●リプレイ本文
●レース開始!
季節は夏を迎え、ギラギラと照り付ける太陽の光と熱で、気温が見る見ると上昇していく中、いよいよレースが開始されようとしていた。
今レースのスターティンググリッドは通常のレースと異なる配列となっており、前列に4機、後列に4機が並んでいた。
予選は行われず、セッティングとコースの下見を兼ねた『フリー走行』のみが行われ、配置は『くじ引き』によって決定されたのである。
ここで、今回のレースを戦い抜くLM‐01ドライバーを紹介しておこう。
――前列、向かって左より
○流 星之丞(
ga1928)
○諫早 清見(
ga4915)
○真白(
gb1648)
○結城悠璃(
gb6689)
――続いて後列、向かって左より
○槇島 レイナ(
ga5162)
○ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)
○ピアース・空木(
gb6362)
○ゲオルグ・シュナイダー(
ga3306)
以上の配置でグリッドに付いた彼らは、逸る気持ちを抑えつつグリーンシグナル点灯を待ち構えていた。
――レース開始5秒前――
緊張が一気に高まる瞬間である!
‥‥5、4、3、2、1、0――
グリーンシグナルが点灯してレースは始まった!
「ふふっ、皆さんシグナルに集中していますね♪」
真白はグリーンシグナル点灯と同時に煙幕銃を使用してスタートを切る。
「っとっと。やるねぇ〜☆ 面白くなってきたぜ!」
真白の煙幕攻撃に出鼻を挫かれそうになりつつも、すぐに態勢を整えたピアースは、前方が広い荒野である事を確信していたので躊躇う事無くアクセルを踏み込む。
全機が煙幕を抜け切った頃合いを狙い、ゲオルグも煙幕弾を発射する。
「スタートで先を越されたが、こちらも必要が無いんで使わせてもらうぜ。中継カメラには悪いがな」
再び全機が煙幕の闇に包まれた。
「問題は無い」
ホアキンは冷静に呟くと、煙幕の中でブーストを使用。レース序盤から先行逃げ切りの態勢へと持って行く!
ブーストで先行したホアキン機を先頭に、各機は各々の戦術を駆使して煙幕の闇を抜けて来た。
ここで現在の順位を確認してみよう。
現在のトップはホアキン・デ・ラ・ロサ
2位 真白
3位 ゲオルグ・シュナイダー
4位 流 星之丞
5位 槇島 レイナ
6位 諫早 清見
7位 ピアース・空木
8位 結城悠璃
の順である。
「今は勝負時ではないわ‥‥じっくり見せて下さいね。貴方方の走りを‥‥」
スリップストリームで流の背後にぴったり付いて煙幕を抜けて来たレイナは、消耗を抑える為に誰かに引っ張ってもらう作戦に出る。
「レースは始まったばかりだからね〜☆」
「まずは、じっくり行きますか‥‥」
ピアースと結城の二人もまた、序盤は様子見で練力とタイヤを温存する作戦で後方から機を窺った。
●市街地の攻防
広い荒野を抜けて、全機は廃都市となった市街地へと突入して行く。
ここで諫早とピアースの二人は、早めに歩行形態にモードチェンジ。
変形で速度を若干落とした為に、8位の結城に抜かれた諫早は7位に、ピアースが8位と順位を落とす。
市街地コースは廃墟となったビルや家屋をはじめ、壊れた車両や瓦礫が散乱している分、荒野よりもタイヤに負担の掛かる難所であった。
車両形態で一気に市街地を抜けようとしたホアキンであったが、瓦礫の回避に減速を余儀無くされ、ブーストで稼いだ距離を一気に詰められてしまう。
「照準セット‥‥ご免なさい、道は塞がせてもらうわね」
レイナは超距離ショルダーキャノンを、トップ集団付近のビル群に向けて発射した!
2発の砲弾は狙い通りの場所に命中し、瓦礫の雨がトップ集団に降り注ぐ。
「くっ!」
トップを走るホアキンは、ブレーキングで最初の瓦礫を回避。タイヤがロックした機体を上手くスライドさせながら態勢を立て直し脱出。
しかし減速回避の間隙を縫って、2位の真白がホアキンを抜き去りトップに!
「やったね♪」
結城機もこの機に順位を上げるべくショルダーキャノンを積極的に使ってくる。
「上手くいけばトップになれるかもね」
次々と降り注ぐ瓦礫の雨を巧みに避けながら、猛追して来る機体が2機!
ピアース機と諫早機である。
早目に歩行形態に変形していた事で、障害物への対応が車両形態の機体以上に自由度が増した為である。
加えてピアース機はこの市街地コースに足回りのセッティングを合わせていたので、より限界値の高い走りを可能としていた。
「ひゅーっ、スリルあるわぁ〜☆」
キックターンを利用して、障害物を次々とクリアしていくピアース機。
その後方で堅実にマークしてくる諫早機は、結城、レイナの二人を抜き、着実に順位を上げて来ていた。
現在3位をキープしていたゲオルグは、当初の狙い通り妨害工作は行わず、真っ直ぐにゴールを目指して走行していた。
「下手に妨害するより、まっすぐ走った方が速い事を証明してみせるさ」
そう言って段差の低い障害物は、弾き飛ばしながら強引に突き進む!
「瓦礫を踏み越えられないようでは、何の為の陸戦型KVだ!」
大きな障害物はショルダーキャノンで粉砕!
「道じゃなくても構わん。戦場では通れる場所が道となる!」
ゲオルグは破壊された大きな瓦礫の隙間に機体をねじ込んだ。
ガリガリと摩擦音と火花を散らしながら突き進むスカイスクレイパー‥‥と、その時!
――キュッ!
スカイスクレイパーはその進撃を止めた――
「うおっ!」
ゲオルグの機体は見事に瓦礫の隙間に挟まってしまった。
隙間の奥がほんの少し先細りになっているのを読み違えたのだ。
ゲオルグ機が全速後退する間に、他の機体に次々と追い抜かれ、8位にまで転落する。
序盤からここまで好位置の順位をキープし続けていたのが、『ハリケーン星之丞』の異名を持つ流 星之丞である。
黄色いマフラーを巻いて颯爽と愛機を駆る彼の前に、瓦礫を巧みなハンドリングで避け続けるホアキン機が行く手を阻む。
「はじめての機体にしては上手いけど、僕達の敵じゃないね」
そう言って流は、現在2位のホアキン機に牙を剥く!
どちらも車両形態であり、性能にも殆ど差が無い分、勝敗は純粋に腕の差で決まる‥‥。
ホアキンが次の障害物を避ける為に減速した所を、ブレーキングを遅らせて頭をねじ込んだ流は、回避オプションを使って擬似的に鋭角ドリフトで障害物を回避した。
「今だ、イリュージョンドリフト!」
ホアキンも上手く機体を滑らせて回避したが、勝敗は機体の特性を知り尽くした流に軍配が上がる。
更に後方から接近する機影!
ホアキンもこれ以上の順位後退は望まない為、ブロックに入る。
前方に障害物! ――しかし車両形態では乗り越えられない。
歩行形態のピアース機は、障害物をジャンプでクリア! 文字通り順位を一つ飛び越える。
「ここは勝負所なので、俺も先に行かせてもらいますよ」
諫早機も前に出ようとホアキン機に張り付く。
一方のホアキン機も巧みにブロック。
両機の機体が激しくぶつかり合う!
再び障害物が行く手を阻み――両機共に減速を掛けるが、次のアクションで勝敗は決した。
後続機の追従もあってか、いつも以上に大胆なスライドで障害物を擦り抜けるホアキン。
そして、その障害物を、ショルダーキャノンで撃ち抜く諫早。
「やるな!」
障害物の爆風で姿勢を崩すホアキン機を、間一髪で避けながら諫早が追い抜く。
この結果、ピアースが3位に。諫早が4位、ホアキンは5位に退く。
全機が市街地を抜けて来た時には、順位が大きく変動していた。
トップ 真白
2位 流 星之丞
3位 ピアース・空木
4位 諫早 清見
5位 ホアキン・デ・ラ・ロサ
6位 結城悠璃
7位 槇島 レイナ
8位 ゲオルグ・シュナイダー
●落とし穴で大混戦
市街地を無事に抜けた全機は、今回最も危険な地域へと足を踏み入れようとしていた。
ここの罠に落ちた機体は、大きなタイムロスを余儀無くされる為、最も留意すべき場所である。
「いっけー!」
掛け声と共にレイナは、ショルダーキャノンの残弾全て使用して、落とし穴の索敵を行う。
着弾地点の周囲の土砂が窪んで、落とし穴の一部が姿を現す。
「敵に塩を贈るなんて甘いよね」
トップの真白がレイナの索敵し終わった落とし穴を回避しながら通過していく。
「上手く抜けられそう」
少し余裕が出来たのか、振り向いて後方に向けてショルダーキャノンを撃ち込んだ。
勿論狙いは地面である。爆風で落とし穴に落とし込む作戦であった――が!
「きゃっ!」
凄い衝撃と共に真白機は地面に落下していた。
「油断大敵だよ」
2位の流がトップに躍り出る。
そして次の落とし穴を通過中に激しい弾幕による爆風を受け落下!
流を落としたのは、ここに来て勝負に出たホアキンである。
「ここで上位に食い込んで、後はブーストで逃げ切る」
そう言ってホアキンは、3位のピアースに狙いを定めた。
トリガーを引こうとした刹那! ホアキンの機体が揺れた。
「――!」
最後尾からショルダーキャノンを連射しつつ迫って来る機体が1機――ゲオルグだ。
「ここで穴をあけるわけにはいかんのでな。悪いが塞がせて貰う」
空いている穴を、爆風の土砂で塞いでしまおうと言う事であった。
「さて、煙幕の使い所は、激しく競ってるここかな」
諫早は後続を断つ為に、後方に向けて煙幕弾を発射した。
煙幕の闇の中で次々と轟音を響かせて落下していく後続機達。
「ちょwww」
誰が言ったかは不明であるが、正に心境としては的を得ていた。
後続が片付いた諫早は前方のピアースに照準を絞る。
「これでトップは頂くよ」
ショルダーキャノンのトリガーに指を掛けた瞬間、がくんと機体が沈み込む!
「何!?」
「後続は全滅かな。このままゴールを目指しちゃうよ〜♪」
ズシャッ!
「痛たたっ!」
ピアース機も落とし穴にはまった‥‥。
結局の所相手を落とす対策は考えていたが、落とし穴を防ぐ対策を考案出来ていなかった為に、全員が巧妙な罠に引っ掛かってしまったのだ。
全機落とし穴に落ちるという大混戦により、レースの行方は全く分からなくなってしまった‥‥。
●ラストスパート!
クレーンによって引き上げられた各機体は、軽い自己診断システムによる機能チェックの後、再び走行を開始。
混戦で当初の優位性は完全に失われており、ほぼ横一線と言っても過言ではない状態での再スタートである。
現在の順位は以下の通りとなった。
トップ 真白
2位 流 星之丞
3位 ホアキン・デ・ラ・ロサ
4位 結城悠璃
5位 槇島 レイナ
6位 ゲオルグ・シュナイダー
7位 諫早 清見
8位 ピアース・空木
以上ではあるが、1位と8位の差は殆ど無いと言って良い。最後のラストスパート次第では、一発逆転も有り得る状態であった。
まず最初に口火を切ったのは、ホアキン、流、諫早、ピアース、結城の5人!
全員がフルブーストによる加速で一気にゴールを目指す。
「燃料はギリギリ‥‥でも、僕はこいつの勇気を信じます。ブースト起動! エンジン臨界までカウントスタート‥‥‥いっけーっ、スカイスクレイパー!」
流は温存していた全てをこのブーストに掛ける!
「アクセル、全開です! いっけ〜!」
結城は能力者としてはまだ日は浅いが、気力だけはベテランに勝るものを秘めていた。
これによってブーストを使用した機体と、使用しない機体とで集団が分かれる事となる。
ブーストを使用しなかった残りの集団は3機。
真白は、ギリギリまでショルダーキャノンを発射しつつ、アクセル全開で突き進み!
ゲオルグは相手の練力切れを狙う作戦なのか‥‥今の所ブースト無しで真白の背後を取る。
そしてレイナは、ようやくここに来て煙幕銃を使用するが、ブースト使用の機体は早々に自分の前を走っていたので、それ程の効果は期待出来なかった。
「もう少し早く使うべきだったかしら‥‥」
そして新たに形成されたトップ集団は、ブロックと体当たりによる激しいバトルを繰り広げていた。
現在トップは、真白に代わって流 星之丞。ホアキンと激しく争っているのが2位のホアキン・デ・ラ・ロサ。
少し後方から隙を窺う3位のピアース・空木。4位に結城悠璃。
諫早は4人のバトルで態勢が崩れた所を抜きに行こうと、冷静に隙を窺う。
やがてブースト臨界点により、各機は通常走行へと移行。
「よし、このまま順位を維持出来れば優勝は僕のものだ」
流が優勝インタビューの台詞を考え始めた頃、ショートブーストで接近して来る機影があった。――2位のホアキンである。
「さっきの礼がまだだったな」
ホアキン機は流機に体当たりを敢行し、ガリガリと機体を擦り付けて来る。
対する流は、少しだけコースを変えて衝撃を和らげる。
だが執拗な体当たりに業を煮やした流は、自身もホアキン機に体当たりで返すようになった。
機体同士がぶつかる激しい金属音を響かせ、トップ2機は熱いバトルを繰り広げていた。
「いいねぇ〜♪ 俺も混ざりたいけどさ、ここはお先に失礼〜☆」
ピアースは残り練力のギリギリを使って再ブーストを掛ける!
二段ブーストでトップ2機の間隙を見事に付いたピアース・空木がトップに躍り出た。
『――!』
流はゴールを目前にしてピアース機に抜かれたので少々焦ったのか、ホアキンに渾身の体当たりを仕掛ける。
「市街地でのお礼がまだだったな」
ホアキンは温存していた練力で回避オプションを使用!
「あっ!」
流機は態勢を崩され、テールを激しく振る。
「今だ!」
好機と見た3位の結城機が前に出る為に仕掛ける。――勿論、諫早機も。
一瞬の隙を付かれ、流の機体は4位にまで順位を落とす。
「まだまだ行けるよ! そうだろう、スカイスクレイパー!」
流は気を取り直してラストスパート!
「いけー!」
「最高ー☆」
「‥‥」
「うおおお!」
「とどけー!」
それぞれの熱き思いをマシンに乗せて、今ゴールイン!
優勝 ピアース・空木
2位 ホアキン・デ・ラ・ロサ
3位 結城悠璃
4位 諫早 清見
5位 流 星之丞
6位 ゲオルグ・シュナイダー
7位 真白
8位 槇島 レイナ
尚、優勝者には『LM‐01マスター』の称号も付与された。
●戦い終わって
レースが終わっても尚、会場は大歓声に包まれている。
「あぁ、私の愛機はやはり槍が似合うわね‥‥」
装備が元に戻され、ほっと安堵するレイナ。
参加者達はレース終了後、仲良く打ち上げパーティを開き、大いに疲れを癒したのだった。