したと笑うが、すぐにその声も止まる。
「‥‥」「‥‥」
「ぎにゃ〜G!?」
「えっ、わ〜また服に入ったのであります!?」
また、服の中『しかも今度は一番奥』まで入ってきたヤツを取るために美空が次々と服を脱ぎ捨てていく。そして、最終的にそのなんというか、人が居ないとはいえどうよ的な大胆な格好にまで行き着く。
「ふっ、Gめこの私に恐れをなしたな」
「一枚、二枚‥‥あれ〜、一枚足りない」
身体を這い回るカサカサ感もなくなったので服を着ようとしたら何故か一枚足りない。
「どうしたのですか?」
「パンツがないのでありますよ」
しょうがないので何故か持って来ていた水着で我慢する。
「ところで、騒いでいたらこんな物を見つけたのですよ」
「おおっ、隠し通路ですな!」
「美空殿、我々はこれより独自の路線をいくのですよ」
「おおっ、なんだかカッコイイでありますな!」
そして、二人は壁の一部に開いた隠し通路へと入っていった。
シン、と静まり返る広間で後に残された絵画に何故か縞模様の布が追加されていたのには最後まで気付かなかった。
「幽霊なんていないです。居たらきっとキメラなんです」
始まってからずっと、廊下に飾られた幕や中庭の木のざわめきに身を竦ませているソラと先を行くクラウが目指していたのは礼拝堂だった。本当にキメラだったら、呑気に肝試しなどしていられないのだが。
「月明りに照らされた夜のお城って幻想的で素敵だね」
「う、うん‥‥このまま、月が明るいといいね」
今の状況でも十分に怖いソラにとってさらに暗くなるのは全力で遠慮したい所だった。だが、無情にも着いたのは出口ではなく古びた礼拝堂だった。
「おじゃましま〜す」
クラウが明るい声と共に扉を押すとギィィと軋む音と一緒に入口が開き、中には奥の中央にマリア像があり、真ん中を境に整然と並ぶ木製の長椅子、それらを壁と説教台の上に灯された蝋燭がオレンジ色の光で照らしていた。
「うわぁ、綺麗」
「‥‥‥‥」
その光景に幻想的な美しさを感じたクラウと不安でそれどころじゃない無言のソラも必死で蝋燭の光を見入っていた。
そして、どのくらいその場所に立っていたか分らなくなりはじめた頃、冷たい風が二人の全身を舐めまわして来て揃って一瞬目を閉じた。
「きゃっ!」
「うわっ!」
風が収まって目を開けると壁の蝋燭は消えうせていた。先程、見えた風景も今は説教台の小さな灯りに照らされたマリア像の顔もまるで二人を闇の果てに誘う悪魔のように見えた。
「うっ!」
それを見たソラが涙目になりながらクラウにぎゅっ、と抱きついてきた。クラウの方も先程までの気楽さは消えソラの恐怖がうつったのか微かに身体が震えていた。
「えっと、そろそろ戻ろ‥‥」
戻ろうか、と言おうとした瞬間、いくつものバサバサという羽音が聞えて思わずその場に二人共しゃがみ込んだ。
「な、何!?」
「ひゃうっ!」
「と、とにかく、ここ出よう!」
既に喋る余裕のないソラもスゴイ勢いで首を縦に振る。そして、扉へ全力でダッシュして中庭へと出てもそのまま走り続ける。
そして、不意に足元の感覚が消えうせた。
「え?」「へ?」
二人で一緒に呟くと同時に仲良く中庭に設置された落とし穴に落ちたのだった。
「あうう、なんだか、月が雲に隠れちゃいました」
「こういった場所に来るのなら鞭を持って来るべきだったか」
「吸血鬼退治でもするんですか?」
「いや、骸骨の幽霊でも飛んでいそうな気がしたからな」
別にここは悪魔城ではないのだが、二人は白の外壁の途中に設けられた塔に居た。
普通はそんなの居ないと言いたい所だが、月が雲に隠れてランタンの明りのみで数メートル先も見えない今の状況では本当に出そうに思える。
人によっては夜の方が太陽の光が降注ぐ昼間よりも落ち着くと言う者もいるが、逆に夜にできる深い影の向うに吸い込まれそうな気がしてくる。
「そう、幽霊なんて居ない。いても、きっと幻覚なのそれは」
「ふっ、幽霊と遇ったなら今度こそ斬り倒してみせるぞ」
「‥‥あの、鳳凰さんは幽霊にあった事が?」
「ふむ、一度だけな、あれは‥‥」
「いやっ、詳しい話は聞きたくない〜!」
「別に斬れないという言い伝えなどないならば、必ず斬れるはずだ」
いや、普通は言うまでもなく斬れないから対応に困るはずなのだが、その辺は気にしていないらしい。
ガラアァン!! ゴオォン!!
突然、上の方から大きな鐘の音が辺りに響き渡り冷たい風が二人の間を抜けながらランタンの火を吹き消した。
「はう!?」
完全な暗闇に放り出された沙耶が天子に抱きつく。
「む、来るか!」
そんな、沙耶とは反対にどこか嬉しそうに機械剣を構える天子。
「‥‥そこか!」
そして、何かの気配を感じた方向に圧縮されたレーザーの刃を振りぬいた。
「手応えは‥‥無いか?」
「はわわわわわ」
確かに何か気配を感じた気がしたのだが、だが、幽霊の代りに切実な手応えが『ピシッ』という音として帰ってきた。
「あ?」「へ?」
次の瞬間、古くなっていた階段が塔の一部と共に崩れ去る。
「いや〜〜〜!?」
「しまった。こういう事態は想定外だったな」
そして、瞬く間に落下した。のだが、二人共能力者として覚醒して傷一つ負わずに着地していた。
「‥‥で、こうなるわけか、まったく」
先程までとはなんだか様子が変わる沙耶だった。
「‥‥‥‥」
「ああ、ゴメン、私はマイだ。この娘の‥‥まあ、別人格というやつだ」
「そうなのか、変っているのだな」
その一言で済ませると会話が続かなくなる。城の一部を壊してしまった事から逃避したいという気持ちもあったが。
だが、その沈黙を破るものがあった。脇の茂みの方からガタガタと音が立つ。
「なんだ?」
その音がだんだんと大きくなって行くのに二人して息を飲む。そして‥‥。
『かたくりこー、おひゃぁ!?』
ドバンッ、という擬音と共に地面から美空とフェリアが出てきた。それに対して思わず機械剣を振るってしまう天子であった。
「私達をコロス気なのですか!?」
「スマン、つい反射的に」
「というか、何でここに?」
「隠し通路を通って来たら辿り着いたでありますよ」
そんな会話をしていると今度はメキメキと木が折れる音がしてそちらを向くとちょうど木が倒れてくる。
まあ、倒れてきた木を避けるのは難しい事ではなかったがオマケがあった。木の上にいた虫や動物まで彼女達に降りかかってきた。
しかも、運の悪いマイには蛇、しかも、呑みかけたネズミ付き。さすがにこれにはマイも声にならない悲鳴を上げる。他の三人も似たり寄ったりで揃って悲鳴を上げながら逃げ出したのだった。
●出口
「何かここ変だよ!」
「なんなのここ〜〜!?」
いつの間にか全員が合流して一緒に出口を目指して走っている。その間も耳元で不気味な声が聞えている様な気がしてならなかった。
「出口であります!」
「おおっ、光が見えるのですよ」
全員で転がるようにして辿り着いたその先には白い光で満ちていた。
「君達、何をしているのかね?」
そして、光の先には何故かカプロイア伯爵(gz0101)が居た。
「へ? 何で伯爵ここに?」
「それは、こちらが聞きたい所だよ。何故、このような無人の城に?」
「無人? でも、管理人さんが‥‥」
「いや、ここは最後の領主が亡くなってから何百年か誰も住んだ事はないはずだが」
その一言に全員、血の気が引く音を聞いた気がした。しかも、余計なほど親切に最後の城主の外見まで教えてくれる。
しかも、それがピッタリと管理人の外見と合致する。
「‥‥まさか、そんなの偶然ですよ。ありえな」
「うん、ないよね」
「そういえば、ここに来ようと言ったのは誰だったか?」
「美空殿ではなかったですか?」
「美空ではないでありますよ」
「拙者でもないぞ」
「俺もこんな城があるのは知らなかったぞ」
「もう、二人いなかったか?」
『‥‥‥‥‥‥‥‥』
その直後、焦った顔で逃げ出す者、幽霊を退治すると騒ぐ者、それを羽交い絞めにする者と城門前は混乱の坩堝となった。
そして、伯爵だけがその様子をきょとんとしながら眺めていた。
了