タイトル:【CDX】もう1体の混血児マスター:三嶋 聡一郎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/16 05:02

●オープニング本文


●CDX計画
 その会議室には今現在、スーツ姿の企業人と思しき人間達が会議机を囲んで座っていた。部屋の雰囲気はお世辞にも明るいとはいえず、重い空気が立ち込めていた。
 机を囲んでる者達の視線は企業のロゴマークの入った壁を背にして会議を取り仕切っていた男に集中して今回の会議での発表を今かと待っていた。
「本計画における社内コンペンションの結果を発表する」
 男が背筋を正し低くよく通る声で告げると会議室にいる全員が息を飲みその結果を聞く者反応は様々だった。落胆や忌々しい態度を取る者、無事に会議が終った事に安堵する者。
 そして、白衣を着た痩身の学者風の男性は隠しきれない喜びを、スーツの神経質そうな男性は憤怒を、それは紛れもない勝者と敗者の姿だった。
 その様子を見ながら誰かが忌々しげに言った。
「混血児が勝ち抜くと」

 『CDX計画』、それはクルメタル社の新型KVの開発計画だった。
 相次ぐ新型機の登場にクルメタル社内では焦燥が募っていた。クルメタル社の『CD−016シュテルン』は高い次元でまとまった汎用性を誇る傑作機であった。
 だが、性能面では高い汎用性を持ち傭兵の間で高い評価も受けていたが別の方面では大きな問題を抱えていた。

 それは『流通量』である。

 シュテルンの対応力は優秀ではあるがその反面、操縦者に迷いを生じさせる事もあり正規軍での評価は芳しくなかった。そして、もう一つの問題が機体生産時のコストの増加だった。
 さらに欧州軍主力用にユーロファイターの開発計画が持ち上がるのが追い討ちとなる。
 かくして、市場への影響力を高める為にもクルメタル社独自の機体の開発が切望された。そして、クルメタル社の上層部は一つの決定を下す。
 それは、いまだ拡張性、発展性を残したシュテルンを元に『コストを抑えつつも更なる高機動戦闘に対応できる機体』開発であった。
 その計画はすぐさま社内の各開発室へ打診され秘密裏に社内でコンペディション形式で争われた。
 最終的に伝統の第一開発室と異端の第七開発室での競合となり。そして、結果はドイツ出身者以外の研究者を多く抱える第七開発室のプランが採用される事となった。

●クルメタル第七開発室
 CDX計画での社内競争に勝利した第七開発室室長のアルフレッド・クロウリーは上機嫌で研究室と向う途中で友人と出会う。
「おっ、来てくれたのかい」
「その調子だと会議の結果は良好のようだな」
「もちろんさ、アッキー」
 アッキーと呼ばれた男、日野 章彦(gz0298)はその浮かれっぷりに軽くめまいを覚えた。いつもながら、そのフランクさには少なからず頭痛を覚えた。
 だが、章彦もなれたもので軽く頭を抑えてすぐに会話を戻した。
「とりあえず、私の呼び方は後で改めるとしてだ、呼び出した理由を聞きたいんだが」
「まったく、ノリが悪いなアッキーは」
「聞きたいんだが」
「わかったよ。歩きながら話そう」
 この二人、十歳ほど年も離れていたがなぜか妙にウマがあった。章彦はクルメタル社の社員ではないが何かと今回の開発でもこまごまと協力もしている。
「混血児か、蔑視だろうが確かに的をいてるかもしれんな」
「ああ、僕らの開発室はいろんな国の人間がいるし、ユーロファイター開発で得られたデータも取り込んでいるからね」
「欧州のメガコーポや人間が関わって生まれた者、確かに混血児だな」
「そして、日本人である君もね」
 二人して小さく笑いながら今回の開発でぶつかった様々な出来事が思い起こされる。まずは、たった数ヶ月という時間的制約、予算、シュテルンの汎用性の高さという利点すら時につまずきの要因になった。それらをろくに眠らず解決に全力を尽した苦労も報われるというものだ。
「だが、まだ、道半ばだな。今度は実践テストだろう」
「ああ、それと、19にはもう一つ大きな問題がある」
「問題?」
「ああ、まだ、名前がない」
「名前か‥‥」
 そんな話をしてるうちに部屋に着く。建物の端も端の薄暗い一角に第七開発室の研究室はあった。そして、その扉が開くと部屋で待っていたのは‥‥。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 章彦は無言のまま部屋に入らず自動扉が閉るのを待ってからアルに問い質す。
「あれは?」
「メイドだよ。日本では最近では女の子にメイドの格好をさせて、もてなすのが日本のマナーって、何をしてるんだアッキー」
「アル、私が脳神経学以外に生物工学を研究してるのは知ってるな」
「ああ、今回も色々と助けてもらったしね」
「‥‥そうか」
 そして、章彦はアルの腕を適切に力を込めて捻り上げた。そして、直後に響くアルの悲鳴を聞きながら開発室の将来が心配になった。

「やあ!諸君、朗報だ!」
 部屋に入ればそこは雑然としていた。机に山と積み上げられた書類と煮詰ったコーヒーの臭い、さらには雑多な人種の顔がいっせいにアルと章彦の方を向く。
「今回の計画での採用は第七開発室のプランに決定した!」
 一瞬の沈黙の後に室内に歓声が響き渡る。だが、その後にアルは沈んだ声で宣告した。
「だが、我々のプランについても大きな問題があると指摘された」
 室内の誰もが『え?』という顔になる。コンペに勝利したのに開発中止なのか危惧した者もいた。
「機体の名前がないんだ‥‥」
 そして、重苦しい沈黙が部屋を支配した。部屋に居た全員がアルへと近付いて‥‥。
「テメッ、この驚かせるんじゃねぇよ!」「何いらんサプライズかましてんだ!」「最初の感動を返せ!」「良い女紹介しろ!」
 罵詈雑言と暴行の嵐がアルへと振り下ろされた。
「コーヒーどうぞ」
「もらおう」
 それを醒めた目で見ながらメイド服の少女研究員が進めてくれたコーヒーを受け取る。メイドの方も特にその光景を気にした感じはない。
「名前どうしましょうね?」
「そうだな‥‥」
 二人してプロレス技を掛けられてるアルは一切無視した。
「‥‥シュヴァルベ」
「は?」
「機体名だ。ドイツ語で『燕』というな」
「おっ、良いね。それにしよう」
 技を掛けられながらアルが言う。存外タフなようだ。
「ところでアッキー」
「なんだ?」
「やはり、エース用は赤くしてブレードアンテナを付けるべきだと思うかい?」
 そのセリフを聞いた直後、章彦は断腸の思いでためらないなく、アルへの制裁を指示したのだった。

 これは、空を自由に飛ぶ事を夢みる者達の戦いの記録である。

●新型機データ

試験形式番号:CDX−019
名称:シュヴァルベ
・能力
(数値)攻撃>命中>抵抗>回避>練力>防御>生命力>知覚
(コスト)命中>攻撃>練力>回避>抵抗>生命力>防御>知覚
装備:シュテルンよりやや劣る
副兵装:多め
アクセサリー:多め

現在の状態での価格:250〜260万C

・バリエーションモデル
Hタイプ:攻撃力と防御向上し運動性と機動性を低下させた高性能機

Sタイプ:運動性と機動性向上し防御と抵抗低を下させた高性能機

Kタイプ:正規軍向けの指揮官用モデル

●参加者一覧

マリア・リウトプランド(ga4091
25歳・♀・SN
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER
夜刀(gb9204
17歳・♂・AA
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
アセリア・グレーデン(gc0185
21歳・♀・AA
ブラドダーム博士(gc0563
58歳・♂・ST

●リプレイ本文

●あえて言おう
「カスであるぶほあっ!?」

●会議
「え〜と、良かったんでしょうか? これ」
 と守原有希(ga8582)は、危ない事を口走ろうとしたクルメタル第七開発室室長アルに当身を食らわせた所だった。
「‥‥大丈夫‥‥だと‥‥思う」
 その問いに奏歌 アルブレヒト(gb9003)が淡々とした口調で答える。それを尻目に倒れた室長を所員達が手際よく運んでいく。
「実に見事な手際である」
「おっ、投げ捨てたな」
 美紅・ラング(gb9880)と夜刀(gb9204)は雑然とした室内の端に室長を流れるように捨てる作業を淡々と見ていた。
「なんだか、妙に手馴れてるわね」
 とマリア・リウトプランド(ga4091)が会議用の長テーブルの前に置いてある椅子に腰を下ろしながら言った。
「助けなくて良いのかな?」
 と聞くファリス(gb9339)と同じくアセリア・グレーデン(gc0185)も対処に困っていた。
「私達以外は困惑一つ見せてないのはどうすれば良いか困りますね」
 今回のクルメタル新型開発で意見を述べて欲しいと呼ばれた傭兵達だったが来ていきなり、変な男性と出会った所だった。
「確かに対処に迷うけど、とりあえず、みんな席に座ったら」
 と冴城 アスカ(gb4188)が促すとそれぞれが空いている席に腰を下ろす。そこに仲介役である日野 章彦(gz0298)も到着する。
「ふむ、全員揃っているようだな。では‥‥」
「会議をはじめるぞ!」
 いつの間にか開発室の所員達に完全に馴染んでいたブラドダーム博士(gc0563)の一声でクルメタルの新型機の将来を決める会議は始まったのだった。

『‥‥‥‥』
 まずは全員がカタログスペックを読込んでそれぞれの考えをまとめていた。
「イッヒッヒ、なるほどかなり物理攻撃に比重を置いた仕様の機体のようだな」
 妙に偉そうだがサイエンティストであり機械技術にも造詣のあるブラド博士がそうまとめた。
「この機体‥‥あくまでシュテルンの上位、後継機じゃなくてシュテルン開発の段階で生まれた別プランによる派生機って認識で良いのかしら?」
「ああ、派生プランで間違いない」
 マリアの疑問に章彦が答える。シュテルンの開発途中ではなく後になってからと付け加えた。
「ん〜、ここらで一発インパクトのある機体が欲しいけど、こいつは白兵戦向き‥‥かな?」
「それは、特殊能力次第じゃないかしら?」
 夜刀の問いにアスカが答える。その頃には他の者も大体資料に目を通し終わっていた。
「とりあえず、黙ってても仕方ないのである。各自、思った事を発言してみるのである」
 美紅の意見にそれもそうだと各自が考えた意見を出し始める。
「私はこの機体は物理攻撃能力を下げて知覚兵器への対応力を上げた方が良いと思うわ」
 最初に発言をしたのはマリアだった。その案は最大の特徴を削り汎用性を高めるモノだった。
「それはやめた方がよいのう」
 だが、それにブラド博士が異を唱えた。
「何故?」
 いきなり否定されればマリアの疑問ももっともだった。
「わしの試算ではオヌシの言うバランスに調整するとシュテルンと同じぐらいの性能になると出ておる」
「む‥‥」
 ブラド博士の言葉が本当かとマリアが章彦に視線を送ると無言で首を縦に振られた。
「私も汎用性を高めた方がユーザーが好きに弄れて良いと思うのだけれど」
「私もこの価格帯なら汎用性の確保は避けられない課題だと思いますが」
 マリアと同じく攻撃面での汎用性を重視する考えを示したのはアスカとアセリアだった。ただ、アスカはもう少し価格を低く設定する事を、アセリアの方は逆に価格を上げても全体の底上げをしてはどうかと提案をした。
「う〜ん、ウチは生存性の強化して欲しいかな。ただ、物理特化ならさらに知覚兵装への対応力を削るのもありだと思います」
 と言ったのは有希だった。さらに攻撃手段の両立狙いならウーフーの八割ぐらいは確保したいと述べる。
 やはりと言うべきか高い汎用性を望む気持ちは強いようだった。だが、逆を考える者もいた。
「美紅は反対なのであります。確かにそのような方針で作れば高い汎用性はえられるでありましょうが逆に特色がない物が出来ると思うのであります」
「俺も非物理の武装は使い勝手の良い物が少ないし、両立させようとするとサイファー辺りの劣化版に成りかねないと思うから、むしろ、運動性を突詰めた方が良いと思うな」
 美紅や夜刀は特徴を中心にする方が良いと考えた。
「やはり、さらに攻撃の精度を高めて欲しい所であります」
「俺としては集弾性よりも非物理防御の方を気にして欲しいかな」
 細かい部分は多少の違いはあったが概ね最初の発想に近いものだった。
「ファリスも防御関連はアクセサリで補強できるから、運動性とか観測機器を良くした方が燕さんの特徴が生きると思うよ」
「ワシもやはり高機動性を売りにした方が良いと思うのう」
「‥‥意見‥‥分かれるね。‥‥でも‥‥‥‥どっち‥‥の方針も、一理、ある」
 ファリスやブラド博士の意見も聞き終えて奏歌が最後にそうまとめた。ここでも、開発過程で起きた汎用性の要求という物は存在するようだった。
「後は練力の確保よね。シュテルンでも足枷になったから高めにして欲しいわね」
 普段からシュテルンを愛機とするアスカは経験から継続戦闘能力が一番のネックだと考えた。
「ファリスは耐久力の方が大事と思うけど」
「美紅も生存性の高さは重要だと思うのであります」
 逆に耐久性能を上昇させる装備は少ないと主張するファリスや美紅が言うと。
「その辺りは回避能力に頼る事で補う方針ではどうでしょう?」
「まあ、耐久性、防御力、継戦能力は同じくらいで攻撃は‥‥当らなければ怖くないってね」
 アセリアや夜刀は耐久力の不足は運動性で補うのが適切ではないかと考えたようだった。
「運動性と耐久性‥‥機械の性能を求める上で対極に位置する問題じゃの」
 ブラド博士の言うように運動性を上げる最も早い方法は軽量化であり、それは耐久性を上げる方法とは真逆の道であった。
「後は移動力の問題かしら、ワイバーンやサイファー並みとは言わないけどシュテルン位は欲しい所ね」
「積める兵装やアクセサリの数も同じくらい欲しいですね」
 マリアとアセリアが言うように移動力の問題は展開性の問題にスロットの数はそのまま汎用性の問題になる重要な物で見逃せない事だった。
「とりあえず‥‥基本、性能の‥‥要望、こんな‥‥感じ、かな‥‥」
 奏歌が最後にそうまとめた。知覚の上昇による汎用性の上昇か、更なる物理攻撃の上昇を図るかは意見がほぼ同数なので開発側に任せる事になりそうではあったが。
「次は特殊機能とバリエーションタイプですね。ここはグラップルシステムとスナイピングシステムを統合した物が欲しいですね」
 有希が次の確認事項を確認して発言する。グラップルシステムとスナイピングシステムの統合は資料を目に通す段階でマリアが発言していたものだった。
「その二つ‥‥のモード、と‥‥アクセラレータが‥‥理想」
「それが一番理想よね。ダメなら、アクセラレータ以外の二つが良いわね」
 奏歌やアスカも二種類の能力の統合が可能ならその選択を取りたいようだった。形式としては。
「フェニックスの持つ能力みたいなのになるかしら」
 とは、両方を同時に搭載する案を考えたマリアだった。
「3つの能力を同時に搭載するというのは狂気の沙汰だと思うのである。だから、美紅としてはより射撃特化としてスナイピングシステムを希望したい所であるが」
「う〜ん、俺はグラップルシステムの方に一票かな。そっちの方がさらに長所を活かせると思うんでね」
 さすがに全ては欲張り過ぎではないかと主張する美紅と機体の特徴が活きるのではないかという考えの夜刀、その能力の選び方はそれぞれの生身での戦い方も元になってるようでもあった。
「う〜ん、ファリスはアクセラレータを優先して欲しいかな。ブーストは強いけど消耗も激しいのが気になるし。二つの合せたのも欲しいけど無理ならスナイピングシステムかな」
 ファリスはブーストという全機体に共通する能力について考え、そして、消費を抑える形で強化を望んでいた。
「移動力はともかく、運動性などは他の能力でも代用可能ではないでしょうか? どちらか一方だけではデメリットもありますし統合可能ならそれが良いのですが」
 アセリアも統合を望む一人で全体として特殊能力の統合が一番の理想らしい。
「ヒッヒッヒ、ワシも統合が提案されとる2つの能力は欲しいのう。ただ、統合するなら、武装か‥‥あるいは空中戦と陸戦で自動的に切り替えるのも良いかもしれんのう」
 その辺りはもう一度、シッカリと計算をし直さなければ分らないとブラド博士は語った。
「バリエーションの方は機体は火力強化型の防御を固めて空中砲台的な機体にして欲しいでありますな」
「ファリスは速度強化型かな、運動性は強化が難しいし」
「私もファリスと同じ意見ですね。補強し辛い部分のスペックも悪くないようですし謳い文句通りに行くならそちらでしょう」
 火力強化型を推奨する美紅だったが、ファリスとアセリアの他に夜刀やブラド博士も速度強化型側についてしまう。
「ううっ、美紅と意見を同じくする者はいないでありますか」
「ウチも火力強化型を支持ですけど、根本的な生存性が上がるなら速度強化型でも」
「裏切り者〜」
「ええっ、そこまで!?」
 火力強化型一筋と言わなかった所を美紅に責められてたじろぐ有希だったりする。
「どっち‥‥欲しい‥‥基本タイプ‥‥と‥‥火力強化型、の‥‥非物理、対応力‥‥同じ、ぐらいに、なると嬉しい‥‥んだけど」
 それらを気にせず、自分の愛機にシュワルベという名前を付けている奏歌が少しうっとりした感じに両方とも出て欲しいと願う。
 とりあえず、バリエーションについては特に気にしてないアスカとマリアは‥‥。
「なんだか、混沌としてきたわね」
「まったく、バリーションよりも頭部はツインカメラと二つのブレードアンテナが必要だろうに」
「問題はそこなの!?」
 マリアの白い悪魔な頭部開発要求に思わずツッコミを入れてしまうアスカだった。
「なにぃ!? それよりも必要なのは物語の影の主役であるモノアイとツノじゃろう!!」
 開発主任の言った事を図らずも弁護するブラド博士だった。本心から言ってるかは不明だが。
「ツノは遠慮したいかね。燕だしカラーは黒、白、赤ベースなんてどうだ?」
 夜刀も日本の有名アニメの事は知っているようでツノは遠慮しておきたいようだった。
「そんな外見よりもPRMシステムの空間安定性をさらに伸ばしてホバリング能力を着けるのであります!」
「ホバリングだと垂直離着陸機能の方じゃないかしら」
 可変翼関連で空中静止能力の搭載を声高に叫ぶ美紅にアスカが冷静に訂正を挟む。
「‥‥そろ、そろ‥‥収拾‥‥つかなく、なって‥‥来た、かも」
 奏歌の言う通り会議の場は混沌としはじめていた。
「話し合うべき所は話し終わっているから大丈夫」
「三色ならドイツの国旗から赤、黒、黄色だろう!」
「いや、黄色と緑は死亡フラグだろ!!」
「‥‥‥‥大丈夫なはずだ」
 それまで仕事をしていた研究員達も加わりより混沌と化した会話を眺めながらアセリアは不安を押し隠しながらそう言った。
「ねえ、ファリスおなかすいた」
 そう言いながらファリスが有希の袖をひっぱっていた。
「あっ、もうすぐ夕食の時間ですね。ウチが何か作りましょうか?」
「料理作れるの?」
「ええ、家の方で習いましたから、材料も持って来てるんですよ」
 そう言いながら今まで誰も気にしてなかった大型のクーラーボックスやパンパンに膨れたザックを開く。
「今日はマグロと長イモの良いのがあったからマグロの山掛け御飯作りましょうか」
「ヤマカケゴハン? ゴハンの上に小山が乗ってるの?」
「いや、そうじゃなくてこの長イモをね‥‥」
 と有希はファリスに解説しながら他にも鍋のための鶏肉、大根、青菜や汁粉に使う小豆を用意していく。
「じゃあ、ファリスさんも手伝ってもらえます?」
「うん、わかった」
「まって下さい!!」
『?』
 二人が作業に取り掛かろうと席を立った次の瞬間、一人の女性研究員に静止され二人でその方向に顔を向けた。
「守原さんにはお願いがあります」
「なんでしょう?」
「調理と配膳の際にはメイド服でお願いします!」
『は?』
 二人して目が点になるが相手は大真面目のようだった。
「さあ!」
「えっ、ちょっ、待って!」
 メイド服を手にした女性に迫られたじろぐ有希を見てファリスが下した決断は‥‥。
「ファリス、先に行ってるね」
 無情にも有希を置いて行く事だった。
「ああっ、ウチを置いていかんで!?」
 そして、有希がどうなっかはここでは語らないでおこう。

●カオス会議の片隅
「本当、この依頼を見かけた時は運命みたいなものを感じたわ」
「奏歌も‥‥この機体、には‥‥とても‥‥親近感‥‥わいてた‥‥」
 アスカ、奏歌、章彦の三人は有希達が作る夕食が出来るまで茶を飲みながら待つ事にしていた。離れた場所では開発会議だかアニメ談義だか分らない会話が続いている。
「シュテルンは気に入ってるんだけどPRMは改造不可だし、ユーロファイターも開発中止になっちゃうし‥‥」
 そんなアスカにユーロファイターは完全に正規軍のみの供給となっただけだと章彦は告げる。
「そうなの? でも、これを機会にシュテルンの改良にも繋がって欲しいわね」
 アスカの思いはどのシュテルンユーザーもが抱える思いかも知れない。汎用性は高いが難しいシステム、それがPRMシステムなのだろう。
「そのため、にも‥‥この子、は‥‥良い機体に‥‥仕上がって、欲しい」
「そうね、せっかくのクルメタルの新型だし」
 たぶん、その思いは今回の会議に参加した者全員に共通した気持ちだろう。直接乗れる乗れないに関わらず。
「‥‥そういえば‥‥機体の名前‥‥シュワルベの方がすっきり‥‥しませんか?」
 そう聞く奏歌に章彦は実働試験の操縦者に聞いて決める事にしようと言って返した。
「そういえば、シュヴァルベて『燕』の事よね」
「そうだ‥‥なんで‥‥この名前に、したんの?」
「それはだね‥‥」
 その理由を尋ねようとした瞬間、部屋のドアが開いて有希とファリスが料理を運んでくる。
「あら、二人だけに任せてゴメンなさい」「むっ、美紅は大盛りで頼むのである!」「おおっ、飯じゃなヒッヒッ」「おっ、なんか良い匂いだな」「こちらの鍋の中身はなんのでしょう?」
 興が削げたと言う章彦に二人は少し残念な気分になったがとりあえずは食事を楽しむ事にした。

 この機体に燕の名を与えた理由、それは、渡り鳥である燕として能力者達や彼らが守るモノを無事に未来という名の大陸へと運ぶ事が叶うようにとの願いを込めてだと男は胸の中で呟くのだった。

 了