タイトル:星キメラと少女マスター:水無瀬 要

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/11 18:20

●オープニング本文


 その日の午後は、午前中の晴天と打って変わって激しい雨が降っていた。
「うっわー、傘差してもずぶ濡れだー」
 御津川 千奈(みとがわ ゆきな)は、学校を終えた直後、急に降り出した雨に不満を漏らしつつ帰宅を急いでいた。
 雨足は緩まる所か益々強くなっていく‥‥そして――
 溜まっていた何かを一気にぶつけたかのような、激しい雷が落ちた!
「きゃあ!」
 千奈は学校ではかなり活発な女の子であったが、雷は大の苦手であった。
「もー! だから雨は嫌いなんだよー」
 落雷はかなり近かった。
「近くに落ちたのかな?」
 立ち止まって周囲を見渡して見る‥‥。
 早く帰宅するという目的で走っていたのに、好奇心がそれに勝ってしまい、落ちた所がどうなったのか気になったようだ。
「‥‥‥」
 そこに再び落雷が襲う。
「うわっ!」
 慌てて耳を塞ぐ。光よりも音に恐怖心を煽られるので、反射的に耳を塞いでしまうのだ。
 千奈は雷が光った瞬間、何かのシルエットが浮かんでいるのに気が付いた。
「――!」
 よく見ると星型をした何かがふわふわと飛行している‥‥。
 そして時折急降下しては又ふわふわと上昇し、又落ちるを繰り返していた。

 千奈はすっかり『帰宅』の二文字を忘れ去り、星型の飛行物体を追いかけて行く。
 パシャパシャと水溜りを跳ね上げ、靴下までもずぶ濡れになりながらも、好奇心に導かれるままに追跡する。
「あっ!」
 星型の物体が落下したまま上がって来なくなった。
 距離は大分縮まっていたので、千奈はすぐに落下地点に駆けつけた。
 そして―― 
 そこには見た事も無い不思議な星型をした生物が倒れていたのである。

 千奈は、謎の星型生物をこっそりと家に持ち帰り、救急箱で傷の手当を行う。
 持ち帰った時も、又治療中も特に暴れる様子も無く、大人しい生き物であったので、千奈は両親に内緒で飼う事に決めた。
「よし、これで大丈夫だよ星くん」
 包帯でぐるぐる巻きにされた謎の星型生物は、『星くん』と名づけられた。

 深夜になって、千奈は何か妙な胸騒ぎで目を覚ました。
 何だか表が騒がしい‥‥ガヤガヤとした騒音の様な明確なもので無く、気配といったそんな類のものである。
 窓際に歩いて行き、そっと表を覗き込んでみる――
「――!」
 表には星くんと同じ星型の生物と、それ以外の不思議な生物が数匹浮遊していたのだ。
 しかも明らかにそれらは、星くんとは違った凶暴性に満ちた雰囲気を持っていた。
 千奈は急いで服を着替え、星くんを持って部屋を出て行く‥‥。ここに居ては危険だと何かが告げていたのだ。

 ――翌日早朝

 昨晩、キメラらしきものを目撃したと言う通報が寄せられて来た為、急遽UPC軍より調査官が派遣されて来ていた。
 単なる目撃情報の場合、誤報や悪戯というケースもある為、キメラに襲撃されたといった緊急を要する事件以外は、まず調査官が真偽を確認して依頼書を作成する事でようやく正式な依頼となるのである。
 通報してきたのは、御津川家のお向いさんのお宅であった。
「あれは間違いなくキメラです。うちは以前は八王子に住んでまして、バグア軍に占領されたので仕方無くこちらに疎開して来たんです」
「どんな形だったか憶えてますか?」
「えーっと‥‥暗かったのでシルエットだけでしたが、確か星型をしたのが4つと、よく分からない動物みたいなのが2つでしたね」
「星型4体、獣型2体‥‥っと」
 調査官は内容をメモに書き記す。
「他に何か気が付いた事はありませんか?」
「さあ‥‥その後は怖くなって家に閉じ篭ってしまいましたので‥‥」
「ありがとうございました。ご協力感謝します」
 調査官は丁寧にお礼を言って聞き込み調査を終えた。

「さて、キメラの集まっていたという向かいのお宅にも聞いてみないとね‥‥」
 調査官が御津川家のベルを押そうとしたその時――
「もー! しつこいなー! こっちに来るなー、ばかー!」
 通りの向こう側で、怒鳴る女の子の声がした。
「あっ!」
 声の方向に振り向いた調査官は、これが緊急事態であると咄嗟に判断した。女の子がキメラ数体に追いかけられており、よく見ると手や足を負傷していたからだ。
 そして調査官は更に目を疑う光景を見た!
 包帯を巻いたキメラが、追撃してくるキメラを攻撃して少女を護っていたのである。
「そんなばかな‥‥キメラが人間を護って戦うなんて‥‥」
 半ば呆然としていた調査官は、すぐに気を取り直してラストホープに緊急事態発生の連絡を入れた――

●参加者一覧

鐘依 委員(ga7864
20歳・♀・SN
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
結城加依理(ga9556
22歳・♂・SN
紅蓮・シャウト(ga9983
15歳・♀・GP
皆城 乙姫(gb0047
12歳・♀・ER
篠ノ頭 すず(gb0337
23歳・♀・SN
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD

●リプレイ本文

●少女救出
 能力者達が現場に到着した時には、既に大勢の警察官が来ており、周辺区域の封鎖と住民の避難誘導を行うなど、慌しい状況であった。
 どうやらUPC調査官の緊急要請により、地元警察が動いてくれたようだ。
「何だか分かんねぇが、これで周りを気にしないで戦えるぜ!」
 紅蓮・シャウト(ga9983)が手の平に拳をぶつけて闘志を剥き出しにする。
「そうですね。私としても助かります」
 鐘依 委員(ga7864)も又、穏やかな口調で答えた後、不敵な笑みを零す。
「その前に、少女とキメラを探さないと」
 篠ノ頭 すず(gb0337)は、そんな二人の会話を聞きながら、少女の保護が優先だと諭す。
「警察の人に聞いて見ようよ」
 篠ノ頭の隣にいた皆城 乙姫(gb0047)の提案で、まず警察から情報収集を行う事になった――

 少女達の行方はすぐに判明した。
 報告によると、UPC調査官が少女の保護に成功して、警察のパトカーで脱出を試みたらしい。
 しかし、すぐにキメラの連携攻撃によってパトカーは電柱に激突、失敗に終わった。
 その為、現在は調査官と数人の警察官が少女を護衛しつつ能力者達の到着を待っているという状況である。
 現在少女達の位置は、障害物が多く、周囲に家屋の無い児童公園にいるとの報告であった。
「さすが軍人さんね。理に適ってるわ」
 篠ノ頭は、戦国武将で知られる伊達正宗に憧れており、その影響から兵法などに多少の心得があるので、主戦場に児童公園を選択した調査官の判断を称賛した。
「みんな急ごう!」
 柿原ミズキ(ga9347)の声に全員が頷き、能力者達は児童公園を目指す。

 警察の協力を得た能力者達は、付近警戒中の警察官達の誘導により、迷う事無く児童公園に到着出来た。
 そして調査官と少女達を探す――
「いた! あそこ!」
 結城加依理(ga9556)が指差す方向に、キメラの集団が群がっている。
 どうやら少女を中心に円陣を組んで防戦しているようだ。
「先に行くぜ!」
 瞬天足が使える紅蓮と、AU‐KV『烈火』を飛ばして夏目 リョウ(gb2267)が、キメラの集団目指して先行する。
 結城も狙撃眼による先制攻撃を狙ったが――
 キメラの群れと少女達の距離が近すぎる為に、ショートバレルの銃器による狙撃は断念して後を追う事にした。

 瞬天足で勢いに乗った紅蓮は、一匹のスターマインに奇襲攻撃を加える!
「くたばりやがれ!」
 奇襲は見事に成功し、スターマインに激熱による一撃を食らわせた。
「――!」
 調査官はいきなり現れたモヒカン頭の男に驚いたが、手に持ったSES装備の武器を見て安堵する。
「能力者の方ですね」
「挨拶は後にしようぜ! ガキをしっかり守ってろ、今すぐこいつらを片付けちまうからよ!」
 紅蓮は手で制して調査官の言葉を遮る。
 一方、夏目はすぐに『烈火』を変形させて少女達の護衛に回った。
「行くぞ烈火!」

 夏目が少女の護衛に回った事を確認した紅蓮は、激熱を構えてキメラ達を挑発する。
「かかってこいや、フルボッコにしてやんよ」
 紅蓮が前方のスターマインに飛び掛る!
 しかし見かけによらずスターマインは素早く、二度目の攻撃は空を切る。
 そこに側面と後方から体当たりによる連携攻撃を受け、ダメージにより片膝を付いてしまった。
「いててっ!」
「へへっ、やるじゃねぇか。そうじゃなきゃ面白くもねぇからな」
 本格的にエンジンが掛かって来たその時、後方のキメラにエネルギー弾と銃弾が撃ち込まれて陣形が崩れた。
「間に合った!?」
 プロテクトシールドを持ったファイナ(gb1342)を先頭に、能力者達全員が集結。少女達との間に防御壁を作るように陣形を組んだ。
「‥‥シールドがあるかぎり、ここを通しはしません‥‥」

「大丈夫かい? 俺達が来たからにはもう安心だ」
 夏目はバイザー越しに、傷付いた少女に向かって微笑んだ。
「ありがとう‥‥」
 少女は『星くん』を抱いたまま安堵してそのまま気を失った。
 深夜から早朝まで、負傷しながらも一人で星くんを連れて逃げ回っていたのだ‥‥ようやく安心出来たのだろう。
 抱かれている星くんも、少女を守って善戦したが、傷付いてかなり弱っていた。
「後はお任せします」
 調査官は少女と星くんを連れて、この場を離れる事にした。
「では、我と乙姫が護衛に付こう」
 篠ノ頭と皆城の2名が護衛として同行する事となり、移動が始まった。

●対キメラ戦
 目標が移動を開始した事に感づいたキメラ達は、すぐさま追撃態勢に入る。
「それ以上好き勝手はさせない」
 柿原が蛍火で、先行するスターマインに流し斬りをお見舞いする!
 狙い違わず一閃するも、後方にいたキメラ達がすぐさま連携攻撃を仕掛けて来て、肩口と右太腿に軽傷を負う。
(「くそっ、まだまだ修練が足りないみたいだ。隙を突かれるなんて」)
 柿原は心の中で自らの未熟さを呪ったが、どちらかと言えば相手の連携が一枚上手であったと言うべきである。
「‥‥連携を崩さないと敵の思う壺ですね‥‥」
 そう言いつつファイナは、エネルギーガンで進路を塞ぐようにキメラ達を牽制する。
「せめて1体でも仕留められたら、連携に穴が開くのでは?」
 夏目も又、エネルギーガンでキメラ達の連携を崩そうと激しい攻撃を加える。

 巧みな弾幕攻勢でキメラ達を足止めする中、1体のスターマインが弾幕を擦り抜けて行く――
 スターマインは一旦上昇して位置エネルギーを得て、移動中の皆城の背中に向けて体当たりを行った。
「痛っ!」
 背中をどん! と押されて前向きに倒れそうになる。
「――! よくも乙姫を狙ったな!」
 恋人の乙姫に攻撃を加えたスターマインは、篠ノ頭の逆鱗に触れてしまった!
 篠ノ頭は練力残量さえも気にせずに、スターマインが完全に動かなくなるまで強弾撃を撃ち込んでいく‥‥。
「すず、終わったよ」
 皆城にそう言われ、ようやく篠ノ頭は攻撃を止めた。
「‥‥乙姫、怪我は無い?」
「うん、大丈夫」
「良かった」
 二人はお互いを気遣いながら移動を再開した。

「まずは1匹‥‥」
 周囲を警戒しつつも冷静に状況を見ていた鐘依が、倒したキメラをカウントする。
 1体のキメラを失い、少しではあるが連携に穴が開いた。
 創造時に連携を行うように調整されたと言っても、所詮は付け焼刃の産物である。
 キメラは基本的に、人間並みに柔軟な思考で考えて動く程、高度な技術で製造はされていないからだ。
「何だか分かんねえが、これでさっきの借りが返せるぜ!」
 紅蓮が吼える!
 激熱を構えて、手近なスターマインに急所突きを食らわせた。
 反動で態勢を失った所を、柿原の蛍火が両斬剣で一閃! 後方に吹き飛び、後ろのスターマインに衝突して落下する。
(「よし!」)
 柿原は心の中でガッツポーズをした。

 能力者達も、ここに来て見事な連携を披露していた。
 結城とファイナが敵を牽制し、回避運動停止直後を鐘依と夏目が遠距離から攻撃、紅蓮と柿原が接近戦でとどめを刺しに行く。
 2体の仲間を失って思うように連携が取れなくなったキメラ達は、既に各個撃破が可能な状態になりつつあった。
「星よりもハーピーが邪魔ですね」
 鐘依は鋭覚狙撃でハーピーの翼に狙いを付け、洋弓「アルファル」の矢を放つ。
 ファイナの攻撃を避けた直後であった為に次の回避が間に合わず、ハーピーは翼を射抜かれ地上に落下する。
 着地したハーピーは動きが鈍くなってしまい、本来の俊敏さを維持出来ない状態であった。
 そこを鐘依と夏目の集中攻撃を受けてしまい、胸元に数本の矢とエネルギーガンの火傷を負ってハーピーは崩れるように倒れた。
「3匹目‥‥」

 流石にここまで来ると、もうキメラ達の連携は無いに等しかった‥‥。ただバラバラの攻撃を仕掛けて来るのみである。
 逆に連携の取れている能力者達の方が圧倒的優位に立っており、火力の一斉集中で4体目のスターマインをも駆逐した。
「残り2体!」
 鐘依のカウントも熱を帯びてくる。
 残ったのはハーピー1体とスターマイン1体。

 多くの仲間を失った今、キメラ達は目の前の獲物よりも、自分達に課せられた指令を優先させるべく、高度を上げて能力者達を追い越して、欠陥キメラ抹殺に向かおうとする。
 そこにスパークマシンαの電磁波が、キメラ達に襲いかかった!
「ここから先は行かせませんよ」
 少女達の移動を終えて戻ってきた皆城が、両手を広げて立ち塞がっていたのだ。
 勿論側らには、篠ノ頭が小銃「バロック」を構えてキメラを狙っている。
「乙姫さん、女の子達は大丈夫ですか?」
 ファイナが訊ねると――
「うん、練成治療をした後、調査官さんの要請で、警察署に保護してもらってます」
「良かった」
 それを聞いて全員がほっとした‥‥しかし眼前のキメラを退治しない事には真の安息は無い。

 スパークマシンαのダメージから立ち直ったキメラ達は、再び移動を開始する。
 原理は不明であるが、キメラ達は欠陥キメラの位置を察知出来るようであった。
 既にキメラ達に追いついていた能力者達は、前方の皆城達と合流して前に回りこみ、ファイナが再びプロテクトシールドを持って立ち塞がった。
 そしてキメラ達に向かってにっこりと微笑み――
「‥‥痛いのは最初だけですよ‥‥すぐに眠くなりますから‥‥永遠にね‥‥」
「‥‥照準よし、エネルギーガン、ファイヤ‥‥」
 エネルギーガンに持ち替えてハーピーに攻撃を加えた。
 今までの戦闘で傷付き、ダメージが蓄積していたハーピーは、避けきれず直撃を受ける。
『キィー』
 奇声を上げて苦しむハーピーを援護すべく、スターマインが前に出る。
「邪魔だ!」
 結城は小銃「フリージア」とスコーピオンを交互に撃ち、自らの破壊衝動に忠実に従った。
 全身に銃弾を受けたスターマインは、そのまま落下‥‥側にいた夏目の刀で下段より一閃されて動かなくなった。
「ラスト1体‥‥ふふ」
 鐘依は言い知れぬ高揚感から不敵に笑い、洋弓「アルファル」を構え直す。
「おっしゃあ! 最後は俺が決めるぜ!」
 紅蓮が激熱を高々と振り上げて、弱ったハーピーに打ち下ろす!
 だが、やはりハーピーの素早さの前では、紅蓮の激熱は又も空を切る。
「くそっ、何で当たんねぇんだよ!」
 ハーピーは紅蓮を鉤爪で引っ掻くと、踏み台にして上昇する。
 そこを矢を番えて待ち構えていた鐘依が、影撃ちで仕留めた。

●説得
 戦闘が終わり、能力者一行はもう一つの依頼を完遂させるべく、警察署へと赴いた。

「えっと‥‥名前を聞いてもいいかな?」
 夏目が開口一番、少女の名前を聞いた。
「御津川‥‥千奈です‥‥」
 少女は暗い表情で名乗った。
 千奈は警察署に到着後、調査官よりキメラについて教えられており、これから何を言われるのか予測していたのだ。
「千奈ちゃんって言うのか、俺は夏目リョウ、宜しく」
 夏目は思いっきりフレンドリーな笑顔を千奈に向けたが――
「‥‥」
 目を逸らされてしまい、仕方なく本題に入った‥‥。
「‥‥実はその星くんの事なんだけど、俺達に預けて貰えないかな?」
「‥‥」
 千奈は黙っていた。
「命懸けで千奈ちゃんを守ってくれた大切な友達だって事はわかるんだ。でも、ここに星くんがいたら、又今回みたいな危険な目に会うかも知れない。それに、今度は千奈ちゃんだけじゃなくて、周りにいる家族や、大事な友達も危険になるかも知れないんだ」
「だから、今は俺達を信じてくれないか?」
「‥‥」
 千奈は夏目を見つめて何かを言おうとしたが言葉にならず、また俯いてしまった。

「なぁ、こいつの正体分かってんだろう!?」
 千奈の煮え切らない態度にイラついた紅蓮が、語気を荒げて切り込んできた。
「キメラってのは人を襲うのが役目なんだぜ。こいつだって同類なんだ。何と勘違いしてんだ!」
「紅蓮さん、千奈ちゃんが怖がってるじゃないか!」
 見かねた柿原が間に割って入る。
 柿原に制止された紅蓮は、勝手にしろと言わんばかりに鼻息を荒げて後ろに下がった。

 数秒程の沈黙の後、結城がやんわりと千奈に向かって話しかけた。
「大丈夫だよ‥‥ここにいる誰もこの子を傷つけに来たんじゃないよ‥‥」
 そう言って笑いかけた。
 それは千奈も理解していたので、こくりと頷く。
「後は君の選びたい方を選べばいいだと思うよ‥‥」
 結城は強制するよりも、千奈に選択させる事を選んだ。

――しばらくの間沈黙が続いた後‥‥千奈はそっと『星くん』を差し出した‥‥。
「ありがとう」
 ファイナが代表して『星くん』を受け取る。
 代わりに持ってきていた星型の『ぬいぐるみ』を千奈に手渡した。
「代わりにはならないけど、思い出として残るように、ね」
 ここに来て今まで抑えていたものが込み上げて来たのか、千奈はわーっと泣き出してしまった‥‥ぬいぐるみを抱きしめて‥‥。

 そんな千奈に対して皆城は、ちらりと篠ノ頭を見る。
 篠ノ頭は皆城の意図をすぐに理解して黙って頷き、『最後のお別れ』をさせようとした。
「どうしても星くんを連れていかなくちゃいけないんだ‥‥すまない。だけれど、星くんもキミも元気ならまた会えるかもしれない。だから‥‥星くんを最後に元気付けてやってくれないかな?」
 千奈は『星くん』を前にして言葉に詰ってしまったのか、一言‥‥
「星くん‥‥ごめんね」
 とだけ言って黙り込んでしまった。
 後には少女の嗚咽のみが室内に木霊していた‥‥。

●能力者『御津川 千奈』
 依頼の『成功』が告げられてから3ヶ月が経ったある日、大阪の北西部にある、『エイジア学園都市内キメラ研究施設付属養成校』に一人の編入生が転校して来た。
 名前は『御津川 千奈(みとがわ ゆきな)』。ポニーテールの似合う14歳の女の子だ。

 彼女は『星くん』との別れの後、自ら望んでエミタ適正検査を受け合格した。
 この様に自ら望んで能力者になれる確率は極めて稀なケースなのだが‥‥今思えば、星キメラとの運命的な出会いと別れも又、能力者となる為に必要なプロセスだったのだろう。 

 これは彼女が能力者となった後に知った情報であるが‥‥『星くん』ことスターマインNo37(キメラ研検体ナンバー)は、捕獲後2週間近く存命したが、その後老衰で死亡したと記録されていた。

 キメラの多くは元々与えられたミッションだけを遂行する為だけに、自然にあらざるものの手で創り出された生命体なのである。
 その事を知った彼女はショックと同時に、もっとキメラの事を知りたい! と思ったのだ。
 仲良くは出来ないけど、こちらが一方的に理解しようとするのは、個人の勝手であるという結論に達したのだ。
 彼女の選んだ道は決して平坦では無いが、今現在最前線で戦う能力者達にとって、有意義な研究成果を残せる人材である事は確かであった‥‥それを彼女が望むと望まないとに関わらず‥‥。