●リプレイ本文
門塀で囲まれた広場の中に、キメラの姿が、見える。
時折、思い出したように、飛びまわったり動いたりするキメラの隙間に佇む彫像は、何かもー完全に無視されているように、見えた。
「あれは‥‥何か意味が在るのでしょうか‥‥」
銀色の長髪を風になびかせる、終夜・無月(
ga3084)が、小さく呟く。
その目の前で、またぴょんぴょんと飛び回るキメラが、彫像の前を何食わぬ顔で通過して行った。
遅れて、ビーッとか、彫像の目からビームが出た。
それがまたわりと、ちょっと派手だったりしたので、その後の「で、何ですか」みたいな静寂が、凄い何か、切ない気がした。
「銅像‥‥完全にキメラに無視されてる」
その余りの切なさに、幡多野 克(
ga0444)は、それを口にせずにはいられない。「ビーム‥‥やっぱり意味なかった‥‥んだね‥‥」
「まあ確かに‥‥意味不明ですけど」
隣で鐘依 透(
ga6282)が同じような、こんな残念な物は見た事ないんでどうしていいか分からないんです、みたいな困惑した表情で、言った。
「確かな事はきっちり処理しないと危ないってことですよね‥‥。でも、ビームは目から‥‥ということは‥‥液体はどこから‥‥」
って、え? 液体も、出るの。と、克は、ちょっと何か、どきどきした。
だいたい、液体って何なの、とそれがもー既に分からない。
「ていうか‥‥液体って‥‥何なんだろうね」
克が、思わず呟くと、実はそれ、僕も気になってたんですよ、とばかりに、透がちらっとか何か、こっちを見た。
得体の知れない液体、ということで、わりと克は何か、それって何なの、と、気になる以上に何か、微妙に得体の知れない胸の高鳴りとかを感じていたのだけれど、こうなってくると、出るのか出ないのか、これもかなり重要な問題で、胸の高鳴りが、何かもー、やばい。
でも透が同じように得体の知れない胸の高鳴りまで感じているかは分からないので、ちょっとどきどきしてしまっていることは、ばれないように隠すことにした。
そしたら何か、透は徐にじーとか銅像を見つめ出したので、一体何を見ているんだろう、と思ったら、どうやら下半身辺りを見ているようだった。
「あそこから出たら‥‥嫌だな」
真面目に、困惑しきった表情で、呟く。
それで別に克が照れることはないのだけれど、何か凄いじわーって恥ずかしくなってきてしまったので、全然ずれてない眼鏡を押し上げる振りで顔を伏せ、「うん‥‥」とか何か、頷く。
とか何か、お見合いでいきなり二人っきりにされてしまった若者、みたいに、気まずい雰囲気になっている二人の後ろでは、小柄な体躯でも絶対キメラには負けない、みたいな意志を、そのピンと伸ばした背筋に滲ませながら、氷室美優(
gc8537)が、広場の方をじっと見つめていた。
「記念すべき初任務は、野良キメラの駆除、ついでに意味不明な銅像の破壊」
自らに言い聞かせるように、淡々と呟く。
とか何かわりと真面目な感じでやってたら何か、隣でバリバリ、ポリポリ、お菓子を食べてるみたいな音が聞こえて、まさかな、とか思って見たら、本当に思いっきりお菓子を食べてる緋本 かざね(
gc4670)と目が合って、え。とか、思った。
むしろ、実際、「え」と、口から出ていた。
あ、まずいばれた。みたいに一瞬固まったかざねは、「いやあ、そうそうあれですよねー。今回はー、キメラ倒して―、銅像ぶっ壊せばいいんですよねー」
とか何か、その勢いで全部無かったことにしちゃいますねーくらいのライトさで、言い、それでもまだガン見されている、誤魔化せてない、と気付いたら、今度はまだ何も言ってないのに「これはそう、やる気ですよ。やる気出すためには、糖分が必要なんですよ、私!」とか何か、もー言った。
「ああ、はー‥‥」
「さあさあ! 頭数では負けてるみたいだから、がんばらないとー!」
「そうだよね! 先にキメラを片づけてから、銅像をどうにかしよう!」
水門 亜夢(
gb3758)が覚醒状態に入り、広場の入り口の門に手をかけながら、言った。「あ。でも私、今回は、支援主体だからね。よろしく!」
超機械「扇嵐」を仲間に向け翳し、バサッと、広げ、言った。「さあ! お片づけ、開始!」
開かれた門から、克が真っ先に走り込んで行く。
その姿に気付いたキメラが、すぐさま、跳躍した。
まるで、飛び越えてしまおうとしているかのような影に、克は思わず足を止め、着地点を見定める。
「こちらは任せて下さい」
後ろから飛び込んできた透が、エアスマッシュを放った。金色に彩られ、禍々しい雰囲気を放つ、魔剣「ティルフィング」から、鋭い衝撃波が飛び出して行く。次の瞬間には、空に浮かぶキメラの細い胴体を捉え、撃ち抜いた。
バシャッと弾けるように飛び散る肉片が、雨のように降り注ぐ向こうから、更なるキメラの援軍が、克目掛け、飛びかかってくる。
克はすかさず強弾撃を発動し、銀色に輝く小銃「S−01」を構える。
「ビームは効かなかっただろうけど。こっちはそうはいかない」
照準を定めるように、その切れ長の瞳を細めると、ガチっと、指先に力を込め、引き金を引いた。
「最大の衝撃を‥‥!」
勢い良く飛び出して行く弾丸が、ドプウッと、細い体の腹の辺りを、鋭く、撃ち抜く。円形にぽっかりと開いた穴の辺りを軸にして、瞬時に、弾丸の威力に、キメラの体が破裂した。
「動作が、煩いですね‥‥」
覚醒の影響で、すっかり外見上は、眩いばかりの美しさを放つ女性と化してしまっている終夜も、中身は、酷薄な戦士のままで。
聖剣「デュランダル」をその手に構え、あっちへこっちへとまるで嘲笑うかのように跳躍を繰り返すキメラと対峙する。
キメラが回転の勢いで尻尾をブウンと振り回して来れば、その細腕で、いとも容易く、眩い光を放つ大きな剣を扱い受け流し、体制を崩させて置いてから、その脳天に刃を打ち込む。
硬い感触。
そのまま、押し込むようにして、更に力を込めれば、キメラの体が、みるみる内に縦へと真っ二つに割れて行く。
更にその後方では、超機械「シャドウオーブ」そ構えた美優が、沸きだすように出現し続けるキメラと応戦していた。
「援護、お願い」
背後で超機械「扇嵐」を構える亜夢に声をかけ、小柄な彼女は、臆することなく、敵の懐へと飛び込んで行く。
黒色の水晶を掲げ、さっと撫でると、キメラ目掛け、黒色のエネルギー弾が射出する。それへの対応を考えている一瞬の間に、流し斬りを発動した美優は、
「邪魔よ、それ」
素早く側面へと回りこみ、まずはその尻尾に、渾身の一撃を撃ち込み、ぶちっと、切り裂いた。
続けざまに、ごおおおお、と、亜夢の放った特殊な竜巻が、地面を揺らし、飛び込んでくる。
キメラは飛び上がり、それを交わすも。
「そうは、させないよ」
また、バサッと、扇を返せば、更に竜巻が、発生し、空に浮かんだキメラへと、竜巻が、ヒット!
「ぎゃー! やっぱり虫っぽいー! きもいー! 全体的に虫じゃないだけましだけど、虫系はやっぱり嫌いだー!!」
そんな竜巻が暴れ狂う中を、白く美しい槍セリアティスを構えたかざねが、凄まじい勢いで突進して行く。
「くそー! そんな鎌なんてこわくないぞー!」
とか何か言ったかと思えば、回転舞の鮮やかな動きで、敵の攻撃を交わし、アクロバティックな宙返り!
「複数相手は面倒ですが! 見ろー! このしなやかな回転を! かざねの回転死角無しぃーー!」
ぐるんと視界が元に戻るや否や、空に浮かんだセリアティスをその手に掴み、「えいやっ!」っと今度は、円閃を発動する。
飛び上がったキメラと、遠心力を利用した一撃を叩き込もうとするかざねが、バシッと鮮やかに交差した。
ぐっと槍先を腹に押し込み、そのまま、ぐいっと走り抜ければ、次の瞬間。キメラは、横に真っ二つ。
「どうですかー! 私は可愛いだけじゃないんですよー!」
とか何か、マイルドに自慢し始めたそのその傍らでは。
紅蓮衝撃を発動した克が、炎のような赤いオーラを纏いながら、自慢の月詠の刃で、キメラを切り裂いていた。
腕、足、尻尾、首。
長い間月の明かりを浴びて作られたという美しい刃は、まるで風を斬るかのように、キメラの体躯を分断していく。
更にその後ろで応戦する透は、跳躍するキメラの着地を見計らい、真燕貫突を発動していた。
翼の紋章がイオフィエルを構える腕の周囲を舞う瞬間。
続けざまに、エアスマッシュを発動する。
「――風燕烈波!」
ブワッ! と凄まじい勢いで飛んで行く二つの衝撃波が、キメラを撃ち抜き、砕いた。
「では、最後の掃除です」
とか何か、物凄い無表情で言った終夜が、残った最後のキメラに向かい、両断剣・絶を発動する。
「闇裂く月牙(LUNAR†FANG)」
空に輝いた剣の紋章が、デュランダルへと吸収され、目が眩むような光を放った。
――!!!!
刃が命中するその瞬間、衝撃にキメラの体が粉砕し、光の中に溶けていくかのように、見えた。
●
「それにしてもこの銅像‥‥なんでこんなに‥‥可愛くないんだろう」
銅像の顔を覗きこみながら、克が、言った。
「本当に。‥‥これは、ひどい」
じーとか銅像の顔を見つめて、克の言葉に同意した美優は、「酷過ぎて、何か、殺意が沸いてくる」
とか何か、言ったかと思ったら、もーその手に黒い水晶が。
「あ、もう、壊しちゃうの」
「え、壊さないでどうするの」
ってそんな真顔で聞かれても、困る。
液体が気になってるから、とは、間違っても、言えない雰囲気だった。
「いや、うん。壊そう」
「いや‥‥本当は、可愛かったら貰おうかなとはちょっと思ったんだけど‥‥。でも、これは、本当に酷いから!」
ってその勢いで何か、覚醒してついでに両断剣まで発動してしまった美優は、赤黒くなったシャドウオーブから、どぶっってエネルギー弾とか出して、出したはいいけど、多分、何か、わりと本気で腹が立っていたためか、ちょっと狙いを外してしまい、銅像は壊せなくて、黒い弾だけが、ずーんと遠くへ。
「‥‥‥‥じゃあ、今度、俺が‥‥やるね」
って何か、その口調とは裏腹に、わりと率先して前へと進み出た克は、ゆっくりと月詠を抜き、そのどたまに思い切りドーン!
ガッシャーン!
ってその石を砕いた感触は、結構気持ち良くて、何か凄い達成感! とか思った矢先、バッチャッ! とか何か、顔に思いっきり、しろーい液体が。
「な、くさ、臭いッ! 生臭ッ‥‥! 何、な。前が見えない‥‥」
「ちょ、ちょ、ちょ、こっち、こっちこないで!」
で。それを見ていた透は、絶対あーはなりたくないなあ、とか思って、ここはエアスマッシュで安全に破壊しよう。とか、思った。
それでさあ、行くぞ。と思ったらその前に、とことこやって来たのは、終夜で。
「‥‥‥‥」
思いっきり無表情に銅像を眺めた終夜は、徐にバッとか覚醒すると、いきなり全力の手刀を繰りだし、その首にずさ、と撃ちこんだ。
バキッ、ゴロン。と、全然可愛くない銅像の首が、そこに転がる。
そしてその首から、でろでろ、どくどく、と、薄いピンク色をした液体が、溢れ出て来て‥‥。
「‥‥‥‥」
わーこの残念な眺めはどうしたらいいんだろう、と透は、ちょっとだけ何か、途方に暮れた。
で。更にそれを見ていた亜夢は、あーゆー事にはなりたくないので、さあ。私は残ったレーザの方だ! と。
覚醒状態で虚闇黒衣を発動し、破壊作業に備えた。
というか、ビーム攻撃に、備えた。
「このビームは敢えて受けてみましょう。その上で熱いか痛いか‥‥」
ってそろそろっと、ビームが出ると思しき目の辺りに歩み出て、じっと、待つ。
どきどきどきど。
‥‥ビーっ!
「おおっ」
って、ビームが当たった瞬間、何か、声が出た。
全然痛くないし、熱くもないのだけれど、変な衝撃というか、ふわっとした衝撃というか、
「な、何だろう、この初めての感覚‥‥」
って何だか若干頬とか赤らめている亜夢の前を、
「とにかくもー! こんなの天使じゃないー! もっとさー! 天使ならせめて私レベルの可愛さをだそーよー! これなら壊しても全然心が痛まないってもんですよー!」
とか何か、騒がしく文句を言いながら、槍を構えたかざねが通り過ぎて行く。
「まー、銅像ですから、硬いんでしょうけど、私にかかればこんなもんすぐですよ! 壊してやりますよ! すぐー‥‥て、おおうっ!!」
で。結局ビームに当たり、何か、やっぱり、変な声が出た。
「な、なんですかーこれー」
「な。何か、へ、変な感じだよね」
「はい‥‥変な感じだったです」
「ちょ、もう一回、どう? 当たってみる?」
「え‥‥そんな‥‥当たって‥‥みますか?」
「ちょっとちょっと、氷室さーん!! こっち来て、こっち来てみてー」
こうなれば巻き込んでやれーとばかりに、亜夢が、何か、美優を、呼ぶ。
「えー、何よー、もー」
「で。結局あれは、何だったんでしょうね‥‥」
そんな女子三人を見やりながら、終夜が言った。
「んー‥‥とりあえず天使って‥‥見てると心安らぐものなのかと‥‥思ってたけど全然違ったし‥‥。作り手の念でも‥‥宿っていたのかな‥‥」
「うーん‥‥誰かが趣味に作ったにしても、悪趣味ですよね」
「うん‥‥」
「‥‥あと、幡多野君、匂い、凄いですね」
「うん‥‥」
克は恥ずかしげに顔を伏せる。
早く帰ってお風呂に入りたい。そう、思った。