●リプレイ本文
●赤道に咲く花火
「グッモーニン、こちらアルテア、嵐が接近している。傘を持って来た」
熊谷真帆(
ga3826)の元気の良い援軍到着に、友軍機の士気も高まっていく。
「こ‥‥ら‥‥Tigerリ‥‥ダ、‥‥援軍‥‥感‥‥する」
ジャミングの影響で通信にノイズが多すぎて聞き取り難い。
「こちらGiftradio、プログラム『Gr1.3』起動‥‥データリンク確認‥‥戦況情報の配信を開始します」
秋月 祐介(
ga6378)のH‐114岩龍が、自作のHEXMAP表示式情報分析プログラム『Gr』を使用する。
このプログラムは、先の欧州大規模作戦でも使用された実績を持つプログラムである。
次いで特殊電子波長装置も作動させてジャミング中和に入る。
「もう直該当空域です。カウンタージャミングを開始します」
篠崎 公司(
ga2413)のES‐008ウーフーも又、強化型ジャミング中和装置を作動させてジャミングの中和に入る。
2機の中和装置の起動により多少ジャミング効果が薄れるものの、20機ものキュービックワーム(CW)のジャミングは常軌を逸していた為、レーダーは未だ回復の兆しを見せていない。
「GiftradioよりTigerリーダー、間もなく戦闘空域に到着する。そちらも歓迎の用意をしておいてくれ」
「WILCO!(了解)」
8機のKnight Vogel(KV)は機首を上げて高度をどんどん上昇させていく。
16個のアフターバーナーの炎輪は、宛ら大空に咲く花を思わせた。
敵機よりも遥か上空の位置を取った能力者達は、ロケットランチャーの一斉射撃体勢に入っていた。
「是より、サイコロステーキを焼き上げる。バディ、火力の調整は十分か」
夜十字・信人(
ga8235)はバディの熊谷に問いかける。
「いつでもいいよ」
「たまにはこっちが数でいきましょう!」
シュブニグラス(
ga9903)も盛大に打ち上がるであろう花火に興奮を隠せない。
8機は機首を下げ、二つのダイアモンド編隊を組んで急降下を開始。
「drei‥‥zwei‥‥ein‥‥feuer!」
秋月のカウントダウンで、パプアニューギニアの空に無数の白煙の槍が降リ注ぐ!
それに呼応して友軍迎撃機からもバルカン砲の一斉射撃が始まる。
ヘルメットワーム(HW)を守るように密集隊形を取っていたCWは、これまでに無い苛烈な攻撃に晒される。
「かつて私の祖国はこの空を渡して苦杯を舐めた。今度は護りきる!」
熊谷の故郷である日本は、首都東京が陥落し、九州全域もバグア軍に蹂躙されていた。
彼女は平和主義者であるだけに、人々を苦しめるバグアが許せないのだ。
「では、コンバットオープン」
篠崎はロケット弾の代わりに試作型G放電装置で堅実なダメージをCWに与えていく。
「『点』でなく、『面』で殺(と)る!」
秋月も他の能力者達に負けじと頑張った。
普段は補助に回る事が多いサイエンティストも、やる時はやるんだ! という気迫を込めて。
急降下でCWの群れを通過する際に強烈な頭痛に見舞われたが、問題無く機首を水平に戻した。
再び機首を上げ、CWに攻撃を加える‥‥しかし今度は敵機が散開した為、多くのロケットランチャーは虚しく空を切った。
密集していればこそ有効なこの戦法も、散開されると撃墜効率はぐっと落ち込むのである。
「何機撃墜した?」
「うーんと‥‥4機かな」
「思ったよりも少なかったな‥‥HWの動きが気になる。全機散開してサッチ・ウィーブに入る!」
「WILCO!」
●空中戦1
能力者を乗せたKVは二機一組(ロッテ)でフォーメーションを組み4班に分かれた。
その際、夜十字はバディの相手を熊谷から御崎緋音(
ga8646)に交代して、中型HW迎撃に当たる事となる。
CWに守られていたHWも、それに釣られて分散していく‥‥。
「いっけぇ〜っ!」
御崎はCWの発する頭痛を吹き飛ばすような気合いを込めて、ロケットランチャーを発射する。
まだ多くのCWが残存している為、それらを掃討しつつ中型HWを目指す。
一方夜十字は、CWに攻撃を加えつつも‥‥新しいバディも又、可愛い女性であった事を素直に喜んでいた。
「美少女バディの次も美少女バディか、恵まれているな。俺は」
CW撃墜を専任する弓倉 真若(
gb2917)と秋月は、激しい頭痛に耐えながらもロケット弾を撃ちまくり、更に3機を撃墜していた。
その内の1機は、最初の一撃で深いダメージを負っていたようで、たった1発のロケット弾が命中しただけで珊瑚海へと落ちていった。
「あと13機か‥‥」
弓倉の機体は初撃でブレス・ノウを使用していたので、練力を温存しながらの戦闘となる。
「弓倉さん、自分もいますので無理はしないで下さいね」
「はい、ありがとうございます」
バディである秋月の気遣いに、弓倉は素直に礼を述べた。
遊撃班である篠崎・熊谷班は小型HWの迎撃に当たっていた。
篠崎は既に全ての試作型G放電装置を撃ち尽くしており、兵装を切り替えてドッグファイトに転じている。
「ウーフーの実力を試す良い機会ですね」
そう言ってエンジニア特有の好奇心のままに、小型HWにガドリング砲を撃ち込んでいく。
篠崎の空中戦をもう少し見てみたい気がしていた熊谷であったが、もう1機が篠崎機の背後に回ろうとした為、急いでフォローに入る。
「行くよアルテア! 以前HWとの一騎打ちで勝った君の魅力を再び見せて」
熊谷のF‐104改バイパーには雷電用のヘビーガドリング砲が搭載されており、独特で重みのある発射音を響かせてHWの背中に火を付けた。
攻撃を受けたHWはすぐさま回避行動に移り、今度は熊谷の後背を取ろうと急減速する。
オーバーシュートされた熊谷機は、ブレイク(回避運動)しつつ、篠崎機から引き離す戦術に出た。
もう一つの小型HW迎撃班である乾 幸香(
ga8460)とシュブニグラスのバディも、似たような状況となっていた。
敵機の数が多すぎる為に、後ろを取ったつもりが別の敵機に更に後ろを取られ、3対2の展開となっていたのだ。
「友軍機は何をやってるのかしら?」
シュブニグラスが友軍機の援護を期待したが、SES機構を持たない普通の戦闘機の攻撃力は、豆鉄砲に等しく‥‥既にここまでの戦闘で、半数以上の友軍機が撃墜されていた。
「ま、仕方ないか‥‥私達は覚醒出来る分操縦テクが全然違うからね」
そう言ったかと思うと、バレルロールで後ろの敵機をオーバーシュートさせた。
「やるじゃない、私」
「よし! 一気に決めるわよ!」
シュブニグラスはソードウィングで2機同時の撃墜を試みた。
金属と金属が響きあう音がした瞬間、1機のHWが爆炎をあげて墜落していった。クリティカルヒットである。
「私も負けていられませんね」
乾は後背に食らい付いて攻撃してくるHWを引き離そうと必死であった。
ブレイクでオーバーシュートを狙うが、すぐに減速されて背後を取られる‥‥。
HWの放ったプロトン砲が機体をかすめていく。
「くっ‥‥あまり私をなめないで下さいね」
乾はアフターバーナーを噴かして加速し、機首を上にあげて一瞬上昇したかと思うと、くるりと旋回する。
機首を上げた事で減速が掛かり、HWを前方に捕らえる事に成功した。
この一瞬のチャンスを逃す訳にはいかなかった。
アグレッシブ・ファングを使用してガトリング砲をを発射!
ミサイルの使い所はまだ早かったが、チャンスは最大限に生かすべきとの判断である。
「乾さん、待たせたわね」
残りの1機を片付けたシュブニグラスが上方より位置エネルギーを得て降下して来る!
すれ違いざまにソードウィングで引っかく‥‥が、しかし今回は少し浅かったようで撃墜には至らない。
「あたしみたいな美人とダンスを踊れるなんて望外だと思って下さいね。‥‥そして、ここで身の程を弁えて帰って下さいね」
しつこいHWに少しうんざりした乾が、再び後背を取り直しガトリング砲を撃つ。
ミサイルが撃てるまで練力は温存したいと思っていたので、今度はアグレッシブ・ファングは使っていない。
HWは今度こそ白煙をあげて落下していった。
●空中戦2
中型HWを追っていた御崎・夜十字班は、進路上のCWの排除に成功して目標の背後に迫っていた。
目標の中型HWは、小型HW2機を護衛に付けてまっすぐに基地目指し飛んでいる。
「次は兜焼きか、タイミングはそちらに合わせる。ウェルダンに焼き上げよう。こんがりと黒焦げにな」
夜十字独特の通信に苦笑しながらも、御崎は8式螺旋弾頭ミサイルのトリガー引いた。
既にこの空域ではCWは存在しない事と、ウーフー、岩龍のジャミング中和機構の効力がようやく現れてきていた為である。
「ここまで来れば頭痛は治まったようだな」
御崎機のミサイル着弾を確認した夜十字は、アグレッシブ・フォースを発動させて試作型リニア砲を発射する!
「取って置きだ‥‥。往くぞ‥‥!」
キャノン砲のような発射音に乗せて、砲弾が吸い込まれるように中型HWに命中していく。
ズン! という轟音と共に爆炎をあげた中型HMであったが、その生命力の半分を削ったに過ぎなかった。
すぐに直掩機である小型HW2機が迫って来た。
「ゲシュンペストよりKITTENへ、以後はリニア砲で援護に回る。後ろは任せろ!」
「AFFIRM(OK)」
一方小型HWに悩ませれていた篠崎・熊谷班は変則的なシザース運動を繰り返しながら後背に付き、少しずつHWの生命力を削っていた。
シザースとは回避運動の空戦機動(マニューバ)の一つで、2機が互いに相手の後尾につこうとして、旋回、切り返しを続ける飛行の事である。
2機の経路がはさみ(シザース)を連想させる事からこの名がある訳だが‥‥慣性制御装置によって不自然な動きの出来るHWに、綺麗なはさみ状の螺旋が描ける筈も無かった。
「中々しつこいですね」
篠崎は兵装をガドリング砲から3.2cm高分子レーザー砲に切り替えていた。
「熊谷さんが心配だ。これで終わらせてもらいます」
2本のレーザー光線がHWに直撃し、爆炎をあげながらグレート・バリア・リーフの海に落ちていった。
「珊瑚礁をバグアの血で汚してしまったようですね‥‥」
篠崎機はバディの熊谷機目指して反転した。
熊谷機も又、HWの攻撃に傷つきながらも、果敢な空戦機動で後背を取り返し、スナイパーライフルDO‐2を使用してダメージを与え続けていた。
「負ける訳にはいかない‥‥地図を血の色に染めてなるものか!」
バイパーを激しく上下左右に振り、巧みにプロトン砲を回避する。
「熊谷さん、大丈夫ですか?」
「篠崎さん!」
「援護に入ります。持ち堪えて下さい。‥‥後5秒、4、3、2、1」
篠崎のカウントダウンが終了すると同時に、熊谷機の後方にいたHWが爆発した!
チャンスと見た熊谷は再びバレルロールで後方に回り込むと、DO‐2のトリガーを引く。
今までの戦闘で生命力の大半を失っていた小型HWは、今度こそ海に落下していった。
HW迎撃班が次々と敵機を撃墜している間に、CW迎撃班の弓倉と秋月の二人も少しずつではあるが戦果をあげていた。
「残り6機」
最初の初撃で多少なりともダメージを受けていたCWがいた為、少ない労力でも撃墜出来たのが幸いしている。
友軍機はバルカンが弾切れになった為、基地に帰投していた。
空対空ミサイルが無効化されている以上、一般の戦闘機が行える攻撃はバルカン斉射しか残されていない。
「今基地に帰るのは危険じゃないの?」
「まだ大丈夫のようですね。夜十字・御崎班の足止めが上手くいってるようですので」
情報分析プログラム『Gr』は順調に稼動しており、刻一刻と変わる戦況を報告していた。
「後は‥‥この頭痛だけでも何とかしたいですね‥‥」
これだけは未知の怪電波なので、人類側には中和する術が無い。
「こちら篠崎・熊谷班です。これより合流してCW迎撃に加わります」
「お疲れ様です。では、フィンガー・フォーの編隊を組みましょう」
丁度親指を除いた4本の指に似たこの編隊は、ロッテ単位での分離、合流が流動的に行える汎用性の高い編隊である。
4機のKVに掛かれば、攻撃力を持たないCWはもはや敵では無かった‥‥ただ一つ頭痛を除いては‥‥。
●基地防衛戦
御崎・夜十字班は2機の護衛の内1機を撃墜し、残りの小型HWに阻まれて中型HWに攻撃が出来ない状態にあった。
2機は呼吸を合わせて小型HWに波状攻撃を仕掛ける。
高分子レーザー砲とリニア砲がHWに風穴を開けた‥‥。
二人が小型HWを撃墜した頃、生命力の3分の2を失っていた中型HWがポートモレスビー空軍基地上空に到達していた。
無数の対空砲火がHWに撃ち込まれていたが、残りの生命力を削る効果は期待出来ない。
プロトン砲が基地滑走路を焼き尽くす。
続いてKV格納庫を狙う。
まるで真綿で首を絞めるように、じわじわと基地の機能を奪っていく。
HWのプロトン砲がいよいよ航空管制塔に合わせられた‥‥ここを失うと基地の機能は完全にストップする。
「こちら夜十字。TACはゲシュペンスト。言い辛ければゲシュリンでも歓迎だ」
意味不明な通信だが騎兵隊の出現に管制塔が歓喜の声を上げる。
「ヘルヴォルの名に掛けて‥‥この基地をやらせるわけにはいかないの!」
御崎の雷電から8式螺旋弾頭ミサイルが発射された。
基地周辺にもジャミング中和装置もある為、ここでもミサイルの発射が可能であった。
次いでディアブロのリニア砲が火を吹く!
2機の巧みなコンビネーションによって、大爆音と共に中型HWは火だるまになって落ちていった。
●新たなる戦いの予兆
弓倉・秋月、篠崎・熊谷機もCWを全機撃墜し、乾・シュブニグラス機と合流して帰投コースに就いている。
「Creared to Land、Runway14Left、Wind‥‥」
二本ある滑走路の内の一本はまだ使えたので、ポートモレスビー空軍基地への帰還は可能であった。
「やれやれ、何はともあれ‥‥今は生還を喜ぶべきか?」
ファイナルアプローチに入り、ようやく夜十字も安堵した。
激戦ではあったが、これで東南アジア東側から日本までの制空権を無事に守り抜く事が出来た。
インド方面の不穏な動きに呼応するかのように動くオーストラリア・バグア軍。
来るべき決戦の日は近い‥‥。