●リプレイ本文
●陰謀の影
<中米・バグア占領地域内某所>
現在、中国で激戦を繰り広げるバグア軍とUPC軍であるが、その影で密かに暗躍する者達がいた。
「営口市での戦況は順調ですか?」
「はい。この作戦が上手くいけば、心身共に屈強な強化人間の素材が手に入りますね」
白衣を着た若い研究員が、痩身の男に答える。
ここで言う『作戦』とは、彼らを極限状態にまで追い詰めて、生き残った者だけを素材として持ち帰ろうと言う事である。
「ふむ」
若い研究員は立礼の後、配置に戻った。
痩身の男は、この強化人間製造所――通称『ラボ』の主任であった。
彼はエステル・カートライト(gz0198)という手駒を失い、新たな強化人間の素材を欲していた。
(「エステルは死亡し、部下の黒き炎は脱走後に行方不明‥‥。私の手駒となるべき者達は次々といなくなる‥‥」)
主任は苦虫を潰したような顔を一瞬した後、側のベテラン研究員に新たな指示を出した。
「例の件の隠蔽工作は、大丈夫ですね?」
「あ‥‥はい、大丈夫です」
「よろしい。あれが露見しては、こちらの命に関わりますからね」
例の件とは、アイザック・ソマーズ中尉の脱出装置に、何者かが細工をした疑いについてである。
中尉は、この男の野心を知る唯一の男であったので、口封じの為に始末されたのだ。
(「私はもっと上を目指さなければならない。その為にはもっと忠実な駒が必要なのだ」)
<中国遼寧省・営口市内>
舞台は主戦場へと移り――UPCの歩兵部隊救援の命令を受けた傭兵達は、指定されたポイントへと急行していた。
「そろそろ見えて来ても良い筈なのだがねぃ‥‥」
ヘルヘブン750で先行するゼンラー(
gb8572)は、そう呟きながらレーダーと目視による索敵を行っていた。
「別に隠密行動ではないし、無線で発光信号上げてもらうのも手だね」
三島玲奈(
ga3848)の提案によって第23歩兵部隊に増援部隊到着の報を入れ、信号弾を打ち上げて貰う事となる。目印となる対象が歩兵にキメラと小さい上に、市街地で障害物も多い為に発見が難しいのだ。
「来ました、10時の方向」
上条・瑠姫(
gb4798)が信号弾を確認。
「さて、ド派手に暴れるか! と言いたい所だが‥‥まだ傷が癒えておらんからのぅ。ワシは後方から援護に回ろうかのぅ」
孫六 兼元(
gb5331)は、間の悪い事に負傷したままの出撃となってしまった。
「まあ気にしなさんな。傭兵稼業じゃよくある事さ」
ゲシュペンスト(
ga5579)が、さりげなく戦友をフォローする。
「その分、後ろは任せたぜ」
「おう、任せとけ! ガハハハ」
目的地を目の前にして、3体のケルベロスが一行を出迎える。
「サチヨ、私の言う事をちゃんと聞くんだぞ。‥‥さぁ、蔵を開けるんだ」
瀬上 結月(
gb8413)が愛機シュテルンのセイフティロックを解除する。
「側面攻撃班だけど、一番槍頂戴する!」
ショルダーキャノンをキメラの手前に着弾させて、目くらましと牽制を行った後、擦れ違い様に零距離からブリューナクを撃ち込む!
左右のケルベロスには、2機のヘルヘブンが応戦。
ゼンラーは20mm高性能バルカンを斉射し、夢守 ルキア(
gb9436)はガトリング砲をそれぞれ撃ち込み、瀬上同様に擦れ違い様にアスクレピオスとKVハンマーでケルベロスの脳天を割って先を急いだ。
「生身だと苦労するケルベロスも、KVだとあっけなかったね」
と夢守。
「‥‥これが、戦場、なのですか‥‥」
今回初陣を飾る守部 結衣(
gb9490)は、キメラとの実戦を目の当りにして息を呑んだ。
「空戦訓練は受けましたが、陸戦での実戦になるとは思いませんでした」
「なあにワシらがついとるから心配は無用だ。ガハハハ!」
「はい、よろしくお願いします」
現地に到着した一行に歩兵部隊より無線が入った。
「傭兵諸君、救援感謝する。この部隊の指揮を任されているミラーだ」
「よぉ、ミラー軍曹じゃないか。シェイド討伐戦以来だな。また厄介な事になってるな」
ゲシュンペストが開口一番、ミラー軍曹に挨拶をした。
「おう、あの時の傭兵か。いつぞやは世話になったな。すまんが今回も世話になる」
「お話中失礼します」
ガトリング砲でキメラを牽制しながら上条が割って入る。
「時間がないので手短に要点のみ申し上げます。私達は今後の増援の可能性を危惧しております。戦闘は彼ら傭兵に任せ、私と共にその戦力を発見しては頂けないでしょうか」
「君達の上司から依頼を請けたんだ。まさか無碍には扱わないよね?」
夢守が更に念押しする。ミラー軍曹は結構頑固な面もあると資料の中にあったので、上官命令である事を明言しておく必要もあった。
「‥‥了解した。正直な所‥‥部下の大半を失っているので、今回はその方が助かる」
「よし、ここは上条ちゃんに任せて、作戦通りに行こうかのぅ」
「武甕槌神の加護があらんことを!」
●正面攻撃班の戦闘
第23歩兵部隊は、傭兵達の作戦に合わせて隊を分散させ、ミラー軍曹と通信兵、2名の護衛兵の計5名だけがここに残り、残りは周囲の索敵を行うべく散開して行った。
「ヒドラとケルベロスって、親子かな?」
ディフェンダーで襲って来たケルベロスを斬り飛ばして、三島は突然変な事を口走った。
「ん? そんな訳、ないだろ」
ケルベロスに足元を噛まれて引き剥がすのに忙しいゲシュンペストが、力みながら答える。
「いや。本当の親子じゃなくて、命令系統の上下関係の事」
「なるほど、三島氏の考えも尤もな意見だ」
練機刀「月光」で、ゲシュンペストに群がるキメラ群を一閃して払いのけながら、孫六も同意した。
「菌糸の様なもので繋がってるのかも」
「ガハハハ、それは良い。だがキメラはキノコじゃないからの、他の手段で連絡を取っているやも知れんな」
「孫六さん、すまない」
群がるキメラ群をようやく引き剥がしたゲシュンペストが、孫六に礼を言う。
流石に正面ともなるとキメラの数も多い。確認出来ただけでもケルンべロスが7体とヒドラが1体。
「数が報告よりも少ないな」
「元々伏兵を考慮に入れてるから問題ないない。その為の三包囲殲滅作戦だ」
銃器で狙い撃ちながら、ゲシュンペストの疑問に三島が答えた。
傷付いたケルベロスが再びゲシュンペストに噛み付こうと身構える。
「これ以上好きにはさせないぜ」
ディフェンダーでケルベロスを薙ぎ払い、敵が跳躍で避けた所を返し斬りで仕留める。
ヒドラと対していた孫六は、剣で受けつつレーザーバルカンで応戦していた。接近戦では負傷した傷が痛む為、今一歩踏み込みが甘くなる。
「盾を持ってくるべきだったかの」
レーザーバルカンでヒドラの首を何本か吹き飛ばした孫六は、ゲシュンペストに連絡を入れる。
「すまんが止めを頼む!」
「頼まれた! いけ、究極! ゲシュペンストキィィィィック!」
レッグドリルによるキックが炸裂し、ヒドラは断末魔をあげて死亡した。
ヒドラの死亡を見届けた三島は、ケルベロスの様子を注意深く観察する。
――が、特に動きに変化は見受けられない。
「‥‥気のせいか。まあいい」
そうと分かれば躊躇は無かった。三島は二丁のスナイパーライフルとレーザーガトリング砲でケルベロスを一気に畳み掛ける。
瓦礫や建物を粉砕し、着弾地点から砂塵が舞いあがり視界が悪くなる。
だがレーダーでは捉えられているので、着弾点をずらす事で砂塵の流れをコントロールする。
「見切った!」
砂塵の中から現れたケルベロスに、ディフェンダーを叩き付ける!
元来KVの装甲を断ち切る剣である為生身には今一つの切れ味であり、ケルベロスは文字通り撲殺されて、派手に血飛沫を飛ばしながら歪に潰れた。
更に超伝導アクチェータも起動して勝負に出る。
「次々いくよ!」
●側面攻撃班1‐1
一方、側面攻撃の為に途中から分かれたゼンラーと瀬上は、周囲を警戒しながら怪しい場所の索敵も行っていた。
「瓦礫の下に何か潜んでいそうだな。‥‥人も居ないし、撃っておくか」
瀬上は周囲の瓦礫を撃って回る。
こちらの方面に来た歩兵部隊の協力により、KVでは見過ごしてしまうような場所もカバーされ、索敵は順調に進んでいた。
「こちら側には敵の伏兵はいないようだねぃ」
「油断は禁物ですが、恐らく問題ないでしょう」
瀬上も同意した。
「私は見晴らしの良い場所で砲撃準備をしますので、ゼンラーさんは警戒をお願いします」
「おお、了解だねぃ」
2機のKVの動きを捉える怪しい双眸が、建物のの瓦礫の中で光っていた――。
●側面攻撃班2‐1
「きゃあ!」
守部のバイパーがバランスを崩して倒れる。
ゼンラー、瀬上班が外れを引いた分、こちらに残りの戦力が全て投入されていた。
「結衣君、前衛は私に任せて」
夢守はガトリングナックルで守部に取り付こうとするケルベロスを威嚇し、注意が向いた所をKVハンマーで攻撃を加える。
「今だよ、態勢を整えて」
守部は倒れた機体を起こし、量産型機槍「宇部ノ守」を振り回してキメラ達を寄せ付けない様にする。
こちらの敵戦力はケルベロスが5体とヒドラが2体。KVとは言え、2機では少々厳しい戦闘となりそうでだ。
「ケルベロス鍋を食べるまでは死ねないからね」
もしおいしかったら、本部食堂のメニューに加えてもらう野望を胸に、夢守はキメラ群目掛けてガトリング砲を掃射した。
●伏兵1
瀬上の砲撃が加わった事で正面攻撃班の戦力は倍増し、更に2体のケルベロスを葬り去る。
「残り3体ですね‥‥」
上条は、敵キメラの残存を確認して長距離バルカンで孫六をバックアップする。
「夢守氏の方が苦戦しているらしいから、早めに倒して援護に回ろうかのぅ」
「それはこちらで行こうかねぃ」
ゼンラーが通信に割ってはいる。
「可能なら頼む」
孫六が援護を依頼しようとしたその時!
「ぐっ!」
突如機体が被弾し、ゼンラーの機体が大きく揺れた。
「どうした!?」
「ワームが出て来たよぅ。やはり伏兵がいたみたいねぃ」
●側面攻撃班1‐2
ゼンラーと瀬上を襲ったのは1体のレックスキャノンであった。
穴を掘って機体を隠し、更に上から瓦礫を被せて偽装していたので発見が難しく、歩兵部隊も地中の索敵までは行っていなかった。
瀬上もすぐさま応戦準備の為、向きを変える。
「よくもやってくれたねぃ。行くよぅ! 『さきがけ』、出る!」
ゼンラーが機杖「アスクレピオス」でワームを迎えうつ。
跳躍して避けた所を、瀬上が電磁加速砲「ブリューナク」で狙い撃つ。
「ナイス! 瀬上さんっ!」
被弾して落ちたワームはすぐさま跳ね起きたが、近接武器の射程内に捕らえられていたので、ゼンラーの杖と剣の連撃の餌食となった。
咆哮をあげて退き距離を取ったワームは、砲撃戦に持ち込もうとする。
「砲撃戦はこちらも得意なんでね」
ゼンラーを狙ったワームに、行動力全消費でショルダーキャノンとブリューナクのWバーストをお見舞いする。
よろけて狙いの逸れたワームの砲撃は、明後日の方向に放たれた。
「1機で2機を相手にしても無理があるねぃ」
無人のレックスキャノンはスパークワイヤーで絡み取られ、ハイ・ディフェンダーで首を落とされ沈黙した。
「こちら瀬上、伏兵は片付けた」
●側面攻撃班2‐1
夢守の放ったハンマーで、ぐしゃりとケルベロスが潰れて周囲に肉片と血飛沫を撒き散らす。
KVハンマーは、既にキメラの血肉でべったり紅く彩られていた。
「ガドリング掃射。夢守機左右確保。今です」
守部も戦闘に慣れて来たのか、いつもの平静を取り戻して夢守を支援する。
ヘビーガトリング砲の掃射によって、ヒドラの1体が蜂の巣になって吹き飛んだ。
「‥‥ARインターフェース展開。歩兵部隊の損耗度検索‥‥把握。敵情報確認。判明している敵情報を送信します。確認を」
更に索敵に向った歩兵部隊の状況把握も行っており、分かる範囲の情報を各機に提供していた。
「何とかなりそうだね」
二人の奮戦によって、残りのキメラはあと1体となっていた。
「‥‥敵ケルベロス捕捉‥‥来ます」
「これで終わりだよ」
守部のガトリングが火を噴き、弾け飛んだ所へハンマーが打ち下ろされる――!
●伏兵2
「さすが傭兵だな。こうもあっさりと片付けちまうとは‥‥恐れ入った」
――ポタ。
雨でもないのに液体が一滴落ちて来て、護衛の兵士が上を見て『それ』に気付く。
「軍曹! 上を!」
兵士が銃を構えるよりも早く、『それ』は軍曹に襲い掛かった!
「――ぐふ!」
『それ』は小型の虎の様な外見をした1匹のナイフプチャットであった。これも伏兵なのであろう。
「うわぁぁぁぁ!」
「よくも軍曹を!」
二人の護衛兵は、それぞれ奇声をあげてナイフプチャットに銃を発射した。
側にいて一部始終を見ていた上条は、素早く洋弓「アルファル」を持ってKVを降りた。
小型キメラにKVでの対応は難しく、軍曹の手当ても必要と判断したのだ。
上条は、覚醒してKVから一気に飛び降り、竜の翼で一気に接近――! アルファルでキメラの側面を射抜く。
『グァァァォ!』
ノックバックでよろめくキメラに、護衛兵士達が銃弾を浴びせる。
キメラが弾圧で起き上がれない隙に、上条が止めの矢を放ち、ようやくナイフプチャットは絶命した。
「大丈夫ですか?」
上条は軍の救急セットを借りて、そのまま軍曹の手当てを行っていた。
「見っとも無い所を見られちまったな」
軍曹は頭を掻いて照れ笑いする。
「‥‥私には、関東陥落時に行方不明になった従兄がいます」
「‥‥」
「戦争でこれ以上、私が関わった人が傷付くのは見ていられません」
軍曹は黙ってそれを聞き、何も言わず上条の頭をそっと撫でた。
正面のキメラは、ゲシュンペストの放ったキックと三島の獅子奮迅の活躍により全て掃討された。
そして周囲の索敵に赴いていた歩兵によって、指令を出していたと思われる怪しい人物の拘束に成功。この人物の持っていた装置でキメラを操っていた事が判明した。
●陰謀の終局
「ぐふっ!」
痩身の男は、胸を押さえて蹲る。
胸からは夥しい量の血が流れ出ていた。
「上からの命令でしてね。貴方の野心と中尉殺害の件は、既に上にバレています」
「馬鹿な‥‥」
「私は貴方の部下ですが、それ以上にバグアの忠実な僕でもあります」
「くっ、裏切ったな‥‥」
研究員を憤怒の形相で睨みつけながら、痩身の男は息絶えた。
一人の野心家の夢は水泡に帰したが、未だバグアと人類の戦いは、いつ果てる事無く続いている。
勝つのは人類か、それともバグアか? その結末は、まだ誰も知らない‥‥。
<了>