●リプレイ本文
●洗礼
「よく来たなクソ虫共!」
といきなり、リネット・ハウンド(
ga4637)、筍・佳織(
ga8765)、キャンベル・公星(
ga8943)、椿(
gb4266)、長門修也(
gb5202)、ウェイケル・クスペリア(
gb9006)、リィリア・エスティード(
gb9395)、アクセル(
gc0052)の新米傭兵8名は教官を務めるアルジェに罵倒で出迎えられた。
「‥‥私達は虫じゃ‥‥」
いきなりの虫呼ばわりに反論しかけるリィリアだったがそれも更なる罵倒で封殺された。
「良いか、貴様らに許されてる返事はイエス・サーかマムだけだ。そのケーキのスポンジよりもスカスカな脳ミソによ〜〜く、叩き込んでおけ! わかったか!」
あまりの言い様に数名は言葉をなくしてぽかんとしている。
「返事はどうした? それもできないなら幼稚園からやり直せ!」
淡々と冷たく言い放つのはもう一人の教官であるサンディだった。普段の優しげな感じは影を潜め冷たい眼差しで訓練生達を椿の事は特に冷たく睨む。
「最初の仕事とそのためのプレゼントだ」
教官達が訓練生達に置いてあったポリタンクを投げ渡す。
「ぐわっ!?」
(「ごめん。ツバキ君、でもあなたに強くなってもらうため‥‥」)
サンディに本気でポリタンクを投げ出された椿はモロに顔面に食らって仰向けに倒れたがそんなのは気にせずウェイケルが教官達に聞く。
「これで何しろっての?」
「水汲みだ」
『水汲みぃ?』
全員でいっせいに聞くとこのキャンプには水道が通ってないので全ての生活用水は自分達で調達しなければならない事を上から目線でご丁寧に教えて頂けた。
(「これも、強くなる為に必要な事なんですね‥‥」)
と椿は同じ小隊の関係者であるサンディの仕打ちをそう受け取った。
「2週間後には見違えますからね、見ててください。サンディさん!」
「随分と余裕があるようだなクソ虫共」
いつの間にか心の声を口に直接出していた椿を教官が厭らしい笑顔で見据えてくる。
「へ?」
「アルジェから素敵なプレゼントをやろう。全員その場で腕立て200回だ」
「うわ、お決まりの台詞だな」
「300回だ」
口を挟んだ長門の一言を見逃さず追加を申し渡す。
「どうした! 教官の言う事が聞えなかったか!」
サンディに促されて渋々といった感じで腕立ての姿勢になると教官がゆっくりと数を数え始めそれに合せて全員が腕を曲げて伸ばす事を繰り返す。
「い〜ち、に〜‥‥」
百を数え終わった頃だった。
「そうだ、言い忘れた。ここの食事は時間制でな」
『は?』
何故今その話をするのかと全員が疑問に思う。
「時間が過ぎると飯抜きなので気をつけろ。では続きだ、きゅうじゅきゅ〜」
「ちょっ、減ってますよ!?」
リネットの抗議を無視してカウントはさらに進む。
「あ〜、次の数字は何だったかな?」
『180です!』
訓練生達の声が全員重なる。それに対し教官は告げた。
「なるほど、450回まで後400回だな」
「残り回数増えてるし!?」
佳織が声を上げるがまるで取り合ってもらえない。その様子を見下ろしながら教官は淡々と告げる。
「早くしないと時間がないぞ」
結局、1000回以上の腕立てをして開放された後に覚醒して水場へ全力疾走する羽目になった。
ちなみに食事の時間には間に合わずキャニーなどは‥‥。
「これはダイエ‥‥内臓を休めているから健康にも良いはず」
と言っていた。8人で押し込められたテントの中では腹の虫が盛大に鳴いていた。
『ススメ! ススメ! UPC〜』
朝日が照らし出されていく森を背景に訓練生達が『UPCの歌』を歌う。着ぐるみ姿で‥‥。
UPCとULTのマスコットのユーピー君とユーティーちゃん、さらにカプロイアのロイアプカン、ピンク色のクマさん、どこかで見た事のある世界一有名なネズミとダックに加え緑色の帽子をかぶった犬だかネズミだかよく分らない生き物の着ぐるみ集団だったりする。
そして、彼らのきる着ぐるみは臭い、熱い、動きにくい、重い、そして、臭い。
ちなみに同じキャンプで訓練してる人達は何故か眼を合せないで朝の兵隊さんマラソンをこなしている。
「ふもっふ!」
「何言ってるわかんねぇよ!?」
音声変換機のついた謎の着ぐるみの発言にピンクの熊に扮したウェイケルが一蹴する。
「ふも〜」
「あっ、落ち込んだ」
この台詞はユーピー君姿の椿だった。既にキャンプに来て三日目となるがタフになるどころかフラフラする回数が増しているだけだった。
「‥‥頑張ってツバキクン」
そんな椿をサンディが遠い樹の影からそっと覗くように見守っていたりする。たまに兵士が近くを通るが空気を読んで何も言わずに通り過ぎて行く。
「‥‥そう、これもダイエットの一環、汗をかいて代謝アップです」
せっかく、髪もまとめてトレーニングウェアに着替えたのにウェアは二日目で取り上げられたキャニーは現実逃避モードだった。全てシェイプアップ効果があると自分に言い聞かせる。
「いかしたあのコはバグア! バグア! デッカイミサイルぶち込んで!」
そして、ロイアプカンに扮した佳織は陽気に歌い続けていた。どうでも良いがマイナーなマスコットの群がマッチョな歌を歌う光景はどうみてもシュール以外の何物でもなかった。
『口にしたら負けだ』
という思いが全員の心の中に芽吹いていたのだ。
「そういえば、アクセル殿はどうした?」
と世界一有名なダックの修也、そして、ネズミの方は‥‥。
「そういえば、最初に教官に呼び止められてましたね」
リネットだった。普通に話しているが彼女も出来ればこのままどこかへ消えてしまいたかったので他の話しで誤魔化していた。そして、消去法で声を出せるユーティーちゃんがキャニーでよく分らない生き物がリィリアだった。
(「なんか、むごいよな‥‥」)
何がむごいかと聞かれると答えに困るが佳織もそう考えずにはいられない。その程度には、過酷な訓練だった。体力よりも精神的に。
「ふもっ!」
アクセルはどうしたかと言う問いに良く分からない生き物が指のない手で彼の事を指す。
ガシャン。
「ぬぐううううっ!」
他の者が着ぐるみ姿で走っている頃、アクセルはAU−KV姿だった。ただし、人型になる為の動力以外は全て切られた状態のだったが。
「どうした〜、そんな調子では朝食に間に合わんぞ〜」
その横では教官が悠々と歩きながらからかう様にアクセルに声を掛ける。
「うおおおお!」
だが、アクセルにもその事を気にする余裕はない。全身を包む鋼鉄の枷(ごっついコンテナ付き)となったAU−KVに一歩踏み出させるだけで精一杯だから。
他の者よりも走る。いや、歩く距離は短いがその歩みは亀の様にノロイ。
「よっと」
「のあっ!?」
さらにに歩く事に集中してる所に教官が足を引っ掛けて転ばされる妨害付だ。
「くっそ、着ぐるみマラソンで付いた臭いがとれねぇ」
とウェイケルは自分の腕の臭いを嗅ぎながらぼやく。
夜になって訓練生達はテントの中で今日の反省会をしていた。
「予定だと覚醒できる余裕を残してるハズだったんだが」
とアクセルも呟くがそんなモノは最初の三日で絶妙な具合に削り取られていた。
「‥‥腕、痛い」
「眠いですね」
そして、体を壊さないギリギリのラインで身体を酷使させられ筋肉痛と睡魔にまとわりつかれているリィリアとリネット。
「それは筋肉が超回復してる証拠だろうからそう暗い顔になるな事ないさ」
と佳織が声を掛ける。彼女自身も身体のあちこち痛かったりする。
「さすがにAU−KVの動力カットして動くのは堪えた」
「ああ、おかげでまた朝食にありつき損ねる所だったぜ」
アクセルの一言にウェイケルが同意する。誰かが一人でもしくじればその罰は全員で受ける羽目になる。初日から嫌と言うほどその事を叩き込まれた。
「まあ、そう言わず。アクセル殿も間に合ったのだし」
と修也もフォローをする。初日に食事を抜かれたが二日目の朝も無理難題を吹っかけられ朝食にありつき損ねていた。そして、カロリーの補給が出来ない事を後悔した。
「食事抜きは確かに辛いね」
「それが嫌ならキッチリと訓練をこなせという事ですな」
だが、それを簡単にさせてくれないのがここの教官たちだった。だが、そんな教官達にお礼を出来るチャンスもある。
「そろそろ、教官に直接相手をしてもらえるはずだからそこで成果を出せば見る目もかわるハズですね」
「なら、今日はそろそろ休むとするか」
ちなみにアクセルやリィリアは既に船を漕ぎながら『寝てはダメ‥‥』と繰り返していた。そして、最初から話しに参加できてなかったキャニーと椿だったが。
「エアホッケー‥‥は‥‥‥‥いろ‥‥ときたへ‥‥」
座禅を組んだまま寝てしまったキャニーがエアホッケーとか寝言で呟いていた。まともに電気の通ってないこの場所でどうやるつもりなのか等とツッコミを入れる要素は沢山あった。
そして、椿に至ってはさらに酷い。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
既にうつ伏せでケツを天に向って突き出したまま寝床で身動き一つしない死体と化していた。時々、『俺‥‥まだ‥‥やれる‥‥』と切れ切れに呟くのが余計に不気味だった。
「電気消すかこの状態じゃもう反省会続けられないし」
「そうだな、俺も寝る前の素振りは控えて明日に備えよう」
佳織の言葉にまだ起きていた者も床につき明日の実戦形式訓練に備えた。
「うおっ‥‥」
「‥‥あんた、大丈夫?」
今日の午前中に他の能力者の班と森の中で戦闘訓練を実施していた。その時に地雷を踏みつけた佳織はうめく羽目になり、それをリィリアが介抱していた。
「えっ、えげつない罠だった」
非殺傷型とはいえモロに鳩尾や顎先にゴム弾の直撃を受けた佳織に誰もが同情を禁じえなかった。一つ罠にかかってよろけた先にさらに別の罠が仕掛けてあるというトラップの連鎖発動に巻き込まれたのだから。
そう言うアクセルも対大型キメラ用の200キロ以上の荷重が掛かると発動する地雷に引っかかって全身パステルカラーのインクまみれだった。
「ううっ、俺のリンドヴルムが」
後で洗い落とすのを考えると気が滅入る。
「まあ、相手のチームの方が酷かったのだけど」
リネットの言う通り相手の方はこちらの倍近く罠に掛かっていた。おかげでこちらも勝てたのだが。
「向うの御飯抜きには同情しますね」
「たぶん、そうなるだろうな」
そして、疲れきった体で夕方まで訓練をこなす事になるのだろう。そこは全員が同情した。
「そんな事よりも今は教官たちをギャフンと言わせるのが先決だ」
とウェイケルは騒いてでいた。ゲーム感覚で今回の訓練に望んでいるため遊び感覚なせいかモチベーションの保ち具合は他の者よりも良好ではあった。
「なら、行くか」
『おう!』
『教官! お願いがあります!』
「なんだ?」
全員が声を揃えてするお願いに教官達が聞き返した。
「はい! あたし達、是非とも教官様方に本当の戦闘技術というのも教えてもらいたく思います!」
とウェイケルが口火を切る。全員でそれぞれ理由を述べて実戦形式でその技術を教えて欲しいと頼み込む。とにかく、教官達をその気にさせるために全力で。
「なるほど、貴様らも向上心に目覚めたか。なら、丁寧に教えてやろう」
と言うと本当にいつもと違い優しく丁寧に解説を交えて実戦で戦い抜く為の技術について解説してくれる。
(「よし、かかった!」)
と誰もが心の中で思った。が解説そのものが罠だというのは誰も気付かなかった。
「うわあああああ!?」
サンディの後頭部に全力の一撃を叩き込もうとしていたウェイケルはその一撃を避けられた上に腕を取られアクセルの方に投げ飛ばされる。
「おおっと!?」
それをなんとか無事に受け止めるアクセルだったが次の瞬間に距離を詰めてきたサンディに顔を押されると同時に足払い掛けられ地面に転がる。
「えっ、おわっ!?」
「ウェイケル殿! アクセル殿!」
「よそ見してる余裕はないのだ」
一瞬の隙を見せた修也にアルジェが飛び蹴りを仕掛ける。
「甘い!」
その到達距離を見切ってすぐ飛びかかれる様に最小限の動きで回避した。だが、そちらはフェイントだった。
ゴガッ!
と修也のこめかみに鈍痛が走る。完全装備のアルジェの外套が修也を襲ったのだ。数十キロの装備を内側に吊り下げられた外套はそれだけで一つの武器となる。
「これで三人」
「これ以上やらせません!」
キャニーが牽制攻撃を仕掛けてアルジェに距離をとらせそこに狼の姿のリネットが横から攻撃を仕掛ける。
「もらいます!」
「連携を取るのはこちらも同じですよ」
「まだ何もやれてないのに〜〜!?」」
『今のオレにできる最高の一振り、一の太刀です!』とカッコイイ台詞を考えていたのにそれを言う暇すらなくアルジェとリネットの間に投げ飛ばされる椿。
「ナイスタイミング」
「ぎゃあああ!」
そして、さらに盾にされるという。その隙にアルジェは他の者への攻撃を防ぎ続けボロボロの佳織へ疾風を使い突進していく。
「くっ! 早いけど捕まえれば!!」
不用意に手を出して来た佳織の脇をすり抜けて足を払い、さらに円閃を使い勢いよく佳織を投げ飛ばす。
「ぐあっ!?」
「勝負ありかな」
リネットもサンディにクナイで威嚇された所に追い討ちを掛けられ地に伏せていた。そして、最後に残っていたのはリィリアだけだった。
「‥‥くっ、まだだ!」
負けを認めるのはリィリア自身のプライドと血の気の多さが許さずに全力で突進する。が、生身の戦闘においては最下位を争うであろうストライクフェアリー一人では結果は火を見るよりも明らかだった。
「こんなものか、まあまあと言った所だな」
分っていても悔しさを隠しきれないリィリアをはじめ全員が土埃にまみれてぶぜんとしていた。少しは強くなったつもりでいたがまるで歯が立たなかった。
もっとも、既に練力の大半を使い切っていたのも敗因の一つではあるのだが。
「さて、貴様ら何かを忘れてないか?」
「やっぱり、連携の未熟さなど見通しが甘かったことでしょうか?」
「それもある。が、もっと大事な事だ」
何か忘れていた事があったかと全員で考える。
「貴様ら、今日は食事当番だろう」
『あっ!?』
教官達に戦いを挑む事ばかりを考えていて失念していた。
「さて、調理に費やす時間は足りるかな?」
当番の者が食事を作るのを忘れれば当人たちどころか訓練している者全員の食事が抜きになる。バカ丁寧に教えていたのはこのための時間稼ぎだったのを今になって知る。
「この鬼教官!!」
というウェイケルの捨て台詞を残しながら全員で全力疾走する。さすがにこのキャンプに来ている全員から恨み買うのは恐ろしかった。
●おまけ
厳しいブートキャンプでダイエットには成功したかとウキウキしながら体重計に乗ったら筋肉が増えて逆に体重が増えた者の叫びがどこかの兵舎で聞えたとか聞えなかったとか。
体脂肪率が減ったのは確かだった。
了