●リプレイ本文
●移動開始
「へーっ、川って言うからどんなもんかと思ってみたッスけど、意外と大きいッスね」
六堂源治(
ga8154)は、開口一番、その川幅の広さに驚いた。
「定員200名前後の客船が航行可能ですからね。深さも結構あるかも知れませんよ」
ヨネモトタケシ(
gb0843)が六堂の感想に反応を示す。
傭兵達は、現地に最も近いUPC東アジア軍の駐屯基地に降り立ち、機体と予備の弾薬、燃料などのチェックを済ませて現地へと向っていた。
無論現地に一番近い基地である為、ここからもF‐114岩龍改と戦車を含む快速展開部隊が派遣されたが僅か十数分で連絡が途絶えた。
来るべき大規模作戦を前にして、これ以上の戦力消耗は避けたかった事から、傭兵達へのザポートは出発前のメンテナンスと補給に止められたのだ。
「ジャミングが少し強くなって来たな、そろそろ現場が近い」
伏兵や待ち伏せなど、周囲に気を配っている抹竹(
gb1405)が、敵の索敵範囲内に入った事を知らせる――。
●バグア兵対ナイトフォーゲル
「アイザック・ソマーズ中尉、敵のKV部隊がこちらに接近中との事です。機体色やエンブレムなどに統一性が見られない為、恐らく傭兵部隊ではないかとの報告です」
「おう、ついに来やがったか。ここの奴らは歯応えが無くて困っていた所だが、これで楽しめそうじゃないか」
中尉と呼ばれた屈強な体格の男が、これまた同じく屈強な体格の曹長から報告を受けた。
「はっ。これより応戦準備に入ります」
「おう。さて、前回の借りを返させて貰うぜ。傭兵さん達よっ」
不敵な笑みを浮かべて、アイザックはアヌビスへと乗り込んでいった。
「攻撃開始!」
突如歩兵部隊による攻撃が傭兵達のKVに向けて一斉に襲い掛かった。
「くっ、ワームだけじゃ無かったようだな」
先頭を行く須佐 武流(
ga1461)が、歩兵部隊の放ったバズーカ砲の直撃を受ける。
「生身でKVに挑むなんて無茶にも程があるわ! 敵の隊長は頭まで筋肉なのかしら」
藤田あやこ(
ga0204)は、バルカンを掃射しながら悪態をつく。
実際アイザックと面識がある訳ではないが、どの兵士も無駄に筋肉のついた男達であった為、隊長像も容易に想像がついたのだ。
「あら、どうしましょうね‥‥」
水無月 魔諭邏(
ga4928)は少し困りながらも、ライト・ディフェンダーの風圧で歩兵達を吹き飛ばす。
「向って来るなら仕方ない‥‥これは戦争だからな。俺達にも帰りを待っていてくれる者がいるから、こんな所では死ねん」
愛する妻の事を思いながら、漸 王零(
ga2930)はハイ・ディフェンダーで遮蔽物ごと歩兵達を薙ぎ払って行く。
なまじ手加減して苦しませるよりも、一瞬で即死させる方を彼は選んだ。
KVの武装は歩兵相手には強力過ぎた。倒された彼らは皆、良く分からない形状の肉塊へと姿を変えていく――。
「こんな無謀な命令を下すなんて、正直許せませんね」
普段は温厚な辻村 仁(
ga9676)も憤慨極まっていた。
「まぁ、これも任務の内って事で」
抹竹(
gb1405)も、気乗りはしないが、任務して自分を納得させる。
序盤戦はKVの圧勝であった‥‥。傭兵達のKVには、返り血と砲弾の煤が付着して黒ずんでいたが、損傷は殆ど受けていない。
「‥‥‥一刻も早く奴を止めないと死者が増える」
傭兵達は、血の海と化した大地を踏み越え、冥府の王の待つ戦場へと進んで行く。
●戦闘開始
傭兵達がブイの設置場所に到着した時には、既に迎撃の準備が整えられていた。
足止めが彼ら歩兵部隊の任務であるとするならば、十分に任務は全うされた事になる。
「まずは陣形を崩すぞ! その後は作戦通りに頼む」
『了解』
仲間の声を合図に、王零が飛び出した。
「武流、アヌビスをゴーレム共から切り離すぞ!」
「分かった」
須佐はバルカンで牽制を行い、アヌビスとゴーレムとの空間に疎と密の変化を付けた弾幕を形成する事で少しずつ引き離しに掛かる。
「今だ!」
合図と同時に王零がアヌビスにハイ・ディフェンダーで斬りかかって更に遠ざけ、辻村、ヨネモト、抹竹のゴーレム班も、開いた空間に割り込む形でゴーレム部隊を引き離す。
「では、わたくしはブイの破壊に参りますわね」
魔諭邏のアンジェリカが、ショートブーストで駆け抜け河川を目指す。
それを見たレックスキャノン(以降RC)がアンジェリカに砲身を向け、発射態勢を取った。
「あなたの相手はそっちじゃないわ」
藤田のビーストソウルが、入手したばかりの試作型「ブリューナク」を発射。
無人機は尻尾のアウトリガーを固定して低姿勢で発射態勢に入っていた為に即応が出来ず、直撃弾を食らう。
反動対策のアウトリガーにより、着弾の衝撃を後方に流せなかったRCは思った以上に損傷を受けた。
「ありがとうございます」
魔諭邏は礼を言うと、そのままブイの設置場所を目指す。
「藤田のそれ、良いッスね。俺も欲しくなったッス」
そう言いながら六堂は、被弾したRCが態勢を立て直す前にスラスターライフルで追い討ちを掛け、ブーストで一気に間合いを詰めてエグツ・タルディで撃ち貫いた!
物理耐性の緑であったが、残りのHPが減っていたRCには、耐性も意味は無かった。
「‥‥あげないわよ」
「残念ッス‥‥」
会話の終了と同時にRCの1機が爆発炎上する。
「では、俺はアレをもぎ取って見るッスよ」
六堂の言う『アレ』とは、RCのキャノン砲であった。
バグアの兵器は人類側では全く使えないのだが、冗談ではあっても手に入れたという満足感だけは得られる。
「どこに付ける気かしら」
フッと笑みをこぼした藤田も六堂に続く。戦闘はまだ終わっていない。
残りの1機は、エグツ・タルディの威力を警戒して距離を取ろうと移動を開始していた――。
●鷹視狼歩
「どうした!? お前達の力はそんなものなのか!?」
ゴーレムとの引き離しに成功したアヌビス班であったが、エステル・カートライト(gz0198)が搭乗していた頃とは全く違う仕様のアヌビスに翻弄されていた。
「くっ!」
須佐のバルカンとレーザーカノンの弾幕は、二つの巨大円月輪で完全に防がれる。
王零のジャイレイトフィアーの初撃は見事に交わされ、現在は扱いやすいハイ・ディフェンダーに切り替えていた。
エステルの場合は、慣性制御システムに強化スラスターとブーストを追加した、強烈なGの掛かる機体であった。
それに対してアイザックの機体は、強化スラスターが全て外されエースゴーレムに標準装備されている強化型回避能力を使う事で、よりマイルドな回避を可能としていた。
代わりに固定された練力を毎回消費する為、大型の燃料タンクが増設されている。
「俺は戦争のプロだからな。ベッドの上で青い顔をしていた素人の姉ちゃんとは訳が違うんだよ!」
アヌビスは慣性制御システムで軽く浮遊すると、滑るように水面を移動する。
全てに於いて、今までとは比べ物にならない程滑らかな動きで隙がない――。
「食らえ!」
アヌビスは8つに分身して王零に肉薄する!
「その手は食わん!」
王零はレーダーに一瞬目を向け、本体に当たりを付けて斬り込む!
「――フハハハッ!」
アイザックの勝ち誇った笑いに、何か嫌な空気が場を支配した。
「――何!?」
王零は目を疑った!
虚像であるはずのレーダーには、8つの影が『点滅』しながら映し出されていたのだ――!?
●ゴーレム旋風陣
アヌビス班も苦戦していたが、こちらもゴーレムの動きに翻弄されて苦戦を強いられていた。
「くっ、これでは近づけませんね」
双機刀「臥竜鳳雛」を構えたヨネモトのアヌビス『黄泉』が、ゴーレムに斬り込んだが間合いが違い過ぎて退いた。
3体のゴーレムは背中合わせにくっ付き合い、慣性制御システムで浮遊すると、持っていた大剣を水平に構えて回転し始めたのだ。
大剣による物凄い風圧で砂塵が舞い上がって視界が悪く、リニア状態での高速回転は、能力者の動体視力を以ってしても見切れなかった。
しかも回転を維持したまま移動も出来る為、3人は回避行動を取りながら打開策を思案していた。
「駒は軸がぶれると転倒しますけど、どうでしょうか」
辻村がツングースカで足元を狙いながら発言し、軸をぶらせて転倒を狙う。
だが高速回転による均等な遠心力が、ツングースカの弾圧を上回っており、ぶれるまでには至らない。
「うーん、軸攻撃はだめみたいですね」
「なら、上からってのはどうかな」
抹竹はそう言ってKVをジャンプさせた。
「どうだ?」
上空から同じくツングースカをお見舞いするが――、持っていた大剣を捧げ持つ事で防御された。
「ゴーレムのくせにやるじゃねえか‥‥」
「得物はあの大剣だけですから、こっちも連携でいきましょう」
「作戦は?」
「自分がスラスターライフルで軸攻撃をして注意を惹きますので、その隙にお二方で上空より攻撃して下さい」
ヨネモトの提案で傭兵側も連携による反撃に転じた。
スラスターライフルによる挑発に乗ったゴーレム達は、ヨネモトを斬り刻もうと移動を開始――。
「チャンス!」
辻村と抹竹の機体二機が、呼応してジャンプ! ――ゴーレムの頭に目掛けてツングースカを撃ちまくった。
ダブルツングースカの威力の前に、遂に1機のゴーレムの頭が吹き飛んだ!
「やった!」
辻村が喜ぶ。
1機の頭が無くなり回転が遅れた事で連携は崩れ、3機のゴーレムは遠心力によって弾かれた。
「立ち上がる前に畳み込みますか」
抹竹の白いアヌビスはブーストで1機のゴーレムに詰め寄り、ルプス・ジガンティクスで頭を掴んで締め上げ、地面に叩き付ける!
「あなたに二刀の奥義を披露しましょう」
ヨネモトも続き、臥竜鳳雛の鋭く重い太刀筋がゴーレムの胴を貫いた。
二刀は片手である為、太刀筋に重みが無いと言われるが、それは違っているようだ。
剣術の基本は全体重を乗せて断ち切る事を前提としている為、それは二刀も一刀も同じなのだ。二本の刀が一本の刀に劣るという事はない。
手の平に棒を立ててバランスを取れば、自然と体も動く。それこそが剣の体捌きの基本である。
「よし、貫けグングニル!」
掛け声と共に辻村のポニーテールが大きく揺れ、ゴーレムの巨体を刺し貫く――。
当初苦戦を強いられたものの、ゴーレム班は全機無事に任務を全うした。
「RCの方も片付きそうですから、アヌビス班と合流しましょう」
3機は、須佐と王零の元に急いだ。
●ソナーブイ破壊
時は少しだけ巻き戻り――水無月 魔諭邏は自走式ソナーブイの設置場所へと辿り着いていた。
「急いては事を仕損じます。慌てず速やかに参りましょう」
周囲の喧騒とは裏腹に、彼女の周囲だけは不思議なマッタリ空間が形成されていた。
「では、はじめましょうか」
高初速滑腔砲で、まずは遠くのソナーブイの破壊を試みる。
水中には入らず、陸からの狙撃を狙った――。
ソナーは水中への索敵・攻撃手段を持っているが、陸上からの攻撃には全くの無防備であった。
「やりまたわ、命中です」
彼女は1機破壊するごとに歓喜し、次々と破壊していく。
ミーティングでは、他の傭兵達も破壊を手伝う予定であったが、彼女一人でも余裕のようであった。
しかしこれを面白く思わない者もいた――アイザックである。
「ゴーレム3機はやられちまったか‥‥ちっ、ソナーもかよ」
鹵獲アヌビスは業物を水平に一振りして須佐と王零を牽制すると、急転進を始めた。
「待て! 逃げるのか!?」
今回いい様にあしらわれた二人は、アヌビスを追いかける。その先にある物は――魔諭邏のアンジェリカだ!
●中州空中戦
更にこちらの時も巻き戻そう。
残り1機となったRCを追撃した藤田と六堂の二人。RCは浅瀬から最大跳躍で中州へと降り立つ。
ここにも自走式ソナーブイが数機設置されている為、水中に入れば標的にされる事は必至――。
「高分子レーザーがくず鉄になっちまったんで、知覚攻撃は任せたッスよ〜」
「いいけど‥‥ちょっと試したい戦法があるから試してみない?」
「いいッスね〜。どんなのッスか」
「こういうの――よ!」
藤田のビーストソウルが空を飛んだ! 否、ジャンプした。
そして上空からメガレーザーアイをお見舞いする。
「面白そうッスね。俺もやってみるッス」
六堂もジャンプし、ショルダーキャノンを撃ち込んだ。
が、藤田の攻撃で警戒していた為、今度の攻撃は同じくジャンプで交わされた。
「イエ〜イ! 何だかワクワクして来たッスよ」
「話してると舌噛むわよ!」
ビーストソウル、バイパー、RCの3機は中州を挟んで跳躍を続け、恰も空中戦のような戦闘を繰り返す。
「跳躍力が自慢のようだけど、それもここまでよ」
着地のタイミングを狙ってブリューナクを放つ藤田。
「もらったッス!」
下で待ち受け行動値を稼いだ六堂が、スラスターライフルとショルダーキャノンの連続斉射で止めをさした。
「いや〜楽しかったッスね」
「まだ本命が二つ残ってるわ。行きましょう」
藤田は照れ隠しに剣呑に答えると、周囲のソナーブイを壊して合流ポイントへと向った。
●鹵獲アヌビスの最後
「きゃあ!」
アイザックの鹵獲アヌビスが、魔諭邏のアンジェリカに円月輪で攻撃を加える。
この武器は、盾にもヨーヨーの様に飛ばして斬ることも出来る。
「これで終わりだ」
業物が一閃――、咄嗟に顔を庇う仕草の左腕が斬って落される。
「水無月!」
一足違いで追い付いて来た須佐と王零。
「水無月、一旦引け!」
「うぅ‥‥了解ですわ」
アンジェリカが一旦下がる。しかし彼女も傭兵である為、後方からの援護射撃態勢は忘れない。
王零がアヌビスに斬り込む! アヌビスは業物でそれを受け、二撃目を再び回避能力で逃げる。
逃げた先に須佐が弾幕を張って、再び王零が斬り込む――。
無限とも思われたこの鬼ごっこにも、遂に終止符が打たれようとしていた。
「ちっ、燃料が残り少ねぇ」
鹵獲アヌビスは円月輪を投げ付け、その隙に逃走コースに乗ろうとした。
その時――! 鹵獲アヌビスに火が点いた!
魔諭邏の放った高分子レーザー砲の一撃で、燃料タンクに穴が開いたのだ。
「この程度の炎では、燃え尽きねぇぜ!」
だが、残りの燃料が全て気化した為に、アヌビスはその動きを完全に止めてしまった。
「出直しだ!」
アイザックは脱出装置のボタンを押したが反応しない。
「おい、冗談だよな‥‥」
「元の持ち主の所に返るんだな。武流‥‥止めを刺せ!」
「分かった‥‥」
用心深く近付き、試作剣「雪村」を居合い抜く!
「ひっ!」
そしてアヌビスは、業物ごと袈裟斬りに一刀両断され、アイザックを道連れに爆散した。
全ての決着が付いた頃、分散した傭兵達が集合してきた。
ワーム勢がいなくなった事で、ソナーブイは傭兵達全員の働きで完全に破壊され、任務は大成功を収めた。
(END)