タイトル:標的は走り屋!マスター:水無瀬 要

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/10 01:01

●オープニング本文


<日本・近畿地方・とある峠道>
 夜もまだこれから深夜となろうと言う時間帯――盛大なスキール音を響かせて2台の車両が道を下って来ていた。
 1台は明るめなイエローカラーが施され、ドア部分にパーツメーカーやチューンショップのステッカーが貼られ、後部ウィンドウには、自分達のチームステッカーをペタっと貼った典型的な『走り屋』車両であり、もう1台は紅蓮の炎を思わせる真っ赤なカラーリングが印象的な車であった。
 エキゾースト音からして2台共明らかにチューンされた車であり、その挙動もノーマル車独特のふわふわしたロール感はなく、キビキビとしっかりした足回りで果敢にコーナーを攻めていた。
 この2台はお互いに面識は無い。たまたま運悪く前を走っていたイエローマシンの背後に、アニーがパッシングとクラクションでバトルを挑んできたのだ。
「シミュレーションも良いけどさ、やっぱり本物の車が最高よね♪」
 赤い車を巧みに操るドライバーは非常に上機嫌であった。
 このドライバーこそ、シミュレーションマシン内に於いては伝説的なドライビングテクニックで他者を圧倒し、現ラストホープサーキットの受付嬢兼レースクイーン――アニー・西林(gz0164)その人であった。
「くそっ! ストレートで引き離してもコーナーで詰めて来よる‥‥」
 先攻で前を走るイエローマシンに乗った対戦相手は気が付かなかったのが――速さの違いは『ブレーキング』にあった。
 多くの街道レーサー達は『加速』と『突っ込み』にお金と度胸をつぎ込むが、案外ブレーキの踏み込みは甘い事が多い。
 ここで言うブレーキングとは、『フルブレーキング』を意味し、アニーはブレーキを残して前輪に荷重を移動させながら、タイヤのグリップを最大限に使ってコーナーリングしていた。
 俗に言う『上手い』『下手』は、そのブレーキングによる荷重移動の掛け方にあると言っても過言では無い。
 イエローマシンはターボ車としての加速力を最大限に得る為タービン交換を行っていたのだが、所謂『どっかんターボ』と言われる大容量タービンを無理やり付けていた。
 そのせいかコーナー出口で加速に伸び悩んだかと思うと、突然急加速を始めるといった不思議な挙動を見せる。
「コーナーは譲ったるが、ゴール前のストレートで引き離したる!」
 男は自分の腕は二の次で、愛車の性能を誇る。
 最終コーナーを振らつきながらも何とか押さえ込み、いよいよ直線――というその時!
「何じゃ?!」

 ――キキーッ!

「わたたっ!」
 イエローマシンの突然のフルブレーキに、アニーも反射的にフルブレーキを踏む!
 突如前方のイエローマシンが方向を変えてガードレールを突き破り、1階層下の路面へと落下して行った。
「あちゃ〜‥‥私のせい、なのかな?」
 ULTでは特に問題が無ければ、極力私生活についての干渉を行わないのであるが、今回のように人命に関わるような場合は厳しく言及される。彼女も一応はULT所属の『能力者』である為、日頃の行動にも責任が伴う。
 アニーはすぐさま救急車と警察に事故の連絡行い、自身も搭乗者の安否確認の為に下へ降りて行った。
「ねえ、大丈夫?」
「‥‥もしもーし。生きてますか〜?」
 意識は完全に失っているものの、6点式シートベルトとフルバケットシート、そしてロールケージのお陰で命に別状は無さそうである。
 アニーはほっと胸を撫で下ろした後で上に戻り、懐中電灯片手に事故現場の路面を詳しく観察し始めた。
「ん?」
 突き破ったガードレール付近の路面が歪に溶けているのを発見したのだ。
「はて‥‥これは何かな?」
 よく見ると溶けた路面はネバネバとした粘液が付着しており、跡を辿って見ると『何か』が路面を溶かしながら横断しようとしているようにも見える。
 その後警察と救急車が到着した事でアニーの調査は打ち切りとなる。
 その後警察からの事情聴取で、アニーのスピード違反が発覚。警察官より厳重注意を受けた。
 更にラストホープに戻った彼女を待ち構えていたのは、勿論『長いお説教』であった‥‥。

 数日後本部ロビーをうろついていたアニーは、オペレーターに呼び止められた。
「アニーさん、この前の車両事故の件ですが‥‥どうもこちらに再調査の依頼が入って来ていますね」
「えぇっ! マジ‥‥です?」
 アニーは冷たい嫌な汗を肌に感じつつオペレーターに聞き直す。
「ええ、今正式な依頼として上がってきましたので、これからモニターに掲示する所です」
 しばらくしてモニターに表示された依頼書を閲覧する。
「‥‥その後も改造車限定による事故が多発‥‥事故直後ゼリー状の怪しい生物の目撃情報多数有‥‥昨晩は謎の生物による被害者が出た‥‥と」
「この依頼、私も行って良いですか? 関わった分放っとけないしね、やっぱり」
「はい、ではアニー・西林さんも登録しておきますね。頑張って下さい‥‥後始末(ぼそっ)」
「あはは‥‥」
(「オペレーターさん‥‥キャラ変わってない?」)
 何はともあれアニー・西林は、依頼に参加した能力者達と共に、再び走り屋の聖地『峠』へと向かったのであった。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
オリビア・ゾディアック(gb2662
19歳・♀・ST
ゲオルグ(gb4165
20歳・♂・DG

●リプレイ本文

●峠のバトル再び!
 この日、麓の山道入り口は酷い渋滞を起こしていた。崖崩れ撤去作業の為、一部区間で緊急の道路封鎖が行われた為だ。
 しかしそれはキメラとの戦闘を想定した偽装工事であり、実際に工事は行われていない。

 まず全員にインカムが支給され、キメラがどの車両に現れても通報可能な状態とし、更にバトルをより安全なものとする為、コ・ドライバー同乗による『ペースノート』の作成が行われた。
「ふぅーっ、やっとこさ完成。ナビも結構ハードだよね」
 アニー・西林(gz0164)の乗るファミラーゼのコ・ドライバーを勤めたオリビア・ゾディアック(gb2662)は、完成したばかりのペースノートを閉じて疲労を口にする。
「前方に意識を集中させているドライバーと違って、全方向に神経を使いますからね」
 藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)のコ・ドライバーを務めたゲオルグ(gb4165)がオリビアに同意を示した。
「うちはKVが好きだけど、こっちも興味があるのよね。まぁ、こういう技術全般好きなんだけどさ。技量も問われるけれど、いかにマシン性能を引き出せるかに掛かってくるって所がね」
 とオリビアは熱っぽく語り始める。彼女もアニー同様、機械工学に明るく、特にナイトフォーゲルについての知識は豊富であった。
「KVについてはよく分かりませんが、マシンに対する愛情のようなものは理解出来ますよ」
 ゲオルグはそう言うと、愛車のAU‐KVにそっと触れた。

「えー本日はお忙しい中、お集まり頂き押忍!」
 一人やたらテンションの高い三島玲奈(ga3848)が、4名のドライバーと相方である白雪(gb2228)、車両追従担当の山崎・恵太郎(gb1902)を前に気合のこもった挨拶を行っている。
「押忍!」
 他の能力者達は些かついて行けない状況にあったが、アニーは三島と波長が合うのか、大きな声でそれに応える。
 今日のアニーはメイド姿で来ており、三島はアニーに対抗してバニー姿であった。
「声が小さい、もう一度押忍!」
「押忍!」
「ええかアニーはん、走り屋に必要なのは勇気や」
「押忍!」
「そこは『何の勇気やねん!』と突っ込まな」

 レース直前――
「こういうのって、何が出るかワクワクするよね?」
 アニーが組み合わせ用に用意した『くじ』を引く。
「2番かぁ‥‥残念。1番が良かったなぁ」
 何だかよく分からない事を口走りながら後方に下がるアニー。天才と何とかは紙一重と言うが‥‥微妙な天然でもあるようだ。
「ふふ〜ん♪ ここ一番のくじ運の強さを見せてあげようじゃない」
 聖・真琴(ga1622)もテンションを上げぎみに気合でくじを引く。
「おぉ〜〜♪ 1番引いたよぉ〜〜☆」
『おぉー!』
 という声が周囲から木霊し、場は更に盛り上がる。
 くじは1番と2番、3番と4番を引いた者同士の組み合わせで行う事になっていた。
「では、我とレティ殿とで真剣勝負ということじゃな。さて、腕が鳴るのぅ‥‥囮役とはいえ手は抜かぬぞえ。峠の巫女神と呼ばれた腕、存分に発揮するのじゃ」
「私も負けませんよ。やるからには勝ちにいきます!」
 レティ・クリムゾン(ga8679)も、下りなら十分勝機はあると確信していた。
「キメラ退治もだけど、今はレースに集中しないと、戦闘前に事故して怪我しちゃうからね」
 とアニー。
 キメラ退治が本来の目的ではあるのだが、それ以上に何か熱気を帯びた不思議なパワーがこの地にあるのも確かであった。
 こうしてキメラを誘い出すべく熱きカーバトルは火蓋を切ったのである!

●聖・真琴VSアニー・西林
「5、4、3、2、1、GO!」
 二台のファミラーゼはロケットダッシュでスタートする!
「久々のワインディング♪ ‥‥さぁて楽しむか☆」
 聖は期待に胸を膨らませて気合を入れ直す。

 最初のコーナーが見えて来る。
 先頭を走るのはアニーのファミラーゼ。この車両には、コ・ドライバーとしてオリビアが同乗していた。
「3R、DC、KI」
 オリビアが、アニーにペースノートの内容を読み上げる。
 意味不明な単語ばかりであるが、高速で移動する車両に対して普通に話していたら追いつかない為、独特の『略語』が使われるのだ。
 フラット(アクセル全開)からフルブレーキ――車体は前のめりとなり、自然と後輪のグリップ(接地力)が落ちる。
 その状態から少しきつめにクラッチを繋ぐだけで後輪はロック(空転)し、ドリフト状態に持っていける。
 ちなみにアニーの提案で、レギュレーションとして4車両共に『L・S・D』を搭載している。
 これによってスキール音が出やすくなるので、キメラを誘い出し易くなる効果も期待出来た。
「ひゅ〜、やるねぇ♪」
 後ろにぴったり付いている聖も同じくドリフトでクリアして行く。
 一度空転させれば、アクセルワークのみでコントロールが可能であり、ステアリングをむやみやたらとぐるぐる回す必要も無い。
「100 ストレート」
 オリビアは油断無くナビゲートを続ける。
 二台はドリフトによる派手なスキール音を発して次々とコーナーを攻めて行く。
(「キメラ、出て来るかな?」)
 コーナーを抜けた立ち上がりで、アニーが考え事をした瞬間――後方の聖が仕掛ける!
「良い腕してるけど‥‥トラクションが抜けてる‥‥甘ぇよ☆」
 アニーの車両が慣性の法則に従ってほんの一瞬アウトに膨らんだ所を、聖が強引にインから切り込んでいく。
「5Rlg」
 右側(イン側)に頭を入れていた聖のファミラーゼがじりじりと前に出て、コーナー出口で完全にアニー車を抜き去った。
「ありゃ、本気モードで行くよ!」
 シミュレーションでは凄腕のアニーも、実車ではそうもいかない‥‥安全マージンを取る為に、それ以上アクセルを踏み込めなかったのだ。
 その後聖は、角度の大きなドリフト――通称『カニ走り』でアニーを執拗にブロックし、アニーもグリップ走行に切り替えて果敢にプレッシャーを掛けたが揺るがず、聖が初戦を制した。
 序盤のレースを終えた二人は、車談義に花を咲かせながら後続の2台を待つ事にした。

●藍紗・T・ディートリヒVSレティ・クリムゾン
 アニーと聖に遅れる事約3分、藍紗とレティの乗る二台もスタート!
 まず前に出たのは、トルクで上回るレティのジーザリオであった。
「久しぶりの車両依頼だが、調子はどうかな? ‥‥‥良い子だ」
 レティは愛車にそっと話しかける。
 一方、スタートで出遅れた藍紗の白いファミラーゼは、ぐんぐん加速してレティの背後にぴたりと付ける。
 彼女の車は、所謂『鬼キャン』と呼ばれるもので、タイヤの角度が異常な程『ハの字型』になっていた。
 スタート時のトラクション不足による遅れはそのせいでもあったが、気合! という点では他の3名に負けず劣らずである。
 第1コーナーが見えてきた。
「ただキャンバーを大きく取ったと思って貰っても困るな、こう言う事も出来るのじゃ」
 藍紗はコーナー入り口でステアリングを左右に振り、サイドブレーキを少し引く‥‥すると慣性によって外側に引っ張られた車体はそのままの角度を付けてスライドし、コーナーへと進入する。 
 四輪全てから激しい白煙とスキール音を出しながらカウンターを当てて立て直す。フェイントモーションとサイドブレーキを使ったダイナミックなドリフトだ。
「どうじゃ! ほれほれ、抜いてしまうぞよ」
 藍紗は吼えると、前を走るレティを激しく煽り挑発する。

 後ろに付かれて執拗に煽られるレティであったが、冷静に対応して隙を見せない。
 コ・ドライバーとしてゲオルグも同乗したいたので、彼のペースノートの指示が的確であった事も影響している。
「次、イエローR」
 オリビアとは又違った略語でレティに指示を出すゲオルグ。
 よく見るとレティのステアリングに色違いのテープが数本巻いてあり、コンソール中央に線が引いてあった。イエローとは『舵角』を意味しており、コーナーの大小をハンドリングの角度で表していたのだ。
「後ろは気にしないで冷静にいこう」
「ええ、もちろんよ」

 状況が一変したのは、やはりロングストレートであった。
 レティも巧みにブロックしていたが、後方から追突されて愛車を傷付けられるのでは? という衝動からブロックが甘くなった所を突かれてしまった。
 こうなると最高スピードで勝る藍紗に分があり、車間が開いてしまう。
「キメラ退治が本分です。囮役はきっちり果たしますよ」
 レティもバトルを楽しんでいたので、抜かれた時には大層悔しがったが、引き離された事で何かが吹っ切れたようだ。
 その後勝負は大きな進展も無く、藍紗の勝利で幕を閉じた。

●ようやくキメラ出現
 熱きレースバトルを他所に、三島と白雪の二人はキメラ出現の報を待っていた。
「‥‥キメラは出なかったんですか‥‥後半レーススタートですね、了解しました。引き続き監視に専念しますね」
 白雪は定期的に各車両班と連絡を取っていた。
「三島さん、一息入れませんか? あ、荷台に買い物用のエコバッグとか積んでありますけど、気にしないで座ってくださいね」
 そう言ってクッションやら何やら色々な物を後部座席に投げ込んでスペースを拡張させてみせる。
(「ちゃんと整理しておいた方が良いかも‥‥」)
 白雪のもう一つの人格である、『姉』の真白が呆れ気味に呟く。
「むぅ‥‥だって、何もないと殺風景じゃない」
 白雪は真白の言葉に少しだけむくれてしまった。

 後半レース開始から5分程して、レース車両に追従していた山崎から連絡が入る。
「山崎です。先頭を行くアニー、聖組がキメラと遭遇したと連絡がありました。移動を開始して下さい」
「分かりました」
 白雪はジーザリオを方向転換させると、激しくタイヤを空転させながら現場へと向かった。

●アニー無情
 コ・ドライバーを入れ替えての折り返しバトル開始から5分程して『キメラ』は突然現れた。
 どうやらレースペースが早過ぎて、キメラは車両が全て通り過ぎてから、遅れて現れたようであった。
 前方を走っていた聖が最初に気が付いたが、場所がストレートであったので、キメラを上手く避けられた。
「ほほぉ、こいつか〜、走り屋ばかり狙うキメラって」
 聖は武器を手に車両から降り、キメラを睨みつけて呟く。
 オリビアも一緒に降りてきて戦闘体制に入る。
 アニー達も上手くキメラを避けて、聖の車両の後ろで停車した。
「よく考えたら、あたしって今日が初陣なんだよね‥‥今更だけどさ」
 アニーは、自分が今日始めて傭兵として仕事をしている事に気が付いた‥‥。
「頑張って下さい。サポートします」
 一緒に降りてきたゲオルグがアニーを励ます。
「ありがとう♪ よし! 派手にいきますよ」
 アニーは開口一番、持っていた大剣クルシフィクスを大上段で構えてキメラに攻撃!

 プシューッ!

「え!?」
『あ!』(一同)
 それは一瞬の出来事であった‥‥キメラから液体が勢いよく吹き付けられると、アニーの着ていた戦闘用メイド服が煙を上げながら溶け落ちてしまったのだ。
 よく分からない内に上半身が露になったアニーは、必死になって胸を隠してその場にへたり込んでしまった。
 そこに素早く聖が駆け寄り、持っていたミネラルウォーターを掛けて酸を洗い流す。
「ありがとう」
 更に着ていたフライトジャケットを掛けてアニーの上半身を隠してあげた。

「さあて‥‥この落し前はきっちり払ってくれるんだろうね?」
 聖は金色の瞳でキメラを睨み、キアルクローをぺろりと舐めて身構える。

 キメラは予想通りスライムであった。
 どうやら少し強化が加えられているものの、相変わらず動きは遅く、触手に捕らわれてしまうような者はここには存在しない。
「動きは遅いけど酸の攻撃は厄介だね。みんな気をつけて」
 オリビアが注意を呼びかける。
「連絡を入れましたので、全員こちらに急行予定です。三島班には山崎さんが連絡してくれるようです」
 とゲオルグ。
「了解」
「さっさと片付けるよ!」

●待ち伏せ班の奮闘
 現場に急行していた三島、白雪班にも新たなキメラが出現していた。
「2体もおったんかいな! まあええわ――夜露死苦キメラ、ど突いたる!」
 三島はアンチマテリアルライフル(通称:AR)を身構えてキメラに向けて撃った。
「滑らへんのがプロの芸人」
 狙いは違わず命中するが、こちらも強化スライムなので一筋縄では倒せない。
 降車した白雪は二本の刀を持って覚醒。
「この刀‥‥久しぶりに触るわね」
 覚醒後、姉の真白が表に姿を現し、髪の色が黒から白銀へと変貌する。
 そして紅き瞳でキメラを見つめながら微笑。
「ふふっ、楽しくなってきたわ」
 その瞬間一陣の冷たい風が流れたかと思うと――キメラに流し斬りを決める。
「獲物の独り占めはあかん」
 三島も降車してスパークマシンαに持ち替え、真白のバックアップに回る。
 前衛の真白が流し斬りと双刀による二段撃で斬りつけ、三島が超機械による知覚攻撃で支援により、キメラを徐々に弱らせていく。
 キメラの方も負けじと必死に酸を放出して真白の衣服を徐々に溶かす。時々触手も伸ばすが、やはり捕まらない。
「避けているつもりなんだけど、広域に霧散するのは厄介よね」
「ど突き漫才はど突きが命でっせー」
「そうだわね‥‥斬って斬りまくるだけだわ」
 二人は互いに連携しながらキメラを翻弄、衣服を溶かされながらもキメラの殲滅に成功した。

●決着‥そして
 アニー達の方も戦闘はほぼ終焉に来ていた。
 強化されていると言っても所詮は雑魚である。聖とオリビア、ゲオルグの3人掛かりで梃子摺る筈も無かった。
 逃げようとするキメラに先回りしたゲオルグは――
「逃がしませんよ」
 と通せんぼし、イアリスで止めをさした。

 それからすぐに藍紗達も到着したが、キメラは既に倒されていたので、がっくりと肩を落す姿も見受けられた。
「さて、帰りはこいつと走りを満喫するか」
 山崎がバイク形態のAU‐KVに乗ろうとした瞬間!

 ――ガサッ

「――! 誰だ!」
(「新手のキメラか?」)
 再びAU‐KVを装着した山崎は、竜の翼で瞬時に音のした茂みに飛び込んだ!
 その瞬間銃声が聞こえ、山崎は被弾する‥‥しかし覚醒した能力者に効果は薄い。
「親バグア派か!」
 武装した親バグア派が銃を発射したが、あっさりと捕まってしまった。

「どうやら彼がスライムを使っていた犯人のようですね」
 捕まえた親バグア派は、縛ってレティのジーザリオに放り込んでいた。
「みんなありがとう、これでオペレーターさんにも良い報告が出来そう」
 アニーは全員に謝辞を述べる。

 藍紗と聖の提案で、中途だった後半バトルが再開された。
 今度は全員参加のバトルロイヤルだ。
「5、4、3、2、1、GO!」
 峠の熱気は未だ冷めていない‥‥。