タイトル:聖夜に舞い降りた悪魔マスター:水無瀬 要

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/06 22:06

●オープニング本文


<北アメリカ・ニューメキシコ州バグア競合地域>

 ――コンコン!

「エステルちゃん、検温の時間ですよ」
「‥‥」
「はい、お口を開けて下さいね」
 エステルと呼ばれた少女は、面倒臭そうに体温計を口に咥える。
「アラームが鳴ったらそこに置いといてね」
「‥‥」
「そうそう、一週間後にはクリスマスイブですから、私からもエステルちゃんにプレゼントをあげますね。楽しみに待っててね」
 そう言い残して、看護師は次の患者の所に向かって行った。

 私は12月が嫌い‥‥12月にはクリスマスがあるんだもの。
 でも病室のベッドの上にいる私にはどうでもいい行事だ。
 この時期、私の周囲の人々は皆バカみたいに浮かれている‥‥。
 明日をも知れない命の私にとって、それは見ていて気分の良いものでは無かった。
 私が落ち込めば落ち込む程、明るく接してくるのがかえって鬱陶しい‥‥。
 
 突発性拡張心筋症‥‥これが私の病名。
 今は治療を続けながら心移植の為にドナー提供者を待っている所よ。
 でも、そんなに世の中甘くないわ。適合する脳死患者の心臓なんて、そうそう都合良く有りはしないもの。
 世界には、まだ脳死を『死亡』と認めていない国もあるしね。
 もし万一あったとしても、生涯免疫抑制剤を摂取し続けなくてはならない。
 もう‥‥健康な生活なんて一生望めないんだわ。
 さあ死神達よ、早く私を迎えに来なさいよ! 不整脈と心不全の恐怖でいつ死ぬか分からない苦しみは、もう沢山だわ!
 鉄格子さえ無ければ、今すぐここから飛び降りて自由になれるのに‥‥。
 
 もう誰でもいいわ‥‥私を‥‥私をここから連れ出して!


 ――その日の夜も、世の中はクリスマスイブを数日後に控え、イルミネーションの装飾やツリーの飾り付けにと、お祭り気分に浮かれていた。
 そして、その中を漆黒の翼を持つ異形の者が、密かに暗躍している事に誰も気が付く事は無かった‥‥ただ一人を除いて。

「誰?」
 エステルは病室の窓ガラスに映る影に驚いた。
 そのシルエットは正に天使そのものに見えたからだ。
「‥‥ようやく迎えが来たのね。随分待たされたものだわ」
 今の彼女にとって、死は『開放』であり、『自由』だった‥‥。
「さあ、私をこんな所から連れ出して頂戴」
 シルエットに向かってそう懇願する。
「さあ、早く」
 やがて翼持つ異形の者は、人智を超えた力で鉄格子を捻じ切る。
 それを確認したエステルは、窓ガラスを開けて異形の者を見た。
「あはは、今の私に相応しい天使だわ。漆黒の翼と漆黒の体‥‥そしておぞましい異形の顔」
「さあ、行きましょう。どこにだってついて行くわ」
 こうしてエステル・カートライトは、イブの夜を境にして消息を絶った。

 ――それから一週間後のクリスマスイブの夜――

「ロバート見て! 雪が降ってきたわ」
「そうだね。このタイミングで降ってくるなんて、今日は最高のクリスマスイブだよ」
「ええ、本当に」
「愛してるよ、エイプリル」
「愛してるわ、ロバート」
 愛し合う二人は雪景色の中、熱いキスを交わす――

 ズシュッ!

「――!?」
 二人は何が起こったか分からない‥‥ただ胸元が異常に熱くて痛い‥‥。
 唇を離した二人はそっと胸元を見る‥‥。

 ――白銀の槍が二人の胸元を刺し貫いていた。
「何だよこれ!? ゴフッ‥‥」
「悪い夢だわ‥‥」
 これが二人の最後の言葉となった。

「くすくす♪ 本当に最高のイブだわ」
 サンタに扮した謎の少女は槍を乱暴に引き抜き、待っていた異形の者に命令する。
「さて、次の得物ね。行くわよ私の天使さん」
 異形の者は漆黒の翼を広げ、少女を抱いて虚空へと消えていった。

<ラストホープ・UPC特殊作戦軍本部ロビー>
「UPC北中央軍より緊急の依頼が入りました」
「9日程前の夜、ニューメキシコ州にある病院で、難病患者数人が行方不明になる事件が発生しました」
「失踪事件当初は、警察が調査を行っていましたが、その後の調査でキメラが事件に関与している事が判明しました」
「更にイブの当日から今日まで、カップルが惨殺される事件が十数件発生しており、一連の事件と何らかの関連性があると思われています」
「皆さんには、今回囮捜査を行って頂きます。本当は男女のカップルが望ましいのですが‥‥最悪同性同士の臨時カップルでもOKであると、上からの許可を貰っております」
「連れ去られた難病患者達の安否も心配されますので、直ちに現地へ赴き、調査を行って下さい」
「こちらが、行方不明者リストと顔写真です。よろしくお願いします」

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
姫咲 翼(gb2014
19歳・♂・DG

●リプレイ本文

●囮捜査
<囮・第1班>
「はい。今日は寒いから暖かい飲み物もってきたよっ」
 ファイナ(gb1342)は、パートナーであるアセット・アナスタシア(gb0694)に暖かい飲み物を手渡す。
「ありがとう。水筒持って来てくれたんだ」
「うん」
 二人は本当の恋人同士という事もあってか、出来るだけ普段通りの自然なデートを装っている。
「これが依頼じゃなかったら、もう少し楽しめたのにね‥‥なんて言えないけど」
「アセット、いつもどうりに行こうねっ」
「うん、私達の仲を彼等に見せ付けるのも面白そうね」
「あははは、その意気だよ」
 そう言って二人は、早々にキスを交わした。

 この二人のやり取りを、二人の護衛役が周囲を警戒しつつ見ていた。
「ちょっと羨ましいのは気のせい‥‥と言いたいな」
 姫咲 翼(gb2014)がぼそりと呟く。
「姫咲もお菓子作りの上手い人との噂話もあがっているのだが‥‥違うのか?」
 今まで寡黙に警戒を行っていた神無 戒路(ga6003)が、静かに応える。
「いや、あれは違‥‥」
 姫咲は少し顔を赤らめて何かを言いかけたが、止めた。ここで言いあっても仕方の無い事だからだ。
「コホン‥‥とりあえず警戒を怠らないようにしよう」
「了解だ」
 そこに一陣の北風が吹き込む。
「うぅ、さぶっ」
 男二人に吹く風は異様に寒く感じられた‥‥。

<囮・第2班>
「寒くはないか‥‥? そのフルート、いつも持ってるんだな」
 八神零(ga7992)も、自動販売機で買ったホットコーヒーをアンジェリナ(ga6940)に手渡し、いつも肌身離さず持ち歩いているフルートについて、この機会に聞いてみようと話を切り出した。
「‥‥これとロザリオは母が残したものだ。音楽の好きな母でな‥‥幼い頃に私は彼女からフルートを教わっていたため、母もこれを残したのだろう」
「もっとも、その母は11年前に流行病で他界したけどな」
「‥‥」
 八神も事故で両親を失い、姉と二人きりで生き抜いてきた。どう受け応えるべきか悩んだ末に、彼女の話を黙って親身に聞いてあげる事に徹した。
 二人共はしゃぐような性格でも無かったので、静かで穏やかに時が流れていく。

「お、いい雰囲気になってきたじゃない。これで私もメイクしてあげた甲斐があるってものよね」
 聖・真琴(ga1622)は、アンジェリナのメイクを担当した事もあってか、二人がが恋人らしくなってきたので、乙女心全開でドキドキしつつ見つめていた。
「おお、これは‥‥」
 聖の言葉に、秋月 九蔵(gb1711)も同じく二人の方を確認する。
「いやあ、一時はどうなるかと思ったンだけどねぇ、あの二人。ベンチに背中合わせで座るもンだからさ」
「じゃあ、このまま周囲の警戒続けますかな」
「ういういー」
 聖も安心して周囲の警戒に戻る。
 よく見ると、こちらの護衛班も又、良い意味で即席カップルが誕生しているのだが‥‥当人達はあえて意識しないように勤めるのだった。

<公園上空>
「ふふ、今日も沢山の救いを求める人達が来ているのね」
 少女が公園に点在するカップル達に目線を向けて呟く。
 イブの夜にはミニスカートのサンタ姿であったが、今回はダウンジャケットにデニムスカートという普通のコスチュームである。
「外野もいるようだけど、デートスポットに『覗き』はツキモノだし‥‥まあいいわ」
 些か偏見的思考も見受けられるが、『観客』は多いに越した事はないと思ったようである。
「まずは‥‥あれがいいわ。天使さん、あそこに急降下して頂戴」

 上空の異変にいち早く気が付いたのは、目の良いスナイパーの八神である。
 同じスナイパーであった秋月の方は、読書をしながらの警戒であった為対応が遅れた。
「ファイナ! 上だ!」
 無線で暢気に通信出来る状況では無い!
 少女と『天使さん』と呼ばれるキメラは、高空より急降下しつつ、ファイナ組に槍を投げつける!
「ぐはっ!」
 神無の言葉で瞬時に覚醒したお陰で、背中からの串刺しは避けられた。
 が、しかし自由落下速度と位置エネルギーを味方に付けた少女の槍は、ファイナの右太腿を見事に貫通させた。
「ファイナ!」
 アセットが悲痛な叫びをあげる。
 二人が熱いキスを交わしたベンチは、瞬く間にファイナの出血で赤く染まっていく。
「待ってて、今抜くから」
「痛たたっ! アセット、ちょっと待って」
 アセットは銀の槍を引き抜こうとするが、銛のように『返り』が付いているので容易には抜けない。
「ごめん‥‥」
「大丈夫か!?」
 警護の二人が駆けつけて来る。
「すまない、上空警戒が手薄のようだった‥‥」
 神無はそう言って二人に武器を返した。
 
 機械剣αを返してもらったファイナは、それで銀の槍を斬ってすてる。下手に抜くと傷口が広がり出血量が増える為だ。
「よし‥‥これでOK」
「あまり無理はするなよ」
「はい」

●尋問
 異変に気が付いた第2班も武器を手に駆けつけて来る。
「ごめん、こっちも上空警戒が出来て無かった」
 聖が開口一番謝罪する。
「いや、こちらも陸地と上空の担当分けが曖昧だった。すまない」
「あら、皆さんお知り合いなの?」
「――!」
 突然背後の上空からの声に全員が驚く!
「デート日和の割りに物騒な物を持ち込んでる様だけど‥‥ご同業?」
「‥‥?」
「‥‥‥まあどちらでもいいわ。どうせみんな天に召されるのだから‥‥」
 少女は持っていた2本目の槍を身構える。
「ちょと待った!」
「何かしら?」
 全員が戦闘態勢に入ると身構えていたが、些か拍子抜けする程少女の態度は素直であった。
 神無が代表して、予め本部より渡された資料を出して顔写真を照合していく。
「エステル・カートライトさん?」
「あら、私の名前をよくご存知ね。病院関係の人?」
「まあそんな所だ。あなたを保護するように言われている」
「それは必要ないわ。だって私はもう『昔の私じゃない』のだから」
「それはどう言う意味なの?」
 今度はアセット。
 恋人ファイナを傷付けられ、引き摺り降ろして張り倒したい気持ちを抑え込んでの質問である。
「判らなければ、それでいいわ」
「ちょっと! バカにしてる?」
 エステルの言い様に、アセットは今にもキレそうであった。
「一つ言える事は‥‥今の私は、もう健康体。という事よ」
「では、質問を変えようね。他の患者さん達はどうなったの?」
 とファイナ。
 先程の貫通攻撃は、幸いにも大腿骨を外れていたので、どうにか応急処置で動ける状態であった。
「安心して、皆さん天に召されたわ」
「――まさか!?」
「そうよ、私が天国に送ってあげたのよ」
「ハッハー、クリスマスに恋人が出来なかった腹いせかぁ? そんな陰湿な事ばかりやってるから幸せって奴から逃げられるんだよ、Miss.Jene the Stabber」
 秋月が辛抱堪らず吼える。
「五体満足に育った貴方に、この世の地獄で生き続ける苦しみを理解するには難しいと思うわ‥‥もういいのかしら?」
「最後に一つ確認させてくれ」
 と八神。
「なに?」
「最近騒がせてる事件の犯人はお前か?」
「事件て何かしら?」
「イブの夜を境にカップルが殺される事件の事だ」
「ふ〜ん‥‥悪魔のような犯罪ね。誰の仕業かしら?」
 エステルは『素』でそれが自分の事だと思っていなかった。
 なぜなら、彼女は自身の行為を『苦しみからの救済』と思っているので、殺人に対して悪意が一切無いのだ。
 純粋なる殺意無き殺人者‥‥それこそが彼女の真に恐るべき所である。
「判った‥‥君には色々な意味で治療が必要のようだ」
 神無はファイルを仕舞うと臨戦態勢を取った。
 他の能力者達も同じく覚醒する。
「最近のカップルは本当に物騒ね‥‥警察は何をやってるのかしら?」

●戦闘
「白々しいんだよ!」
 真っ先に戦端を開いたのは、アセットではなく秋月であった。
「保護なんて関係ないな、もうこいつはただの殺人鬼だ!」
 そう自身を弁護しつつクルメタルP−38を少女目掛けて乱射する。
 銃弾はエステルの胸元に当たったように見えた‥‥が、それは残像現象であり、実際には屈み込んで避けていた。
「ちっ」
 続いて左手のフォルトゥナ・マヨールーでエステルを狙い撃つ。
 しかし今度は向かって左側に転がり込まれ、一発も当たらない。
 エステルが態勢を整える前に、聖がグラップラー特有の瞬発力で彼女にスピニング・ヒールキックを見舞った。
 だが、彼女はこれを避けず、片手で受け止めると、そのまま槍を突き出してきた。
「ヒュー、やるねーお嬢ちゃん」
 聖は体をひねってどうにか避けたが、腹部にかすり傷を受けた。
「言ったわよ、昔の私ではないと」
「ああ、とんだじゃじゃ馬嬢ちゃんだ」
 聖が離れた瞬間を見逃さず、神無は魔創の弓でエステルを射る。もちろん足や腕といった部分である。
 結果的に保護が難しくなった現状であっても、最大限目的遂行を目指すのが傭兵なのだ。
「止まって見えるわ」
 エステルは槍で叩き落とす。
「流石に一筋縄ではいかんか‥‥」
 と、その時!
「スマナイ、待たせた‥‥!」
 姫咲である。彼は公園内の一般市民の非難誘導の為に別行動をしていたのだ。
「避難誘導ごくろうさま」
 周囲を囲んで警戒しつつ、労をねぎらう。

 当初の予定では、少女と異形の者(キメラ)を引き離して、キメラのみを倒す予定であった。
 しかしあの異形の者は、ただ腕を組んで傍観しているだけである。
「普通逆じゃないの? これ」
「きゃっ」
「アセット、よそ見は危ないよっ」
 不可思議な戦闘に疑問を抱いたアセットが、ファイナに話しかけた途端、エステルの一撃がアセットを襲ったのだ。
「やったわねっ!」
 アセットは、さっきのファイナの分も込めて、拳銃「ラグエル」を連射した。
 乾いたパンパンという響きだけを残し、エステルはそれらを全て避けきった。
「こんのぉ!」
「アセット落ち着いて!」
 ファイナが冷静さを失ったアセットを制止する。
 ファイナ、アセット、聖、秋月、神無、姫咲の6人掛かりで少女の気を引いてる隙に、八神とアンジェリナの二人がキメラ目がけて二段撃の波状攻撃を行っていた。
 始まり方が当初と大きく狂ってしまったが、これで修正可能であると思われた。
 異形の者は全く微動だにせず、サンドバッグでもあるかのように攻撃を受け続け、生命力も風前の灯に思われた。
「避けなさい」
 その言葉に素早く避ける異形の者。
「――!」

「天使さん、そろそろ帰るわ。約束があった筈よ」
 それを聞いた異形の者は、ぼろぼろになりながらも、なお腕組みしたままエステルに歩み寄る。
「天使さんは私の命令が無ければ一切動かないの」
「では皆さん、いずれまた」
「逃がさん!」
 姫咲は蛍火と夕凪の二刀を持ち、竜の翼と竜の爪で今正に飛び立とうとする異形の怪物の羽を斬り落とそうとした!
「ダメよ。貴方に空を飛ぶ資格が無いように、天使さんにも地を這う資格は無いの」
 そう言って、槍で姫咲の肩口を一突きして弾き飛ばす。
「くっ!」
「どうしても外せない用向きなの。本当に残念だわ」
 少女エステルと異形の者の二人は、空高く舞い上がり、やがて消えて行った‥‥。

●新たなる敵
 戦闘が終了した後、能力者達はそれぞれ怪我の治療に専念した。
 ラスト・ホープでは、今回能力者達が持ち帰った報告書と、八神が持っていた『使い捨てカメラ』で取られたエステルと異形の者の写真を元に、彼らを『バグア』と認定した。
 エステル・カートライトは、能力者と互角以上の身体能力を有した『強化人間』として。
 そして『天使』と言われていた異形の者は『キメラ バフォメット』と判明。
 いずれも人類の敵『バグア』としてUPC軍に手配される身となった。
 もちろん『生死は問わず』という注意書きが記されている事は言うまでもない。

「はい、あーんして」
「あーん」
 傷は順調に癒え、明後日には退院予定のファイナは、病院内でアセットとデートの続きをしていた。
「アセットの方は大丈夫なの?」
「うん、平気」

 ――コンコン!

「お熱いねぇ、お二人さん」
「みんな」
 今回依頼に参加した能力者達全員が見舞いに来てくれた。

「今、本部で聞いて来たんだが‥‥今回の依頼は『失敗では無い』という事だそうだ」
「なんか中途半端な言い方だよね」
 神無の報告に聖が突っ込む。
「八神の撮った写真が決定的だったようで、上もアレを見たら難病人保護だ! とは言えんという事だ」
「エステルちゃんだっけ? 元に戻せるなら戻してあげたいな」
 足を傷付けられても、ファイナは希望を捨てなかった。
「私も賛成。元に戻して現実に返してあげたいわ。あの娘の狂気って、洗脳のような人為的改ざんも考えられるしね」
 アセットもファイナに賛同した。
 戦闘では少し熱くなりすぎたが、普段は心優しい女性なのだ。
「しかし‥‥生死を問わずとはな‥‥強化人間と断定されたから仕方ないが」
 アンジェリナの言葉に、ずっと病室にいたファイナが聞き返す。
「え? なになに?」
「手配書の件でしょう? バグア側として登録されたみたいだね」
 聖が答える。
「まあそれだけ強化人間は人類にとって脅威という事だ。キメラ以上にな」
「今回は連携が上手く噛み合わなかったようだ。個人レベルでは最善を尽くしたが‥‥奴らに個人戦では勝てんという事が判っただけだった‥‥すまん」
「それは言いっこ無しだよ。生きて帰って来れたんだから、リベンジすれば良いだけだよ。今度はちゃんと8人構成のフォーメーションを組んだ連携でね」
「そうだな」
 こうして今回の依頼は失敗こそしなかったが、成功ともいかない不本意な幕切れとなった‥‥。