タイトル:鈴木さんちの救出マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/22 22:18

●オープニング本文




 プラスチック製の座席は堅く、冷たかった。
 佐藤は頬杖をつき、人の姿も、イルカの姿もない、静かな水面と乾いた舞台を眺める。
「ねえ、俺達ってさ」
 隣に座る、飯田が言った。相変わらず、そうです私が有能な画商です、もしくは、有能で尚且つ美貌の画商です、とか、そんな自己紹介をしそうな佇まいをしている。同じように、静かな舞台を眺めていた。
「どんな風に見えるのかな」
「どんな風って」
 頭上に吊るされた、変色したボールみたいな「あれって結局、ボールなんですか、何ですか」みたいな得体の知れない物体を眺める。
「女装した男と、それを買う金持ちの男くらいなんじゃないかな」
「佐藤君」
「なに」
「お金で買うとかありなんだ」
「いや、なしだけど」
「そうなんだ」
「イルカ、出てこないね」
 とか何か、いい加減な事を言ったけれど、イルカショーのご案内と書かれた看板がぼろぼろに朽ち果てているので、イルカはきっともう二度と出て来ない。
「んー」
 とか何か、凄いどうでも良さそうな相槌を打った飯田が、もたれかかってきた。
「重いんだけど」
「本当は、嬉しい?」
「ねえ、依頼の話で来たんでしょ、また人の休みに邪魔しに来てさ」
「邪魔してるつもりはないよ。俺って不器用だから、上手くデートとかに誘えないんだよね。だから、こうして休みの日とかにさ、君を見つけては傍に寄るのね」
「本当顔が不味かったら、それは完全にストーカーの台詞だよ」
「じゃあ、ストーカーが依頼の話するけど、いいかな」
 飯田は鞄から、クリアファイルを取り出し、差し出してくる。
「霊能力者から、ストーカーに変わったんだね」
 ファイルを受け取り、中身を眺めながら、言う。
「霊能力者で、ストーカーなんだよ」
「何でもいいけどさ、他の人には、言わない方がいいよ」
 胡散臭い嘘ばっかり言って、と小声で、呟く。
「嘘だって、どうして君が決めつけるの。俺の話なのに」
「嘘じゃなかったら、付き合い方、考えていいかな。特に、ストーカーの方」
「いいけど。俺は、君のこと、見つけちゃうんだよ、凄い能力で」
「そうだよね」
「これだって俺の霊能力が見つけた、民間人だし」
 まだ言ってる、とか呆れたけど、放っておくことにする。絶対霊能力とは関係なさそうな、好青年に見える飯田は、実のところ霊能力で民間人を見つけたとか、そんな胡散臭い事ばかりを言っている男だった。けれど、霊能力だとか占いだとか、そういった非科学的なことは、佐藤は余り、信用していない。
 ただ、飯田の民間人を発見する能力は確かであるということは事実で、どうやって見つけてくるかは知らないけれど、ULTでも把握し切れていない民間人の動きを、それは、現在行方不明とされている者や、立ち入り禁止区域に侵入した者だったりするのだけれど、そういった彼らの動きを、見つけてきたり、する。何らかの方法で、どうにかして。
 それがどういう方法かは、未だ、分からない。
「鈴木さんちに行って欲しいんだけど」
 突然隣から言われたので、えと顔を上げた。「え、鈴木さんって、誰」
「画家の鈴木あまきさんちに、人が二人入り込んでるんだよ。当然今は、その家は使われてなくて、立ち入り禁止になってる。キメラも、居る」
 佐藤は、書面に書かれた概要を、見る。
「最初から、画家の鈴木あまきって言えばいいのに」
「彼はもう亡くなってる画家だけど、生きてる時から多少頭のイカれた画家で有名でね。知ってた?」
「僕の知ってる鈴木さんには、居なかったと思うな」
「家も、少し、おかしい。二階建の建物だけど、変な細工とか、仕掛けとか、からくりとか、そんなのがあるらしい。一応、間取りを描いたものはあるんだけど、からくりに関しては、良く分かってないんだ。死んだ家の持ち主、鈴木あまきしか、知らない。探索中は、気をつけるように言っておいた方がいいかもね。持ち物を工夫するとか。どんな物が何処で役立つかは、分からないからね」
「そんな漠然とした事を、どんな顔して言えばいいのか、分からないから、君、自分で、言ってくれる?」
「嫌われたらいいんだよ」
 とか平然と言った飯田の顔を、何か、五秒くらい、眺めた。
「ねえ凄い普通の顔してるけど、実は凄いこと言ってるって、自覚してるの」
「君が嫌われてくれたら、俺は、嬉しい」
 まただらーと飯田が寄り掛かってくる。
「ほんで、重いから」
「俺だけのものになったら、もっと、嬉しい」
「君がいつ僕の女装趣味を、ULTにばらすか、いよいよ、心配になってきたよ」





●参加者一覧

御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
アリス・レクシュア(gc3163
16歳・♀・FC
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
毒島 風海(gc4644
13歳・♀・ER
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN

●リプレイ本文




「私なら、まず入り口に仕掛けますね。捻くれモノなので」
 毒島 風海(gc4644)は、敷地内で拾ったと思しき、それはもうそんな都合のよい物何処で拾ったんですか、みたいな長い木の枝を持ち、入口のドアを突いていた。結構やる気満々みたいに、見えた。でも、謎の物体を背負っていた。
 アリス・レクシュア(gc3163)は何となく、その首元に巻かれた風呂敷の事をぼんやり、見ていた。風呂敷の中には、それなりに大きそうな物が包まれていて、というか、何か、黒いのが上の辺りからはみ出して覗いていて、その丸みといい大きさいい、それはもう、中華鍋にしか、見えなかった。
 とか結構実は、秋月 愁矢(gc1971)も微妙にその、場にそぐわなさそうな物体は気になっていたりして、アリスと二人して、いやあれ、誰が指摘するの、みたいな視線を交わし合う。
 そこで愁矢は、丁度隣に立っていた鈴木悠司(gc1251)にも、意見を聞いてみることにした。
「なあ、ちょっと気になってる事があるんだけどさ」
「あ、もしかして、あれですよね」
 茶色い柔かそうな髪を揺らしながら、悠司が頷いた。「名前ですよね」
 いきなり名前とか想像以上の単語が出たので、びっくりした。「あうん、え? 名前?」
「俺の名前ですよね。この家の持ち主だった画家さんの名前も、鈴木さんですって。いやあ、俺も鈴木だから何かシンパシーとか、感じちゃいますね。あ、でも、当然ながら全然関係ないですよ、親戚とかじゃ、ないですよ」
「あうん、そんな気はしてたかな」
 そこで、それまでずっと屋敷の地図とか見ながら黙々と煙草の煙を吐き出していた國盛(gc4513)が、あ今気付いたんですけど、みたいに言った。「それでその中華鍋は、何なんだ、風海」
 あ、みたいな、あそれ凄いさっくり聞いちゃいましたね、みたいな動揺が一同に広がる。
「とにかく。ここに居ても始まらん。私が扉を開こう」
 御巫 雫(ga8942)が前に出て、屋敷の扉に手をかけた。ぐい、と押し込む。しかし、びくともせず、取ってに手をかけ引いてみてもびくともせず、何だこれは、と体当たりとかし出して、覚醒までし出して、あ、これは壊すんじゃあ、とか皆が思い始めた頃、雫の肩がずり、と扉で滑って、扉が横に開いた。開き戸だと思ってたそれは実は普通に引戸で、扉が開いた途端に何か、上からがらがらがらが、と落ちてきて、昔話とかに出てきそうな、いつか恩返ししに来る動物達とかが大抵かかってそうな、挟むタイプの罠みたいなのだった。
 えー、こんなん誰がひっかかるんですかー、とか思って顔を見合わせたエクリプス・アルフ(gc2636)と緋本 かざね(gc4670)の目の前で、國盛がやはり、「仕掛けと言っても、この程度か。子供だましだな」とか呟きながら、見るからに罠ですよ、挟まれますよ、みたいなそれを跨ぎ、中に入って行く。
「期待はずれですね」と呟きながら、風海が続いた。枝で杖のように地面を支える。突いた場所が、実は罠の上だった、とかは、多分、わざとはでないはずだったけれど、ばしいいん、と思いっきり罠の口が閉じて、何か危なそうなんで離しますねくらいの軽さで離したら枝が凄い勢いで持ってかれて、國盛の後頭部をビシイと、直撃する。
 あ、これは一体どうすれば、みたいにとりあえず唖然とした一同の前で、渋い大人が出してはいけないような素っ頓狂な声を上げ頭を抱え蹲った國盛が、「おい、風海」と、今度は凄い渋い声で言った。
「ああ、ごめんね、ボス」とか、どういう表情か分からないガスマスクが、言う。「わざとでは、ないですよ」



「んーカラクリってどんなのでしょうね。どんでん返しとか隠し部屋とか?」
 埃を被った本のような物を触りながら、本棚を覗き込んでいた悠司が呟く。
 愁矢は、部屋の隅に置かれた大きな置時計を眺めていた。記憶している館内の地図によれば、この部屋の下、一階部分とは別に、もう一つ部屋を作れそうなくらいの余白はあったような気がしたのだが、そんな場所に続きそうな通路や階段は、見つかっていなかった。
「今は、何時だ?」
「え、時間ですか」
 愁矢が聞いてくるので、悠司は腕にはめた、デザイナーズウォッチを見た。時間を告げる。
「当然、止まっている、か」
「でもきれいに一時で止まってるのって、何だか」
 喉の辺りを触りながら、小首を傾げる。「不自然なような気もするけど」
「針を動かしたりしたら、仕掛けが作動するなんてことは、ないよな」
 自嘲半分、期待半分の眼で、愁矢がこちらを見てくる。
「えと、どうだろう。何だったら、動かしてみたら」
「俺が?」
「うん。あ、別にワクワクしてたり、楽しみだとか思ってないよ!」
 ってそんなに慌てたら、むしろ、怪しいの丸出しですよ、みたいに、悠司が手をばたばた振っている。愁矢は時計に向き直る。文字盤の蓋を、指先に力を込め、開いた。ふわり、と埃が舞う。
 文字盤をそっと動かした。念の為、いつでも戦闘状態に入れるよう、覚醒する。愁矢の目が、蒼く、輝く。
 指先に、かち、と何かが引っ掛かるような感触がした。その途端、だった。床が突然、パカリ、と開く。あ、と思った時にはもう、地面はない。吸い込まれる! 愁矢は咄嗟に、ククリナイフを取り出し、遠ざかりそうになる床へと引っかけた。
「このからくりの意義が分からん」
「良かった! 危機一髪ですよ」
 見れば、何時の間にか覚醒状態に入ったらしい、犬耳姿の悠司が、尻から生えた尻尾をばたばたと振っていた。
「覚醒すると犬になるのか、悠司は」
「下、見てみ。キメラがいっぱい」
 言われた通り下を見る。ぞ、と背中が泡立った。おぞましい外見をした百足のようなキメラが、うじゃうじゃと床を埋め尽くしていた。



「この家は使われていない、と言っていたな」
 探査の眼とGooDLuckを使用した覚醒状態の雫は、背中に美しい黒耀の石翼を生やしていた。
「もし、だ。民間人が無断でここに住んでいるなら足跡は無数に残るはずだ」
「足跡は、さほど残っていませんでしたね。生活している痕跡も、ないように見えますよ」
 アリスは一階部分の左側の通路を、雫と共に歩いていた。見かけたドアを、とりあえず開いて行く。
「生活している痕跡がないということは、自分達で逃げ込んだか、あるいは連れて来られたか」
 先を歩く雫は考え事に夢中のようだった。「何か違和感がある仕事だ。気に入らぬ」
 とか呟いている背中で、ドアをまた、開く。そこで現れた光景に、一瞬、固まった。大量のキメラが、床を這っている。しゃりしゃり、と大量の脚が重なりあう嫌な音が耳を突いた。
 とかいうのを、私は何も見ませんでした。何も見ていません。とか呟きながら、とりあえず無かったことにすることにした。そっと扉を閉める。
「そちらの部屋はどうだった?」
「はいー、大丈夫です」
 とか何か、凄いエアーにほほ笑みながら、後に続くも「しかしアリス、今何か呟いてなかったか」とか意外に鋭い事を言う。面倒臭いので、「いやもう何もないですよ」とか流そうと思ったら、壁に思い切り押すな、とか書かれたボタンがあって、うわ、押したいとかいう衝動に、うっかりもう駆られた。雫がもう一度先程の部屋を見ようと引き返している隙に、躊躇いなく、押しこんでみる。ポチ。突然がん、と壁の一部が開いた。と思ったらそこから、びよーん、とボクシンググローブが飛び出て来て、雫の頭部を直撃、するかと思ったら、「おや靴紐が解けた」とか呟いてしゃがむので、すぐさま引き返します、みたいなボクシンググローブが黒い石翼に引っ掛かり、戻れなくなって「ん?」と違和感に気付いたのか立ち上がり、後ろを振り返ろうとした雫の力にバネなんかすっかり持ってかれて、ブチとか言って、切れた。上手い具合に引っ掛かったまま、ん、何だ、どうした、とか、まだ全然気づいていない雫の背後でボクシンググローブが暴れまわっている。アリスは、もう、唖然とするしかない。
 とうとうグローブが、壁に掛けてあった絵画の額縁に直撃し、向きがずれた。ごおおん、と大きな音が、辺りに響く。
 隠し階段が、通路の先に現れる。アリスはとりあえず、「雫さん」とか、何でか、頬を染めて呟いた。
「結果オーライだ、民間人、一名発見」


「わぁ、なんだか不思議な壁ですね。アルフ様、これ、どうしたらいいか、わかりますか?」
 青と赤と黄色のプラスチック素材が、壁の一面に埋め込まれている。まるで四角い箱のパズルのようだった。
「不思議だって事くらいしか分からないですよねー」
 隣のかざねを見て、瞳を細める。どちらかと言えば細身である自分よりも、もっと骨の細い、女性特有の華奢さが、肩や首筋から伝わってくる。細いさらさらとした髪が自分の上着に触れている。彼女のつける香水の匂いが、鼻孔を突いた。
「これ、何とかして動かないかな」かざねが早速、パズルを弄くり始める。
「だけど、その途端、天井から、虫キメラが振ってきたりして」
 なんてね、とアルフはほんの冗談のつもりで言ったのだけれど、見れば隣のかざねが、びく、と体を揺らした。手を止める。「そ、それは」
 困ります、と深刻な表情で今にも泣きだしそうだった。その顔を暫くぼーっと見つめて、「だけど、あれですよね。民間人が、このからくりの先に隠れてないとも言えないんで、とりあえずは動かすべきですよね」とか、言う。
「アルフ様って、優しいのか冷たいのか、時々、分からないんです」
「優しい方だと思いますよー」
 パズルをささ、と並べ替える。ふむ、と唸りながらいろいろやっている内に、かちゃん、と壁の裏側で何かの装置が作動するかのような音がした。
 アルフはすぐさま自身障壁を使用し、盾を構え、不測の事態に備えた。
 壁に、空洞が現れた。ぞろぞろ、とそこからキメラが、姿を現れる。やはり来たか、と盾を構え、和槍「鬼火」でキメラを突き刺す。
「あ、かざねさん、そっちにキメラが行きま」
「ぎゃあああ」とか、もう、悲鳴が上がった。疾風を使用したらしい彼女が、辺りを駆け回る。
「この! この! このー! 虫はだいっきらいなのにっ! もう、許さないんですからっ!」
 鬼のような形相で、エアスマシュを放つ。
「あらら、かざねさんはホントに虫が苦手なんですねぇ」
「わ、笑ってないで! 笑ってないで、アルフさまああ!」


 地下へと続く階段を発見し、降りてみたところ、また扉を発見した。
「ああ、これはきっと」と風海が扉のノブを弄くっている。
 背後で國盛は、探査の眼を発動しながら、壁を叩き音に不審がないか確認した。やがて振り返った風海が「ボス、どうぞ」と國盛を促した。
「風海が開けてもいいんだぞ。レディファーストってヤツだ」
 ニヤニヤとほほ笑み、無表情なガスマスクを見る。
「恐らくこれは、ドアノブ自体には仕掛けのないタイプです。意識をこちらに向けておいて、別方向から、というパターンですね」
「何処から来るだろうな」
「恐らくは」と風海は壁を向いた。「私はこちらを見張っています。さあ、ボス!」
 よし分かった、と國盛はドアノブに手をかけた。だいたい今しがた風海はドアノブを弄っていたのだし、彼女の言ったことは正しかったのだろう、とか何か、が、と掴んだ途端、ビリぃッ! と、手に電流が走った。うお、と思わず甲高い声が出る。
「プヒヒ」
「風海! お前、分かってて、計ったな」
「いやあ、わざとじゃ、ないですよ」
「いや明らかに今のはわざとだろ」
 開いた先に、民間人の姿を発見した。無線機を取り出し、「民間人」発見、と言おうとしたら、ぎゃああ、と凄い悲鳴が無線機から聞こえてきた。
「き、キメラが、服、服の中にぃ」とか、それはもう、確実にかざねの声で、「で、でたー! くるな! くるな! くるなー! ひっ! 這い上がってっ、やだやだっ! 助けてぇー!」
「かざねさん、かざねさん、落ち着いて」
 とか、宥めてるのか面白がってるのか、良く分からない口調で言ったアルフの声が、「あ、こちらアルフです。民間人発見ですねー、了解です」と応答する。
「うぅ、こいつらは私が抑えます! 虫は滅ぼさなければいけないんです! 今のうちに民間人を安全な場所へ!」


「ムカデの弱点は頭と熱だ!」
 炎剣「ゼフォン」を振り回しながら、愁矢は叫ぶ。毒を持ってる可能性が高い為、素早く、方々に移動しながら、キメラの攻撃から身をかわしては突き、機械剣「莫邪宝剣」のレーザーで斬り裂く。
 目の前では、体の継ぎ目を、両手に持ったクリスダガーで攻撃していく悠司の姿があった。右手、左手、右手、とリズミカルに動かし、キメラを真っ二つに、斬り裂いて行く。毒々しい体は、痙攣しながら、地面にのたうった。もがれた足が、体が、薄気味悪い血を流す。視覚による錯覚なのだろうが、悪臭が鼻を突く気がして、そのおぞましい最後の姿に愁矢は思わず顔を顰める。
「民間人が救出されたらしいな」
「いつまでもこうしているわけには、行かないね」
「そろそろ、行くか」
「よーしじゃあ、一気に行きますか。真音獣斬!」



 うえぐ、うえ、と涙をぽたぽた落としながら、かざねがキメラを食べていた。隣のアルフが「どうです、風海さんの言うとおり、意外と美味しいでしょう」と頭を撫でている。
「意外と」やっぱり嗚咽を漏らし、涙を流しながら、かざねは頷く。「美味しい。悔しい」
「いや意外と美味しいんですよ、かざねちゃん。この薫製チーズのような、淡白な味わい。ボスと私が、一生懸命採って来たものです。さあ、残さずお食べなさい」
 どさ、と風海が中華鍋で炒めた百足キメラを問答無用に、かざねの皿に盛る。「ひい」と悲鳴が漏れた。
「それにしても、救出した民間人には薬物が投与された痕跡があったな」
 私は、虫は苦手だが、相手がキメラなら問題ないとか何か、意外ともぐもぐ食べている雫が、言った。「違和感がある」
「それに、毎回毎回救助対象は二人なんですよね。不思議ですね」とアリスが便乗する。
 その言葉に誘発され、風海は、民間人のポケットに入っていたある一枚の紙の事を思い出していた。
「ボクと遊ボ ウ」
 文面に、そう、あった。書かれていたのはそれだけだった。ULTに報告すべきかどうか悩み、一先ずは、握りつぶした紙を自分のポケットに、入れた。佐藤から聞く救出の依頼では、いつも、民間人に不審な点があったのだけど、あの文面が、そのことと関係があるのかないのか、まだ、分からない。
 思えば、佐藤に情報を流している飯田という人物は、ULTが把握していない情報を、一体どこから入手してくるのか。何かしら、彼が関与しているのか、それとも、彼からまだ語られていない、何かがあるのか、それすらもはっきりしない。
 あの文面は挑戦状なのか? だとしたら、誰から、誰への?
 ボクと遊ボ ウ
 そう、呟いてみる。