タイトル:【DR】背信の黒き翼マスター:水無瀬 要

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/31 03:08

●オープニング本文


<東シベリア海上空>
 極寒の地で大規模な作戦が展開される為、現在UPC北中央軍司令部では、空と海より大規模な輸送作戦を行っていた。
 オタワを出発した4機の輸送機編隊は、DH‐179アヌビスを隊長機とする護衛KV小隊5機に護られながらボーフォート海に出て、そこから東シベリア海を抜けて極東ロシアへ向かう途上にあった。
 今回の空輸作戦も、既に何度も行われた輸送作戦のほんの一部にしか過ぎない――

「前方に敵影確認! 数4」
「全機戦闘態勢!」
『ウィルコ!』

 ――ボフッ!

「――!」
 戦闘開始直後、護衛のナイトフォーゲルS‐01改が、敵機の放った超長距離用狙撃ポジトロン砲の餌食となりコクピット付近を直撃! 東シベリア海へと落ちていく。
「敵は長射程の武器を持っている、気をつけろ!」
『ラジャー!』
 残った小隊機は、隊長機も含めて4機。
「隊を二つに分ける。オブシディアン2と4の二機は、輸送機の護衛に回ってくれ」
『ウィルコ!』
「オブシディアン3は俺と敵機を足止めする。行くぞ!」
 アヌビスと機動性のあるワイバーンの二機が敵機の足を止めるべくブーストに入った。
 残った二機のS−01改は、そのまま輸送機と共に脱出コースを取る。

 4機のヘルメットワーム(HW)は1機を除いて全て小型タイプであった。リーダー機のみが長射程タイプに改造されたエース仕様である。
 アヌビスとワイバーンの2機は、ホーミングミサイルG−01を発射! 蜘蛛の子を散らすように敵機は散開する。
 重力慣性システムによる凄まじいまでの鋭角回避により、ミサイルはGに耐えられなくなり折れて爆散した。
「くそ! 火力を合わせるぞ!」
 二機のKVは1機に的を絞り、もう一度ミサイルを発射する。
 最初の2発は避けられたが、後発の2発は命中! 被弾して黒煙を上げる。
 そこに敵リーダー機の放った収束フェザー砲がワイバーンに命中、エンジン付近より火を噴いた。
「状況報告!」
『エンジン被弾によりブースト不可!』
「ミサイル残弾は?」
『G−01残弾0、短距離用AAM残弾3』
「後方から支援してくれ、何とか俺一人で4機の動きを抑える」
『ウィルコ!』
 被弾したワイバーンは少し離れ、H‐044短距離用AAMの射程ぎりぎりの所から援護に入る。
 小隊長は、敵リーダー機さえ何とか抑える事が出来れば、この場を乗り切れると確信していた。
「奴さえ落せれば‥‥」
 だが、小隊長の認識は甘かった‥‥敵機の内の3機が輸送編隊を目指して転進したのだ。
「させん!」
 小隊長機が慌てて転進した所を、敵リーダー機が素早く後方に回る。
「くっ!」
『隊長! 援護します』
 ワイバーンが交差するように飛来し、すれ違いざまにガトリング砲を発射する。
 被弾した敵リーダー機は急角度で機動を変え、アヌビスを離れてワイバーンに粘着。
 リーダー機の周囲を回っていた巨大円月輪がワイバーンの翼を切り裂く。
「くそっ! やってくれたなバグアめ!」
 小隊長は敵リーダー機に呪いの言葉を吐き捨てると、ミサイルのトリガーを引いた。
 螺旋を描きながらホーミングミサイルG−01は、敵リーダー機を目指して飛んで行く。
 しかし被弾寸前になって敵リーダー機は下方に鋭角回避。ミサイルは又もや急激なGによって折れ曲がり爆散する。
 ミサイルの残弾が無くなったアヌビスは、ヘビーガトリング砲に兵装を切り替え近接戦闘に移る。
 大口径の銃器による独特の発射音をシベリアの虚空に響かせ、無数の薬莢が紺碧の海へと落下していく。
 それを嘲笑うかのように敵リーダー機は重力慣性による鋭角回避で避ける。
 そして、視界から消える――
「――!」
 次の瞬間、アヌビスは轟音を響かせ黒煙を上げた。
「くっ、この機体をみすみす失う訳にはいかん‥‥」
 アヌビスは最新鋭の機体である為、UPC軍への配備数も極めて少なく、搭乗権を有する能力者は限られていた。
 かくいう小隊長も、能力者となる以前から戦闘機乗りとして訓練と実戦を重ねてきたベテランであり、メトロポリタンX攻防戦の生き残りでもあった。
 小隊長は残りの練力を使って陸地を目指してブーストする。

 一方輸送機編隊は、3機のヘルメットワームの猛攻によって護衛機もろとも海の藻屑と消えていた。
 アヌビスは陸地の少し手前で練力が切れて着水。小隊長の巧みな操縦テクニックによる減速で、何とか海面衝突による分解は避けられた。

「‥‥ん‥‥ここは‥‥!」
 小隊長は気絶から目を覚ますと、目の前に立つ少女に気が付いた。
「貴方、良い腕してるわね。どう、私の部下にならない?」
「貴様、バグアか!」
 小隊長はホルスターからハンドガンを抜くと、有無を言わさず撃った。
 次の瞬間、少女が視界から消えたかと思うと小隊長の胸元に激痛が走る!
「いきなり撃つなんて酷いわ」
「ぐふっ!」
「おやすみなさい。貴方に天のご加護がありますように」
 小隊長は血反吐を吐き、痙攣後やがて動かなくなった‥‥。
 少女は、しばし漆黒に染まった機体を眺め――
「良い機体よね。ここまでヘルメットワームで運んだ甲斐があるわ」
 少女の正体はエステル・カートライト(gz0198)であった。
 彼女は暫く思案した後、こう言った。
「‥‥そうね‥‥私の専用機にするわ。バグアの技術を盛り込んだ私だけの機体‥‥クスクス♪」
 一人納得したエステルは、再びヘルメットワームに乗り込み、アヌビスを抱え飛び立って行った。

 ――数日後。

 再びロシア戦域に向けて輸送機編隊が飛んで行く。
 流石にこれ以上、物資の損害を被る事は出来ない状況にあった。それは有能なパイロットを失うと言った人的資源の消耗も含まれている。
 今回はラストホープからも増援が送られて来ており、万全の体制で臨んでいた。
 極東ロシアの攻防は、この補給物資の到着如何によって大きく戦局が変わると言っても過言では無い。
 見送る基地の兵士達は、もはや点となりつつ編隊を見つめ手を振り続ける。
 吹き抜ける風は未だ冷たかった‥‥。

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
エミル・アティット(gb3948
21歳・♀・PN
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

●エステル出撃
<極東ロシア・バグア占領地域>
 現在、ラプテフ海沿岸の一部の地域はバグア軍占領地域として機能している。
 エステル・カートライト(gz0198)率いる通商破壊部隊は、そこに補給陣地を築き、ラプテフ海を越えた先、東シベリア海上空に輸送部隊が現れるのを手薬煉引いて待ち構えていた。
「エステル中尉! 北米方面から、UPC軍の大型輸送機編隊が接近中です」
 中尉――人間達の使う階級でそう呼ばれ、エステルは振り返った。
「来たわね‥‥ヘルメットワームの方は準備出来てるかしら?」
「はっ! ご命令通り、命中精度と知覚攻撃力を目一杯チューンナップし、耐久力も20%近く上げております」
 曹長の階級を付けた親バグア兵士は、上官に敬礼しながら、きびきびと報告する。
「そう‥‥私の機体の方も大丈夫よね?」
「はっ! 中尉の機体には制御強化スラスターを複数装備し、重力慣性システムと併用する事で、ヘルメットワームの3倍の機動力を持たせております。ただ‥‥」
「ただ?」
 エステルは小首を傾げて聞き返す。
「短期間での調整ですので、70%の能力しか引き出せないとの報告です」
「いいわ、私だけで戦う訳ではないから」
「はっ! では、失礼します」
 曹長は敬礼後、出撃準備の為に官舎を出て行った。
「お、出撃なのか?」
 今ではすっかり部下として定着した黒き炎が、奥からやって来る。
「ええ‥‥北米方面から輸送機編隊が近づいているそうよ」
「ワームは俺様の専門外だからな、頑張って来てくれ。そういや、今回もキューブワームは連れて行かないのか?」
「ファンタジーで言う所の『補助魔法』に興味は無いわ。私に必要なのは『攻撃魔法』だけよ」
「なるほどな、嬢ちゃんなら納得出来る話だ」
「‥‥行って来るわ。留守は頼んだわよ」
「へーい」

<東シベリア海上空>
「前方に敵機! 数‥‥5」
 輸送機よりも遥か前方に位置していた、ラストホープ護衛部隊が敵機を捕捉する。
「来たか、アヌビスを棺桶に、冥界にでも送ってやるぜ!」
 抹竹(gb1405)は、操縦桿を握り直しながら意気込んだ。
「捕捉データ受信‥‥敵の予測座標各機に転送しました。先制攻撃‥‥狙えますか‥‥?」
 芹架・セロリ(ga8801)のES‐008ウーフーは、各機体とハブ状にリンクさせ、情報の収集、解析、配信を行っていた。
「こちら207護衛小隊、これより輸送機を連れて脱出コースに入る。傭兵の諸君、貴官らの健闘を祈る」
「了解した、奴らは任せて貰おう。手筈通りウーフーをそちらに付けるが構わんな?」
「了解だ。情報支援、よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
 セロリはウーフーを、207小隊の最後尾に付ける。

「あら、逃げるなんて卑怯だわ」
 エステルは、端末を操作して、ヘルメットワーム(以降HW)に予め用意してあったプログラムを起動、実行に移した。
 指令を受けたHW4機は、編隊飛行を維持したまま、真っ直ぐに輸送機目掛けて飛行して行く。
 エステルのアヌビスは、護衛機を引き付ける予定だったので、先頭の護衛機集団との交戦コースへと進路を取った。

●氷海の攻防戦
 エステル機とHWの分離に成功し、作戦通りの展開となったとは言え、戦闘は序盤から激しい攻防となった。
「貰っておきな!」
 須佐 武流(ga1461)は、エステル機を射程内に捉えると、127mm2連装ロケット弾ランチャーを打ち込む。
「手加減はしないぞ!」
 エステルとは因縁浅からぬサンディ(gb4343)も短距離高速型AAMを斉射!
 それに呼応するように、抹竹も短距離高速型AAMを発射して先制攻撃を仕掛ける。
 エステル機はプロトン砲を放ってサンディ機に被弾させた後、制御強化スラスターをフル稼働させて回避行動に移る。
 サンディ機の受けたダメージは大きく、機体耐久度が25%近くも減少した。
 抹竹とサンディの放ったミサイルは高機動により悉く回避したが、須佐の放ったロケット弾のみが命中!
「――! ‥‥何でロケット弾の方が当たるの?」
 エステルは悪夢を見ているかのようであった。
「経験と腕の差だ」
 エステルの呟きを聞いていたとは思えないが、須佐は更に一撃をエステル機に加える。
「くっ! 仕方ないわね‥‥せめて輸送機だけでも撃墜させないと」
 更に端末を操作して、HW各機に指令を与える。

 一方HW迎撃部隊も激しい殴り合いの様相となっていた。
 各1機ずつを担当しての、1対1による戦闘を想定して作戦を立てていたが、HWはどれだけ攻撃を受けても密集隊形を崩さず、高威力の4機一斉砲撃によるプロトン砲の初撃で、護衛のS‐01を2機、輸送機1機を撃墜していたのだ。
 エステルが敢えてHWのみの編隊に拘っただけあり、高い精度の命中力と高威力のプロトン砲4連斉射は、無改造のS‐01ならば1ターンキルが可能であった。
(「‥‥まぁ、なんとも舐めた編成で。ちょいと灸を据えてやりますかな」)
 と甘く見ていた稲葉 徹二(ga0163)も、輸送機が護衛機もろとも撃墜された事で認識を改める事に至る。
「たかが小型ヘルメットワームだと舐めていました。これからは本気でいかせてもらいます」
 インターセプトコースを取りながらの初撃で、最後尾のHWは黒煙を上げる。そこに稲葉機が8.8cm高分子レーザーライフル を放ち、更に同射程のエリアノーラ・カーゾン(ga9802)のスナイパーライフルD−02がHWの背後を焦がした。

 ――ボフッ!
 流石に耐え切れず、最後尾のHWが炎を上げて、東シベリア海へと落ちていく。
「おっしゃ! 一機撃破だぜ!」
 エミル・アティット(gb3948)は敵機撃墜に歓喜し、自らも戦闘に参加すべくブーストで加速、有効射程まで距離を詰める!
「おりゃあぁっ!」
 接近してH−044短距離用AAMを発射! HWは編隊維持を優先し、回避行動を取らずに命中を許す。
「もうこれ以上抜かせるわけには行かないわ!」
 ナレイン・フェルド(ga0506)もHWを有効射程に捉えて、スナイパーライフルRのトリガーを引く。
 狙ったのはエミルが被弾させた右側のHWだ。ベテラン傭兵として的確に火力を合わせにいく。
 だが、HWはどれだけ攻撃を受けても分散回避は行わず、輸送機編隊を目指して飛行し、攻撃コースを取り続ける。
 それはまるで身を熱で焦がしながらも、光に誘われる蛾のようにも見えた。

 残りの2機のS‐01が迎撃コースを取りミサイルを発射して反撃を試みる。
 しかしHWは飛来するミサイルごとプロトン砲を3連斉射! 全弾命中し、護衛機2機は火達磨となって落ちていく。
「何て火力かしら。ここまで凄いと呆れるわね‥‥。セロリさん、敵がそちらに向かったわ」
 エリアノーラは、セロリ機へと向かうHWを牽制すべく、UK−10AAMと放電ミサイル「グランツ」を発射して注意を逸らそうとした。
「了解です。護衛機の皆さんも撃墜されたから、ボクも戦いに参加します」
 セロリはそう言うと、輸送機から一旦離れ、HW迎撃機動に入る。
 そしてホーミングミサイルD−01 を発射、更に続けてスナイパーライフルR を斉射する。
 HWは後方にタキオン砲を発射してセロリ機を牽制、左右の2機が減速してセロリ機をオーバーシュート。3方から挟まれる形となった。
「セロリちゃん、逃げて!」
 ナレインがそう叫んだ時! 左右のHWがセロリ機に体当たりを仕掛ける!
「きゃあ!」
 セロリ機は左右のHWに磨り潰されるように、ぐしゃりと機体が変形――飛行不能となって急激に高度を落す。
「脱出します。ボクの分も頑張ってね」
 セロリの脱出後、ウーフーは海中に叩き付けられるように落下、炎上した。

 ――セロリ機を失い、復讐の炎に燃えた能力者達の猛攻を受けた1機のHWが、遂に力尽きて落下していく。
 しかし火達磨となったHWは輸送機にFFそのものを武器としたフィールドアタックを行い、エンジンを損傷した輸送機は失速。徐々に高度を落とし、やがて海面に衝突し爆散した。
「見境いがないですなぁ‥‥体当たりとは」

 一方エステルも、風前の灯と言う状態にまで追い込まれていた。
「他の2機は良いとして、先頭の1機――隊長機かしら――が厄介だわ」
 エステルのアヌビスは70%とは言え、回避能力は非常に高い――しかし、須佐の機体命中力はそれを遥かに凌駕しており、回避不可能であった。
「そろそろ終わりしよう」
 須佐は止めを刺すべくブースト加速! ソードウィングで一気に仕留めに掛かる!
「まだよ!」
 エステルは重力慣性システムの利点を最大限に使い、アヌビスを空中変形させる。
「――何!」
 更に特殊能力『一時強化』で防御力を上げてソードウィングの攻撃を凌ぎ、後続のサンディ機に巨大円月輪で攻撃を行った。
「くっ、この程度で‥‥」
「サンディ!」
「せめて貴方だけでも天に送ってあげるわ」
 エステルは再び機体を飛行形態に戻すと、サンディ機に照準を合わせてプロトン砲のトリガーを引く。
「お前の相手は俺だ!」
 須左が間に割って入ろうとしたが間に合わない!
「く、ラージフレア射出!」
 威力は落ちたものの、殺傷能力を窮めたプロトン砲が、容赦無くR‐01改の機体耐久度を超えるダメージを与えた。
「ごめん、みんな‥‥脱出します」
 サンディは脱出して戦線を離脱する。

「やりやがったな! 慣性制御とかお手軽に強化してんじゃねえぞってんだよ!」
 抹竹は吼え、すれ違いざまにヘビーガトリング砲を斉射!
 エステル機は被弾による損傷が酷く、回避スラスターも幾つか機能していなかった為に全弾命中を許す。一時強化で防御を得てもダメージは確実に通っている。
 その内の1発はコクピット周辺に命中しており、エステルは破片が腹部と胸部に刺さり重症を負った。
「はあ‥‥はあ‥‥やるわね‥‥げふっ」
 エステルは吐血し、己が血で真っ赤に染まった指で端末を操作し、新たな命令をHWに与えて脱出を試みる。
「ヒュー‥‥独りでは‥‥ヒュー‥‥死なないわ‥‥」
 喉の溜まった血で軽い呼吸困難に陥りながらも、気力で操縦桿を握り締める。
「墜ちろ!」
 須佐のG−43改ハヤブサが、再びソードウィングで襲い掛かる――
 エステルのアヌビスは黒き翼をもがれ、木の葉のように海中へと落ちて行った。
「海面でなければ降りて息の根を止めたい所だが‥‥任務の途中だ。今回は見逃してやる」
「ざまあねぇです」
 須佐と抹竹の2機は、付近のUPC軍に連絡して救助ヘリを要請。サンディ回収を依頼後、HW班と合流すべく転進した。

 エステル機撃墜の報に士気の上がった能力者達であったが、HWも残り2機となりながらも執拗な攻撃を輸送機に加えようと接近する。
 既に双方のHWから黒煙が上がっており、もう一息といった状態に追い込んでいた。
「お願いだから、ここで沈んで頂戴!」
 ナレインが更に攻撃を加えるべく、射程内に捉えるべく接近――その時! 被弾したHWがナレイン機に体当たりを行った!
「ナレインさん!」
「エミルちゃん‥‥だ‥‥大丈夫よ。でも機体ダメージが深刻みたい‥‥ごめん、脱出するわね」
 サンディに次いでナレインも脱出した。エステルが墜落前に与えた命令――それはフィールドアタックによる特攻であった。

「ナレインさんの仇だぜ!」
 血気に逸ったエミルが突出する!
 エミルの機体は陸戦も想定していたので、空中戦装備に乏しい‥‥ミサイルが切れたら射程0と1の武装による近接戦闘しか無かった。
「エミルさん、前に出すぎです!」
 エリアノーラの制止も聞かず飛び出した所を、最後の1機が特攻を仕掛けて来る!
「甘いぜぇえ!」
 エミルは回避機動を取った。
 だが、HWの運動性能が僅かに上回っており、エミル機は回避も虚しく翼を折られ大破! HWと縺れるように落ちていく。
「アヌビス対アヌビスってのも面白いかもと思ってたけど‥‥あたしはまだこいつになれてない分、ちょっときつかったぜ‥‥」
 機体を離れる前にそう言ってエミルも脱出。買ったばかりの新型機を、初陣で海中に落す事となった。

●勝利と敗北の情景
 4機の内2機を失いはしたが、残った2機の輸送機を、無事に極東ロシアの前線基地に送り届ける事に成功した。
「何とか送り届けられたが‥‥こちらも被害甚大だな」
 ラストホープから護衛任務を受けて来た8機の内、4機を失っていた。
 幸いにも救助ヘリの迅速な救助活動によって、全員重体は免れた。
 失った機体も同等の物が再支給され、特に今後の作戦行動に支障を来たす事は無い。
「今後も鹵獲された機体を所持したバグアとの戦闘が続くのでしょうか‥‥」
 エリアノーラが不安そうに呟く。
 傭兵である以上戦闘は避けられないが、HW以上に強化された機体を相手にするのは、能力者達にとっても負担とリスクが大きいのだ。
「あのアヌビス持ちのバグアも、機体の趣味が良いのは認める所ですが‥‥バグアが持っていて良いもんじゃねえですよ」
「来たら倒すだけであります。それでいいじゃないですか」
「そうですね」
「さて、体も冷えた事だし、暖かい料理でも食べに行きませんか?」
「賛成!」
「体が温まったら、サンディさん達のお見舞いに行きましょう」

<極東ロシア・バグア占領地域内・某所>
 エステル機の墜落の報を知った黒き炎は、すぐさま救助部隊を送り込み、機体共々エステルを回収し、専門施設へと運び込んだ。
 治療カプセルによる集中治療により何とか一命は取り止め、先程一般病棟に移されたばかりである。
 傷は完治したが検査結果を待つ為、病室に留め置かれているのだ。
「よ! 派手にやられちまったみたいだな」
 エステルはベッドから起きて、ぼーっと窓の景色を見ていたようで、黒き炎が話しかけるまで気が付いていなかった。
「‥‥‥悪かったわね」
 病室に入って来るなり悪態をつく黒き炎に、エステルは頬を膨らませてそっぽを向く。
「いや、失礼。嬢ちゃんのそんな顔は、そうそう見れるもんじゃねぇからな」
「私の機体の修理はどれくらい掛かりそう?」
「あの機体はUPCでも最新らしくてな、部品の入手が困難らしい。最低二か月は掛かるだろうって話だ」
「そう‥‥」
 エステルはそう言うと窓に顔を向け、外の景色を見つめた。
「ねえ‥‥少し独りにしてくれないかしら」
「あぁ‥‥そうだな。じゃあ、また来るぜ」
 そう言って黒き炎は出て行った。

 ――しばらくして、病室から少女のすすり泣く声が聞こえてきた‥‥。
 エステル・カートライトは、この時初めて敗北の味を知った。

(END)