タイトル:【Woi】冥界からの贈物マスター:水無瀬 要

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/19 09:36

●オープニング本文


●北米の現状
 現在、北米では大規模作戦の準備の為、UPC軍が五大湖地域への集結を開始していた。
 しかし、戦力を集めるという事は、他方で戦力が引き抜かれる場所もある――という事でもある。
 小さな町などに駐留する小規模部隊から戦力を引き抜けば、出没する野良キメラなどへの対応力が低下してしまう。
 実際、作戦が動き始めてから、徐々にではあるが北米大陸の各地からULTに持ち込まれる傭兵への依頼が増え始めていた。
 傭兵がこれに迅速に対応できなれば、小規模な駐留部隊をそれぞれの任地へ戻す必要も生じてくるだろう。
 それは大規模作戦における戦力の減衰へと繋がり兼ねないものである。

<メキシコ・バグア占領地域前線基地>
 UPC北中央軍との来るべき決戦の為、ここメキシコ前線基地でも連日部隊の緊急招集が掛けられ、各方面に移動を開始していた。
 エステル・カートライト(gz0198)も、ようやく修理の終わった『アヌビス』を駆り、『特殊任務』の密命を受けて訓練中であった。
「うぅ‥‥」
 訓練を終えたエステルは、まるで今にも死にそうなくらいに青ざめた表情で、黒き炎の前に姿を現した。
「おいおい、嬢ちゃん大丈夫か?」
 黒き炎はエステルのげっそりした表情に、慌てた様子で容体を訊いて見る。
「あまり良いとは言えないわね‥‥お腹の中の物を全部吐き出したい気分よ」
「強化人間の嬢ちゃんを、そこまでの状態にさせるなんてな。今度の機体は期待出来そうじゃん!」
 黒き炎の言う『凄い機体』とは、勿論『アヌビス』の事である。
「ええ。今度は完璧よ‥‥どれ程の凄腕が来ても当たらない自信はあるわ‥‥うっぷ」
「へー、そいつはすげえ」
 黒き炎は素直に喜ぶ。
「‥‥とりあえず、失礼するわ‥‥もう限界」
 エステルの蒼い顔は、更に蒼さを増していた。
「おう、引き止めちまってすまねえ」
 相変わらず怖い者知らずの黒き炎は、上官であるエステルに手の平をひらひらさせて見送る。
「明日は貴方も出撃してもらうわよ。ゴーレムを1機用意させたわ」
「おいおい‥‥俺様で役に立つのかよ? っていねぇじゃん」
 エステルの姿はもう見えなかった。

<北米西海岸・南部国境付近>
 翌日になって、奇妙な一団がメキシコの国境を超えて西海岸に進軍して来るのを、軍の哨戒部隊が目撃する。
「おい、あれは何だ!?」
『――!?』
 哨戒部隊が目撃した『奇妙な一団』とは、ムカデの形をした多脚装輪型の地上用輸送ワームであった。
「メーデー、メーデー! こちら第三哨戒部隊、ムカデ型のワームと遭遇! 至急――ぐはっ!」
「どうした!? 応答せよ!」
 哨戒部隊との通信は完全に途絶していた。
 急遽緊急事態が発動され、すぐさまワームを駆逐すべく、ナイトフォーゲル(KV)部隊が派遣された。

「あら、輸送ワームと思って油断したのかしら」
 ワーム討伐に派遣されて来たKVは全部で5機。F‐104バイパー4機と、隊長機のR‐01Eイビルアイズが1機という編成であった。
「隊長、敵にアヌビスがいます!」
「確認している。大方鹵獲された機体だろう。ついでに取り戻すぞ」
『はっ!』
「輸送ワームは大した攻撃力は無さそうだ。黒い奴から仕留める!」
 4機は左右に展開してアヌビスを半包囲。
「遊んであげたいけど、急いでるの」
 エステルはそう言うとブースト全開で移動する。
「き、消えた!? ぐわっ!」
「何!? ぐっ!」
「くそ! 何がどうしたんだ!? ぐえっ!」
 次々に為す術も無く蹂躙されるKV達。
 瞬時に3機がコクピットを直撃されて活動を停止する。
「なめるな!」
 隊長機が吼え、ディフェンダーで斬り込む!
 斬ったかに見えたが、それはアヌビスの残像であった。
「くっ!」
 すぐに横一閃するも、そこにはもういない。
「隊‥‥長‥‥」
 気が付いた隊長機が見た光景――それは残り1機のバイパーのコクピットが、アヌビスのルプス・ジガンティクスによって無残にも握り潰された所であった。
 アヌビスの手は、搭乗者達の血糊で赤黒く染め上がっている。
「き、貴様ー! よくも大事な部下達を!」
 逆上した隊長機は、ベアリング弾を装填したミサイルポッドCを撃ち放ち、間髪入れずに斬り込んだ!
 いかに機動力がある機体であっても、無数のベアリング弾を全て回避する事は難しい筈と予想された――
 しかし、アヌビスにはルプス・ジガンティクス以外にも兵装が存在する。
「何‥‥だと」
 巨大円月輪――それは投げて攻撃にも使えると同時に、盾にもなる攻防一体の装備であった。
「終わりよ」
 エステルは目にも留まらぬ速さで駆け抜ける。
「はあ‥‥はあ‥‥余計な時間を取ってしまったわ。先を急ぎましょう‥‥うっぷ」
 仁王立ちするイビルアイズを残し、輸送部隊は国境を越えて進軍を開始。
 そしてムカデワームの通過する振動により――イビルアイズは二つに裂けた‥‥。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

●遭遇
<北米・西海岸南部>
 ムカデ型のワーム出現の報は、集結中のUPC北中央軍総司令部にまで届いていた。
 しかし総司令部では、来るべき『シェイド討伐戦』に猫の手も借りたい状況であった為、この件に関しては特殊作戦軍に委任。直ちに傭兵が現地に派遣される次第となった。
「確認された資料によると、敵は高機動型のアヌビス1機だけのようだが、油断せずにいこう」
 須佐 武流(ga1461)が、全機に注意を促す。
 傭兵と言えども集団で行動する以上、まとめ役は必須であり、今回は暫定的に須佐がその任に就く。
「ふむ、バグア仕様のアヌビス‥‥か」
 ヨネモトタケシ(gb0843)は同じアヌビスに乗る者として、バグア仕様のアヌビスについて興味津々な様子だ。
「アヌビスへの執着‥‥ある意味、敬意を感じざるを得ないですね」
 同じくアヌビスに乗る抹竹(gb1405)も、ヨネモトとは違った意味で興味津々と言った所であった。
 彼は前回、須佐と翼を並べて、エステルのアヌビスを空中戦で撃墜した猛者の一人だ。
(「いつもの事だ。相手が誰であれ変わりは無い。ただ、いつものように全力を尽くそう」)
 時枝・悠(ga8810)は、相手が誰であっても『やる事は一つ』という信念の元、愛機ディアブロに語りかける。
「行こうかディアブロ。名に恥じぬ力を示そう」

 エステル・カートライト(gz0198)率いる輸送部隊は、途中何度かUPC軍の哨戒部隊との遭遇戦を迎えたが、それらを圧倒的な力でねじ伏せ、順調に行軍していた。
「拍子抜けだわ」
 エステルは『当初の目的』を果たせず、不機嫌極まりない。
「まあその内現れるさ。俺様達は敵の本陣目指してるんだぜ? 否応無く出てくるさ」
 黒き炎がエステルの仏頂面をモニター越しに見ながら答える。
「だといいわね‥‥」
 ――その時! ENEMYを示す交点がレーダーに映し出された。実践慣れした隙の無い隊列に、エステルは『荷物の届け先』である確信を得る。
「どうやらお出ましのようよ」
「それじゃあ派手に行こうぜ! プレゼントの準備は万端だ。パーティを始めるぜ!」

 傭兵達がエステルの輸送部隊に接近した時、箱ムカデのコンテナが一斉に開く。
「ちっ! 罠かよ」
 アレックス(gb3735)は舌打ちしながらも、すぐさま臨戦態勢を整える。
「‥‥やはり‥‥護衛がアヌビス一機というのは有得ない話でしたね‥‥」
 アリエイル(ga8923)の予想は、悪い方向で見事に的中する。コンテナの中身は全てゴーレムであった。
「ふふ、輸送するのは物資じゃないわよ。実は貴方達の死体だったの」
 エステルはそう言うと、巨大円月輪を先行する須佐目掛けて投げ付けた!
「くっ!」
 紙一重で避けるが、須佐で無ければ直撃していた。明らかに前回のアヌビスとは全ての面で違っている事を身を以って知る。
「皆、気をつけろ! こいつは前に戦った機体以上のようだ」
「‥‥敵の実力が先に分かったのは幸いです‥‥。当初の作戦通り2班に分かれましょう‥‥」
 アリエイルは、愛槍の「グングニル」を構えて箱ムカデ破壊に向かう。勿論ゴーレムとの戦闘は避けられない。
「アヌビスは任せます」
 アセット・アナスタシア(gb0694)もアリエイルに続く。心情的には加勢したいが、足手まといは避けるべきとの判断である。
「了解です。皆さんも気をつけて」
 サンディ(gb4343)は紅の双眸でアリエイル達を見送り、凛とした表情でエステル機に向き直る。
「あなたとの因縁もここまでです」

●死闘1
 全員が配置に付く間も死闘は続いていた――須佐とエステルである。
 エステルは初撃が避けられた瞬間、こいつは『あの時』の機体だと確信していた。
 忘れたくても忘れられない――魂にまで刻み付けられた記憶が脳裏に蘇る。
「貴方が来るのを待っていたわ。殺したい程にね」
 エステルは、わざと通信チャンネルをオープンにして話しかける。元々UPC軍の機体である為、通常通信は可能であった。
「そいつは嬉しい所だが、生憎バグアを口説く気はないな」
 須佐は巨大円月輪の猛攻を避けながら応答する。
「それは残念だわ。上手く生け捕って、生きながら皮を剥いであげたのに!」
 エステルは須佐の放つRA.1.25in.レーザーカノンを避けながら、顔を狂気に歪ませて呟く。

 両者の機体性能はほぼ互角‥‥否、エステルのアヌビスが若干上であったが、須佐はそれを『腕』でカバーしている。
 お互い遠巻きに攻撃を行い、小さな部品が次々と吹き飛び、お互い無数の擦過傷を相手の機体に付けていく。
 ヨネモトとアレックス、サンディ、抹竹は、少し距離を置いて包囲陣を敷き、弾幕による結界を敷いてエステルを牽制する。
 接近戦で割って入る行為は、逆に危険であった為だ。

 両者の均衡が崩れたのは、それから直ぐの事である――須佐のハヤブサの手首が落ちたのだ。
「ちっ! 報告のあった武器とはこいつの事か!?」
 須佐はブースト全開で後方に飛ぶ。
「よし!」
 待っていたチャンス到来に、アレックスが先行して仕掛ける!
 そしてサンディ、ヨネモト、抹竹の3人も一斉に続く。この辺りの連携は実に見事である。
 アレックスは、今回得意の槍を双剣に持ち替えて出撃していた。槍だと小回りの利く相手には不利と判断したからだ。
「いけ!」
 アレックスの駆る機体『フェニックス』は、鳳凰の羽ばたきを以って黒きジャッカルに挑みかかる!
 アヌビスは一刀を例の武器で受け流し、更にもう一刀をルプス・ジガンティクスで受け止め、空中に浮遊する巨大円月輪で攻撃を加える。
 巨大円月輪は空中に浮遊しており、手に持つ必要性がないので、両手が無くても使える。
「させません!」
 サンディが巨大円月輪を機槍「ドミネイター」で弾く!
 そしてヨネモトと抹竹が左右に回り込み、動きの止まったアヌビスに刀で斬り付けた。
 アヌビスはすぐさま手を離し、くるりと横に回転――武器を横に一閃して二人の攻撃を全て弾き返す。
「やるわね」
 エステルは、もう傭兵達を過小評価していない。逆にどんな手を使ってでも『倒すべき敵』である事を、今までの戦闘で学んでいた。
 後方に飛んだ所を、今度は須佐が待ち構えており、ソードウィングで斬り付ける。
 アヌビスは残像を残しながら素早く避けたが、左後ろの肩口に軽微な傷を負う。
「チッ、思ったよりやる! だがッ!」
「弐の太刀。のるかそるか!」
 彼らの連携はまだ終わらない。
 エステルは更に避ける。

 アヌビスの持つ例の武器‥‥それは『日本刀の形状をしたプロライドソード』である。
 プロトライド合金はバグアの特殊合金の一つで、ゴーレムの持つ巨大剣にも使用されている。
 そのプロトライドに『焼き入れ』、『焼き戻し』という日本独自の熱処理を加えたその太刀は、メトロニウム合金をも一刀両断出来る業物である。
 だが1対5の戦闘である‥‥エステルに休む暇は与えてくれない。再びアレックス達が波状攻撃を加えて来る。
 それらを全て避け切るアヌビスであったが、外見の華麗さと中の状況は正に天国と地獄であった。
「ぐふ! ‥‥‥」
 既にエステルは限界点を当に超えており、コクピット内は酷い状況である‥‥。
 平時であれば顔面蒼白の状態なのだが、今は戦時である。彼女の顔は今なお紅潮し、恍惚とした表情で死との境界を垣間見る事を愉しんでいた。
「ふふ‥‥やれる‥‥殺れるわ!」
 かっと目を開いたエステルは、更に機体限界に挑む機動力で傭兵達に牙を剥いた。

●死闘2
 一方、箱ムカデ攻撃に向かったアリエイル、アセット、時枝の3人も、黒き炎と5機のゴーレムに行く手を阻まれ苦戦していた。
 黒き炎の駆るエースゴーレム以外は全て無人機であり、黒き炎の操縦練度が低い事もあってどうにか3人の連携で凌げていたが、停車していた箱ムカデが各個に分離し、クリプトンレーザーで応戦してきたのだ。
「こっちは3人で助かったと言うのが本音だが‥‥、俺様も死にたくないんでな。数で圧倒させて貰うぜ」
 黒き炎はそう独り言を漏らすと、持っていた拡散フェザー砲を撃ち放つ。
 ヘルメットワームの武装を手に持てる様にカスタマイズしており、威力は落ちるが命中力は高く、素人向きの武装としては実に的を得ていた。
「きゃ!」
 アセットのディアブロが被弾する。彼女の機体回避能力では直撃を避けるのが精一杯であった。
「大丈夫!?」
 すぐにアリエイルが駆け寄り、フォローに回る。
「ありがとう」
 アセットは礼を述べると、黒き炎にR−P1マシンガンでお返しをする。

「まずは1機目!」
 ブーストで接近して、眼前のゴーレムの頭をビームコーティングアクスで刎ね飛ばした時枝は、次の獲物を探してオッドアイの瞳をレーダーに移す。この方が分散しているので、目視よりも素早い状況判断が可能なのだ。
 時枝の機体が3人の中では抜きん出た性能であった事から、自然と時枝が前衛に立ち、アセットが後衛から援護、アリエイルはアセットを補佐しつつ周囲の戦況に合わせて戦う――といった連携が組み上がっていた。
「中々やるじゃねえか‥‥」
 そう呟いた黒き炎は、2射目を撃ち放った。

 無数のビームが飛び交う中、3人は機体を焦がしながらも息の合った連携で次々と箱ムカデを攻略していく。
 彼女たちの当初の目的が『ムカデ型ワームの殲滅』である事から、ゴーレムは防御で凌ぎ、先にワームを順番に仕留めて行く事にした。
 全員の銃器で足を止め、威力の高い主兵装による連続波状攻撃で仕留める作戦は、非常に有効であった。
 この連携作戦によって7機いた箱ムカデは既に4機を失い、残りは3機。
「図体は大きいし見かけ以上に素早いけど、動きを止められたらおしまいよね」
 ゴーレムの攻撃をハイ・ディフェンダーで受け流し、箱ムカデに深々と刺さった機杭「エグツ・タルディ」の杭を抜いてアセットは呟く。
「確かに」

「おい嬢ちゃん、こっちは形勢不利だ! そっちはどうだ!?」
 黒き炎は手駒を失い少々狼狽気味だ。
「‥‥あら、だらしないわね‥‥くっ‥‥この! ‥‥‥いいわ、撤退を許可するから適当に逃げて頂戴」
「わりぃ、先に失礼するぜ」
 向こうも大変そうだと察した黒き炎は、彼にしては最大限の丁寧語で礼を述べ、煙幕を張って脱出コースに入った。
「何? 逃げるの!?」 
 アセットが黒き炎のゴーレムに一矢報いようと迫ったが、護衛のゴーレムに阻まれる。
「ちょっと、どきなさいよ!」
 興奮したアセットは、パニッシュメント・フォースを発動! エグツ・タルディでゴーレムの胸元を狙う!
 だがゴーレムも特殊能力を発動させ、回避能力を一気に高めて避ける。
「あ!――」
 危ないと思った瞬間、ゴーレムが吹き飛んだ!
「気持ちは分かるけど‥‥どうか冷静に‥‥」
 再びアリエイルが助けに入った。覚醒時の天使を思わせるその風貌そのままに、彼女の持つ槍は仲間を護る為に存在していた。
「ごめん、少し頭を冷やすね」
 アセットは高ぶった気持ちを鎮める為大きく深呼吸‥‥そして『ハッ!』と気合を入れる。
「どう‥‥落ち着いた‥‥?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
 彼女が冷静さを取り戻す間、側でゴーレムを退け続けていたアリエイルに深々と礼をしたアセットは、再び箱ムカデ攻撃に加わるのだった。

●分身対伝家の宝刀
 舞台は再び対アヌビス班に戻る。
 致命傷こそ無いものの、エステルのアヌビスも無傷とは言えない様相で、無数の小さな傷と軽微な損傷を負っていた。
 サンディの提唱したオーバーブーストによる連携波状攻撃も功を奏していた。
「そろそろ機体強度の限界点を越えそうね‥‥この機体を以ってしても倒せないなんて‥‥悔しいわ」
 彼女のアヌビスは無茶なチューニングを行った為、機体限界強度を著しく低下させていた。
 既に機体のあちこちから悲鳴のような軋み音が聞こえて来る。

「向こうさんの動きが急に鈍ってきたみたいですね」
 ヨネモトが双剣で敵アヌビスを斬り付けながら問いかける。
「そろそろあちらも限界と見たが」
 手首を落とされた須佐のハヤブサも前回とは違い、損傷が著しい。
「あいつの性格からすると、タダでは帰らないかもな」
 とアレックス。
「味方を平気で特攻させる相手です。気を付けましょう」
 サンディもエステル戦で学んだ経験から注意を促す。
「来たぞ!」
 言ったそばからエステルが仕掛けて来る!
 彼女の狙いは現状で有効打の全く通らない須佐やヨネモト、抹竹ではない。それは――
「くそ!」
「きゃあ!」
 アレックスとサンディの2機である。
『――!』
 それは正に電光石火! アヌビスの隠し玉とも言える特殊能力『ダミーワーム』の発動により、一瞬で2機のフェニックスは深手を負う。
「アヌビスが8体‥‥だと!?」
 アレックスが驚くのも無理はない。分身したアヌビスが一斉に日本刀(仮称)による居合い抜きで襲い掛かって来たのだ。
「すまねえ、今ので深手を負っちまった。撤退するぜ」
「すいません、私も退きます。皆さんお気をつけて」
 アレックスとサンディ、2機のフェニックスが戦線より離脱を開始。
「逃がさないわ」
 エステルが追撃を加えるが、ヨネモトが割って入る。
「‥‥我々に付き合って頂きますよ。バグアのアヌビス乗り、エステル・カートライトさん?」
「くっ」
 双剣に軽く撫でられ、エステルは引き下がる。
「機体や己の力量を信じる事は大事ですが‥‥過ぎれば大事に障りますよ?」

「面白い物を見せて貰ったが、良く見りゃレーダーに映ってないぜ」
 と抹竹。
 ダミーワームは実体を伴わない――タネは明かされた。
「借りは返しておこう」
 須佐も温存していた試作剣「雪村」を抜刀! 連続で斬り付ける!
 初撃は巨大円月輪で受け止めたが、二撃目は思う様に動けず防ぎ切れなかった。
 アヌビスの左腕がポトリと落ちる――。
「ここまでのようね‥‥」
 エステルのアヌビスは機体各部からも激しいスパークが迸り、これ以上の戦闘は無理と判断。
 重力慣性で空中高く舞い上がると、そのまま虚空の彼方に飛んで行った。

●パーティの終焉
 箱ムカデ班も黒き炎が逃亡した事によって戦闘は随分と楽になっていた。
「賢いAIを搭載していても、烏合の衆では私達には勝てない」
 時枝はそう言い放つと、ゴーレムに止めを刺す。
「勝利をもたらす槍‥‥グングニル‥‥ブーストアップ!!」
 アリエイルもこの機を逃さない。残った箱ムカデの動力部に渾身の一撃を加える。
「全員無事で帰るんだ‥‥もちろん私も!」
 アセットも奮戦する。

 その後エステルを退けた須佐達が合流した事で、勝敗は一気に決した。
 移動力を失った箱ムカデも全て動力を停止。残ったゴーレムも全機破壊された。
 撤退機を出しながらも重体者はおらず、作戦は成功の内に終結した。

(END)