タイトル:農園に巣くう凶悪獣マスター:水無瀬 要

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/31 03:07

●オープニング本文


 ――南米ブラジル・某コーヒー農園にて―― 
 
 5月から9月頃にかけて、ここブラジルではコーヒーの収穫が盛んになる。
 農園の持ち主である老夫婦の孫娘であろう少女が、収穫した豆を小さな両手いっぱいに持って袋詰めを手伝っていた。
 それを見て微笑む老夫婦、そして従業員と共に豆の入った袋を荷台に乗せているその息子。
 平和で長閑な収穫の風景がそこにはあった‥‥。 
 
『ギギィ』
 しかし‥‥その平和を恒久的に維持出来ない『一方的な暴力』がこの世界には存在していたのである。

 
 ――UPC南中央軍駐屯基地――

「注目!」
 急遽召集された傭兵達は、入室してきた担当将校に視線を向けた。

「事前に渡した資料には目を通して貰えたと思う」
 中尉の階級章を付けた20代後半の女性将校の澄み透った声は、ブリーフィングルーム全体に浸透するかのようによく響いた。
「知っての通り、我が国は世界一のコーヒー豆生産国であり、海外輸出量も世界一を誇っている」
「最近バグアの動きが活発化し、ここ数日の間に我が軍の勢力圏内にある複数のコーヒー農園が襲撃されている」
「このままではわが国の国益に甚大な被害をもたらすだけで無く、諸君らが普段飲んでいるコーヒーさえ気軽に飲めなくなる可能性もある」
「諸君への命令は唯一つ!コーヒー園を荒らすバグアを塵さえも残さず完膚なきまでに殲滅せよ!」
「以上。軍曹、後は任せる」
「はっ」
 些か興奮ぎみの中尉はブリーフィングルームを退出した。
 
 その後軍曹により状況説明が続いた。
「被害にあった複数の農園に共通している点は、農園主とその家族、従業員全員が惨殺されている事である」
「手間の掛かる広大な農地を荒らすよりも、人間を襲う事で栽培ノウハウそのものの消失を狙ったようだ」

「今回襲撃された農園の従業員が、実戦経験を持つ退役軍人であった為、軍への通報が迅速であった事が幸いした」
「しかし我が軍が到着した時には、既に老夫婦とその息子、孫娘は五体を引き千切られ死亡しており、遺体は既に回収済みという報告である」
「通報してきた従業員も重体の為、現在は入院中である」
「確認されたキメラは2体のチュパカブラス。奴等は現在我々の包囲網の中にいるが、探索範囲は決して狭くは無い」
「一時的な重火器の使用により包囲網を狭め、探索範囲の縮小には成功した」
「どうにか包囲網を維持出来ているが‥‥こちらも既に28人もの負傷者をだしており、突破されるのは時間の問題である」

「フレア弾で無人となった農園ごと焼き払う案も出ていたが今回は却下された」
「ここの農園はアマレロブルボン種という希少豆の産地である為、可能な限り損害を最小限に抑えて欲しいと政府からも要請が来ている」
「我々UPC南中央軍は、引き続き探索範囲周辺の包囲を担当する」
「万が一キメラを発見した場合、照明弾を打ち上げて諸君らに位置を知らせる予定だ」
「諸君らの健闘を祈る」

「それとここだけの話だが、襲われた老夫婦一家は‥‥中尉のご家族だ」

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ルクシーレ(ga2830
20歳・♂・GP
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
ゴリ嶺汰(gb0130
29歳・♂・EP
トリストラム(gb0815
27歳・♂・ER
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
早坂冬馬(gb2313
23歳・♂・GP
三塚綾南(gb2633
25歳・♀・ST

●リプレイ本文

●作戦開始
 傭兵達は増援部隊と共に、ヘリでは無く年代物の兵員輸送トラックで現地へと移動していた。ヘリの爆音でキメラに余計な刺激を与えない為の配慮である。
 道路の両側には、さとうきび畑をはじめとした様々な農園地帯が、途切れる事も無くどこまでも続いている。
 トラックに揺られながら、今回のミッションについての作戦を話し合った。
 依頼受領当初ULTに申請のあった罠用防犯ブザーだが、予算の都合で一人6個までしか支給されなかった。
 全員分合わせて48個分の罠を、いかに効率良く配置出来るかが腕の見せ所とも言えた。
 一通りの作戦案を纏め上げた後ルクシーレ(ga2830)は、作戦をまとめてくれた聖・真琴(ga1622)に感謝した。
「聖さんみたいな頭のいい人がいると助かるね。彼女が作戦をまとめてくれたおかげで、俺の発言もいい具合に役立ててもらえたみたいだ」
 今回の探索については、ルクシーレが提案して聖・真琴がそれを纏めるなど、ベテラン傭兵達の作戦が光っていた。

 最寄の駐屯基地から約1時間半程で現地に到着した一行は、すぐさま装備を整えて行動を開始した。
「良い場所なんだが、これじゃぁな」
 現地に到着して最初に目の当たりにした光景を見て、ゴリ嶺汰(gb0130)は呆れてしまった。
 対バグア戦用に大幅改装された戦車や対地ミサイル車両も包囲網縮小作戦に投入されたようで、農園周辺は見るも無残な状況となっていた。
 貰った包囲マップを元にA〜Dの4つの区画に分けて、A区画から順番にトラップを仕掛けて行く事が全員一致で決まった。
「さて、コーヒー畑の害虫駆除。慎重にいきましょうか」
 早坂冬馬(gb2313)は大のコーヒー好きで、コーヒーが気軽に飲めなくなるという危機に黙ってはいられなかった。
(「ほんと、コーヒーを飲めなくなったら困るからな」)

●A班
「しかし、何で軍が到着するまでに、キメラは逃げなかったんだろうな? 到着まで1時間以上は掛かってたはずなんだがなぁ」
 ルクシーレは周囲を警戒しながら疑問を口にした。
「キメラの与えられた命令が全員抹殺だったので、通報に向かった従業員を探していたのかもしれませんね」
 トリストラム(gb0815)が罠を仕掛けながら答えた。
「なるほどなぁ」

「上手く掛かりそうですかね? キメラ」
 早坂は、側で周囲の警戒に当っていたエリアノーラ・カーゾン(ga9802)に問いかけてみる。
「そうね、キメラは知能も低いし本能だけで動いているようだから、罠があっても気にしないかも知れないわ」
「そうなんですか」
「よし、設置完了です」
 トリストラムが最初の罠を仕掛け終えた。

●B班 
 一方樹木を境にした反対側の探索をB班が担当していた。
(「チュパカブラス? っとにアイツら‥‥おちょくってンの?」)
 聖・真琴は両親を目の前で殺されており、家族を失った中尉と感情がリンクしていたのか些か興奮ぎみであった。
 ヨネモトタケシ(gb0843)も又、大切な人達を亡くした事もあるので、一見冷静さを保ちながらも、その胸中は熱かった。
(「完膚なきまでに、ですか‥‥遠慮は要らなそうですねぇ。するつもりも無いですが」)

 B班では、今回が初陣である三塚綾南(gb2633)が罠を仕掛けていた。
 面倒そうなので手伝い気分で参加したものの、自分が周囲の警戒と戦闘を担当する訳にもいかず、結局見よう見まねで罠を担当する事になったのである。
「サクサクっと終わらせて次にいきましょ」
 そう言って次の罠を仕掛けに向かった。

 ゴリ嶺汰は『探査の眼』を使い足跡や痕跡といったものに神経を集中させていた。
(「子供もいたようだな」)
 小さな足跡を見つけ、そういえば老夫婦には孫娘がいた事を思い出した。
 少し先で樹木に付いた血痕も発見した。
 軍によって血生臭い痕跡は殆んど清掃されたが、事件の痛々しい傷跡が見えてしまうのはこのクラスの宿命とも言えた。
(「平和な農園で老若男女無差別とは、これはまた随分なキメラだな。やったことの落とし前をつけさせよう」)
 キメラ討伐に闘志を燃やすのであった。

 途中キメラの襲撃も無く、簡単な作業だったので罠は順調に仕掛けられていった‥‥
 やがてA区画の設置終了間際の頃、突如4時方向から軍の照明弾が打ち上げられたのだった!

●戦闘・パート1
 照明弾の数は1つであった。
 事前にキメラの数に合わせて打ち上げる本数を決めていたのである。
「先に行くよっ!」
 軍からのキメラ発見の合図を受けた傭兵達は、グラップラーのみが『瞬天足』で急行し、他のメンバーは後から合流する作戦を取った。
 発見場所に向かったグラップラーは、聖・真琴、ルクシーレ、早坂冬馬の3人である。
「やってやろうじゃん。ナメた真似したツケは、キッチリ取り立ててやる」
 聖の興奮は覚醒によって更にヒートアップしていた。

 現場に近づくにつれ、自動小銃の発射音が徐々に大きくなっていく。
 3人はキメラを探した‥‥
「いた!」
 丁度ロケットランチャーの攻撃がキメラに開始された直後であった。
 大地を揺るがすよな爆音と煙が上がった‥‥
 しかしロケットランチャーの攻撃さえも、フォース・フィールドにより守られたキメラには蚊に刺された程度でしかなかった。
 
 先頭を切って仕掛けたのは聖・真琴であった。
 旋風脚でグラップラーの利点を最大限に活かしながら、ルベウスが見事キメラに命中した!
 少しふらついた所をルクシーレのバスタードソードと、早坂冬馬の漆黒に染まったベルセルクが一閃する。 
 素早さに定評のあるグラップラーの猛攻に、今までの相手とは勝手が違うと思ったのだろう‥‥キメラの筋肉がメキメキと音を立てて盛り上がってきた。
 スピードこそ変わらないが、まともに食らえばタダでは済まない事は間違いが無かった。 

 キメラは、立ち位置で最も距離が近い早坂冬馬に向かって体当たりをしてきた!
「くっ!」
 命中力を特に強化されたチュパカブラスの体当たりが早坂を襲う。
 ソードブレーカーで受け流す事には成功したが、無傷という訳にはいかなかった。
「ンなろ!」
 聖の足技がキメラの足元に命中し、ダメージは無いが一瞬バランスを崩す事には成功する。
「いってえなあ、おい」
 早坂も黙っていない。よろめいたキメラの目に一撃を加えた!
『ギギィーーー!』
 目を押さえてのた打ち回るキメラ。瀕死状態で立ち上がる気力も無い。
「怖い? ‥‥ンな資格はねぇよ。這い上がれねぇ闇の底で寝ちまいなっ!」
 聖の止めの一撃により、1体目のチョパカブラスは絶命した。

●戦闘・パート2
 一方グラップラー達を追いかけていた残りのメンバーも又、緊迫した状況となっていた。
 後方で仕掛けておいた防犯ブザーが鳴った為である。
 ここは人数を分断する愚を避け、全員で音の鳴る方へ戻る事となった。

 鳴っていたブザーは発見したが、肝心のキメラがいない‥‥
 戦闘時の練力を温存しておきたかったゴリ嶺汰に代わり、エリアノーラが探査の眼で周囲を索敵する。
「!」
『ギギィ』
 頭上から何かが落ちて来た! 
 探査の眼は頭上に潜むキメラを発見したが間に合わなかった。
 些か不本意ではあったが、意表を突かれた形で第二戦は開始された。

 着地したキメラは一番近くにいたエリアノーラに鉤爪で攻撃を仕掛けてきた!
 頭上の異変にいち早く気が付いていたエリアノーラは、自身障壁で防御しつつプロテクトシールドで徹底的にガードした。
 二撃目もしっかりとガードし、ノーダメージで時間を稼ぐ。
 
 エリアノーラが稼いでくれた数秒の間に、他の者達が次々と戦闘態勢を整えていく。
 三塚綾南はゴリ嶺汰、トリストラム、ヨネモトタケシに練成強化のスキルを施す。
「ちゃちゃっと潰してきなさいな!」
 三塚のエールを受けたゴリ嶺汰は、温存していた紅蓮衝撃も上乗せした蛇剋で斬りかかる!
「跡形も無く、消し飛ばして差し上げます」
 トリストラムの、真デヴァステイターが見事キメラの頭部に炸裂した!
 
 頭部と胸元からも出血し、フラフラになったキメラは形勢不利とみて逃亡しようとした。
 そこに双剣を構えたヨネモトタケシが仁王立ちして退路を断つ!
「この双撃‥‥刻ませて頂く!」
『ギギーーー!』
 二段撃によって吹き飛んだ2体目のチュパカブラスは、全身をピクピクと痙攣させていたが、やがて動かなくなった。

●それぞれの思い
 傭兵達がキメラを退治した頃合いを見計らっていたかのように、一台の軍用ジープが現地に到着した。
 ジープの乗員が降車すると、周囲の隊員達が一斉に敬礼した。乗員は今回の事件の被害者でもあった中尉である。
 数名の部下を護衛に付けて、事後処理に当っている傭兵達の元にやって来た。
「諸君、ご苦労だった」
「帰りは途中から軍用ヘリを用意させたので、乗り換えてもらう予定だ」
 そう言って疲れた傭兵達に労いの言葉を掛けた後、側で死んでいるキメラに向かって唾を吐き捨てた。
 これが人間の死者であれば冒涜にもなるが、殺戮の為に作られた野獣であり、家族を殺害されたとあれば仕方の無い行為と言えた。
 あくまでも公務としての立場を貫いた彼女の見せた、ほんのささやかな私情だったのかも知れない。
 ここに集まった者達もそれを肌で感じたのか、自然と亡くなった人達の冥福を祈った。
 やがて夕暮れも近づき、涼しさを増した一陣の風が吹き抜ける‥‥それぞれの思いを乗せて。

―― 数日後 ――

 傭兵達にメッセージカード付きの焙煎されたコーヒー豆が送られてきた。
 メッセージにはただ一言、『Obrigada(ありがとう)』と書かれていた‥‥