タイトル:【Woi】白衣の魔女救出マスター:水無瀬 要

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/09 09:40

●オープニング本文


 現在、UPC北中央軍を中心とした大規模作戦(略称【Woi】)が開始されており、五大湖周辺の各地域でも激戦が繰り広げられていた。
 それらは市街地戦のような比較的大きな戦闘もあれば、村落単位での小規模な攻防戦に至るまで様々であった。
 軍総司令部の立案した【Woi】は、シェイドやステアといったバグアエース機の撃破を主目的とした、UPC北中央軍の総力をあげた『囮作戦』である。
 構想は大胆にして緻密を極めたが、囮作戦である以上、敵を引き付ける役割を担った多くの兵士達にとっては、凄惨を窮めた激しい戦闘が随所で行われていた。

<北米・五大湖周辺某所>
「くそ! 援軍はまだなのか!?」
「落ち着け! ヤケになったら敵の思う壺だぞ!」
 軍曹の階級章を付けた兵士が、焦る一等兵を嗜める。
「ちっ! キメラ野郎め! くたばりやがれ!」
 一等兵は叱責の怒りも加えてキメラの群れにありったけの弾丸をくれてやる。

 第23歩兵小隊――これが彼らの部隊名である。
 詳しい所属については任務上の秘匿性や軍規による機密に抵触する恐れもある為控えるが、バズーカ砲や対戦車ライフルといった武装である事から、対キメラ戦闘部隊である事は想像に難くない。

「ぐあぁぁ!」
 1匹のキメラが兵士に牙を立てる。
「――! てめぇ、離しやがれ!」
 側にいた兵士がキメラの胸に3発、更に至近からこめかみに2発の弾丸を撃って引き剥がす。
 剥がされたキメラを投げ捨て、側にいた全員でありったけの弾丸を撃ち込む!
 キメラはフォースフィールドに守られてはいるものの、やはり集中攻撃は痛いらしく後方に逃げた。
「おい! 大丈夫か!?」
 首筋から大量の出血――応急処置で止血はしたものの、一刻も早く輸血しないと命に係わる。
 小隊員は当初20名いたが、既に8名が戦死。戦死者の中には小隊長も含まれていた。
 残りの12人の内5名が重態の為隊を維持出来ず、援軍を要請したのだが未だ援軍が来る気配さえ無かった。

 第23歩兵小隊は、郊外の一部地域を占領している小型キメラ排除の命令を受け任務に就いた。
 しかし小型と言う情報は誤りであり、大型キメラ数匹を含んでいた為、初戦で小隊長を含む名もの損害を出した。
 部隊は負傷者を収容させる為に避難の終わった民家に立て篭もり、バリケードを張って応戦――現在に至っている。

 キメラの大群が包囲網をじりじりと狭めて来る。
「死なばもろとも‥‥弾が尽きるまで戦い抜いて死んでやるぜ」
 軍曹は覚悟を決め、正に突撃の合図をしようとしたその時――!

 突如キメラの軍勢が爆炎に焼かれた!

「なんだ!?」
 軍曹は双眼鏡で現状把握に努める。
「――! おっ、援軍の到着のようだぜ!」
『ヒャッホウ! やったー!』
 一同が奇声をあげて喜ぶ。
 援軍に駆けつけたのはリッジウェイ1機と護衛のKV2機の3機編成であった。援軍としては規模が小さい気もするが、キメラ相手であれば、KV3機でも十分ではあった。

 リッジウェイから一人の傭兵が降りて来る――15歳くらいのポニーテールをした白衣の少女である。
「皆さん、大丈夫ですか? 司令部の情報網を通じて負傷者の救護に参りました」
「そうか、手間掛けてすまねぇな。俺はミラーだ。隊長が戦死されたんで、俺が一応指揮を任されている」
「はじめましてミラー軍曹、御津川 千奈です」
 御津川 千奈(gz0179)は初対面の軍曹に対し、丁寧に挨拶を述べた。
「挨拶はそれくらいにして、急いであいつらを野戦病院に運ばねぇとな」
 軍曹の視線の先に重傷者が数人いるのが目に入る。
「分かりました。では私のリッジウェイのベッドに運んで下さい。練成治療で応急処置をします」
「おう、頼まぁ」

 護衛のKV2機は傭兵ではなく、UPC軍の機体である。
 援軍の要請を受けた司令部が派遣を予定していた機体であり、千奈とは偶然にも途中で合流する形となったのだ。
 彼らの任務はキメラを掃討して歩兵部隊の脱出路の確保する事であった為、千奈の機体の護衛は任務に入っていない。
「おい、どうする? 任務には含まれてないが、こいつはいい的だぞ」
 千奈のリッジウェイをモニター越しに顎で杓り、僚機に訊ねてみる。
「傭兵が勝手に付いて来たんだ、俺は知らんよ。それよりも油断してるとKVでも危ないぞ!」
 僚友は数体のキメラに張り付かれており、それどころではない状態である。

「ちっ、こっちの護衛は無しかよ‥‥。おいお前ら! わざわざ来てくれた嬢ちゃんの為にもうひと働きするぜ!」
 軍曹の一声で第23歩兵部隊はぐるりと円陣を組み、千奈の機体の護衛に回る。
「やつらを近づけるな!」
『了解!』

 激しい銃撃戦の最中、それは突然襲い掛かった!
「ぐはっ!」
「――! おいどうした! がはっ!」
 相次いで2機のR−01改が地に伏す。
「なんだ!?」
 重厚な地響きを立てながら巨大な姿を現したそれは――『レックス・ワーム』(別名・REX−Canon)であった。

「おい、動けるか?」
「だめだ、今ので動力部を撃ち抜かれている」
「油断した‥‥脱出して歩兵部隊と合流するぞ」
「分かった」
 KVのパイロット2名もSES装備搭載武器を持って歩兵部隊と合流するが、相手がワームとなると話は違って来る。
「嬢ちゃん――いや、先生と呼ぶべきかな。ワームが現れてKVが全滅しちまった。すまんが急いでここを離れたい」
「分かりました」
 千奈は練成治療を中断し、リッジウェイを走らせた。負傷者を乗せられるだけ乗せて、動ける者達は片手で機体に掴まり、追って来るキメラ達に銃撃を加える。

 ――突然リッジウェイが急停車!
「っとっと。‥‥ん? おいおいマジかよ!?」
 軍曹は悪夢でも見る目で前方を見据える――そこには更にもう2匹のレックス・ワームが立ち塞がっていた!

●参加者一覧

ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
白皇院・聖(gb2044
22歳・♀・ER
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ドニー・レイド(gb4089
22歳・♂・JG
水無月 神楽(gb4304
22歳・♀・FC
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
安藤ツバメ(gb6657
20歳・♀・GP

●リプレイ本文

●魔女の騎兵隊到着
「後ろに下がります!」
 外部スピーカーでそう宣言すると、御津川 千奈(gz0179)は、前方のレックス・キャノン(以降RC)を避けるべく転進を図る。
 前門の狼、後門の虎という状態であったが、後ろの方がまだマシに思えた。
 転進するリッジウェイに、RCのキャノン砲が襲い掛かかる!
「きゃっ!」
「全員機体から離れろ!」
 リッジウェイに掴まっていた第23歩兵部隊は、全員降車して散開する。リッジウェイの被弾は、彼らにとっても死を意味している。

 幸いにも大破は免れたが、機体の一部をビームで抉られ黒く煤ける。
 どうにか初撃の危機は脱したものの、依然状況は最悪を極めていた。
「ごめんね」
 千奈は申し訳無さそうに断ると、キメラ群の壁をガトリング掃射によって切り開く。
 彼女は星型キメラ『スターマイン』との経緯から、心底キメラを憎めないのだ。

「オラオラ! どきやがれ!」
 一方第23歩兵部隊は、そんな千奈とは異なり、憎しみと怒りを込めてありったけの火器をキメラに撃ち込む。
 距離の詰まったRCは、キャノン砲を使わずリッジウェイに急接近――鋭利な爪で機体を引き裂きにいく。
 更に2体のRCにも追い付かれたリッジウェイは、3体の肉食獣に囲まれた子羊状態となる。
 1体がリッジウェイに牙を立てると、残り2体も一斉に噛み付いた。

 金属の軋む嫌な音が戦場に響き渡る。
 千奈は至近からガトリングの雨を降らせようとしたその時、待ちに待った無線がコクピット内に響く。
「そこの医療用LM−04、聞こえるか。これより支援する」

●新たなる脅威!
「あ、皆さん救援隊が来ましたよ!」
 千奈は礼を述べるのも忘れて乗員達に援軍が来た事を知らせた。
「その声‥‥御津川千奈、君か?」
 通信を送ったリヴァル・クロウ(gb2337)は、リッジウェイのパイロットの声の主に聞き覚えがあった‥‥。
「千奈、そっちは大丈夫? それと部隊の方も無事?」
 柿原ミズキ(ga9347)も、その声が千奈本人であると確信。部隊の安否と現状を訊ねる。
「20名の内戦死者が8名‥‥。残り12名の内重傷者が5名です。今の所全員無事です」
「了解した。遅くなって済まない。魔女の騎兵隊のご到着だ!」
 御津川 千奈がいつも白衣姿に黒い三角帽子を被った風貌から、ドニー・レイド(gb4089)が即席で付けた部隊名であったのだが、便宜上そのまま部隊名として採用された。

「皆さん、救援ありがとうございます」
 千奈は手短に礼を述べるとブーストを全開! 盾で押しのけるようにして包囲網を突破。
 機体が離れた事を確認した魔女の騎兵隊は、作戦通りRC1体に対し一斉攻撃を開始!
 最も手前にいたRCが、ミサイルポッドと銃弾の雨に蜂の巣となる。

 攻撃を受けたRCは咆哮をあげると、獰猛な牙を剥いて緑色の巨体を揺らしながら魔女の騎兵隊目掛けて突進して行く。
「追撃されても面倒だ。目の前の敵は全部蹴散らす!」
 そう言ってゲシュペンスト(ga5579)はガトリング砲を発射。しかしRCは驚くべき跳躍力で、ゲシュペンストのリッジウェイを飛び越えた!
「な‥‥に!?」

「ここは私達におっ任せー!」
 本家元気少女の安藤ツバメ(gb6657)と水無月 神楽(gb4304)のA班が前に出る。
 千奈も本来は元気少女なのだが、あちらは猫の皮を何十枚も被っている為、周囲には『大人しい子』で通っていた。
「水無月神楽、いざ参る!」
 名乗りをあげた水無月は、安藤の一撃を助ける為にバルカンで堅実に支援。
「いっけー!」
 安藤は特殊能力を使用、ブーストで一気に詰めてレッグドリルで膝蹴り! ――しかし避けられる。
「なら、これでどうだ!」
 更にホールディングバンカーで首根っこを押さえ込み、杭を一気に打ち込む!
 尻尾を激しくばたつかせて最後の抵抗を試みるが、程無くしてRCは力尽きた。
「よし! まずは作戦通りかな」

 3体の内1体のRCを撃破した魔女の騎兵隊は、4班に分かれて歩兵部隊の収容準備に取り掛かった。
 友軍機が敵を引き付けている間に、3機のリッジウェイに歩兵を収容して突破を試みる――という作戦である。
「これ以上殉職者を出したくねえからな。すまねえが世話になるぜ」
 第23歩兵部隊は多くの負傷者を抱えている手前無理はせず、素直に救援部隊の指示に従った。
「申し訳ありませんが、お二人共収容させて頂きます」
 白皇院・聖(gb2044)はUPC軍能力者に対し、丁寧でありながらも強い意思を以って指示に従って欲しいと要求した。
 当初は対キメラ戦の戦力として当てにしたが、RCが予想以上の強敵であった為に急遽方針を変更したのだ。
 当然二人の能力者は固辞したが、被弾したKVの破片が側を掠めた事で状況は一変、不承不承ながらも従うしか無かった。

「いたたっ、やったなぁこいつ!」
 被弾したKVとは、現在B班と合流して戦闘を行っている安藤の機体『ガンバイザー』であった。
 防御面を強化したF‐104改バイパーであるが、RCの攻撃はそれを上回る破壊力でガンバイザーを圧倒する。
 先程倒した『手負いの敵』とは明らかに勝手が違っていた。

「こちら白皇院、全員収容完了です」
 少々悶着もあって収容に手間取ったが、全員の収容完了を知らせる報が届いた。
「友釣り戦法だとしたらすぐに敵の増援が来る。急ぐぞ!」
 ゲシュペンストはブリーフィングで出た『罠』の危険性を懸念していた。
「確かに生身相手にレックス・キャノンを繰り出すなんて不合理な事をする以上、こちらの援軍を釣り出して殲滅する意図でもあるのかも知れないな。警戒しておくに越した事はないしな」
 Anbar(ga9009)の骸龍は、『特殊電子波波長装置γ』によるジャミングで友軍機を支援しており、逆ジャミングによる索敵も行っていた。
 噂をすれば影――と言うが、レーダーに光点が3つ捕捉された。
「どうやら推測が当たったようだよ‥‥」

 増援部隊は全部で3機。有人タイプのRC1機と無人ゴーレムが2機である。
 無人タイプとは明らかに動きの違うRCが、リッジウェイに襲い掛かる。
 挨拶代わりの拡散キャノン砲によるシャワーを浴びせられ、3機のリッジウェイは自慢の装甲を焦がされた。
 一撃で大破する事は無いが、流石にこれ以上の損傷は予断を許さない。
「やることが多いな、こりゃハードな仕事になりそうだ‥‥」
 ディフェンダーを横一文字に構えたリッジウェイは、盾を前面にしてブーストで加速! 敵中央目掛けて突撃を敢行――所謂『騎士の一騎打ち』戦法である。
 有人機はそれを軽やかに避け、無人ゴーレムも特殊能力で回避力を一気に高め、ひらりと交わす。
「やるな」
 リッジウェイは、すぐさま機体をスライドさせて転進。再び突撃モードで敵機を猛追する。
「この先は通行止めだ」
 突撃を回避した有人機の前に、リヴァルのシュテルンが立ち塞がる――。

●それぞれの戦い
 D班が有人RCとの戦闘を行っている最中、他の班でも激戦が繰り広げられていた。
「何ともまぁ、御大層な部隊で襲ってきたもんだな。本命は俺様達か? そんなに喧嘩を売りてぇんなら買うぜ!」
 B班のテト・シュタイナー(gb5138)は、レーダーに映った3機の増援部隊を見て激昂し、眼前に迫る敵RCに対して3.2cm高分子レーザー砲による知覚兵器で応戦。
 体色を瞬時に赤く変化させたRCはその一撃に耐え、強靭な顎の力で噛み砕こうと牙を剥いた。
 彼女のフェニックスは高い命中力を誇っていたが、回避力では敵の方が一枚上手であった。鋭利な牙が鳳凰の翼に食い込んでいく。
(「これが‥‥噂に聞く抵抗耐性か」)
「援護する!」
 ドニーはフレキシブル・モーションを発動させてRCに急接近! ストライクレイピアで刺し貫こうとした。
 しかし、いち早く気配に気づいたRCは、素早く回避行動を取り、振り向き様にキャノン砲を見舞う!
「くっ! こいつは厄介だ」
 距離が離れた所を、透かさず水無月がバルカンで牽制を入れてフォロー。
 物理攻撃を受けたRCは、再び緑に体色を変化させる。
「ちまちまと色を変えやがって‥‥信号機かテメェ!」
 テトは機杖「ウアス」でRCの脳天を叩き割ろうと上段から振り下ろした。
 RCは損傷覚悟で左腕を振り上げてそれを受け止め、至近距離からキャノン砲をロックさせる。
「ちっ、なめんな!」
 空中変形スタビライザーにより『復活の灰』を得た鳳凰は再び舞い上がる。
 オーバーブーストによりSES‐200エンジンが轟音を上げ、運動性能を極限にまで高めたフェニックスは、間一髪でキャノン砲を回避した!
「私を忘れて貰っちゃ困るよ!」
 テトが離れた瞬間、安藤の『ガンバイザー』が急接近! 初撃でまんまと交わされたレッグドリルを見舞った。
 絶妙なタイミングが功を奏し、見事に膝蹴りが決まる!
 怯んだ所を再度ドニーのアヌビスが仕掛ける。
「そろそろ終わりにしよう」
 体色は緑ではあったが、有効打の連続でRCも弱っていた。ストライクレイピアは深々とRCの胸元に刺し貫く。
「今だ! 一斉射撃!」
 ドニーが離れた瞬間、間髪入れずに4機による一斉攻撃が加えられる。
 物理攻撃と知覚攻撃のミックス攻撃によって、体色が明滅する様に次々と変わっていく。
 凄まじいラッシュ攻撃の前に、RCは断末魔の咆哮を上げて倒れた。
「まずは一つってか。この調子でサクサク行くぞ?」

 一方、キメラ軍勢を含むRC迎撃を担当したC班は、初手でAnbarの骸龍が深手を負い、苦戦を強いられていた。
「まさか、これ程までに命中精度の高いキャノン砲とは思わなかったな」
 高い回避能力を誇る骸龍であったが、RCの命中力は更に上を行く。
「とにかく脚を狙って機動力を封じないと」
 ペアを組んだ柿原のフェニックスは、スナイパーライフルD‐02でRCの脚を狙う。
 キメラの大半は序盤の戦闘で多くを殲滅しており、既に脅威となるキメラは殆どいなかった。油断すれば危ないが、逆に油断さえしなければどうとでもなる相手であった。
 Anbarは一旦接近戦を避けて、強化型ショルダーキャノンによる遠距離射撃に切り替え柿原の援護に回る。
 RCのキャノン砲は脅威ではあるが、ロックオンの体勢に入る瞬間を見逃さなければギリギリで直撃は避けられた。
(「Anbarの機体損傷はかなりやばい‥‥ボクがしっかりしないでどうするんだ」)
 柿原は心の中でいつも気弱な自分と戦っていた。覚醒時に名前を呼び捨てにする事で弱気な自分を奮い立たせていた。
「接近してヒートディフェンダーで直接攻撃を狙おうと思う。Anbar君、一瞬で良いから隙を作ってくれ」
 柿原は武器を持ち直して斬り込むタイミングを計る。
「了解だ。助かる命をむざむざ散らせるのも後味が悪いからな。ともかく出来る限りの事はして、きっちり仲間を助け出そうじゃないか」
 全身にコーランの一節が浮かび上がり光輝くAnbarは、その神秘的な琥珀色の瞳をモニターに映し出された柿原に向けて快諾した。
「来るぞ!」
 RCが再びキャノン砲の発射態勢に入る。
 Anbarは危険を承知でブーストを使って一気に前進し、ヘビーガトリング砲で脚部を狙う。
 RCはバランスを崩してロックオンを解除。今度はAnbarに照準を替えた。
「よし! 行くよ不死鳥!」
 柿原はこの一撃に全てを賭けるべくオーバーブースト! 更に空中変形スタビライザーをも使用して一気に斬り込んだ!

 一撃! 二撃!
 RCの脚部が強烈なスパークを起こして黒煙を上げる。行動値の全てを使い切ったものの、RCの脚部を完全に破壊出来た。
 バランスを失って倒れこむRC――。
「止めだ!」
 Anbarは損傷して内部パーツが露になった脚部にヘビーガトリングを集中攻撃し、RCも必死に立ち上がろうとする。
 行動力の回復した柿原は、高分子レーザー砲で緑色のRCに攻撃を加える。

 そして――RCの腹部が爆発を起こした。恐らく脚部のダメージが腹部に達した模様である。
 やがて口からも黒煙が立ち上り、RCは動きを止めた。
「少し手間取ったな。他の班と合流を急ごう」
 Anbarと柿原は、他班と連絡を取り合い移動を開始した。

●獲物と狩人
 有人RCに執拗に追われるD班は、逃げながらの攻防となった為に他班との距離が開いていた。
 それは正に『狩る者と狩られる者』の様相を呈しており、逃げる方は必死である。
 戦闘をあまり好まない千奈でさえも、多目的誘導弾で積極的な攻勢に転じていた事からも見て取れる。
 白皇院もまた、人命を優先させる為に敢えて攻勢には出なかったのだが、自衛の為に已む無く応戦に参加していた。
「なんとしても守り抜きます」

「究極! ゲシュペンストキィィィィック!」
 レッグドリルを搭載した近接戦闘型リッジウェイを駆るゲシュンペストは、ガトリングの多用でゴーレムの練力消費を促すと同時に牽制を行い、行動点の限界に達した所に必殺の一撃を加えた。
 勿論、これも『騎士の一騎打ち戦法』によるものである。更に命中力を伸ばす事が出来れば、より洗練された戦法へと変貌する可能性も秘めていた。

 A班の安藤と水無月も、無人ゴーレムに手一杯であり、有人機と対峙したリヴァルも又、他方への援護に回れずほぼ一騎打ちの様相を呈していた。
 キャノン砲を牽制として使い、足が止まった瞬間を狙い跳躍! 低空から更に拡散キャノン砲で装甲を焼きにいく有人RC。
「やるな。しかしその程度の火力で、この装甲を抜けるとは思わない事だ」
 着地の瞬間を狙ってスラスターライフルで狙い撃つ。
 有人RCは後方に跳んだ所を更に間合いを詰めてハイディフェンダーで斬り込む!
 両者の勝負は互角に見えたが、受けたダメージはシュテルンが圧倒的少なく、有利な展開であった。

 均衡が破られたのはそれから数十秒後の事であった。無人RCを殲滅させたB班とC班が合流して来たのである。
「すまない、待たせた」
「俺様の分も残してくれてるんだろ?」
 この状況を見た有人機は撤退を開始する。人の心を宿すが故の、迅速で的確な判断であった。

●戦い終わって
 9対2と、戦力バランスが崩れた段階で勝敗は一気に決した。
 全ての戦闘が終わって見れば、損傷が著しい機体があったものの重傷者は出ておらず、また歩兵部隊も全員無事であった。
 千奈と白皇院は戦闘が落ち着いた所で負傷者の治療に当たり親睦を深めた。
(「傭兵としての初戦闘から随分と経ったが、立派になったようで何よりだ」)
 リヴァルは空を見上げ、そんな千奈の成長を陰ながら喜んでくれた。

 ここ北米は今なお激戦真っ只中の地である‥‥。

(END)