タイトル:【黒き炎】生物兵器の主マスター:水無瀬 要

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/16 15:37

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


<UPC北中央軍公式文書閲覧端末室>
 一人の若い将校が端末を操作して、機密文書の閲覧を行っている‥‥。

●UPC北中央軍機密個人ファイルNо174
 閲覧開始――

 黒き炎は、親バグア派のテロリストである。
 判明している本名は、『パウロ・サントス・ヂ・オリヴェイラ』という。
(現在は整形して偽名を使用している為、この情報は意味をなさない)

 彼の名は南米を中心に、UPC軍関係者の間で知られ始めている。
 彼は親バグア派の人材としては、ある程度の権限を有していると推測される。
 現時点での詳細は不明であるが、一つ言える事は‥‥テロリスト程度の能力では、バグア軍では『権限を持つ人材として重用される事は無い』と言う事である。
 なぜなら、ヘルメットワームやキメラといった超兵器を有するバグア軍では、彼のような爆弾に関するエキスパートは、それ程重宝がられていないからだ。
 恐らく、テロリストとしての能力は、彼の持つスキルの『ごく一部』だと推測する。
 もう少し調査が必要だ。

 UPC北中央軍諜報部大尉 トム・マクファーソン

――閲覧修了

●UPC北中央軍機密個人ファイルNo211
 閲覧開始――

 黒き炎の隠された能力について、ある程度判明したので報告する。
 彼はバグア軍内部では『キメラマスター(生物兵器の主)』という二つ名を得ていた。
 この二つ名は、キメラの製造技術と、製造したキメラの司令塔として使役する能力に秀でた者だけに与えられるらしい。
 確かに彼の犯行には、爆弾テロ以外に‥‥キメラによる二次破壊活動が報告されている。
 だからこそ、その悪名がこうして機密個人ファイルに載せられているとも言える‥‥。
 更に詳しい調査を進める。

 UPC北中央軍諜報部大尉 トム・マクファーソン

――閲覧修了
 
 男は端末を閉じて機密ファイルの閲覧を終えた。
 軽く目頭を押さえて疲れた目を労わる。
「黒き炎か‥‥」
 男はこれから対峙するであろう好敵手の名を呟き、虚空を見つめた‥‥。

――それから数日後――
<UPC本部・ラストホープ>
 オペレーターより、新たな依頼内容が告げられた。
「現在、親バグア派テロリストである黒き炎を追っています、UPC北中央軍の諜報部員が消息を絶ちました」
「名前はフレッド・マクファーソン少尉。彼の父親も同じく諜報部員でしたが、黒き炎事件の調査中に亡くなっております」
「彼は父親の調査任務を引き継ぎ、黒き炎について調査中に、何らかのアクシデントに巻き込まれたと思われます」
「まずは現地宿泊先のホテルに赴き、室内の調査、及び周辺の聞き込みをして下さい」
「ホテルの支配人には、UPC本部から話を通しておきますので、よろしくお願いします」

●参加者一覧

赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
雨音・ヘルムホルツ(gb4281
15歳・♀・FC

●リプレイ本文

●ブリーフィング
 本来UPC軍秘密諜報員の捜索任務は、秘匿性の問題もある為同じ諜報部が行うべきものである。
 しかし相手が『キメラ使い』という特殊性を考慮した結果、今回はULTに調査依頼が来た――というのが事の真相のようである。
 既に失踪から1日が経過しており、時間との戦いは必至であった。

 オペレーターは、集まった4名の能力者達に、今回の任務についての注意事項を説明した。
「これは極秘任務です。今回の任務で見聞きした内容は重要機密に抵触する可能性もありますので、情報の取り扱いには十分注意して下さい」
「了解した。それで少尉の顔写真があれば見せて貰えないか」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、オペレーターに資料の提供を求めた。
「本来であれば、彼らの『今の顔』を公開する事も機密事項に抵触するのですが‥‥確かにホアキンさんの言う通りですわね」
 オペレーターは持っていたファイルから1枚の顔写真を提出する――偽装免許書の顔写真であった。
「これが少尉の『今の顔』なんだな?」
「ええ、彼らは一般人を装う必要がありますので、所持出来る顔写真は運転免許書といった民間ライセンスくらいです」
 見た所風采の上がらないどこにでもいるような顔立ちであった。だからこそ諜報任務に適任とも言えるのであろう。
「ホテル関係の資料は現地で貰ってください。支配人には話を通しております」
「それと皆さんの身分は『警察官』と言う事になっており、失踪事件担当の捜査官としてホテル側には説明しております」
「ほむ、分かりました。少尉を必ず無事に連れて帰りましょう」
「そうですね。諜報員が捕まるなら、何か掴んだとみて間違いないですね」
「皆様の足を引っ張らぬ様、頑張ります」
 赤霧・連(ga0668)、マヘル・ハシバス(gb3207)、そして今回が初任務となる雨音・ヘルムホルツ(gb4281)の3人も、それぞれ少尉の無事を祈って現場へ急行した。

●調査開始
「当ホテルにようこそお越し下さいました」
 ホテルの裏口にある警備室で名前を記帳した能力者達は、恰幅に良い支配人に丁重な出迎えを受けた。
「支配人、早速で申し訳ないが、ホテルの見取り図を人数分貰えないだろうか」
「はい、承っております‥‥こちらでございます」
 支配人は持っていた紙をホアキンに手渡す。
「後、ここのホテルの防犯カメラの記録映像を見てみたいのだが」
「はい、では防災センターの方にご案内致します」
「助かる」
「あと、こちらが203号室のマスターキーでございます」
 キーを受け取ると、それと地図3枚を赤霧に手渡したホアキンは、支配人と共に防災センターへと向かった。

「私達は予定通り室内の探索に向かいますか」
「そうですね」
「ほむ、調査の基本は現場百回と言いますからネ」
 3人はバックヤードから階段で2階に上がり、スタッフ出入り口よりフロアへ出た。
 そして203号室の扉の前で、不審者の痕跡が落ちていないかを注意深く観察した。
「特に何もありませんね‥‥」
「人や動物の毛も落ちてないですね‥‥警察だったら指紋採取も出来たけど」
「相手は凄腕らしいですから、拭き取られてる可能性もありますよ」
「ほむ‥‥」
 玄関前はとりあえず大丈夫と確信した彼らは、マスターキーを使って慎重に室内へと進入する。

 部屋に入ると同時に、日本人の赤霧は、ある物を探したのだが見当たらない‥‥。
「ほむ、スリッパがありませんネ」
「ほんとだ」
 日本のホテルと違い、アメリカのホテルにはスリッパや浴衣、バスタオルの類は常備されていないのである。
 3人は床に何か落ちていないか慎重に歩を進め、室内全体を観察する。
 広い内装の室内は整然としており、争った形跡は微塵も無い。
「ほむ、私は聞き込みに行ってきますネ」
 赤霧は室内調査を二人に任せて、聞き込み捜査を行う事にする。
「あ! よろしくお願いします」
 と雨音。
「いってらっしゃい。私達も後で合流しますので」
「はいな、任せて下さい」
 ぽん! と胸を叩き、赤霧は地図を持って部屋を出て行った。

●手掛かり1
「ではまず、メモ帳を調べてみますよ。軽く鉛筆で擦れば、筆圧で書かれた字が浮き出たりしますよ」
 そう言って雨音は、鉛筆を持ってメモ帳の上を薄くなぞってみる。
 何やら薄っすらと文字が浮かんできた。
『Feijoada』『Farofa』
「‥‥‥?」
「何か出ました?」
 マヘルもメモ帳は気になっていたので、結果を聞いてみる。
「これって何でしょうね?」
 メモを見せられたマヘルも良く分からない。
「後でホテルの人に聞いてみましょう」
 雨音は気を取り直して、今度は読みかけの本を手に取り、栞に細工が無いかも入念に調べた。
 しかしこちらは特に怪しい所も無く、ごく普通の栞だった。
 挟まっていたページは84頁目であったが、このホテルにそんな部屋番号は無い。
 雨音は残念そうに本を元に戻し、床やベッドの下など探し出した。

「引き出しの中は‥‥と」
 マヘルは机の引き出しとクローゼットの中を念入りに調べる。
 引き出しの中には、黄色と白色の二種類の電話帳と聖書が1冊入っていた。
「聖書ってどこにでもあるんですね」
 聖書と電話帳を順番に手に取り、ヒントが隠されていないか入念にチェックする――が、特に変わった所は無い。
 元に戻して次はクローゼットを開けてみる。
 中にはバスローブとアイロンセットなどが入っているが、ここにも特に怪しい物は見当たらない。
「メモ以外、特に何も見当たりませんね」
「そうですね‥‥」
「もう少し探したら赤霧さんと合流しましょう」

●手掛かり2
 聞き込みに向かった赤霧は、一番手近の204号室の宿泊者を訪ねた。
(コンコン)
「ハロー、お留守ですか?」
(コンコンコン)
「ハロー」
「‥‥‥」
 どうやら誰もいないようである。
「頑張りますよ。足と愛嬌が勝負です」
 赤霧は気を取り直して2階と3階の客室全てを聞き込んで回るが、収穫は無い‥‥。
 次いで1階に降りてフロントに赴き、失踪事件当日の名簿を見せてもらう事になった。
 しかし名簿を漠然と眺めても、怪しい所は発見出来ない。
 腕組みしてうんうん唸っている所へ、雨音とマヘルの二人が降りてきた。
「赤霧さん、何か分かりましたか?」
「ほむ、今の所は収穫ゼロです」
「そうですか‥‥部屋のメモに何か書いてあったので、今からホテルの人に聞いて回る所なんです」
「ほむ、では私は清掃員さんに聞いて見ますネ」
 そう言って赤霧は、二人と別れてバックヤードに戻り、何人もの清掃員を捕まえては聞き込みを行った。
「はじめまして、警察の者ですが調査にご協力お願いできますか?」
「まあ! 小さくて可愛いお嬢ちゃんだこと」
 小さくては余計であったが悪意は無いので、にっこりと微笑んで応える。
「あーそう言えば朝のミーティングでそんな事を言ってたね。で、何が聞きたいんだい?」
 赤霧の天使のような笑顔に気を良くした清掃員は、すっかり警戒心を解かれていた。
「この人の事をお聞きしたいのですが、知ってますか?」
 そう言って免許書の写真のコピーを見せる。
「うーん‥‥そう言えばどこかで‥‥あ! 203号室に泊まってた人だよねこれ?」
「はいな、203号室に泊まってた人ですよ。その人を見たのは何時頃だったか覚えていませんか?」
「私が最後に見たのは夜の7時頃だったね。どこかに出かけるみたいだったよ」
「ありがとうございました」
「いえいえ、小さなお嬢ちゃん。頑張ってね」

●手掛かり3
 一方、防災センターに行っていたホアキンは、防犯カメラの記録映像をチェックしていた。
 カメラに写っている少尉の足取りを、順番にタイムテーブルに纏める為である。
「ありがとう。一段落ついたので、地下の機械室を見せてもらって良いかな?」
「はい、では私がご案内します」
 支配人は自分の仕事に戻った為、防災センターの主任が同行することになった。

 地下はホテルの機材などの修理を行う技術課があり、修理待ちの椅子やテーブル、機械類がごろごろと転がっている。
(「ふむ‥‥爆弾などを設置するには好都合な場所だな」)
 ホアキンは、まだ爆弾についての危険性は話していなかった。
 理由はまだ確証が持てなかった事と、パニックを恐れての事である。
 黒き炎が、まだ潜伏していると想定した場合、恐らくパニックに紛れて逃亡する可能性が高かった。
「ここが地下ボイラー室です」
 そう言って主任が持っていたキーで鍵を開ける。
 スチールドアを潜ると、むわっとした空気と低い作動音、ホテルとは思えない独特の雰囲気がホアキン達を出迎えた。
「ここには誰でも出入り可能なのか?」
「いえ、防災センターからキーを持ち出さないと扉は開きません」
 ホアキンは機械室を隅々まで見て回る‥‥。
「忙しい所すまなかった」
「いえ、人命が掛かっていると聞いてますので、お役に立てて光栄です」
 ホアキンは機械室を出て主任と別れ、タイムテーブルに従い足取りを追って見る事にした。

 順番に回ってようやく1階のレストランに着いた時、雨音とマヘルと鉢合わせた。
「そっちは何か手掛かりを掴んだようだな」
「はい、これを見て下さい」
 そう言ってマヘルは、ホアキンにメモを見せる。
「ポルトガル語か?」
「流石ですね。レストランで聞いてみましたら、南米料理の名前だったのですよ」
「『Feijoada』は豆料理で、『Farofa』はキャッサバ芋を摩り下ろして乾燥させたものを加工したものらしいです」
「南米か‥‥そう言えば黒き炎は南米人だったはずだ」
「手掛かりが繋がってきましたね」
 3人はレストランのマネージャーに少尉の顔写真を見せ、食事に来たかの確認をする。
「はい、来られました」
 ホテルマンは失礼が無いように、お客の顔をよく覚えているので即答であった。
「詳しく教えてほしい」
「はい。昨晩の19:00頃に、丁度あそこの席に座られお食事をされていました」
 と指を差して席を示す。
「誰かと一緒だった事はありませんか?」
「いえ、お一人でした」
「その人の注文した料理はこれですか?」
 とメモを見せる。
「いえ、フレンチをご注文されていました」
「ただ、当店では南米料理もメニューに載せておりますので、昨日も数人のお客様からご注文を受けました」
「――!」
「では、この写真の人物が食事中に南米料理を注文した客はいたか?」
「はい、丁度斜め向かいに座られた若い女性の方でした」
「すまないが防犯カメラで確認を取りたい。ご同行願えないか?」
「‥‥かしこまりました」
「あ、赤霧さんも呼びましょうか?」
「そうしてくれ。黒き炎の顔を全員で確認しておきたい」
「はい」
 雨音は無線機を取り出し、赤霧に連絡を取る。
 これで黒き炎の顔が判明する! そう確信した3人は、マネージャーを連れて防災センターへと向かった。

●とある場所にて
「何やら周囲がきな臭くなってきやがった」
「ふっ‥‥流石の黒き炎も能力者相手では分が悪いようだな」
「けっ、ほざきやがれ! どう足掻いてもここには辿り着けねえさ」
「しかし、食事で正体がばれるとは恐れ入ったぜ、少尉さんよ」
「顔や性別、声を変えても、食生活までは容易には変えられないもんだ」
「次からは気をつけるさ‥‥」
「ちょいと挨拶に行くつもりだったが‥‥思った以上に早く嗅ぎ付けてきやがったからな。ここは大人しく引くぜ」
「弱気だな」
「臆病な奴程生き残れるもんさ。あんたとはここでさよならだ」
「じゃあな、あばよ!」
「‥‥」
 黒き炎は、少尉を残して去って行った‥‥そして、その脇には――爆弾が!

●黒き炎の行方
 防犯カメラの映像と、ホールマネージャーの証言により、黒き炎の顔の特定に成功した。
 宿泊名簿から割り出した部屋番号は6階――605号室である。
 フロントからマスターキーを借りた一行は、覚醒して階段を一気に駆け上がり、605号室の手前で武器を手にして身構えた。
 そして静かに開錠し、扉を少しだけ開けて気配を窺う‥‥。
 待ち伏せが無い事を確認した一行は、慎重に室内に入っていく。
「足元に気をつけろ。ブービートラップの可能性もある」
 クローゼットの中やベッドの下を覗き込み、黒き炎が不在である事を確認した彼らは、早々に部屋から出た。
 黒き炎が『いない』と言う事は、すなわち『黒き炎にとっても逃げなければならない状況』とも取れるからだ。
 つまり『既に爆弾のセットが完了している可能性もある』と言う事だ。
「まずい事になった。早く見つけないと危険かも知れない」
「UPC北中央軍に連絡を取って爆弾処理班を回してもらい、支配人にも連絡を入れて客を非難させるぞ」
 ホアキンの指示で、全員が見事な連携を取って迅速に行動を起こす。
 マヘルは爆弾処理班を要請し、雨音は避難誘導を支配人に依頼しに行き、ホアキンは再び防災センターに戻って、1時間前からの記録映像に黒き炎が映っていないか再チェック。
 赤霧はロビーに陣取って正面玄関を見張り、黒き炎の逃亡に注意を払った。
 結局速やかに客達を避難させる必要があった為、非常警報が鳴らされる事となった。

 ――それから7分後、ホアキンから連絡が入った。
「奴は7階だ!」

●少尉救出!
 正面玄関前の赤霧を残した3人が7階に到着した時には、既に黒き炎の姿はなかった。
 少尉は大ホールの準備室で拘束されていた。
 ここはパーティや結婚披露宴を行う際の、椅子やテーブルが収納されている所で、予定の無い日には殆ど人の寄りつかない場所であった。
 発見された爆弾は、間一髪間に合ったUPC北中央軍の爆弾処理班が処理し、少尉は無事に救出された。
「どうもありがとう」
「いえ、少尉が無事で何よりです」
 とマへル。
「後は黒き炎を捕まえるだけですね」
 雨音の言葉に少尉は静かに首を振った。
「どうして分かるんですか?」
「さっきの非常警報での避難は、奴にとっては好機だったはずさ」
「うちのメンバーが一人正面玄関に張り付いていますが‥‥それでもダメでしょうか?」
 マヘルも諦め切れない様子である。
「奴は逃げる為には手段を選ばないからね。穏便に事が済んだという事は上手く逃げたという証拠さ」
 ロビーで赤霧と合流した能力者達は、少尉を連れて帰路についた。
「ほむ、どうやら黒き炎を見逃したようです‥‥ごめんなさいです」
「いや、あれは仕方が無いと少尉も言っていた。気にする事はない」
「そうですよ。私達でも見逃す状況でしたからね」
 黒き炎を見逃したと、一人落ち込んでしまった赤霧を皆で元気付ける。
 少尉の持ち帰った情報は、重要機密扱いの為現段階では公開出来ないが‥‥しかし逮捕に繋がる有力な情報である事は間違いが無かった。
「黒き炎‥‥奴を俺が絶対に捕まえる」
 報告書を入力するフレッド・マクファーソン少尉は、決意を新たに黒き炎逮捕に執念を燃やすのだった‥‥。