タイトル:やたら死体のある家マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/17 13:09

●オープニング本文






 目覚めると、何処とも断定しにくい痛みが、とにかく体中に、あった。
 起き上がるのも億劫で、岡本は、暫くそのままぼんやりと、黒く塗装された天井を眺めていた。
「岡本君ってさ」
 と、突然隣から声が聞こえた。
 実のところ、何となくそこに誰かが居るんだろうなあ、と、音や雰囲気から、そんな予感はしていたのだけれど、見るのももう何か面倒臭かったし、何より体を動かすのが、辛かったために、何となくそのまま触れずに居た。
 そしたら何か、その人物が、喋ったようだった。
 聞き覚えのある声で、むしろ一か月の半分くらいは聞いている声で、こんな状況のせいか、何となく懐かしいような、安堵するような不思議な気持ちになった。
「大人しそうな顔して、わりとたまに、こういう、突拍子もない所が出るよね」
「はい。何か、そうみたいですね」
「あんまこんなボッコボコに殴られた人、ちゃんと見たことないから」
「はい」
「何かちょっとキュンとしちゃったよね」
 さわ、と何か、紙が擦れるような音がした。どうやら、雑誌か書籍か、何かのページが繰られた音らしい。
「また岡本君ってさ。こういうの、似合うよね、何か。殴られ男選手権とかあったら、ダントツの一位なんじゃない?」
「分かってると思いますけど、そんな選手権、ないですしね」
「分かってると思うけど、そんな選手権がないことは、知ってるしね」
「っていうか、ここ、何処ですか」
「俺の家」
 従容とした声が、シンプルに、答えた。はーそうですかー、と岡本は間延びした声を漏らす。
「あのー、大森さん」
 そこでやっと岡本は、顔だけをそっと動かし、声のする方を見た。
 ベッドサイドに置かれた椅子に腰掛けた、未来科学研究所の、変人だけど優秀、とかいう評判らしい研究員の大森が、何らかの分厚い書籍のページを繰っていた。
「うん、何だろう、岡本君」
 目を上げることなく、言う。
「帰りたいんですけど」
「うん今は無理だよね。たぶん、何か、肋骨とか、ヒビ入ってんじゃないかなあ」
「じゃあ、俺の家より、病院の方が」
「うんそれは大丈夫だよ俺の家で」
「運んで来てくれたんですか」
「感謝してね。道端でわりと出血して倒れてる君のこと見つけて、応急手当して、連れて帰って来て、服着替えさせて、手当して、寝かせてあげてるんだから」
「良く、見つけましたね」
「そうね。偶然よね。愛の力かしら」
 とか、絶対愛の力なんて、そんな目に見えない物は信じてません、みたいな、哺乳類より爬虫類に近い無表情で言われても、全く説得力がなかった。
「愛の力とか、そんな気易く言ったら、愛の力団体に怒られますよ」
「あのさ。分かってると思うけどさ」
「分かってますんで、続き言わなくていいです」
「ないよ、そんな団体」
「これ明日仕事、行けないですよね」
「行けないよね。もう今日だけど」
「参ったなあ」
「参る人は、そんなにまずお酒飲んじゃ駄目だよね」
「はい」
「酷い振られ方したのは分かるけどさ」
「はい」
「女なんて、他にもいっぱい居るんだしさ。あと、俺も居るし」
「はい、最後のくだりは必要ないですけど」
「それで絡まれてさ」
「はい」
「弱いくせに、ボッコボコにされてさ」
「はい」
「可愛いよねー」
「はいあの、自分で馬鹿だって分かってても、馬鹿にされたみたいに笑われると、やっぱりちょっと傷つきますね」
「だからさ」
「はい」
「君みたいなたまに危なかったしいのはさ」
「はい」
「俺と一緒に住んだ方がいいんだよ」
「はー。そう来ますか」
「そうね。そう来るよね」
「次はどんな家なんですか」
「ん? やたら死体のある家」
「え?」
「だから、やたら死体のある家」
「ごめんなさい今ちょっと、そういう冗談聞いても笑えないです」
「でも、そもそも笑ったこと、ないよね」
「そういえばなかったです」
「何かさ。前々から俺、建築家の弟に頼んで、君との新居を探して貰ってたじゃない」
「どの物件も全部、殺人事件があった家とかってやつですか」
「そうね、どの物件も殺人事件があった家とかいうやつよね。そしたらさ、刑事の知り合いがさ、何か、お前、殺人事件のあった家ばっかり、調べてるんだって? とか何か、聞いてきてさ」
「はー」
「どうやら話を聞いてみると、犯人は捕まえたんだけど、死体はまだ発見出来てないって事件があるらしくてね。ただ、死体の在り処は、分かってるのよ。供述が取れてるらしい。とある洋館の中でわりと残酷な殺し方して、バラバラにして、そのまま家ン中に埋めたとね。頭おかしいよね」
「その犯人は、同じ頭おかしいでも、大森さんでは、ないんですね」
「じゃあここでそうです俺が犯人ですって言ったら、君責任取れるの」
「すいません無理です」
「ただ、じゃあその死体を掘り起こしに行こう、と思ったらさ、その犯人が捕まるまでに、わりと日が過ぎてて、供述取るまでにもまた日数かかって、何時の間にかそこにキメラが住みついちゃったみたいで」
「あー」
「キメラの駆除、頼まれちゃった。だから、能力者の人達にキメラ退治をして貰いたいわけ。それで名付けて、やたら死体のある家。とにかく白骨化した遺体がね、何処からともなくわっさわっさ。八人分くらい」
「もう完全に趣旨変わってきてますね。いや、僕はむしろその方が有難いんですけど」
「建物は、二階建の洋館で、まあ、ありがちな感じの感じで。部屋数は、11くらいかな。万が一、死体を掘り起こしちゃっても、そのまま置いといてくれればいいって」
「大森さん」
「何だろう岡本君」
「でも僕これ、今日は仕事できないですよ」
「大丈夫、気長に待つから。それに、明日には、回復してるかもだし」
「肋骨にひび入ってたら、無理ですよね」
「大丈夫。もう一回ちゃんと俺が調べてあげるから」
「あ、まだ診てなかったんですか、っていうか、診なくていいですけど。だいたい、大森さん、医者ではないですよね」
「知識が無いわけじゃないから、安心して」
「どうせなら、意識失ってる間が良かったです」
「だって」
 そこで大森は膝の上の書籍をぱたん、と閉じた。
「ちゃんと意識がある時の方が、いろいろ楽しいじゃない」
「あのーやっぱりその事件」
「うん」
「大森さんの仕業じゃないんですか」
「そんな人を変態みたいに」
「え、違うんですか」
「言っとくけど」
「はい」
「俺はね、わりと岡本君以外には興味ないからね。岡本君の体だから、診てあげるんじゃな」
「いやごめんなさいもういいです、すいませんちょっと、寝ます」







●参加者一覧

オリヴァー・ジョナス(ga5109
17歳・♂・EL
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
鐘依 飛鳥(gb5018
26歳・♂・FT
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
鈴木庚一(gc7077
28歳・♂・SN
香月透子(gc7078
27歳・♀・DF
アリーチェ・ガスコ(gc7453
17歳・♀・DG

●リプレイ本文







「イギリスじゃ、お化けとか、妖精とか、日常的ですから。私は、わりと、平気ですけど」
 とか何か、オリヴァー・ジョナス(ga5109)が言ったので、え、日常的ってどういう状況? とか緋本 かざね(gc4670)は一瞬思ったのだけれど、それを指摘するより早く、植松・カルマ(ga8288)が、「っすよねー!」とか何か、全く重みの感じられない同意をした。
「ホラー的なアトラクション的な感じみたいな? もうこんなんあれすよ、ただのビックリアトラクションすよ。俺の手にかかればファンシーなメリーゴーランドに等しいッスよ!」
 とかその辺りのくだりは、全然聞いてませんでした、みたいに長身のオリヴァーは、ぬらーとした感じでカルマから視線を逸らし、っていうかそもそも帽子を深く被っていたため何処を見ていたのかすら分からなかったのだけれど、とにかく「そんな事より」とかポソ、と呟き、何もない壁の方を見て、その後でかざねを見た。
 でも、「だから何つーか、俺、こういうの初めてなんスけど、訓練じゃマジぶっちぎりのトップだったんで! どんな奴が来ても余裕なんスよね!」とか、カルマの自慢はまだまだ続いて、柄の先から剣先にいたるまでわりとごってごてに金色! な感じの魔剣「ティルフィング」を振り回し、何をどう間違ったか勢い余って、がしゃあん、とか屋敷の壁を思いっきり、壊した。
 そんなカルマを、チンピラを眺める組長、みたいな貫禄を漂わせ、國盛(gc4513)が凄い無言で振り返った。
「あのー」
 いや俺何かめっちゃ見られてんスけど、これ大丈夫ですか、みたいに若干引きながらカルマが言った。「あれ何か俺、あれなんスよ」
「どれだ」
 ってそれでもう追いつめられたのか、はいだからあのーって凄い頑張った結果、「カツオなんすよ!」って、
「え?」
「いやだから動いてないと死んじゃうくらいっつーか」
 って、自分的には凄い頑張って上手い事言ったった、くらいのちょっと得意げな顔をした。
「いやもう少し良い言い訳は無かったのか」
 とかいうその間にもかざねをじーとか見下ろしたオリヴァーは、実のところ、緋本さんの姿は何かに似てると思ったら、あ、犬だ。とか、気付いていたのだけれど、それは口に出してはいけない気がしたので、黙っていることにした。
「あとかざね」
 と、國盛の鋭い視線が、今度はかざねに向いた。「後ろから‥‥手が出てるぞ」
「またまた國盛様ったらー。なんですかー。私が怖いのダメなの狙ってるんですかー。確かに死体は怖いですけど、そんな嘘には騙されな‥‥うわー骨だー! ぎゃあー!」
 って、振り返った壁の辺りから手が突き出してる手っぽい形の骨を見て発狂して、若干あれ? かざねこぷたー入ってる? みたいにくるくるーとか回転しながら、國盛の後ろに隠れた。
「緋本さんベタすね」
「ふむ‥‥これは橈骨か‥‥形状から見て男、か?」
「國盛様ー、冷静に観察してないで、さっさと処理して下さいよー!」
「まあ、こういうのは、軍人時代に嫌と言う程見てきたから、な。白骨化してるなら可愛いモンだ。ウェルダンやミディアム、レアだと見ていられないから、な。白骨化していて良かったな、かざね。あ、破壊はするなよ」
「指が」
 そこでオリヴァーは、どういうわけか、かざねを見て、呟いた。「まるで何かを指し示すような形になっています」
「確かに」
 と、頷いたのは國盛だった。「どういう事だろうな、これは」
「キメラへと‥‥死体が導いてくれている。そんな予感が‥‥します」
「あー危ない危ない危ない、何かオリヴァーさんが胡散臭い霊媒師みたいになってるスよ!」
 その間にも國盛は、人骨の指らしきものが指し示す方向へと、鋭い視線を向ける。けれど、やがて、ゆっくりと首を振った。「探査の眼で分かるのは、もう少し、近づいてから‥‥か」
「いやでもそんなこと、ないだろ、なあ! 死体が指し示すって‥‥ただの偶然だろー」
「そうですね。偶然かも、知れません」
 以外にあっさりと、オリヴァーは意見をひっこめる。
「あと、オリヴァー様」
「はい」
「何で私の方見て喋るんですか。な、何かあるとかじゃないですよね」
「あいえ‥‥私はあまり、人と話すのは得意じゃないので‥‥。でも、動物となら、心を通わせられるから」
「あ、そうなんですね」
 とか一瞬流しかけ、かざねはオリヴァーを振り返る。「あれ、どういう意味ですか、それ」






 とかいう報告を受けた一階班の鐘依 飛鳥(gb5018)は、無線機に向かい、「死体の指し示す方向か」とか何か、深刻な声を出して言った。
 その後で無線機のボタンを押しこみ、「こちらハンサム仮面だ。方針は了解した。死体があったら調べてみ」とか何か言い終わらない内に、香月透子(gc7078)が、自分の無線機をひっつかみ、「ちょ、ちょっと! こちらツンデレ! 聞いてないわよ、そんなの!」とか、怒っていた。
 怒っていたけれど、怒っているとかはわりとどうでも良くて、それより何より「ツンデレ」って、「ハンサム仮面」に乗っかっちゃうんだそうなんだ、とか、鈴木庚一(gc7077)はぬらーっと、透子を見た。
「つまりそれって、死体を掘り起こせってことじゃない!」
「いやちげーすよ。掘り起こせとは言ってないス。もしうっかり掘り起こしちゃったら、見てみたらどうすか、って話ス」
「聞いてないわよ、そんなのありえないわよ、何、死体をうっかりって掘り起こすって何、どういうことなの。ねえ、どういうことなの」
 ってそこでハッと庚一の視線に気づき、「だいたい、ふらふらがこんな所来ようなんて誘うから」って、もう飛び火してきたみたいだった。
「いや最近、洋館とか気になるし。どうせ、お前、暇だろうし」
「いやだから! 何でそんな死体あるとか、そんな大事な事、何で最初に言ってくれないワケ? 何それ、いつもの天然?!」
「なにもうどうしたよ。どうしたいんだよ」
「だから! 死体が‥‥いや間違っても、こ、怖いとか、そう言う感情を持ってるワケじゃ、ないのよ! ただ、ありえないって」
 とかはもう面倒臭いのであんまり聞かないことにして、何か視線感じるわーって見たら、飛鳥が凄いこっちを見ていた。っていうか、鳥の姿を模したハーフマスクが、がんがん、見ていた。
「なるほどな。痴話喧嘩か」
 否定するのも面倒臭いので黙って見てたら、ハーフマスクから覗く口元が、ニヤ、とかなって「どうした? ふふ、遠慮はいらないぞ! ハンサムは空気を読むからな。ここは男の見せ所だ。俺は二人を応援してるんだぞ! 静かなるナイスガイっ!」
 って何がどうよろしいのか分からないけれど、もうとっくに別れてしまった二人を捕まえて、びっとか、サムズアップした。とかいうのを、何だこの変な生き物みたいにじーっとか見たら、「ん」とか、短く何度も頷いた飛鳥が、ハハハとか笑いながら歩き出した。
「まあとにかくだ。落ち着こう、ツンデレ! 死体と言っても白骨化してるだけだ。つまりそれはただの、骨。いやそれはもう、金太郎飴! そうだ。金太郎飴だと言っても過言ではないのだ!」
「ねえちょっとふらふら、何か言った方がいいんじゃないの。おかしいわよ、あの人」
「いやもう俺あんま関わりたくないからー。ツンデレ、お前、言えば」
「こうして我ら、ハンサム仮面部隊は、ツンデレ、ふらふら、そして」
 と、やっとそこで飛鳥は、最後尾を歩く、長身のっていうか、豊満のっていうか、とにかく黄色い塗装のAU−KV「アスタロト」を振り返る。フェイスガードがぱか、とか開いて、中から褐色の肌の少女の顔が現れた。
「ツンデレ、ふらふら、そして」と、また、飛鳥が言った。
 皆の視線が、一斉に彼女に、向いた。
「ええ、アリーチェ・ガスコ(gc7453)です」
「え」
「私の名前ですよね。アリーチェ・ガスコです」
「どうしよう。俺、ふらふらが名前って思われてんじゃないか」
「ふらふら、そこくらいはもうちょっと慌てたらいいと思うわ」
「でも私、今回は余りやる気がないんですよね」
 ほふ、とガスコはため息を吐き出す。「だって可愛い小動物が、いないんですから」
 って、皆ちょっとどうしていいか分からなくなって、何だかしんとした。
「ん、よし!」
 って何がよしか全然分からないけれど、飛鳥が纏めて「とにかくキメラを」とか歩き出そうとしたら、また、落ち込んだ感満載の声で、「しかし、残忍な殺人事件ですか‥‥。ここに埋められている死体達は、きっと、苦しくて、痛かったんでしょうね」
 とかもうすっかり、場の空気が暗い。
 それで皆やっぱり、ちょっとどうしよう、みたいな雰囲気になったところで、ガスコがぽそ、と言った。
「遺体だけに、痛い」
 その場がまた、しんとした。
「ガスコさん」
 飛鳥が彼女の傍に歩み寄り、そっと肩を叩いた。「大丈夫だ。元気を出せ、今日から君は、テンネンだ。れっきとした、ハンサム仮面部隊の一員なんだよ」
「うんハンサム仮面。それは、嬉しくないと思うわ」






「大体、暑いからって怖いもので涼しくなるって考えがおかしいんですよね。そんなの怖いだけで、私失神して終わりですよー。一個も涼しくならないですよー」
 それでじゃあとりあえず死体の指し示してる方向に進みますか、みたいにだらだら歩きながら、かざねが文句を垂れた。
 とかいうその背後で、オリヴァーがゆっくりと何かに気付いたように、顔を向け、手を伸ばしかけ。
「オリヴァー、危ない!」
 そこへ探査の眼でその待ち伏せを見抜いたらしい國盛が、覚醒状態で飛び込んできた。「キメラだ!」
「っしゃ! こんな奴俺一人で潰すっスよ! 皆サンは見てて下さいッス!」
 銃身に紅い薔薇の刻印を刻んだ小銃ブラッディローズを構えたカルマも、覚醒の影響で、全身の肌を鈍色に変えながら、飛び込んでくる。
「ああ」
 とか何か、相変わらず緩くその場を離れたオリヴァーは、静かに覚醒する。右の頬に、植物の蔦のような模様が浮かび上がった。
「ちょっと変わったカーテンかと思いましたけど、キメラでしたか」
 すかさず、虚闇黒衣を発動する。キメラから繰り出された撃を、まるで体を覆う暗いヴェールのような闇の衣で吸収し、虚空へと逃がした。「では、お片づけ、ですね‥‥」
「全くー! この暑っ苦しい時期にまた暑っ苦しいキメラとか最悪ですよ〜。見た目は気持ち悪くないのがせめてもの救いですかねー」
 セリアティスを構えたかざねが、ふわふわと揺らめく布のようなキメラへと突進していく。
「あれ、でも、なんかこう、布をびりびりっとやるのって楽しいかも! よーし! どんどんやっちゃおー!」
 そんなかざねをふと見やり、オリヴァーが呟く。
「ほーら死体達が、キメラをやっつけてくれてありがとうって、言ってますよ。フフフ」
 そこから少し離れた場所では、
「目障りだ」
 グローブに組み込まれた超機械シャドウオーブを翳し、國盛が呟いていた。その手から飛び出していく黒色のエネルギー弾が、キメラへと命中する頃、また新たに出現したキメラへと、カルマの放つ銃弾が、怒涛の勢いで降り注いで行く。
「反撃の隙なんか与えねえ! 猛撃だオラー!」
 カルマの体が薄く発光し、SESの排気音が甲高くなる。「オーーーー! っしゃー! やったか!?」
「口だけかと思ったら、意外とやるんだな、お前」
 背中合わせにキメラへと応戦しながら、國盛が、小さく笑う。
「そうスよ! 俺は、意外とやるんスって。何つたって、イケメンすからね!」
「イケメン。さすがだな」
 肩を竦めた。





「で、透子、どうだこの洋館。気に入ったか?」
 とか言った庚一の言葉は、すっかり聞いてない透子は、「ああ、嫌だわ。何だか一階の方が埋めてあるとかありそうじゃない? 死体」とかまた一人ですっかり、自分の世界で、いいえ、透子! 確りするのよ! 死体はおまけ。本命はキメラなんだから! さっさとキメラだけ倒しておさらばすればいいのよ。とか何か、ぶつぶつ自分で自分を励ました。
 とかいう姿を、庚一は何を考えてるか分かんない顔でボーとか眺めて、「そうか、だろうな。気に入ると思って呼んだしな」とか何か、さっさと完結して、「あと」と、どうでもいい情報付け加えるけどくらいの勢いで、「足元。骨踏んでるぞ」とか何か、言った。
「え」
 透子は足元を見て、一瞬固まり、それから、「ほ、骨、骨‥‥っ!!」
「いや金太郎飴」
 って、試しに言ってみたら、凄い勢いで、ハッとか、飛鳥が振り返った。
「そ、そうだ。ナイスガイ! 金太郎飴だ。俺発信の金太郎飴だ! お前もそう思ったんだろ! 乗っかりたくなったんだろ! な! そうだな!」
 とかもうすっかりウザい。
「って、何でこんな時でも普段通りなのよ、庚一は! ちょっと動揺するとか無いの!」
 とか言いつつ、透子は、それでもその態度見てると何だか安心しないでも無い、とかふと思いかけ、そんなわけないじゃない自分! って、また、ぶるぶるとか首を振る。
「あと、何か、ふわふわ、浮いてる」
「な、何っ! 今度は幽霊でも出たって言うのッ?!」
「いや、キメラじゃないか」
「ハッ、わ、分かってるわ。いちいち、煩いわね!」
 透子は慌てて覚醒状態に入る。
「今日は機嫌が悪いんです。さっさと、ご退場願えますか?」
 低い声で言ったガスコが、竜の角を発動する。腕と頭部にスパークが生じたかと思うと、ふわふわ浮くキメラを、雷鳴の拳で思いっきり叩きつけた。
「幽霊のように現れるなんて不届き千万! メッタメタのギッタギタにしてやるんだからっ!」
 走り出した透子が、クラウ・ソラスから、ソニックブームの衝撃波を放つ。
 その間にも、何がどうなったか、「ぐぉおおお!! 巻き付くならもっと美しく縛らんか! やり直しを要求するー!」とか何か飛鳥が、キメラに巻きつかれながらもがいていた。けれど、やがて思い出したように豪力発現を発動しバサーっ! とかキメラを振り払った。かと思うと、素早く血桜を引き抜き、「わたたたたた、あちゃーっ!」とかキメラに切りつけていく。
「鬱陶しいキメラだな」
 その頃庚一は、目の前をひらひらとしていく物体を、とりあえず面倒臭そうに眺めていた。
 そんな彼の姿を、隙あり、と判断したらしいキメラが、体制を変え、攻撃をしかけてこようとする。その瞬間を見逃さず、彼は、影撃ちを発動した。洋弓アルファルの矢がその身を切り裂いていく。「はいはい、さいなら」
 そしてそんな庚一の背後では、
「アズラエルの加護よ。どうか天国に導いてやってくれ、な」
 皆に見えないようそっと仮面を外して、飛鳥が埋もれた骨に向かい、呟いていた。