●リプレイ本文
●嵐の前の‥‥歓談?
<某スーパー前>
能力者達が現地付近に到着すると、スーパーの周囲は野次馬と警察官達で一杯になっていた。
(「ふふ‥‥面白そうな場面を撮れそう‥‥いや、難しい依頼だな」)
黒を基調とした服装で固めたUNKNOWN(
ga4276)は、これから初の実戦で緊張している、御津川 千奈(gz0179)(みとがわ ゆきな)の緊張を解してやろうとこう言った。
「御津川、知っているかね? 依頼の時は心を引き締める為にきちんとした服装をしなくてはいかん。そう、きちんとこういう服(メイド服)を着なさい。それが傭兵流というものだよ。傭兵と一緒に動くなら、な」
「はい! 機会があれば一式揃えてみます」
『メイド服』というよりも『(黒)執事服』といった方がしっくり来る気がしたが、根が素直な千奈は完全に真に受けてしまった。
リヴァル・クロウ(
gb2337)も又、千奈に話しかける。
「緊張するな、とは言わん。だが、君であれば十分に完遂できる」
「はい、ありがとうございます」
千奈はリヴァルにぺこりとお辞儀をして礼を述べた。
そんなやり取りを微笑ましく見ていた祈良(
gb1597)が、UNKNOWNにスティック菓子を手渡す。
それは赤い箱の入っているスティック状の棒菓子で、チョコレートが塗られた結構有名なお菓子である。
「ん?」
「えっと、煙草吸えないから、これで‥‥」
「サンクスだ」
UNKNOWNは祈良から菓子を受け取ると、それを口に咥えた。
何をやっても様になる所は、流石『歩くダンディズム』である。
「ほむ、アンノーンさんがタバコを吸わないとか、タバコを我慢するとか、タバコを止めるとか見てみたいです」
赤霧・連(
ga0668)はキラキラと瞳を輝かせて言う。
「それはまた、困難な任務だな」
UNKNOWNは菓子を食べた後で煙草に火を点け、深く息を吸い込んだ後‥‥ふーっと紫煙をはき出し虚空を見つめた。
愛煙家にとって『禁煙』という名は、キメラ以上に恐ろしいものであったのだ。
●侵入開始!
「お待ちしていました」
到着を待ち侘びていた店長が、能力者達一行を出迎えてくれた。
警察から状況の再確認をしている間に、志烏 都色(
gb2027)が元気のない店長に優しく語りかける。
「きちんと退治してきますから、安心して下さいね」
「よろしくお願いしますっ!」
手書きの店舗見取り図を配り終えた店長は、能力者達に深々とお辞儀をして見送り、一行は3班に分かれて行動を開始した。
<B班>
店長から配電盤の位置を聞いた千奈は、祈良と志烏の二人と共に、三人一組で行動していた。
「うん、ここだね」
店舗見取り図を見ながら場所を確認した千奈は、配電盤を開けて『正面自動ドア』と書かれたスイッチをOFFにする。
無線を取り出し、C班の赤霧と結城加依理(
ga9556)の二人に連絡を入れた。
「こちらB班御津川です、自動ドアの電源を落としました」
「ほむ、千奈ちゃん、ありがとうなのです」
赤霧の返事を確認したB班は、A班と合流して裏口より店内へと侵入を開始。
途中レイヴァー(
gb0805)が離れ、事務所に設置されたモニター前に陣取った。
<C班>
赤霧と結城の二人は、電源の落ちた自動ドアをそーっと手で開けて、どうにか人一人が通れる程の隙間を作り店内へと侵入する。
「自動ドアって‥‥結構重たいんだね‥‥」
結城は赤霧が女性なので、自動ドアの開閉を自らかって出ていた。
「ほむ、加依理さんは力持ちさんなのです」
「いえ‥‥それ程でもないよ‥‥」
ヒソヒソと会話を楽しみつつ? 二人は隠密潜行のスキルを使って、キメラに悟られないように所定の位置についた。
「こちら結城‥‥所定の位置につきました‥‥」
「了解です」
モニター前のレイヴァーが確認の応答をする。
「キメラは今、お菓子売り場を荒らしています。動向に注意して下さい」
「了解‥‥」
こちらからキメラは全く見えていないのだが、派手に暴れているせいか、商品の落ちる音でどこにいるのかはすぐに判明した。
二人は気配を殺して機会を窺う事に専念した――
●戦闘突入!
今回の依頼で、特に嬉嬉としていたのが、依神 隼瀬(
gb2747)である。
宮司の娘という環境で育ったせいか、和食――特に御節料理には目が無く、日頃から質素倹約を善しとする神社にあって、お正月に出される御節料理は、年に一度の『ご馳走』であったのだ。
依神はAU‐KVを装着して店内に侵入していたのだが、床が抜けそうであったら駐輪場行きを覚悟していた。
「なんとかいけそうかな?」
依神の心配は杞憂であり、スーパーの床は、お米などを山積み出来るだけの耐久力を十分に備えていたのだ。
「さて、自称中間管理職の面目躍如といきますか」
レイヴァーの指揮の下、A班とB班は左右に別れ、丁度お菓子売り場の通路を前後で挟みこむ形で陣形を組む。
そうする事で逃げ道を塞ぎ、商品棚をも利用した包囲網が完成するからだ。
「‥‥南瓜、見つけたよ」
祈良は嬉しそうに小声でレイヴァーに報告した。
「了解。では、いきますか」
「よし!」
最初に先陣を切ったのは志烏である。
グラップラー特有の俊敏さで懐に飛び込み、オレンジ・ジャック(かぼちゃキメラ)に不意打ちを決める。
「はっ!」
キメラはゲイルナイフの一撃を食らってバランスを失い、そのまま床に転がり込む。
「ん? こいつらひょっとして弱い!?」
反対側に転がり込んだキメラに、A班のリヴァルがとどめを刺そうと刀を振り上げる。
――が、そこにもう1体のキメラが、リヴァルに対して体当たりを行って来た!
「ぐふ!」
ダメージは大した事は無いのだが、キメラは実に素早い行動を見せる。
すぐに態勢を立て直そうとしたが、その間に三度も攻撃を受けてしまった。
「気をつけろ! こいつらの行動力は、俺達の倍はあるぞ!」
体当たり3連打を受けて負傷したリヴァルは後方に退き、代わって依神が前に進み出る。
依神は薙刀「昇龍」を置いて、代わりに鬼包丁に持ち替えて攻撃を加える。
その間UNKNOWNは、自慢のカメラ「Reica M3」で写真を撮っていた‥‥。
「お、今のは中々良い構図だ」
キメラはすばしっこいが、雑魚である事を早々に見切ったUNKNOWNは、写真撮影で記念を残す方に回ったのである。
千奈は負傷したリヴァルの治療の為、裏側からA班側へと回り込み、超機械に持ち替えて練成治療に入った。
「すまない」
「いえ、お役に立てて良かったです」
●かぼちゃ収穫祭(仮)
現在、実質的に戦闘を行っているのは、B班の志烏と祈良、A班の依神だけである。
能力者達より倍する行動力を持ったキメラは意外と厄介であり、彼らの行動限界値が来てもキメラ達はまだ動ける状態であった。
それに対して能力者達は、3人がカバーし合う『三位一体』による連携攻撃によって擬似的に行動力を増やして対抗した。
「攻撃は当たるのに‥‥」
祈良の蛇剋は確実にヒットしているのだが、すぐに射程外に逃げられてしまう為、双剣による長所を生かし切れないでいた。
「ダメージは確実に通っているから、もうじき動きが鈍りますよっ! っと」
そう言い放ちながら志烏が急所突きをキメラに決める!
志烏の言葉の通り、少しずつではあるが、キメラの動きが鈍くなってきた‥‥。足取りが覚束なくなり、もう余り生命力は残っていないようである。
「待たせてすまない」
治療を終えたリヴァルが、戦線に復帰してきた。
「おかえりー」
「この一撃で仕留める!」
紅蓮衝撃+豪破斬撃+豪力発現の最大火力を以って1体のキメラを上段から袈裟斬りにする!
『グワッ!』
弱っていたキメラは、断末魔を残して死亡した。
それを見たもう1体は、残りの力を振りしぼって逃走を試みる。
素早いグラップラーのいるB班側では無く、大柄で行動制限のあるAU‐KVと、写真家1名のいるA班側をすり抜ける。
とは言え、リヴァルの攻撃と、依神の『龍の爪』による攻撃で負傷を負いながらの決死行であった。
「逃がさない!」
志烏達も素早く追いかける。
しかし散乱した商品を避けながらの追跡であった為、思うように追いつかない‥‥。
それをモニターで見ていたレイヴァーはC班の二人に応戦の指示を出す。
「赤霧さん! 結城さん! キメラがそちらに向かっています。出現場所は先程と反対方向の青果売り場方面からです」
「ほむ、任せて下さいな」
「ようやく出番ですね‥‥」
隠密潜行を維持しつつ、回転拳銃「エレファント」の照準を青果売り場方面に向ける。
赤霧も洋弓「ミストラル」を構えてキメラの出現を待った。
――来る!
弱り切ってはいたが、必死になって走って来るキメラが1体――
先制攻撃+狙撃眼を使った赤霧の矢と、狙撃眼を使用した結城の弾丸が容赦なくキメラの胸元に撃ち込まれ、キメラは頭から倒れ込んでそのまま絶命する。
「――あ!」
「ほむ‥‥お顔が割れちゃいましたネ」
●後片付け大作戦!
「こういう仕事も慣れたもんだ‥‥っと、油断大敵獅子搏兎。俺は獅子ほど優秀でもなければ、相手は兎ほど御しやすくもないからな」
レイヴァーはそう言うと、後片付けの為に下に降りて行く。
戦闘が終わった後、キメラは一旦店外に放逐された。
オレンジ・ジャックは頭部が『かぼちゃ』なのに、体の血の色は『赤い』という理解し難い生物であった為、まずキメラの流した血を清掃してから、全員で後片付けが行われた。
「アフターケアも、しっかりと、だね」
祈良は合金軍手をしてせっせと散らばった棚などを元通り設置していく。
助手を務めているのは、依神である。
一方、少し困った状況もあった。
UNKNOWNが店のレイアウトを勝手に変更してしまったのである。
「ふふ‥‥商品棚は売れ筋や魅せ方等で工夫し、天井にはクリスマスに向けた飾り、菓子の横にシャンメリー、バラ肉の横に野菜を置き、手書きで『あったかお鍋レシピ』大きく‥‥だ 」
「すいません‥‥困るんです。うちはフランチャイズなんで、ちゃんと本部の決めた通りのレイアウトにしないとダメなんです」
「気にするな。私の考えたレイアウト通りにすれば、数日後には大繁盛店になるだろう」
店長は困り顔でUNKNOWNを制止したが、マイペースな彼には馬の耳に念仏である。
――そこに! ぬっと現れた黒い影!
すぱこーん!
「ぐはっ!」
「おい、ただですら仕事は山ほどあるんだ。これ以上増やすな」
リヴァルのハリセンによる会心の一撃に、UNKNOWNはよろめいて膝をついた。
「店長、バカがすまない事をした」
ハリセンを構えたリヴァルの監督の元、UNKNOWNはダンディズムを崩す事なく、でもどこか渋々といった感じでレイアウトを元に戻させられた。
リヴァルの見事な機転で難を逃れた店長であった。
千奈も赤霧と一緒に後片付けを一生懸命手伝っていた。
「ほむ、『来た時よりも綺麗にする』を合言葉に頑張りますよ」
「はーい♪」
そこに、先程見事なツッコミを受けたUNKNOWNがやって来る。
「よし、今から掃除だ! 御津川、出番だぞ? メイドさんのモップも貸してあげよう」
「はわっ!」
背後から急に声を掛けられ千奈は驚きの声をあげる。
「しっかりやりたまえ」
そう言って去っていくUNKNOWN。手にはしっかりカメラが握られている。
「はい、私も立派なメイドさんになります」
どこまでも人の良い千奈であった‥‥。
●真・かぼちゃ収穫祭
ようやく掃除と片付けが終わり、放逐していたキメラの解体作業に入った。
「うーん‥‥食べて大丈夫かなぁ‥‥」
志烏はぽつりと呟く。
胸元から鮮血を出しているかぼちゃキメラの遺体を見て、到底食べられそうに思えなかったからだ。
そんな志烏とは対照的に、祈良はお正月に出されるであろうかぼちゃ料理を激しく妄想していた。
「かぼちゃきんとん、煮物、いとこ煮‥‥」
祈良は『かぼちゃモード』全開でサクサクと作業を進めていく。
包丁はUNKNOWNから借りたメイド戦士用出刃包丁である。
「ん。完璧♪」
「皆さん、飲み物を買ってきたので‥‥良かったら‥‥どうぞ」
結城が皆に飲み物を買って来てくれた。
残った本体の方は地元のUPC軍が回収していった。
「これからも、お店頑張って下さいね」
全てが片付いた別れ際に、志烏は店長を優しく励ました。
「ありがとうございます。後片付けまでお手伝い下さり、感謝の言葉もございません」
「いえいえ、俺達はこれが仕事ですから」
レイヴァーは少し照れながら答える。
「ところで‥‥そのかぼちゃはどうされるのですか?」
店長は、切り離されたキメラの頭部を不思議そうに眺めて聞いてみる。
「御節料理の食材なんです」
「おお! それでしたら、お礼にうちの商品もいくつか差し上げますので、持って帰って下さい」
「え! いいんですか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「‥‥では、遠慮なく頂きます」
こうして、今回食材採集に参加したメンバーは、以下の食材の入手に成功した。
○大型かぼちゃ(キメラ産)2個 (採れたて! 新鮮!)
○西洋かぼちゃ 2ケース (店長のご厚意でかぼちゃが2ケース分追加)
○くこの実 3袋 (お好みで、かぼちゃきんとんにまぶして使う)
○くるみ 3袋 (同上)
○栗の甘露煮(ビン詰め) 3本 (同上)
○小豆 5kg (『小豆入りかぼちゃきんとん』に使う。甘味の少ないかぼちゃ用)
●こ、この味は!
帰還した能力者達は、少しだけ戦利品のかぼちゃを分けてもらい、赤霧・連の『お母さん直伝』かぼちゃの煮物が振舞われた。
「お母さん直伝の南瓜の煮物です♪ どうぞ、召し上がれッ」
「わーい♪」
千奈も大喜びである。
赤霧家直伝の秘訣は――煮物は『ほんのり甘く形が崩れない程度に柔らかい』をテーマとしたものであるらしい。
「では、いただきまーす。はむ‥‥! こ、この味は!」
祈良は、かぼちゃの煮物を一口食べて、あまりの美味しさにどこか別次元に飛んで行ってしまった‥‥。
依神も又、至福の時を満喫し、他の参加者全員も、各々にかぼちゃの煮物を心いくまで堪能したのである。
「ほむ、お節料理も楽しみなのです」
こうして、お節大作戦『かぼちゃきんとん』食材採集は大成功で幕を閉じた。