タイトル:廃墟教会の救出マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/15 00:10

●オープニング本文




 分厚い木製の扉が、開いたかと思うと、バタンと音を立てて閉じた。。
 カウンター席に座り、バーボンのグラスを傾けていた佐藤は、アルコールと煙草の匂いの中に、嗅ぎ覚えのある香水の香りを見つける。
 そっと肩に手が添えられた。
「毎度、どーも」
 飯田の囁き声が、言う。「君から連絡くれるなんて、嬉しいな」
 隣の席に腰掛けた飯田は、相変わらず、余りに身なりが整い過ぎているのでむしろ詐欺師っぽいんですけど、みたいな外見をしている。高級そうなスーツを着ていた。
「毎度どーもって言って貰って申し訳ないんだけど」
 摘みのナッツを指先でかき混ぜる。ネイルの施されたきらきらとした爪は、自分でもうっとりしてしまうくらい、気に入っている。「今日は、君の依頼の話を聞きに来たんじゃないよ」
「違うよ。俺の店だから、毎度、どーもなの」
「え、君の店?」
 飯田を見やり、それから思わず、カウンターで氷を砕いていた、若いマスターを見やる。佐藤が来る日には、いつも彼がそこに居て、言葉少なに注文したお酒を作ってくれたり、軽食を作ってくれたりしていたので、てっきりここは彼の店なのだと思っていた。
「俺はオーナー。彼は、雇われ、店長」
「そうなの」
 と、思わず彼に、確認してしまう。何となく裏切られた気分だった。
「そうなんです、言ってませんでしたか」
「言ってませんでしたよ」
「俺は、佐藤君が、女装をする前から、佐藤君のことを知ってるんだよ」
 注文もしてないのに、飯田のグラスがテーブルの上に差し出される。佐藤と同じバーボンだったけれど、こちらは、ストレートだ。
「どういう意味」
「彼に、言われてその気になったんでしょ、佐藤君。女装、きっと、似合いますよって」
「そんなことまで知ってるわけ、飯田君は」
「だって、俺が彼に言わせたんだもん」
 グラスを傾ける美貌の横顔を、まじまじ、と見つめる。得体の知れない薄気味悪さを感じ、途方に暮れた。
「で、何? 依頼の話を聞きに来たんじゃなかったら、あれかな。俺とデートでも、する気になったとか、そういう話かな」
「違うけど」
 佐藤は一旦ちょっと待って、むしろ帰っていいかな、とか何か、微妙にショックから立ち直れずに居たのだけれど、しぶしぶポケットから二枚の紙を取り出し、滑らせた。
「前回と前々回の依頼の際に、能力者の人達が回収してきた紙だ。民間人のポケットに入っていたらしい」
 一枚目には「ボクと遊ボ ウ」、二枚目には「ノ命ハ無イゾ」とある。二枚目は、破れたか何かで文言が途中で途切れていた。
 ふーんみたいに、飯田がその紙を見下ろす。「なるほど、気のきく能力者の人達だね。で?」
「本当のことが、知りたい」
「本当のこと?」
「君が、民間人をどうやって見つけているのか、目的は何なのか、そういう事だよ」
「どうって、だから、超能力でさ」
「この期に及んでまだそんな嘘を吐くなら、僕はもう、君とは関わらないことにする。この件も、上司に報告する」
「ってことは、まだ、してないんだ」
 飯田が小さく笑みを漏らす。「可愛いね、佐藤君。びびってるの」
「とにかく、こういう事が僕の耳に入って来た以上、無視できない。この紙が出て来たのは、二件だけだけど、もしかしたら、最初から民間人のポケットにもこうした何らかのメッセージが残っていたのかもしれないし、君が、彼らに接触してそのメッセージを破棄してないとは、断言できない」
「ULTの建物の中には入ったこと、ないけど」
「ヘリポート内で、ヘリから救急車へと搬送する間に、空白の時間がないわけじゃないんだ。民間人だけをヘリの中に置いて、職員達が少しだけ離れる瞬間がある。もしかしたらその隙に接触してないとも、限らない」
「想像力、豊かだね」
「それに。最初に救出された民間人が、やっとまともに喋れる状況になったんだ」
 佐藤はそこで一旦、言葉を切った。出来れば面倒臭いことには関わりたくないんだけどな、という思いが、言葉を躊躇わせる。グラスを口に運び、唇を潤してから、再び口を開いた。
「彼らは、自分達を、バグア派の人間である、と言ったよ」
 アイスピックで砕かれていく氷が、しゃりしゃり、と小気味よい音を出す。
「なるほど」
 飯田は勿体付けるようにゆっくりと、バーボンを口の中で味わっていた。「つまり俺のこと、疑ってるんだ? 俺がバグアの手先じゃないかって? 救ってるのに?」
「そう君は、民間人の救出に協力してる」
「だったら、いいじゃない」
「でも、その民間人に不自然なことがいっぱいあるから。本当のことが、知りたいだけだよ。出来れば、僕は、平穏無事に過ごしていきたいから」
「言ったじゃない。俺はさ、佐藤君の体が目当てだから、佐藤君に気に入られたいだけなんだよね。それで、民間人の居場所を教えてる」
「むしろそのほうが簡単で良かったけどね」
「いいよ、別に」
 軽く頷いた飯田が、鞄からクリアファイルを取り出す。「俺にやましいことはないからね。この民間人を救うことが出来たら、話を聞きにくればいい。分かることは、答えるよ。君の言う、その、本当のこと? って、やつをさ」
 滑ってきたクリアファイルの中身を確認する。救出民間人、二人。場所は、朽ち果てた教会の地下、とある。礼拝堂の裏に、隠し階段があり、その下に地下施設が広がっているらしい。
「昔はね、異教徒を拷問する為の部屋や、収容の為の牢獄があったらしいよ。多分、そのままいろいろ、残ってるんだろうね。怖いね」
「キメラも、居るね」
「ま、居るね」
 なるほど、と頷き、佐藤はページを繰る。
「ねえ飯田君」
「何だろう、佐藤君」
「本当に、これを助けたら、教えてくれるんだね、本当のこと」
「まあ」
 面倒臭そうに、飯田が呟く。「でも、そう言うほどのことは、何もないんだけどな」




●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
毒島 風海(gc4644
13歳・♀・ER
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文




 以前は礼拝堂だったのだろうそれは、コンクリートの残骸や埃や塵の中に埋もれ、削られ、壊れ、辛うじて、ああ礼拝堂だったのですね、と分かるくらいの有様でそこにあった。
 空閑 ハバキ(ga5172)は、合わせた両手の指先を額に当て、上目に、礼拝堂の残骸を見た。
「なあんかこの感じ。ときめき半分、寂しさ半分、って感じじゃない?」
 間違いなく、この施設を作り、神を崇め、挙句、放棄したのは人間なのだけれど、この礼拝堂を見ていると、神から「あ、もう、君達に興味ないから」と、逆に見放されたかのような心細さを感じる。
「なんで、わざわざこんな場所にしちゃうかなあ?」
「今度は廃教会に民間人」
 ロジー・ビィ(ga1031)が続けて呟く。「以前までのメモも気になりますし、早々に救助して差し上げたい所ですわね」
 その言葉に同意するかのようなタイミングで、セシリア・D・篠畑(ga0475)が、「行きましょうか」と抑揚なく、言う。その顔に、余りにも表情がないので、立花 零次(gc6227)の目には、毅然と出来るだけ早い民間人の救出を決意しているようにも、仕方ないですよね、仕事ですしね、と諦めているようにも、神様とか信じてないですし、教会だろうと雪原だろうと、基本一緒ですし、むしろ興味ないですし、と面倒臭がっているようにも、見えた。
 とか、何か興味津々にじーとか見てたら、セシリアが無言でこっちを見たので、ここだ、ここで挨拶だ、とか思って「あの、よろしくお願いします」のあ、くらいでもう向こうとか向かれて全然間に合ってなかった。あ、ですよね、みたいな微妙に気まずい顔で何かちょっと笑って顔を上げたら、あらあらみたいに笑っているロジーと目が合う。
「うんっ、早く見つけてあげなきゃね! よし皆、頑張ろうっ」
 覚醒状態に入ったハバキが、GooDLuckと掌をくるん、と返した。「メモも気になるし、ね。事が悪い方に拡大しませんように」
「気を引き締めて参りますわ」
 ロジーが頭に被ったヘルメットの暗視スコープのライトをつける。
「確かに。どうやらこれは、ただの救出依頼ではないようですしね」
 立花は懐中電灯を取り出し、拳銃を収めた場所をジャケットの上からそっと、撫でた。


「今度は隠し階段から、地下施設ですか。毎度ながら趣向を凝らしていて、ある種のツアーに思えてきましたよ」とか地下内部を見渡していた毒島 風海(gc4644)は、自分の隣に立つ緋本 かざね(gc4670)を見やる。「どきどき拷問具ツアー、みたいな」とか呟きながら、その姿を観察した。
 刃に、星の絵が描かれた大鎌「紫苑」を持ち、魔女っ子ハットを被り、戦闘用ドレスを着用している。「ここに丁度、添乗員さんも居ることですし」
「金髪の死神風添乗員です〜。皆様、右手をご覧下さーい」
「いやかざねちゃん、その格好は何なんですか。皆思ってることを、あえて私が代弁しますけど」
「これは」
 大鎌の柄をカツン、と地面にぶつけた彼女は勿体ぶって、言う。「絶賛、ナメクジ撲滅フェアー開催中なのです〜。どーん」
「どーん」
 エクリプス・アルフ(gc2636)がのんびりにこやかな表情で便乗する。
 覚醒状態で探査の眼を使用してはいるものの、さほど厳しい顔もしてなくて、でも時々、鋭い目をハッとしたように辺りへと向けている。辺りの警戒は怠っていないらしい。
「いやどーんちゃいますって」
「ふふっ、廃教会の雰囲気にもぴったりだと思いませんか?」
「そんな風にふざけていられるのも今の内だと思うがな」
 曲がり角に差しかかると、暗視スコープで辺りを照らし出しながら、御巫 雫(ga8942)が小銃「バロック」を構える。右、左、と照準を変え、やがては下ろした。
「はいー」
 残念です、みたいにかざねが顔を伏せる。「何せナメクジは百足の1.5倍増しで嫌いですしね」
「あ、そうなんだ」
 とか頷いた風海は、「じゃあ、ごめんね」とか、続けて謝った。
「え」とかざねはその顔を見る。「あれ、え、何で謝るの」
「まあ」
 それだけはどうあっても言えないのだ、とばかりに言葉を濁したガスマスクは、がっつりこっちとか、見た。全然表情とか分からない感じが、怖かった。
「え、まあって、何。ねえ、え? 何で、え?」
「それにしても意外と残ってるもんですね、拷問具。あ、これはネジを締めて指を潰すやつですね。そっちのは、膝を挟んで締め上げ、粉砕するもの、と。ほう、これは歴史的価値の高い。回収して博物館に送りましょう」
 とかおろおろしてるかざねをすっかり無視すると、暢気に拷問具の解説とか、始める。
「拷問か」
 雫が考え深げに呟いた。
「拷問には見せしめの意味もある。中には実際には使用されず、ただ恐怖を与える為だけに存在したものもあるだろうな」
「見せしめですか」
「そうだ」
 風海の言葉に雫が、頷く。「そういえば、前回救出した民間人は、生贄、と呟いたらしいが。これも或いは、見せしめの『生贄』とも解釈できるぞ」
「見せしめのための、生贄?」
「やはり、何かありそうですよねぇ」
 うーんとかアルフが腕を組み、他の二人もうーんとか、凄い真面目な顔してる横で、「え、何。ねえ、何で謝ったの、ねえ。風海ちゃん、ねえ、ねえ」とかざねが、異様なしつこさを発揮していた。



「確か文面は、の命はないぞ、と、僕と遊ぼうというようなことでしたね」
 以前の救出で民間人の衣服から見つかったメモについて述べた後、立花は隣を歩くセシリアを、じーとか、見た。何か、言ってくれないかしら、答えてくれないかしら、とか、期待を込めて見た。
 いや何か凄い見られてますけど、何ですかこれ、みたいにちら、とこちらを見たセシリアは、貴方が聞くので、仕方なく答えますけどね、みたいに、言う。
「今までは遊びで、次は本気、ということも、あるかも、知れませんね」
「命というのは、誰の命でしょうか。そもそもこれは、俺達に向けたメッセージなのかという問題もありますが」
「民間人の命はない」
 セシリアが、冷たく、呟く。「能力者の命はない。あるいは、ULT職員、佐藤の命はない」無表情に、顎を摘む。「ということでしょうか」
「なるほど。どれも考えられます。ロジーさんはどうお考えで」
 とか立花が顔を向けると、ロジーとハバキがめちゃくちゃ真剣な顔で、「ナメクジにはやはり、塩ですわね!」とか話しあっていた。全然もう、民間人とかメモとか、そんな話は聞いてない。塩だ、塩をまくんだ、そう此処はやはり塩の出番! 大量の塩を掛けましてよっ、とか今にも握手とかしそうな勢いでひとしきり言い合って、やっと立花の視線に気づいた。
「え、あら。どうされましたの」
 どんだけ夢中なんだっていうか、キメラに塩は効くのか、とか凄い聞きたいけど余りに二人が意気込んでいるので聞けない。「あ、いえ、民間人のメモの話を」
「ねえねえセシーは、ナメクジ平気?」
 ぴょん、ぴょんと軽やかにステップを踏みながら、場所を移動するハバキが、言う。「カタツムリは、かわいいって言う子がたまに居るけどナメクジって不遇だよね」
「そうですわねー、どっちも似たようなもののように思うのですけれど」
 頬に手を当てた格好で、ロジーがのんびりと呟く。「あたしから言わせれば、もうほぼ、一緒ですわ。むしろ同一ですわよ、同一」
「いえ、同一なわけでは」
「とにかく塩だよ、塩。セシー」
 とか言われたセシリアは、感情の読めない表情でぼんやりとハバキを見たかと思うと、「なるほど。塩ですか。塩で清めるわけですね、分かります」とか言ったので、思わず「えー!」とか立花はその顔を見る。いや絶対「何を言ってるんですか」くらいの事は言ってくれるはずだ、と思っていただけに、一瞬、頭が真っ白になる。
「違いますのよ、セシリア。清めるわけではなく、討伐の為ですのよ。駆除ですわ、駆除」
「清めるわけではない」
 ぼんやりと呟いたセシリアは、一瞬俯き、また顔を上げる。「そうですか。分かりました。取り合えず撒きましょう。盛大に撒きましょう。闇雲やたらに撒きましょう。むやみやたらに撒き」
「いやもう、いいですよ、セシリアさん。それ以上、聞きたくないですよ」
「零次さんも、ご一緒に如何ですか? 塩」
 とか、無表情にそんな事言われても、うんやるやる! とか乗ってはいけない気がした。でもどうやら、塩を撒くのは決定らしいので「そうですね」とか真面目に言って、「それじゃあ」と三人の顔を見比べる。「俺は塩を持ってませんから、分けて頂いても良いですかね? えーっと、その塩はどなたが用意されたんでしょうかね」
「え?」
「え、いや、え?」
「塩は」
 ロジーがハバキを見る。いやいやみたいに顔の前で手を振ったハバキが、セシリアを、見る。
 セシリアが、無表情に、立花を、見る。
「え、ええええ、誰も持ってないんですか!」
「あたしとしたことが、塩くらいと油断してましてよ。舐めてましたわ」
 ロジーが唇を噛み締め、ぐ、と拳を握りしめる。「そうですわ、コーンポタージュスープを」
「いや、もうそうなってくると完全に趣旨が変わってますよね、ロジーさん」
「ねえねえ皆、見て見て牢屋があるよー」
 ハバキがすっかりもう塩のくだりどうでも良くなりました、みたいに、興味を移す。
「殺風景ですわね。白薔薇でも埋めて差し上げたいですわ」
「下手に触って閉じ込められないように、気をつけなきゃ駄目だよー、ロジー」
 とか何か言ってる自分が、さっさと牢屋に近づいて、いろいろ弄くって、「えー、見て見てこの染みー。やばいー、何の染みー?」とかこっち向かって笑ったかと思うと、こちら側からは見えない奥の方の壁に何かを見つけたらしく「あ、見て見てこんなところに扉が」とか声を上げたので、立花は、隠し扉ですか! とか俄然興味を持って近寄ったのだけれど、ぎいい、と何か重い物が開くような音が聞こえたかと思うと、「扉だ、扉ー。扉があ」とかいうハバキの軽ーい声は、がしゃああん、とかいう重い音に、遮られた。
 え、とか思った。
「そ、え、どういうことですか?」今、まさしく自分が人に注意してましたよね?
「ねえねえ、セシー、ロジー、零次ぃー、そこに居るー?」
 ハバキの声は意外とのんびりとしている。変な落とし穴とかはなかったみたいだな、良かったな、とか思って、駆け付けた三人は顔を見合わせた。
「いますよー」
「中すっごい狭いみたい」
「そうですか」
「しかも何か、すっごい暗い」
「ああ、そうですか」
「そんでね。何かこれ、言っていいのかどうか分かんないんだけど」
「はい」
「あの何だろー、開かない」
「マジですか、ハバキさん」
「真面目ですけど、何か」



 雫の気配は、隠密潜行の影響で、ほとんどないに等しかった。気配を消し、発見したキメラへとじりじりと距離を詰めている。目の前にはうねうねと動く居薄気味の悪い形をしたキメラが一匹だけおり、うううと背筋を這いあがる悪寒と戦いながらもかざねは、必死に泣き叫ぶのだけは我慢しよう、と堪えていた。
 雫の手には、封を開けた発泡酒が握られていて、曰く、「普通のナメクジなら視覚が弱く、嗅覚に頼って行動する生き物だが。ふむ。ビールの匂いで釣れるかもしれん」と、いうわけで、もしも他にも仲間がいるなら、それでおびき出してしまおう作戦を敢行中だった。
「個人的には掌サイズのが、ウジャウジャと、かざねちゃんの身体を這い回るシチュでお願いしたかったのですが」
 ぼそぼそ、と背後で様子を見守っている風海が、呟く。
「いや、誰によ。ねえ誰に?」
「し」
 アルフが、柔らかい声で言って唇に指をたてる。「ほら、投げますよ」
 三人はそれなりに息をのんで、事態を見守る。ぱ、と雫の手から、発泡酒の瓶が、放れた。カツン、と地面に落ち、じゅわわわ、と中身が零れる。アルコールの匂いが、プン、と漂った。
 じめじめ、うねうね、と動くキメラがゆったりーと、液体の方へ近づいて行く。その動き意外は、特に変化はなく、むしろ、しーんみたいな、何だあいつ一匹か、みたいな、そんな安堵が広まりかけた頃、べちゃ、と背後で何か音がした。
 ん、と風海は音の方を振り返る。その視線の先でまた、べちゃ、と天井から何かが落ちてきた。いや、キメラが落ちて来た。とか思ってたら、また、べちゃ、と。
「かざねちゃん」
「ん?」
「落ち着いて、ゆっくりと振り返って、下さい」
「なに、え、何なんですかー、急」に。とか振り返った、かざねが、重なり合い、ひしめきあい、うねうねべちゃべちゃ、と這いずり回るキメラ達を見て、固まる。それから、ひいいいとか、あれどっから声出しました? みたいな悲鳴と共に覚醒した。
 ぶわ、と、魔女っ子ハットの下で解けた髪の毛が舞い上がる。全身に淡い光が舞った。だん、だん、と続けざま、銃声が鳴る。雫の放った弾丸だった。彼女の背中には、覚醒の影響で、それこそ死を司る神のような、黒く輝く石の翼が広がっている。「固まってる場合ではないぞ」
「では彼女が回復するまで、俺が」
 アルフは緑色の刀身を持つ剣ヴォジャノーイを一振りし、構えると、後方に蠢いているキメラの群れへと駆け出して行く。「自身障壁」
 ぐん、とアルフの体が、強度を増す。エンジェルシールドを眼前に構え、キメラの放った攻撃を防ぐと、ずば、と真上から、斬りかかった。流れる水を想わせるような、青い軌跡が、剣の振りに合わせて、空間に残る。
「ならば、私も」
 注射器のような形をした超機械、「シリンジ」を両手で構えると、風海は「電波増強」を発動する。
 彼女の目が捉えている、青白い多数の文字列が、細やかにその配列を変え、彼女の知覚力に働きかけてくる。
「ナメクジはナメクジらしく、冬眠していてください」
 アルフの切り刻んだナメクジの残骸に、シリンジの先をそそくさと突っ込んでいく。「まぁ、次に目覚めることは、もうありませんが」
 ぎゅなああん、と強力な電磁波に飲み込まれたキメラの体が、ぱあん、と弾けた。「はい、アルフさん、次」
「ほい、次」
 剣を突き刺し、ずさささ、と横へ切り裂くと「うなぎ風」とか何か言って、また次へ向かう。キメラがぶつかってくるのを盾で受け、そのまま押し戻し、剣を突き刺す。
 とか、まるでわんこそばの大会みたいな事になっている二人の傍で、だんだんだん、とまた、銃声が鳴る。
「ほら、いつまでぼやぼやしてるんだ、かざね」
 雫の鋭い声が飛んだ。
「くそう。近づきたくなんてないけど、私の手で撲滅しないと!」
 死神っていうか、もう、死神にとりつかれた人みたいな苦悶の表情で、大鎌を構えたかざねは、ぶううんとそれを振り回し、だだだだ、と一気に走り出した。「見なければいいんだ、っていうかこれをナメクジだと思わなければいいんだ、これはそうだ、パンだ。美味しいパンだ! くそう、パーン!」
 とか何か、支離滅裂な事を叫びながら、かざねが大鎌を振り回す。ざしゅ、と刃先が入り込んだ感触に、ひい、と呻き、「違う、これはパンだー。っていうかもう、パンダー」とかまた、支離滅裂なことを言う。
「はいはい、かざねちゃん。後始末は任せてね」
 そそくさ、とシリンジを突き刺し風海はまた、キメラを破裂させる。とか、良く良く見ていると、弾けた残骸を何故か丁寧に拾ってもいた。アルフは、見なかったことにした。
「よーし、ちょっとやそっとでくたばらないなら、これで楽にしてあげますよ! 二連撃ぃ!」
 かざねは叫ぶと、構えた鎌の刃先を素早く動かし、キメラの胴体と頭部を真っ二つに切り裂いた。
「逝ったところでナメクジなんかに黄泉路は案内しませんけどね!」
「痛覚は己が状態を感知し、恐怖は危険に備える能力だ」
 手慣れた仕草で、カチン、とバロックに貫通弾を込めると、ぐ、と残った一匹に照準を合わせる。「紅蓮衝撃」
 静かに呟いた雫の体全体が炎のような赤いオーラに包まれる。「鈍痛なのも考え物だな」
 引き金を、引いた。



 セシリアは天井を懐中電灯で照らすと、さ、と背後を振り返り、辺りを警戒する。
 隣ではロジーが、時々ヘルメットのずれを気にしながら、暗視スコープの明かりを廊下へと向けている。
「すいませんもう、何ていうか、扉とか見つけても、絶対入らないで下さいね」
 立花が言うと、のんびりと長い足を動かすハバキが肩を竦める。「んー、でもびっくりしたよね! 押しても引いても、全然開かないんだもの、あははは」
「や笑い事じゃないかと」
 本当に一時期はどうなることかと思いましたよ、とか、立花は、額の汗を拭う。「焦りました」
「ま、覚醒してたら簡単に壊せるものだし」ごめんね、みたいに、犬みたいなふわふわの髪を揺らしながら、ハバキが立花の顔を覗き込んでくる。「零次って意外と心配性なんだね」
「いえ、まあ、はい」
 とか何か微妙にそわそわ頷いて逃げるように視線を動かしたら、厳しい表情で空を見つめるセシリアの横顔が、見えた。
「キメラですか」
 懐に収めた拳銃クルメタルP−38に手を伸ばす。緊張が、心臓の鼓動を早める。グリップの中の弾倉を確認し、構えた。「援護しますよ、何処ですか」
「ま、ま、気負わない気負わない」
「そうですわ」
 ハバキとロジーが朗らかに、言う。「肩の力を抜いて。期待していますわよ、零次」
 立花は深く息を吸い込み、覚醒状態に入る。突風に噴上げられたかのように、さらさらとした黒髪が逆立ったかと思うと、次の瞬間には腰の辺りまで伸びていた。
「きた」
 その時、矢が放たれたかのような、短くも鋭い声がセシリアの唇から、零れた。突然、彼女の瞳の色が変化した。ふわ、と、目の周りに赤く血管の様な模様が浮かび上がる。見れば、掌の辺りにも、同じ模様が浮かんでいた。覚醒状態に入ったのだ、と分かる。
 立花はハッとして、視線を彷徨わせた。右、左、下、上と見て、「上に何かいる!」
 途端に、覚醒状態に入ったのは、ロジーだ。
「どりゃーーッ! ですのっっ!」
 蒼い闘気に包まれた体は、まるで羽根が生えたかのよに軽やかに飛び跳ねる。いや、実際に、そのオーラが羽根のようにも、見えた。懐から抜いた二刀小太刀「花鳥風月」を頭上のキメラへとぶつけると、べり、と剥がし、着地する。続けて目にも止まらぬ速さで、小太刀の鞘尻に仕込まれた小太刀を抜くと、べちょ、と地面を這うキメラに向かい突進していく。
「練成超強化!」
 黒色の銃身を持った、拳銃型の超機械を構えたセシリアの周囲に発生した虹色の光が、ロジーの花鳥風月に向け、飛んで行った。
「はいはーい。ハバキも行っちゃうよー」
 直刀「蛍火」を抜き出したハバキが、プロテクトシールドを構えながら、軽いステップを踏むように、キメラへの距離を縮めて行く。キメラの口から放たれた、稲妻のような光を、シールドで防ぎ、ロジーを庇うように、前に出た。
「でかいと、やっぱり、気持ち悪いよね、ロジー」
 顔を見合わせ、二人は頷き合うと、「じゃあ、四本の触覚から、いっちゃうよ!」ハバキが飛び上がり、蛍火で頭部に斬りかかる。瞬間、しゅ、触覚が引っ込んだ。からぶりか、と思ったのもつかの間、しゃがんだハバキの背後から、とか言ってあたしがやっちゃいましてよ! みたいに飛び上がったロジーの体が姿を現す。
 剣劇! 叫んだロジーが、両手に持った武器でキメラに斬りかかった。「此処は徹底的に潰させて頂きますわ!」
 鮮やかにくるん、くるん、と体を回転させ、頭の方から尻尾へと、連続した攻撃でキメラの体を割いて行く。反撃する暇も、防ぐ暇もない。木端微塵、とはこのことを言うのではないか、というくらい、粉々になっていくキメラの体だけが、見える。
 一方、セシリアの視界には今、様々な電子的なデータが浮かびあがっていた。まるで、それそのものが生き物であるかのように、刻々と、配列を変え、移動し、変化する。「こちらにも、ですか」
 振り返ったセシリアは、ブラックホールを構え、引き金を引く。黒色のエネルギー弾が、背後に迫っていたキメラへ命中する。黒い球はぶおおおお、と膨張し、キメラを飲み込んでいく。
「また、上から来ていますよ」
 立花は、援護射撃を発動し、クルメタルP−38の引き金を引いた。命中した衝撃で落ちて来たキメラに飛びかかると、まるで日舞を舞うかのような鮮やかな動きで、ゲイルナイフを取り出した。床もろとも、深く頭部を突き刺す。もぞもぞと薄気味悪く後部を這わせるキメラから距離を取った。「動きは、封じましたよ。さあ、どうぞ」
「了解」セシリアのブラックホールから、黒いエネルギー弾が、飛び出して行く。



「そんなわけでね」
 スツールに腰掛けたハバキが、くるん、くるん、と椅子を回しながら、言った。「俺達は、意外と苦労して、この人らを連れ帰って来たわけなんだけど。俺はおんぶ、一人分頑張ったし」
 薄汚れた倉庫のような場所だった。スツールを人数分置いただけの、殺風景な会議室が、出来上がっている。
「ささ、まずはこちらをお召し上がりになりながら、どうぞ」
 風海が、お皿に盛った何か、得体の知れない物体を、皆に振舞っている。そう言えば、先程から何やら部屋の隅でこそこそ、とやっているな、とか何か、佐藤は思っていたのだけれど、他の人達の話を聞いている最中でもあったし、美味しそうな匂いも漂っていたから、わざわざ口を出す事でもないか、とか、一人で勝手に片づけていた。
「まま、佐藤さんも、お一つどうぞ」
「気がきくね。何なの、これ」と、じろじろ見たけれど別に不審な感じもしなかったので、すぐ、口に運ぶ。「何これ、イカ? イカの揚げたやつ?」
「プヒヒ」
 とか笑い声が聞こえた気がして、え、とか彼女を見やる。ガスマスクは常に無表情だったけれど、あれ、確かに今、笑いましたよね、とかもう、気が気ではない。「ごめん、今笑っ」
「そしてまた、今回も、民間人の意識は朦朧とし、まともに喋れない状態だった。メモは、見つからなかったが」
 飯田を睨みつけた雫が、ずい、と前に出た。「とにかく、貴様に会う日を楽しみにしていたんだ、私は」
「そうですか、会えて光栄ですよ」
「貴様は人を使うのに、随分馴れているようだ。依頼を出すのも、民間人を救うのも、他人の手だ。そんな人間が持ってくる情報が胡散臭ければ、疑いたくもなる」
「質問攻めが始まるぞー」
 ハバキが茶化しているのか、同情しているのか、良く分からない声で、言う。「大変そうだね。ま、いつかは、こうなるってわかってただろうけど」
「崖とか行きますか? それとも、誰かの墓とか」
 皮肉めいた笑みを浮かべ、飯田が、振り返る。「犯人の告白の定番」
 ぐい、とその首元を引き寄せ雫は、囁くように、言う。
「茶化すな。私は真剣だ。私達が納得できる話をしろ。でなければ、貴様の依頼はもう一切受けない。善意でやっているのなら、態度で示せ」
「やっぱり、俺、疑われてるみたいだね、佐藤君」
「その通りだよ、飯田君」
 とか答えた佐藤の傍につつつ、と寄ってきた華奢な女性が居た。かざねだ。彼女は佐藤の手にある器の中身をじーっと見つめ、「それ、美味しかったです?」とか、聞いてきた。
「まあ、うん、美味しかったよ。イカみたいで」
「イカ」そんなわけないじゃないか、みたいな目でじーっと見つめて、むーっと考え込む。「なのかな」
「たぶん、イカなんじゃないかな。っていうか、イカだと思うよ」

「難民や人質に爆弾なりスパイなり仕込むのがバグアですからね。そりゃ警戒もするのが普通でしょ。飯田さんが私の立場なら、どう思います?」
 風海の声に、アルフの加勢が飛んだ。「答えられない、なんてことはないですよねぇ?」
「だからそれは、佐藤君に近づきたかっただけで」
「煩い」
 ぴしゃり、と雫の声が飯田の言葉を遮った。「佐藤は私と付き合っている。諦めろ」
 小さく肩を竦めた飯田が「いいよ、それでも。俺、欲しい物はどうやったって手に入れるタイプだもの」とか、言った。
「飯田さん。これはもう、ただの救助依頼ではないんですよ。少なくとも、私達の中では。バグア派が絡んでいるなら尚の事、報告すれば遅かれ早かれ、ULTから調査依頼も出るでしょう」
 もっともだ、と風海の意見に、佐藤は同意する。
「それでは貴方は、何故、佐藤さんに接触しようと思ったのですか」
 そこでセシリアが言い方を変え、飯田に詰め寄った。
「それはあれでしょ、飯田君は佐藤君の事が好きになっちゃったんでしょ? それなら、いろいろ仕方よね。頑張ろうね!」
 とか言ったハバキの方を見て、飯田が凄い真面目な顔で「そうそう」とか、頷く。「好きになっちゃったからだよ」
「いい加減に」
 と雫がまた掴みかかろうと、というか、掴みかかったその時、ポツン、と呟くように飯田が言った。「佐藤君は。似てるから」
「なに?」
「似てるんだよ。佐藤君は、俺を生んだ人に。もう、死んじゃったけど」
「生んだ‥母親か?」
「え、そうなの」
 拍子抜けしたように風海が言い、「あ、マザコンですか」とかアルフがのんびりと、言う。

「ところで君さ。女装とか、してるでしょ」
 そこでまた、つつつ、と近づいて来た、愛嬌と洗練された優美さを兼ね備えたようなゴールデンレトリバー、もといハバキが、突然、佐藤を指さし、そんな事を、言う。え、と佐藤は目を見張った。どうしてばれたのだ、と喉元まで出かかる。辛うじて、飲み込んだ。
「爪に、マニュキュアの塗り残し」
 うふふ、と女性のように笑われ、ハッとして、爪を隠した。
「面白い子だね、君。あ、それ、食べたの」
 とか、展開早く器を指し示されたので、うっかりえ、はい食べました、と頷く。隣でかざねも、うん、と頷いた。
「なめくじって、食べたらお腹壊すらしいね」
 しみじみと、でも凄いマイルドに、衝撃の事実が、明かされる。
「え?」
「え?」
 二人で顔を見合わせた。「え、ナメクジなんですか?」
「ナメクジなんですか?」
「え、いや、風海が言ってたよ。ねえ、風海? これって、ナメクジなんだよね」
「あ、はい」と振り返ったガスマスクが凄い、普通に頷く。「尻尾あたりを一口サイズに切り、酢につけ滑りを溶かし、沸騰したお湯で下茹で。そして油で揚げてみました。美味しいでしょう」
「ええええ」
「なるほど」
 それまでずっと黙って事の成り行きを見守っていた立花が、無言で箸を取り出すと、手を合わせてそれを黙々と食べ始めた。「これは、意外とうまいですね」
「お腹壊すって言ってるのに」
「ぎゃあああああああ」
「あらあら、落ち着いて、落ち着いて、かざねさん」とか、すっかり何故か嬉しそうなアルフが、錯乱状態になったかざねの体を支えに向かった。「ほらほら、頭、かきむしらない」

「貴方は事件に関係あるのでしょうか」
 セシリアがまた一歩、確信に近づいた質問を、する。
「貴方と事件とは、どういう関係にあるのですか。今までの経緯ですと、どうしても飯田さんが怪しいと思ってしまいますけれど」
「そうそうそれに、救出された民間人の一人が、親バグア派だと名乗ったそうじゃありませんの。民間人が親バグア派であるならば、誰に連れてこられたと思いまして?」
「彼らは自分でその場所に行った。あのメモにおびき寄せられて、出て行ったんだ。持ったままの人もいれば、捨ててしまった人も居るだろうから、残っていたのは、今のところ、あの二枚だけだったようだね」
「自分で?」
「どういうことですの」
「脅され、あるいは、誘惑され、バグアの元へ向かう事を選んだ人達だよ、彼らは。でも、決して進んで、望んで向かったわけじゃない。だから俺は彼らを救いたかった」
 ロジーとセシリアは顔を見合わせる。
「貴方はどうして、そんな情報を?」
 気付けば風海が、地面にしゃがみ込んだ格好で、飯田を見上げている。「貴方が親バグア派と繋がってない限り、そんな情報は入らない気はしますけど」
「繋がっていると言えば、繋がってるのかな。彼らを差し向けているのは、俺の親父と兄貴だったから。つまり、身内。元、身内」
「親父、と兄貴?」
「彼らこそ、親バグア派の人間。バグアと手を組み、人類を陥れる道を、自らの利益の為だけに生きる道を選んだ人達。俺はそこを出た人間だけど、内部のことは少なからず知っていたから、情報も、他の人よりは、盗みやすかった、というわけ」
「と、いうことはだ。つまり、生贄というのは」
 雫の問いに飯田が頷く。
「彼らは、命令さえされれば、自分達の組織の内部の人間だってバグアに提供する。バグアと手を組み続ける為の、組織が存在し続ける為の、生贄だ」
 特に何の感慨もないような、無表情で、飯田が、言う。それから少し顔を伏せ、床の一点を見つめながら、続けた。
「兄に抵抗できるだけの力を、俺も手に入れたい。彼らの組織は、それなりに、巨大だ。今の俺だけでは何も、出来ない。仲間が欲しかった。でも、所詮は俺も、親父の血を引いてる身だしね。最初からのこのこUPCに頼ったところで、胡散臭い目で見られるのが、おちだ、と思った。それこそ、そこのガスマスクの君が言ったように、何でもやるのがバグアだし、人類側は疑心暗鬼だ。そんな時、佐藤君に出会って。この人だ、と思った。君達という優秀な能力者の人達も集めてくれた」
 そしてまた、顔を上げる。「あとは、君達で考えてくれればいい。協力してくれるなら、嬉しいけど、選ぶのは、君達だから。まだ、何かあるなら、いつでも、聞いてくれたらいい」
 はい、これで、終了です、とばかりに両手を広げる。それから、「で、あの人、発狂したままだけど、大丈夫なのかな」
 と、かざねを指さした。