タイトル:求む!オトコのコ!!マスター:三嶋 聡一郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/12 22:41

●オープニング本文


 今、その街の住人達は悩んでいた。
「くっ、もう7月も下旬だというのに観光客数がこれだけしかない」
「世界中戦争してるからな‥‥」
 とある地中海に面した街、ここにも暗く戦争の影は落ちていた。
 それは、観光客の激減である。ヨーロッパは平和な方でも、他の地域が戦乱に見舞われて経済が悪化していれば自然と観光客が減るのも道理であった。
「どうする? このままじゃ、来月も‥‥」
「くっ、何か目玉になるイベントやるしか」
「けど、目玉になるイベントって何だよ」
 会議は喧々囂々、まったくまとまらない。地中海の自然を大きく損なうことは出来ない、かと言ってインパクトがなければ客は集まらない。
 ならば、どうするか、そして、また最初に戻るという堂々巡りを繰り返していた。
「‥‥あの、良いですか?」
 挙手したのは新しく役員に加わった若者だった。一瞬、場が重い静寂に包まれる。
「以前、ラストホープに行った際に最近の流行というモノを聞いたのですが‥‥」
 自分に降りかかるプレッシャーになんとか耐えて口を開いていく。その場にいた全員が息を飲む気配が痛いほど伝わってくる。
「『オトコノコ』というのが今の流行らしいです」
『男の子?』
 その場にいた役員全員がいっせいに疑問符と共にその言葉を繰り返す。
「それは、どいうものかね?」
 役員長が代表して年配の男が聞くが、若者の方もイマイチ説明に困ってる。
「えと、確か女性に見える男性だったか、男性に見える女性の事を指していたかと‥‥」
 さらに彼らが頭を悩して数十分後、また、別の男が発言する。
「確か、その言葉は極東の島国で生まれた造語だったかとその島国では性別を表すのに一つ特別な字を使ってたと聞きます」
「その文字とは?」
 その男に役員長が訊ねる。
「『漢』だそうです。多分、こう書くのではないでしょうか?」
 そして、ホワイトボードには日本語で『漢の子』と書かれた。
「なるほど、そうなのか!?」
 会議室のあちこちで納得の声が上がる。
「ふむ、要するに極東の島国では特別な括りに入る者をそう呼ぶというのだな、ならば、今回のイベントはそれで行こう!!」
 役員長の鶴の一声で全ては決まった。さらにイベントの詳細を詰めていく役員たちそして、コンテストのタイトルは決まった。

【第一回 漢の娘コンテスト(ポロリもある‥‥といいな)】

 きっと、極東の島国に縁の深い者ならこう叫ぶだろう。

『なんだよ、その間違った認識は!!?』

 ちなみに参加は男女問わずで一緒に審査するらしい。どこをどう間違ったのか、いや、どこをどうやれば普通の道に戻れたのかそれは誰にも分らないことだった。

 そして、舞台の幕は上がるのだった。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
ゼフィル・ラングレン(ga6674
16歳・♂・BM
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
鳳(gb3210
19歳・♂・HD

●リプレイ本文

●漢のコ集う
 熱い太陽、白い砂浜、青い地中海の海。美しいリゾート地に様々な要因で、その混沌は到来した。

【第一回 漢の娘コンテスト】

 という横断幕が掲げられた会場にはもの珍しさに惹かれた多くの観客が到来していた。

 一方、コンテスト参加者たちの控え室。
「なんで、私はこんな所にいるんだ?」
「なんで、ボクはこんな所にいるんだろう?」
 伊佐美 希明(ga0214)とゼフィル・ラングレン(ga6674)が同じようなセリフを同時につぶやいた。コンテストの名前が名前だけにそう言いたくなるのも分るが、まず問われるべきは何故か控え室が男女混合なのかという事だろう。
「ただ、受付の人に質問しただけなのに参加する事になるなんて、今からでも断って‥‥いや、ダメだ。参加しちゃったからには頑張らないと、主催者の人達にも迷惑かかるし、楽しみにしてるお客さんもがっかりしちゃう。よっし、頑張ろう」
 と、気合を入れるゼフィル。どうやら、既に企画段階から混沌としたこの会場の空気にツッコミを入れるものは誰もいないらしい。
 ちゃんと着替える場所は暗幕で仕切られて見えないようになっているので問題はないと思われるが。
「こんな、乙女を捕まえて漢と書いてオトコと読むとは失礼だな。私がどれだけ女の子らしいかシッカリアピールせねばなるまい!」
 と言いつつ、胸を張っている希明の姿は参加者の誰よりも男らしかったりする。
 その後ろでは金城 エンタ(ga4154)とファイナ(gb1342)がなにやら言い合いをしている。
「金城さん、これはどういうことですか!?」
 最初はただエンタを探していたはずなのにはいつの間にか大会にエントリーさせられていたファイナが原因であるエンタに問い詰めていた。
「お願いです。一人じゃ不安で‥‥一緒に参加してください」
 ファイナの気勢に気圧されたのかエンタは身体を小さく縮こまらせていた。
「僕は男なんですよ! こんなの似合うはずないです!!」
 口には出さなかったが、既に成人している男にゴスロリドレスというのがまたキツイ。
「どうしてもダメですか?」
「どうしてもです!」
 上目使いで見上げてくるエンタにファイナも一瞬心がぐらついたが何とか突っぱねる。
「ううっ‥‥わかりまし‥‥っく‥‥た‥‥ふえ〜〜ん」
「えっ、ちょっ、何も泣かなくても!?」
 泣き始めたエンタに気付いて室内の参加者の視線が二人に集まっていく。
「わかりました! 参加しますから泣かないで!」
「本当ですか! やったぁ」
 ついさっきまで泣いていたのが嘘のようにコロリと笑顔になる。反対にファイナの方は肩を落とす。本物の女性以上に涙を武器にする『男の娘』金城 エンタ、これを見た他の参加者(特に女性陣)も戦慄を覚えずにはいられなかった。
「そう、凛が男の娘って認めるわけじゃないけど約束したし、困っている人達を見捨てるわけに行かない、頑張るんだ勇姫 凛(ga5063)」
 部屋の片隅で観光協会の会長が、凛の事務所の社長の親戚の又従兄弟の‥‥要はまったくの他人が困っているからという理由で参加したアイドル傭兵の凛もアピールタイムに歌う歌の確認をしていた。
 そんな参加者の大半がどこか訳の分らないまま開始のベルは鳴ったのだった。

●自己紹介
「みんな、今日はコンテストに来てくれて、おーきにな♪」
 司会進行役の鳳(gb3210)のセリフに観客の歓声があがる。
「お〜、みんな元気があるなぁ。俺は司会の、とかべたな紹介はおいといてさっそく、参加者の紹介に行ってみよか〜♪」
 空気を揺らす。主にいろんな意味で暑苦しい男性陣の歓声をBGMに紹介が始まる。
「まずは、エントリーナンバー0番、鳳‥‥って、俺かい!?」
 カンペを見た瞬間に分ったがそのまま、ボケツッコミをするのはお約束だった。
 参加者の紹介は続いていく。
「鳥飼夕貴(ga4123)よ、よろしくね」
 バッチリ日本髪にセットされた髪と白粉で塗り固めた顔に流れ星が描かれた浴衣と蛇の目傘という歌舞伎スタイルで出て来た夕貴に始まり。
「僕、水理 和奏(ga1500)! 名前で分かっちゃうよね、こう見えても実は女の子だって‥‥でも、漢って所を見せる為に頑張るから見てて下さい!」
 いや、名前でも何も最初から女の子に見えるよとか言う空気の読めない奴はいなかったらしい。
「男の子は、その‥‥女の子と違って隠れて水着に着替えたりしないって聞いたんだ! だから、僕も今すぐここで着替えます!!」
 いや、男子だって隠しますよというツッコミを入れるヒマもなく、いきなり服を脱ぎだす和奏に
『おおおおおおっ!!』
 と大興奮な大きなお友達たち。
「‥‥じゃーん! 漢らしく着替えました!」
 と腰に手を当てて胸を張ったその姿は、今では絶滅したとすら言われる濃紺のスクール水着(旧型)だった。薄い胸の辺りに控えめに貼り付けられた名札には『5年2組 わかな』と書かれていた。
「あ〜、和奏。水着タイムはまだやで」
「‥‥え? ごっ、ゴメンなさい!?」
 鳳のツッコミに顔を真っ赤にしてパタパタと走って舞台袖へと消えて行った。
「え〜、では次いってみよか〜!」
「こんにちは、エントリーナンバー3番のゼフィルです。どうぞ、よろしく。あっ、言い忘れてました。ボク、男です」
 会場にいる女性を中心に信じられないという声が上がる。たまに地面に崩れ落ちている男性も視界の端に見えたが気にしないことにした。
「4番目、勇姫 凛だ。り、凛、男の娘なんかじゃないんだからな!」
 ちょっと、恥ずかしそうにツンと澄ましながら言うその姿に理想のツンデレだ、とか聞えたような気がしたがきっと幻聴だろう。
 次に現われたのはゴスロリドレスの二人。
「5番、金城 エンタです。今日はファイナお姉さまと一緒に頑張ります」
「6番‥‥ファイナ‥‥です」
 元気なエンタに対して恥ずかしそうにファイなの方はうつむいて声も尻すぼみだったが、それが逆に可愛いと評判は上々のようだった。
「お姉さま‥‥その姿、とてもお似合いです‥‥普段からその格好のほうが断然良いですよ…」
「だから、僕は男だからこんなの似合わないって!」
 観客はまたしても目の前の美少女が男だと言われて驚愕の声をあげる。たまに号泣している人や何かウットリしている女性がいるのだが、既にそれを気にする者は誰一人いなかった。
「お姉さま、その身長でこのウエストのサイズ‥‥反則ですよ‥‥」
「そっ、それ言ったら金城さんもじゃないですか!?」
「うん、じゃっ、二人は放っておいてイサミンにいってみよか〜」
 これ世界の全人口の半分近くが敵にならないうちに鳳が素早く次の紹介へと観客の注目を移した。
「7番! 伊佐美希明、18歳、射手座! 身長160cm、体重48kg。スリーサイズは聞くんじゃねぇ!」
「いや、どなたはんも聞いてへんしスリーサイズ‥‥」
 ちなみに格好は袴とはっぴ、しかも、背中には円の中に『勇』の筆文字が書かれている上に背筋を伸ばしてどーん、と立っていて実際の歳や体格以上に威厳をはなっていた。
「特技は裁縫!」
 立ち振る舞いは既に完全に漢のそれだが、やはり中身は歴然とした女の子。
「好きな物は日本酒!!」
 前言撤回、既に古の頑固親父レベルの漢らしさだった。というか、お酒は成人してからというツッコミを誰もが忘れていたのは希明にとって幸か不幸かわからなかった。

●水着タイム
 水着審査に入る前には一般人の参加者もいたが傭兵達の存在感にはまったく勝てなかったり、希明が場繋ぎに豪快に和太鼓を打ち鳴らしたりもしたがページの都合上、割愛させて頂こう。
「さあ、皆さんお待ちかねの水着審査に行ってみよか〜!」
 ちなみに鳳はさっきまではゴスロリ服にツーサイドアップという服装だったのに、今はちゃっかりとキュロット型パンツに丈の短いパーカーという姿だったりする。
「これから、可愛いオトコノコ達があんなことやこんなことで、みんなを楽しませてくれるそうや、何が出るかはみてのお楽しみ♪」
 そういい終えて舞台の端に立つ鳳にスタッフが椅子を持ってきてくれる。
「おっ、スタッフさん、どうもです」
 そう言って鳳が腰掛けるとスタッフがグルグルとローブで鳳を椅子に固定していく。
「へ、あれ、スタッフさん何してはりますの? えっ、出し物、俺が的!?」
 動かないでと言って鳳の頭にリンゴを乗せて去っていくスタッフ一同、舞台の反対側からは弓を携え、ハッピの袖から片腕を抜いた希明が現われる。
「てっ、ちょお〜〜!?」
「動くと危ないぞ」
 まるで流れるような動作で希明は弓に矢を番えていく。会場の全員が静かに見守る中で鳳だけがやめてくれと叫ぶが止まらない。そして、矢は放たれて‥‥見事に頭上のリンゴに命中した。
「ふっ、こっ、こんくらいはして場を盛り上げへんとな」
 とか、言いつつも本当は冷や汗がだらだらと流れたりする鳳だった。

 夕貴の日本舞踊に始まる。昔、旅の一座で女形をしていた夕貴の得意とする踊りと日本の伝統芸能に触れた観客には受けていた。少々残念なのは、子供や年若い人には受けがイマイチだったことか。

 次はエンタとファイナの掛け合いだった。二人は現在、水着ではなく男物の衣装に変っていた。特にエンタはクレリックシャツに半ズボンにベレー帽とどこの少年探偵かと聞くべきかとも思えてしまう。
「金城さん、いっそのこと、女性として生きたほうがいいんじゃないですか?」
「あっ、あのファイナさん?」
「ああ、でも。その格好も、一部の人には需要があるかもしれませんね」
「はぅ‥‥そ、そんな意地悪、い、言わないで下さいよ。ファイナさんだってさっきの女装似合ってたじゃないですか」
「そんな事はありません。金城さんよりは、僕は男ですから!」
 微笑みながらそう言い続けるファイナがちょっと怖かったエンタだったりする。ついでにちょっとアクションが足りなかったかも知れない。

 うって変わって、派手な舞台を演出したのは凛とキーボードを演奏するのは女性用のワンピース水着にパレオという姿のゼフィルの二人だった。
 吹き上がる花火を背景に桜の花びらをあしらった浴衣に番傘にローラーブレードで現われて自身の持ち歌を披露していく凛はダークスーツにシルクハット、ゴシックワンピースにパラソルと一曲ごとに服装を変えていく。お祭りハッピから今は真っ赤なパーカーを羽織った水着姿でいよいよ、クライマックス‥‥という所だったのだが。
「じゃあ最後は、凛の新曲『真夏の流星』‥‥へっ、時間切れ? って、あ〜〜〜っ!?」
 惜しい事に時間が来てしまったらしい。舞台袖から現われた黒子集団に押し流されるように連れ去られて行く凛、その姿はまさしく『真夏の流星』のようだったと観客は語ったとか。
「えと、ご清聴、ありがとうございました」
 最後にゼフィルがペコリとお辞儀をして舞台袖へと消えて二人の共演は終了した。

 今、希明の前に堂々とした数体の巨大な黒マグロが横たわっていた。だが、用意されているのは包丁一本のみ、助手も捌く為の機械も見当たらない。
 会場の誰もが、まさか本当に一人でやるつもりかと固唾をのんで見守る。
「いざ、参ります」
 包丁を手にしてあいた片手はマグロに添えるように置くと、いっきに尻尾と頭を落とす。続いて流れるような包丁捌きで背骨に沿って背と腹に切れ込みを入れていく。
 熟練の傭兵である希明にとって、普段のキメラとの戦いに比べれば動かないマグロなど目を瞑っていても捌くのは簡単だった。骨から身を取ったら血合いを取り除き、大きくブロックに分けていく。あっ、という間に数体の黒マグロは全て解体された。
 最後にお辞儀と共にこの後、実食してもらう事を告げると会場から大きな拍手が巻き起こった。

 最後に登場して来たのは水着のままの和奏だった。
「んっと、さっきは漢らしい所をちゃんと見せられなかったけど今度こそは!」
 と拳を突き上げる彼女の周囲に設置されて行くのは瓦や太い木製バットなどなど、よく見ると突き上げた拳にも布が巻いてある。
「では、行きます‥‥」
 こういう力強い行動こそオトコノコとしての重要なポイントだと考えたのだ。会場の方もか弱そうな少女が本当に出来るのかと感じているようだった。
「ハァ!」
 気合と共に周囲のバットや木板が次々に破壊されていく。そして、最後は正面の瓦の塔に向きなおる。
「っ!!」
 その瓦の塔に全力で拳を振り下ろす。能力者の全力を受けた瓦は砕けるだけでは飽き足らず空中にまでその細かい欠片を巻き上げて姿を消したのだった。
「イェイ」
 和奏が勝利のブイサインをして見せた時にそれは起こった。プチンという音と共に何かが切れる。
「ほへ?」
 砕けた欠片で水着の肩紐が切れかけていたのか腕を大きく動かした際にご臨終したらしい。
「えと‥‥オトコノコなら胸見えても平気‥‥じゃない〜〜」
 またもや顔を紅くしながら退場していく和奏だった。その直後、会場からは大きなお友達を中心に男性陣の咆哮が響き渡ったのだった。

●夕焼けと共に
 コンテストも無事(?)終了して、参加者達は揃って鍋を囲んでいた。
「ううっ、はずかしかった」
 今でもちょっと、涙目の和奏だったりする。
「はっはっはっ、そういう時は美味いもの沢山食って忘れるのが一番だぞ」
 と言いながら和奏の椀に余ったマグロで作った鍋をよそっているのは希明だった。
「ううっ、最後のシューティングスターさえ歌えてれば」
「まあまあ、次の機会に歌えば良いじゃないですか」
 最後の歌を歌えなかったのが哀しいのか落ち込む凛をゼフィルが慰めている。
 結局順位は、三位が歌とアクションの冴えた凛で、二位が大きなお友達を中心に子供や父兄からの人気を集めた和奏だった。
 そして、一位は女性陣の圧倒的な支持とマグロの解体が功を奏したらしい希明だった。
「ちょっと、今回は傾向を見誤ったか‥‥」
 黙々と食事を続けながらコンテストの反省をする夕貴、今回は準備期間が短かったのも残念な要因だったかも知れない。
「聞いてるんですか、金城さん!? 大体ですね‥‥」
「はいはい、聞いてますよ」
 顔を赤くして抗議するファイナの小言を受け流すエンタも美味しい鍋に舌鼓をうっていた。
「あ〜、でも、もっと男の娘な人達も来てくれたらよかったのに」
 とエンタ、鍋を囲みながらラスト・ホープの『オトコノコ』な人達の話題で盛り上がりながら南国の夜は更けていった。

 こうして、翌日は地中海の海で一日遊び倒して傭兵達の休日は終了した。

 END