タイトル:雪の中の列車の救出マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/30 14:49

●オープニング本文




 電車の揺れに合わせて、うとうとしてたら、がしっと腕を掴まれ揺さぶられたので、ハッとした。
 水面から顔でも出しましたか、みたいに、短く息を吸い込み何かちょっと、おろおろとする。
 隣を見た。飯田が座っていた。佐藤の腕を掴んでいる。相変わらずその姿は、生真面目なサラリーマンにも、物凄い鬱屈した美青年のようにも、見えた。
「飯田君てさ」
「うん」
「占い師ではなくて、スリ師だったっけ」
 腕を掴まれているのとは反対の手にある、財布を、指さす。
「無防備な顔して、寝てるからだよ」
 ポンと投げて返された。
「っていうか、自分で言っといてあれだけど、君、占い師でも、ないよね」
 何となく中身を確認して顔を上げたら、すーっと飯田が物凄い顔を近づけて来たので、同じだけすーっと上半身を後ろに逸らせた。
「俺は霊能力者なんだって、いつも、言ってるじゃない」
「それを僕は信じてないんだって、いつも、言ってるよね」
「今日だって、女装していそいそと出かける君を見つけて、こうして、追ってきたわけだし」
「とりあえず近いから、離れてくれるかな」
「怯えてるの、佐藤君」
 すっと飯田の指が伸びてくる。それを避けて、飯田の足元に置かれた黒い機能的な鞄を持ち上げた。中から、今回の依頼内容と思しきクリアファイルを取り出す。
「今度は、朽ち果てた列車の中の、救出なんだね」
「何でか、四両だけ、ぽつん、と陸地に置かれて朽ち果ててるんだけど」
「何でそんな陸地の真ん中に電車が止まるかな」
「小さな駅の近くなんだよね。もう、使われてないけど。そこ行く前に、何かあって力尽きたんだろうね」
「残念な感じだね」
「キメラも出るもんだから、そこらへん一帯は、民間人立ち入り禁止区域なんだけど。二人、入り込んだよね。電車の中に居るみたいだよ」
 とか言った飯田の顔を、ちょっと見つめる。
「思ったんだけどさ」
「うん」
「飯田君が見つけてくる人っていつも、何でそんなところに人が入るんだよ、そいつら何してんだよ、みたいな人ら、ばっかりだよね」
「それはさ」
 飯田が見つめ返してくる。佐藤の無知を憐れんでいるようにも、佐藤から立ち昇る不信感に悲しんでいるようでも、あった。
「俺が、もう侵入してしまってる人を見つけているから、だよ」
「彼らの心の中は見えたり、しないんだ?」
「見えないね。どうしてそこに行ったかなんて、興味もないから。俺はさ、そこに人が居ることだけ、分かるんだよ」
「それはまた、中途半端な霊能力だこと」
「中途半端じゃないよ、正確だよ。だって、どうして、なんてことより、正確な場所と人数の方が、大事でしょ、佐藤君にとってはさ」
 そんなULTにとってばかり都合の良い霊能力なんてあるか、とか思ったけれど、面倒臭いことに関わるべきではない、という思いもあった。
「じゃあ、どうでもいいけどこの人ら、よっぽど電車、好きな人なのかな」
 書面に視線を落とす。
「さー」
 全然興味ないです、みたいに飯田が首を傾ける。
 佐藤も結局のところは、他人のことをどうでもいいと思っているので、ふうんとか何か、いい加減な相槌を打った。
「今回の救出は簡単そうだね」
「ただ、寒い。辺り一面、氷と雪の世界だ。服装や持ち物には気をつけた方がいいかもね」
 佐藤は添付された地図を眺める。「なるほど。ここだと貸与したヘリで向かって貰うとして、降りられるのは、この辺りか。電車まで、距離があるな。徒歩で行って貰うしかないか」
「民間人を救出した後は、ヘリを待つ間とかに、雪合戦とか、出来るよ」
「雪合戦出来るからしてもいいよ、なんて、命をかけて戦ってる能力者の人に、職員は、言えない」
「真面目か」
「いや、真面目だよ、それは、真面目だよ」
「女装してる佐藤君も可愛いけど、真面目に働いてる佐藤君っていうのも、見てみたいな。今度、見に行こうかな」
「いろいろ面倒臭いから、来ないんじゃないかったの」
「面倒臭い以上に、見たくなったら、行くね」
「来なくても、いいよ」




●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
毒島 風海(gc4644
13歳・♀・ER
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN

●リプレイ本文



「おぉ、一面の銀、世界‥‥っ」
 暖かそうなマフラーで首元を覆った空閑 ハバキ(ga5172)が、素っ頓狂な声を上げた。「そんで本当に、列車、あるし」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)はセシリア・D・篠畑(ga0475)から借りた、時計の文字盤を見下ろし、ヘリから眼前にある列車までの移動時間を計算する。「そりゃ、あるだろ。あるつってるのにないとか、どんな詐欺だよ」
 サンキュ、と短く言って、セシリアに時計を返した。彼女が、無表情に時計を受け取る。
「アスったらまた難しい顔して、いかついから、やめた方がいいよ」
「何でもいいけどそんな楽しい顔して凄い寒そうだけど、大丈夫」
 ポケットに両手を突っ込み、骨ばった肩をいからせ、人をからかう親友、ハバキを、見やる。「西海岸っ子には、キツイんじゃねえの」
「そうなんだよ、さみぃよー」とか呻いたハバキは、自分の前に立つ、ロジー・ビィ(ga1031)に、引っ付いた。「でも雪合戦はしちゃうよー」
「この寒い中」
 犬ころみたいな男子が抱きついてるとか、それはそれでどうでも良いのでとりあえずこの寒さが驚きなんです、みたいな顔でロジーが呟く。「廃列車に民間人が二人。しかもキメラ付だなんて。急いで救助しなければいけませんわね」
 隣でセシリアが、あこれ何ですか、砂糖ですか、みたいな全然驚きのない表情で雪を見下ろしている。一人だけ平温の世界に居るかのようだった。
「雪合戦って」
 AU−KVを身に纏い、一連の大人たちの様子をぶす、と眺めていた愛梨(gb5765)が呆れたように、口を開いた。「遊びに行くんじゃないのよ。わかってんの、全く」
 だいたい、あのふざけた格好は何なの、と、開いたフェイスマスクの間から、愛梨の視線が動く。指も差した。あ、そこ触れたら、と大人たち一同は動揺する。アンドレアスもそちらの方を向き、いや俺もそれは気になってたんだ、でもそれって、言って良かったの? みたいな視線を返した。
「何ですか」
 とか言ったのは、凄い普通にむしろこれが私のスタンダードです、みたいに従容としている毒島 風海(gc4644)で、喋るガスマスクの上に間の抜けたクマの顔があるのに「ええ、これは擬態です。雪原に冬眠からうっかり覚めたクマがいても何の不思議は無いでしょう?」とかそんな真面目な解説に、「あ、うん、え?」とか、アンドレアスはもう、全然ついていけない。
 隣には、やはりこちらも兎の着ぐるみを着た緋本 かざね(gc4670)が立っていて、「純白の雪景色にはウサギさんがよく似合う〜のです」とか、一人でもう完全に楽しそうだった。「もこもこキメラにはもこもこ着ぐるみで対抗するのです!」
「フン。今度はまた、辺鄙な所に呼び出してくれたものだ」
 着ぐるみーずの先頭に立ち、仁王立ちする、可愛い竜が言った。いや、良く見ると、御巫 雫(ga8942)だった。何故かタライを担いでいる。どうしよう、物凄いおかしいことになってるのに、何であんなに偉そうなんだ、っていうか何だあの威圧は、とかアンドレアスは、もう突っ込みどころが搾れない。
 皆の視線が集まる中、雫が早速歩き出した。ざぐ、もそ、も、バタ。すぐに雪に足を取られた。やっぱりな、とか思ってる皆の目の前で、無言でしかも何事もなかったかのように立ちあがり、「これは何だ、違うぞ」と、すぐ、こちらを見た。
「まだ、何も言ってないのに」とハバキが呟く。
「今のは、雪の深さを確かめたのだ。ウム、よし、どうやら問題ないようだ。行くぞ」
「やっぱり、それは、脱いだ方がよろしいんじゃ」
 ロジーが思わず、心配げに突っ込む。
「防寒具が他になかったのだ。少し動き難いが、作戦行動に支障は無い」
「ちなみにそのタライはどういうことですの」ついでにそこも今突っ込むべきだ、と言わんばかりに、ロジーが控えめながら、確実に指摘した。
「タライ? ああ、見てみろ、この指だ」
 着ぐるみの手をもそ、と差し出しもこもこと動かしているあれは、どうやら指先を動かしているらしい。「銃のトリガーは引けなくてな。銃の次に扱いなれている武器だし、実戦でキメラを屠ったこともある。大丈夫だ、何も問題ない」
「そうですそうです、大丈夫だ、問題ない。です!」
 いえい、と言わんばかりに片手を掲げ、かざねが言った。



 列車の上を軽快に歩くハバキの足音が、天井から落ちてくる。頭上で音がするというのも、変な感覚だった。
「外ねえ、キメラの気配も、人の足跡も見つからないね」
 無線機から声が聞こえてくる。報告と共に鼻歌まで聞こえて来て、駅はあっちかな、とか何か、全然緊迫感のない声が言った。中央から二手に別れ、右手を進んだ一同は、最後の連結部分を調べていた。背後でロジーが荷物置き場の付近に不審な物はないかを見ていて、アンドレアスはトイレのドアに手をかけていた。向かいでは、同じようにもう一つの個室のドアに手かけたセシリアが居て、タイミングを計るように目配せをする。彼女が、微かに頷いた。二人して、ドアを一気に開く。ただの朽ち果てたトイレがあるだけだった。民間人もキメラも、居ない。拍子抜けして、顔を戻した。その途端、目の前に、ふわふわと、丸い物体が浮かんでいた。
 え、と思った時には、バチと目の前で何かが弾けていた。危ないですわ、と、咄嗟にロジーの手が伸びていなかったら、攻撃を受けてしまっていたかもしれない。
「逃げた」
 鋭く、セシリアが呟く。
「クソッ! やり逃げかよ」
「逃がしませんわよ」
 ロジーが走り出し、覚醒状態に入る。まるで蒼い羽根がその背で広がったかのように、闘気が彼女の周りを覆った。
「援護します」
 目の周りに赤く、血管のような模様を浮かび上がらせたセシリアが、呟く。振りかざされたロジーの二刀小太刀「花鳥風月」を見据え、「練成超強化」を発動した。虹色の光が、ロジーの太刀に向け飛んで行く。
「なになに、楽しそうじゃない」
 硝子の無くなったドアから顔を出したハバキが、くるんと一回転し車内に入り込んできたかと思うと、「おっと、急展開」とか何か軽口を叩きながら、ロジーの後を追い駆けて行く。流れるような動作で蛍火を抜き、振り上げた。「ロジーと並ぶの、久しぶりだねっ」
 逃げていたキメラは、次の車両で仲間と思しき二体のキメラと合流している。
「それにしても、どいつもこいつも本当に丸いな」
 肩を竦めたアンドレアスは「練成超強化」を発動する。ハバキの蛍火が虹色に輝いた。「一気に、ケリつけちゃえよ」
「さ、行っちゃうよ、ロジー」ガツン、と座席の上に乗っかったハバキが、それを土台にしてキメラの集団へ向け飛びかかった。刃を押しこむように白い物体を切り裂く。
 通路を駆け抜けたロジーは、相手の攻撃を一方の刀で受け流し、素早く相手の側面に回り込むと、太刀を回転させ渾身の一撃を打ち込んだ。



「なんとも形容しがたいキメラだな」
「あなた達も十分、形容しがたいんだってば」
 ズイーンと通路を装輪で走行していく愛梨が、すかさず指摘を飛ばしてきた。そのすぐ後で、構えた薙刀「清姫」を、六匹ほど群がって浮いているキメラに向かい打ち込む。「竜の咆哮!」
 AU−KV全体にスパークが生じたかと思うと、キメラ達が吹き飛び、壁に激突する。
「だが、可愛さでは我々が圧倒的有利! ゆくぞ、我らきぐるみカルテットの力、見せてくれる!」
「ちょっと、あたしのAU−KVは含めないでよ!」
 そもそも、あっちの方がずっと可愛いじゃない、とか叫びそうになり、慌てて飲み込む。可愛いなんて認めてしまったら、可愛いのに攻撃しなきゃいけないなんて思ったら、あたし、ううん、泣かないわ。何故ならあたしは、大人だから。とかうっかり、考え込んでいる間に、気付いたらキメラが目の前に居て、ハッとする。
「愛梨様〜、危ないですよ」
 でも大丈夫、兎さんはすばしっこいですからね、とか何か意外とサディスティックな声で言ったかざねが、ハリセンのような形状を持つ武器を構え走り込んでくる。「見た目にだまされちゃいけませんよー! こう見えても強いんですから、二連撃!」
 パン、パン! と小気味良い音が、車内に響く。ついでにドゴ、とか聞こえてえ、と思ったら、ちゃっかり釘バットで横から奇襲をかけようとしていたキメラを殴っている。意外と容赦がない。
「必殺!」
 雫の声が響き渡った。とかいう派手な演出のわりには、金ダライ型の追尾式高性能浮遊機雷が、結構地味に残ったキメラの頭上に浮いた。それから、意外と地味に、落下した。がああん、と激突した瞬間だけ派手だった。続けざま、「くらえ! 3段タライ連弾!」と、強弾撃と即射を付与したタライが更に、があん、があん、とよろめくキメラに襲いかかる。何の演出映像ですか、とか見ている方は微笑ましいけれど、その場にキメラが崩れ落ちいるところを見ると、攻撃として成立しているらしい。
 とか言うのを何となく背後で眺めていた風海は、ふと自分の肩のところを見た。物凄い小さい、子供みたいな丸い奴が、ふわふわ心細げに浮いていた。助けて、くれ、る? みたいな、むしろ色気のある小さい男子みたいな、目線でこちらを見ている。
 何かちょっと見詰め合った。
「でも、ま、キメラはキメラ」
 風海は電波増幅を発動させると、注射器型の超機械シリンジを構え、そこはシビアにブス、とやった。ポト、とキメラが落ちた。




「良く考えたら、不思議な仕事だよね」
 ポン、ポン、と雪の押しつけ、押さえつけながら、ハバキが小首を傾げた。「二人でわざわざこんなところに来る意味が分かんないよね。だいたい、どうやって来たわけ、その人ら」
「何でもいいけどさ」
 首から下を雪だるまにされ尽くしているアンドレアスが口を挟む。「人を雪だるまみたいに埋めながら、真剣な表情で喋るなんて、お前、マジか」
「真面目ですけど、何か」
「北国生まれだって凍死すんだぞ! わかってんのか!」
「お似合いでしてよ」
 そもそもアンドレアスを最初に陥れた張本人であるロジーが、暖かいココアの入ったカップを手に、ころころと朗らかにほほ笑む。傍らに、救出されたばかりの民間人が居た。キメラのふわふわもこもこを、無情にもはぎ取って作った絨毯の上に彼らを座らせ、皆の持っていたエマージェンジーキットの中の防寒シートで体を温めている。
 けれど、寒さの中に長時間いたからか、彼らはまだまともに話せる状態にはなっていない。
「油断しましたわね、アンドレアス」
「これは何かしら、とか言われたら、見に行くだろう、普通!」
 言葉巧みにアンドレアスを呼び付けたロジーは、雪の降り積もった木の下まで彼を呼び出すと、途端に仲間達と結託し、アンドレアスの上に大量の雪を落とした。
「ふん、ばっかじゃないの」と、愛梨が、可愛くない口を聞く。そんなこと言って、実のところロジーの作戦に、一番協力的だったではないか! 今、意外と必死に俺のこと、埋めてるじゃねえか! とか、怒鳴りたかったけれど、大人げなさそうな気がしたので、辞めた。南の土地の出身だからか、何だかんだ言いながらも、雪を掴む目はキラキラしていて嬉しそうだとか、そういう顔を見ると、まあいいか、とお人よしが顔を出してしまう。
「とにかくこれは。恐らく拉致だろうな。本人の意思でここに来ているようには見えん」
 首から双眼鏡を下げた、雫が、真面目な口調で、言う。でも、相変わらずぎざぎざとした歯とかした竜の着ぐるみは可愛い。
「どうして、拉致だと?」
「今、周辺警戒を兼ねて、車内の捜索をしていたら、民間人がいたと思しき場所に、こんなメモが落ちていた」
 雫がメモを掲げる。「ノ命ハ無イゾ」と、その部分意外は、濡れたせいで破け、判読できない。
「命は、無いぞ」ハバキが肩を竦める。「それは穏やかじゃないね」
「立ち入り禁止区域に意識のない2名の救助者と、奇妙なメモ」
 かざねと共に雪合戦に興じる風海が、雪をかき集めながら、言った。「だいたい毎回そんな感じで。前の時は、薬物投与の形跡が見られましたよ。全く、奇妙な仕事です。これじゃあ何かしらの実験や事件の偽装、なんてことも考えてしまいますよ、ってあ、つべて、クソッ!」
「やった〜」
「ふふ、私を本気にさせてしまいましたね、かざねちゃん。覚悟!」
 とか言った風海が何をするのかと思ったら、その場でいそいそと着ぐるみを脱ぎ出し、中に余っていたキメラの毛皮をつめ出した。「変わり身偽装!」
「え」
 これってどうしたらいいの、隙だらけなのに、投げていいの、みたいに固まっていたかざねが、もういいか、みたいに雪を投げつけた。その場に着ぐるみを埋めて立たせていた風海の小柄な体に、ぺしゃ、とぶつかる。
「ああ」自分に当たった雪を見下ろした。「ずるですね」ぽそ、と言った。
「え」
「そういうこと、するんですね、かざねちゃん」
「え、え」
「世の悪役はね、ヒーローが変身してる間に攻撃したりしないんですよ。悪だってそこ、待つんですよ。それなのに貴女は」
「あ、どうしよう、ご、ごめ」
「よし、隙あり!」
 だー、とそこはもう本気で一瞬覚醒してかざねの傍に寄った風海は、きぐるみの首の部分から、中へ雪をダバダバーっと流し込んだ。
「ぎゃあー」
「まだまだですねぇ、かざねちゃん。ふひ、ひ」
 ひぇえっぷしょん、とかくしゃみをしたら、こっそりガスマスクの中が大変なことになった。あわわ、ど、どうしよう、どうしよう、何か、紙、拭きとるやつ、とおろおろ辺りを見回す。
「このやろー、せこいことするからですよー」
 涙目になったかざねは、反撃だとばかりに、雪の中にこっそりつららを仕込んでまるめ、それを投げようとした。
「かざね、雪の中につららを仕込んでは、いけない」
 すかさず、雫の声が飛ぶ。
「あ、見られてましたか」
 えへと可愛い顔して、乗り切ろうとか、してみた。
「えへじゃねえよ!」
「とにかく飯田という男、やはり調べた方が良いだろうな」
 雫が、恬淡と話を戻す。
「だな、隠されたモノは知りたくなるのが人情だし」
 もう雪だるまでいいから、とりあえず参加してしまおう、みたいに、埋められたままのアンドレアスが、口を挟む。
「そうそう、その飯田某って、どう考えても怪しいわよ。ULTが把握してない情報を知ってるとか」
「どうして、こんな場所に来たのですか」
 一方でセシリアは、朦朧と防寒シートにしがみつく民間人に近寄っていた。「貴方がたはどうやって来たのでしょう。経緯を」
 うう、う、と言葉にはなっていない呻き声が聞こえた。やはり、まだ喋るのは無理かと言わんばかりに、身を翻そうとしたら、民間人の唇の隙間から言葉が、漏れた。
「い、け、にえ」
 いけにえ? 生贄?
「帰り道、おんぶ1人分引き受けるよ」
 ハバキが、埋まったアンドレアスの頭を撫でながら、言った。